概要
中小企業では、会社の資金繰りのため、社長や役員が自分のお金を会社に貸し付け、会社側で「役員借入金」として処理していることがあります。このような役員借入金について、会社が役員に利息を支払っていないケースも珍しくありません。
それでは、役員が自分の会社にお金を貸す場合、無利息でも税務上問題はないのでしょうか。結論からいえば、「役員借入金だから無利息でよい」という一律のルールはありません。
役員等が自己と特殊な関係にある同族会社へ無利息又は著しく低い利率で金銭を貸し付け、その取引が経済的合理性を欠き、所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、所得税法157条(同族会社の行為計算の否認)により、本来受け取るべき利息相当額が役員個人の所得として課税される可能性があります(所法157①、所令275)。
一方、役員から同族会社への無利息貸付けがすべて所得税法157条(同族会社の行為計算の否認)によって否認されるわけでもありません。
近時の裁決をみると、貸付けの目的、金額、期間、返済条件、担保の有無、会社の財務状態、無利息又は低利とした理由などを総合的に検討して、経済的合理性の有無が判断されています。
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所得税法157条(同族会社の行為計算の否認)とは
所得税法157条1項は、同族会社等の行為又は計算をそのまま認めると、その株主等又は一定の特殊関係者の所得税の負担を不当に減少させる結果となる場合には、税務署長がその行為又は計算にかかわらず、その者の所得金額等を計算することができると定めています(所法157①、所令275)。
例えば、第三者であれば当然に利息を受け取るような多額の貸付けを、同族会社であるという理由だけで無利息とした場合、本来受け取るはずであった利息を受け取らないことによって、役員個人の所得税負担が減少することになります。
もっとも、無利息であれば直ちに所得税法157条が適用されるわけではありません。
近時の裁決では、同族会社への無利息貸付けが経済的合理性を欠くかどうかは、貸付けの目的、金額、期間等の融資条件、無利息とした理由等の諸事情を総合的に考慮して判断すべきであるとされています(令和6年6月10日裁決・東裁(所)令5第120号、令和7年3月7日裁決・裁事138集)。
基準となる「平和事件」
役員等から同族会社への無利息貸付けについて重要な裁判例が、いわゆる「平和事件」です。この事件では、納税者が自己の同族会社に対して約3,455億円という巨額の金銭を、無利息、無期限、無担保で貸し付けていました。
東京地裁平成9年4月25日判決(税資223号500頁)は、独立かつ対等で特殊関係のない当事者間で通常行われる取引と比較して、このような無利息貸付けは不自然・不合理であり、特段の事情がない限り所得税法157条の対象になると判断しました。
控訴審である東京高裁平成11年5月31日判決(税資243号127頁)も所得税法157条の適用を認めています。
なお、最高裁平成16年7月20日第三小法廷判決(平成11年(行ヒ)169号・集民214号1071頁)で主として争われたのは、所得税法157条による認定利息課税そのものではなく、過少申告加算税について納税者に「正当な理由」があったかという点です。
したがって、平和事件は、「最高裁が約3,455億円の無利息貸付けについて所得税法157条を初めて適用した事件」と理解するより、東京地裁・東京高裁で同条による認定利息課税が是認され、その後、最高裁で主として過少申告加算税の正当な理由が争われた事件と理解する方が正確です。
適正金利の算定においては、地裁は全国銀行の長期貸出平均金利(5.58%)を採用しましたが、高裁では当時の金利情勢を反映し、総合新規貸出約定平均金利(4.87%)を基準とする修正がなされました。
令和6年から令和7年に確認された3件の裁決
平和事件後、役員等から同族会社への無利息・低利貸付けについて、確認できる裁判例・裁決例は長期間多くありませんでした。
ところが、令和6年から令和7年にかけて、この問題を正面から扱う3件の裁決(令和6年5月15日裁決・大裁(所)令5第47号、令和6年6月10日裁決・東裁(所)令5第120号、令和7年3月7日裁決・裁事138集)が確認されています。
平和事件の「巨額ゆえの特別視」という実務的理解が、最新の数十億規模の事案にどう変容して引き継がれているか、次で詳述します。
平和事件と最新3裁決の「状況」
| 項目 | 平和事件 | 令和6年5月15日裁決 | 令和6年6月10日裁決 | 令和7年3月7日裁決 |
|---|---|---|---|---|
| 主たる取引目的・背景 | 店頭登録直後の株式譲渡に伴う譲渡代金の貸付(創業者の安定株主・相続対策) | 社債利息の総合課税化(税制改正)による税負担増を回避するため、社債から低利貸付けへ切り替え(形式的な勘定振替) | グループ同族会社(3社)における社債買入、株式購入、運転資金などの実質的な資金需要の融通 | 同族会社が抱えていた金融機関借入の返済(質権実行や倒産、信用失墜の緊急回避) |
| 貸付金額 | 約3,455億円 | 約81.6億円 | 総額として多額 | 約23.4億円 |
| 融資条件 | 無利息、無期限、無担保 | 極低利(定期預金並)、無期限、無担保 | 無利息、無期限、無担保 | 無利息、無期限、無担保 |
| 認定利率(適正金利)の算定根拠 | 全国銀行の総合新規貸出約定平均金利:高裁基準 | 国内銀行の新規かつ長期の貸出約定平均金利 | 日本銀行公表の月次貸出約定平均金利 | 実際に会社が銀行と締結した借入契約の利率:3か月TIBOR+スプレッド加算 |
令和6年5月15日裁決(大裁(所)令5第47号)―81億6,000万円の低利貸付け
令和6年5月15日裁決では、同族会社に対する合計81億6,000万円の低利貸付けが問題となりました(令和6年5月15日裁決・大裁(所)令5第47号・TAINS F0-1-1688)。
この貸付けには、弁済期限が定められておらず、物的担保及び人的担保も設定されていませんでした。さらに、貸付原資の大部分である78億円は、もともと同族会社が発行していた社債の償還金でした。この点が、この裁決の非常に重要なところです。
平成25年度税制改正により、同族会社が発行する社債の利子のうち、一定の株主等が受け取るものについて、それまでの源泉分離課税から総合課税へと取扱いが変更されました。
本件では、その税制改正後に同族会社が社債を期限前に償還し、その償還金等を原資として、従来の社債利率より著しく低い利率で役員等から会社への貸付けに切り替えていました。
審判所は、このような一連の経緯から、本件貸付けについて、税制改正によって役員等に新たに生ずることが予定されていた所得税負担を回避することを主たる目的として行われたものと推認しています(令和6年5月15日裁決・大裁(所)令5第47号)。
また、本件貸付利率は、国内銀行における貸出約定平均金利と比較して、平成28年から令和2年までは約100分の1又は約500分の1にすぎない極めて低い水準でした。
審判所は、事業者が金銭を借り入れる場合、取引のある銀行から借り入れるのが一般的であることから、独立当事者間の標準的な金銭消費貸借に引き直す場合には、国内銀行の貸出約定平均金利を用いることが合理的であると判断しました。
さらに、会社の会計上は「短期借入金」とされていたものの、ほとんど弁済されず、実質的には1年以上の長期間にわたる貸付けであったことから、新規貸出し・長期貸出しに係る貸出約定平均金利を採用することが相当と判断しています(令和6年5月15日裁決・大裁(所)令5第47号)。
その結果、本件低利貸付けは経済的合理性を欠き、所得税法157条の適用が認められ、審査請求はいずれも棄却されました。
令和6年6月10日裁決(東裁(所)令5第120号)―3社に対する無利息・無期限・無担保の貸付け
令和6年6月10日裁決では、請求人が同族会社3社に対して行った複数の無利息貸付けが問題となりました。裁決書では貸付金額の具体的な数値がマスキングされていますので、その正確な総額は確認できません。
裁決書から確認できるのは、これらの貸付けが、
- 無利息
- 無期限
- 無担保
- 総額として多額
であったということです。
審判所は、貸付けの目的、金額、期間等の融資条件、無利息とした理由等の諸事情を総合的に検討した結果、本件各無利息貸付けは経済的・実質的な見地から不自然、不合理であり、経済的合理性を欠くと判断しました。
「ファミリー内だから貸倒れリスクがない」という主張
この裁決では、請求人側から興味深い主張がされています。
請求人は、親族及び親族が支配する資産管理会社等との間で行われる貸付けであることから、相互の信用補完によって実質的に貸倒れリスクがないと主張しました。
しかし、審判所は、個々の貸付けにおける貸倒れリスクの有無は、貸付金額等にも左右されるのであり、本件貸付けは総額として多額であることから、貸倒れリスクがないとはいえないとして、この主張を退けています。
つまり、「家族の会社だから回収できる」「ファミリー間だから無利息でもよい」という事情だけで経済的合理性が認められるわけではありません。
マイナス金利の実績があっても無利息貸付けが合理的になるわけではない
請求人はさらに、ファミリーの構成員が外部金融機関からの借入れとスワップ取引を組み合わせ、実質的にマイナス金利で資金調達を行った実績があることや、日本銀行がマイナス金利政策を実施していた経済環境を主張しました。
しかし、審判所は、外部金融機関からの借入れとスワップ取引を組み合わせた別の取引でマイナス金利となった実績があるからといって、本件各無利息貸付けに貸倒れリスクがないことにはならず、そのことによって本件無利息貸付けの経済的合理性が認められるものではないと判断しました。
また、無担保・無期限であっても現実に返済実績があるとの主張についても、本件各貸付けが総額として多額である以上、経済的合理性を欠くとの評価を左右するものではないとしています。
この裁決からは、ファミリー企業間の貸付けであっても、第三者間で通常行われる取引との比較を意識した貸付条件を設定することが重要であることが分かります。
令和7年3月7日裁決(裁事138集)―約23億4,459万円の無利息貸付け
令和7年3月7日裁決では、請求人が役員を務める同族会社に対し、23億4,459万円を無利息、無期限、無担保で貸し付けていました。
審判所は、多額の貸付けを無利息、無期限、無担保で行うという融資条件は、独立かつ対等で特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは大きく異なると評価しました。
さらに、同族会社には貸付時点で約1億2,710万円の配当金が支払われることが見込まれており、その後も多額の配当収入があったこと、会社の財務状況も改善していたこと等から、無利息でなければ会社が倒産する危険があったとはいえないと判断しています。
その結果、無利息貸付けには経済的合理性がなく、所得税法157条を適用して利息相当額を請求人の雑所得の総収入金額へ算入した原処分庁の判断が認められました。
いくらまでなら無利息でも問題ないのか
実務上最も気になるのは、「役員借入金はいくらまでなら無利息でもよいのか」という点だと思います。
しかし、所得税法157条には、「500万円まで」「1,000万円まで」など、一定額以下であれば適用されないという金額基準はありません(所法157①)。
したがって、「数百万円程度なら所得税法157条は適用されない」という金額上のセーフハーバーが存在するわけではありません。
もっとも、貸付金額は経済的合理性を判断する重要な要素の一つです。
実際、所得税法157条の適用が問題となった平和事件は約3,455億円の無利息貸付け、令和6年5月15日裁決は合計81億6,000万円の低利貸付け、令和7年3月7日裁決は23億4,459万円の無利息貸付けを対象としたものであり、令和6年6月10日裁決についても具体的な金額は開示されていないものの、裁決書では「総額で多額」と認定されています(東京地裁平成9年4月25日判決・税資223号500頁、東京高裁平成11年5月31日判決・税資243号127頁、令和6年5月15日裁決・大裁(所)令5第47号、令和6年6月10日裁決・東裁(所)令5第120号、令和7年3月7日裁決・裁事138集)。
今回確認した裁判例・裁決例の中には、通常の中小企業における数百万円程度の役員借入金について、無利息であることを理由として所得税法157条が適用された事例は見当たりません。
この点について参考になるのが、平和事件の最高裁判決です。
同判決では、当時の税務関係の解説書に掲載されていた「業績悪化のため資金繰りに窮した会社に、代表者が運転資金500万円を無利息で貸し付けた」という設例が取り上げられています。
最高裁は、この設例について、「500万円までなら無利息でよい」という金額基準を認めたのではなく、会社が業績悪化によって資金繰りに窮しており、代表者が自己の経営責任として資金を提供するという事情から、無利息貸付けに社会的・経済的に相当な理由があることを前提とした記述であると理解しています(最高裁第三小法廷平成16年7月20日判決・平成11年(行ヒ)第169号・集民214号1071頁)。
したがって、金額だけで一律に線引きすることはできませんが、会社の一時的な資金繰りのために、代表者が自己資金から数百万円程度を短期間貸し付けるような通常の役員借入金については、数十億円、数百億円規模の資金を長期間にわたり無利息又は著しく低い利率で貸し付けるケースと比較すれば、所得税法157条が問題となる実務上のリスクは相対的に低いと考えられます。
ただし、これは「数百万円までなら無利息で問題ない」という適用除外を意味するものではありません。
例えば、貸付金額が比較的少額であっても、長期間にわたって返済される見込みがない場合や、会社に十分な支払能力があるにもかかわらず特段の理由なく無利息としている場合などには、事情が異なります。
最終的には、貸付金額だけではなく、貸付目的、貸付期間、返済条件、会社の資金需要及び財務状況、担保・保証の有無、無利息とした理由等を総合的に検討する必要があります(所法157①、令和6年6月10日裁決・東裁(所)令5第120号、令和7年3月7日裁決・裁事138集)。
金融機関ごとの融資実態(令和6年度末時点)
日本政策金融公庫が公表する統計データ(令和6年度末時点)に基づき、金融機関ごとの融資実態を概観します。
| 日本公庫 国民生活事業 | 日本公庫 中小企業事業 | 信用金庫計 (254金庫) | 国内銀行(注)計 (130行) | |
|---|---|---|---|---|
| 融資先数 | 115万先 | 5.7万先 | 124万先 | 218万先 |
| 1先あたりの平均融資残高 | 822万円 | 1億3,300万円 | 4,420万円 | 1億1,836万円 |
(注)国内銀行とは、都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、信託銀行などをいい、国内銀行の数値は「中小企業」の数値をベースとされています。
上記データからは、日本の金融インフラにおける各機関の「役割分担(棲み分け)」が明瞭に看取されます。
日本公庫(国民生活事業)は、平均残高が822万円と極めて少額であり、民間金融機関では対応が困難な小規模事業者や創業支援を担う政策金融機関としての性格を色濃く反映しています(中小企業事業は狭き門)。
信用金庫は、平均残高約4,420万円(日本公庫の約5倍)と、地域密着型の中小企業の運転資金・設備投資を支えるメインバンク機能を果たしています。
一方、国内銀行は平均残高が1億円を超えており、中堅企業や大規模案件を包含する広域支援を特徴としています。
上記のデータから、自社がメインバンクとしている金融機関の平均融資残高によって、適正な貸付限度額がどの程度なのか、ある程度の見通しが立つでしょう。
さらに「借入金月商倍率」が6倍という数値は年商の50%(半年分)に相当します。中小企業において、売上の半分に及ぶ借入金は、元利金の返済負担がキャッシュフローを圧迫し、自力再建を困難にする蓋然性が高いといえます。
ゆえに、この6倍という基準は、実務上の融資限度のデッドライン(キャップ)として機能しており、6倍を超えると新規の借り入れは非常に困難となります。
無利息又は低利貸付けを行う際に検討すべき事項
役員が同族会社に無利息又は低利で貸し付ける場合には、少なくとも次のような点を検討しておく必要があります。
- 会社に現実の資金需要があるか
- 貸付金額がその資金需要に照らして合理的か
- 返済期限及び返済方法が定められているか
- 実際に返済可能な計画となっているか
- 担保又は保証を付さない合理的な理由があるか
- 会社に通常の利息を支払う能力があるか
- 無利息又は低利とする合理的な理由があるか
- 会社に金融機関からの借入れがある場合、その借入条件と比較するとどうか
また、後日の税務調査に備え、金銭消費貸借契約書、返済予定表、取締役会等の議事録、資金繰り表、貸付時点の会社の財務資料等を保存し、なぜその条件で貸し付けたのかを説明できるようにしておくことが重要です。
適正な貸付利率は何%なのか
次に問題となるのが、「何%の利息を取ればよいのか」という点です。
これについても、一律の法定利率や税務上のセーフハーバーはありません。
令和6年5月15日裁決(大裁(所)令5第47号)では、事業者が金銭を借り入れる場合には取引銀行から借り入れることが一般的であるとして、独立当事者間の標準的な貸付けに引き直す際には、国内銀行の貸出約定平均金利を用いることが合理的と判断されています。
一方、令和7年3月7日裁決(裁事138集)では、会社が実際に締結していた金融機関との融資契約について、貸付金額、期間、担保、保証、会社の信用力等を比較した上で、3か月日本円TIBORに一定のスプレッドを加えた利率を用いることが合理的と判断されています。
つまり、裁決例からも、すべての場合に同じ利率を使用するという考え方は採られていません。
まず会社自身に第三者金融機関からの借入れがあるかを確認し、金額、期間、担保・保証の有無、信用力等が類似する借入れがあれば、その利率は重要な比較対象になります。
類似する実際の借入れがない場合には、金融機関の貸出金利その他の客観的な市場金利を参考にしながら、個別具体的に合理的な利率を検討する必要があります。
預金金利をそのまま貸付利率にしてよいのか
「役員が会社に貸さなければ銀行に預金していたのだから、定期預金金利程度でよいのではないか」と考えることもできます。
しかし、必ずしもそうなるとは限りません。
令和7年3月7日裁決(裁事138集)では、定期預金と同族会社に対する無担保・無期限の貸付けとでは、回収不能リスク等が異なるとして、請求人が主張した預金金利を適正利率として採用していません。
もっとも、この裁決は「預金金利は絶対に使用できない」という一般的なルールを示したものではありません。
あくまで、具体的な貸付条件、会社の信用力、回収リスク等を踏まえて適正利率を判断する必要があります。
会社から受け取った貸付利息は何所得になるのか
役員個人が会社に金銭を貸し付け、その対価として通常の貸付利息を受け取った場合、その利息は所得税法23条にいう「利子所得」ではありません。
金銭の貸付けによる所得は、その貸付けが事業所得と認められる場合を除き、原則として雑所得となります(所法35、所基通35-2(6))。
この点について参考になるのが、平成17年10月21日裁決(東裁(所)平17第49号)です。平成17年10月21日裁決では、同族会社が役員である請求人に対して「利息相当額」として支払った金員の所得区分が問題となりました。
審判所は、会社が支払った金員のうち、適正利率までの部分については、実質的な「法人への貸付金」に係る利息であるとして雑所得に該当すると判断しました。
一方、適正利率を超える部分については、請求人が会社の取締役として受けた利益供与であり、役員報酬に該当するとして給与所得に該当すると判断しています(所法28①、35①)。
したがって、所得税法157条を心配するあまり、役員借入金に対して必要以上に高い利率を設定すればよいというわけでもありません。
利率が不相当に高ければ、その超過部分について役員給与として取り扱われる可能性があります。
役員借入金の利率は、低すぎても問題となり得ますが、高すぎても別の税務問題を生じさせる可能性があるということです。
平成17年10月21日裁決(東裁(所)平17第49号)判断要旨
同族会社A社が利息相当額として支払った金員のうち、適正利率(A社に対する金融機関によるスプレッド貸しに準じて算定)までの部分については、実質的な「法人への貸付金」に係る利息と認めるのが相当であり、所得税法35条1項に規定する雑所得に該当する。適正利率を超える部分については、請求人がA社の取締役として受けた利益供与であり、役員報酬に該当すると認められるから、その所得区分は給与所得である。
同族会社の役員は20万円以下でも確定申告が必要
給与所得者については、一定の場合、給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下であれば所得税の確定申告を要しない制度があります。
しかし、同族会社の役員等が、その同族会社から給与のほかに貸付金の利子や不動産賃貸料等を受け取っている場合には、この20万円以下の申告不要制度は適用されません(所法121①、所令262の2)。
したがって、同族会社の役員が会社から受け取った貸付利息が少額である場合でも、原則として所得税の確定申告が必要になります。
役員が銀行から借りた資金を会社へ貸し付けた場合
例えば、役員が金融機関から1億円を借り入れ、そのうち5,000万円を会社への貸付けに直接使用したとします。
この場合、金融機関への支払利息のうち、会社への貸付けに直接対応する部分については、その貸付利息に係る雑所得の必要経費となり得ます(所法37①)。
ただし、実際にどの借入金が会社への貸付けに使用されたのか、借入金額、会社への貸付額、期間等の対応関係を明確にする必要があります。
単に「銀行借入金利と会社への貸付金利が同じだから雑所得は0円になる」と機械的に判断することは適切ではありません。
会社側の支払利息
会社が役員から実際に金銭を借り入れ、その借入れについて通常かつ合理的な利息を支払っている場合には、その支払利息は、原則として法人の所得金額の計算上、損金となります(法法22)。
一方、平成17年10月21日裁決(東裁(所)平17第49号)のように、通常の金利水準を超える部分が実質的に役員として受けた利益供与と評価される場合には、法人側についても役員給与に関する法人税法上の取扱いを検討する必要があります(法法34)。
したがって、「役員借入金に対する支払であれば、いくら高い利息を支払っても全額が支払利息になる」というわけではありません。
また、個人側について所得税法157条が適用され、実際には受け取っていない利息相当額が所得として認定された場合に、会社側でも同額の支払利息が当然に生じるというものでもありません。
所得税法157条の適用に対応する法人側の所得計算については、法人税法132条3項を含め、別途検討する必要があります(法法132③)。
まとめ
役員から同族会社への貸付けについて、「役員借入金だから無利息で問題ない」という一律のルールはありません。
一方で、「役員から同族会社へ無利息で貸したら、必ず認定利息が課税される」というわけでもありません。
重要なのは、無利息又は低利とすることについて経済的合理性が認められるかどうかです。近時の裁決からみても、次の事情が重要になります。
- 貸付けの目的
- 貸付金額
- 貸付期間
- 返済期限及び返済実績
- 担保・保証の有無
- 会社の財務状況
- 会社の現実の資金需要
- 無利息又は低利とした理由
- 第三者金融機関から借りた場合の条件との比較
特に、多額の資金を長期間にわたり、無利息、無期限、無担保で貸し付ける場合には、第三者間で通常行われる取引条件から大きく離れるため、所得税法157条の適用リスクについて慎重に検討する必要があります(所法157①、令和6年5月15日裁決・大裁(所)令5第47号、令和6年6月10日裁決・東裁(所)令5第120号、令和7年3月7日裁決・裁事138集)。
また、所得税法157条には、「○万円までなら無利息で問題ない」「○%であれば必ず安全」という明確なセーフハーバーはありません。
その一方で、利率を高く設定しすぎれば、その超過部分が役員給与と認定される可能性もあります(平成17年10月21日裁決・東裁(所)平17第49号)。
したがって、役員借入金については、貸付時点の会社の資金需要や財務状況を確認し、合理的な返済条件と利率を設定するとともに、その判断根拠を契約書や社内資料として残しておくことが重要です。
平和事件-東京地裁平成9年4月25日判決(税資223号500頁)、東京高裁平成11年5月31日判決(税資243号127頁)、最高裁平成16年7月20日第三小法廷判決(集民214号1071頁)(破棄自判、被上告人の控訴棄却)(確定)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① X(原告、被告人、双方上告人)は、パチンコ機器メーカーH社の代表取締役であるほか、資産管理会社たるN社の取締役を兼ね、昭和63年12月31日当時、H社の発行済株式5,888万株の73.5%、N社の資本金500万円の98%をそれぞれ所有していた。
H社は、昭和35年9月に設立され、その株式は昭和63年8月に店頭売買登録銘柄とされ、平成3年12月、東京証券取引所第2部に上場された。
N社は、昭和63年11月に設立されたXの同族会社である。同社の収益のほとんどは、Xが平成元年3月に同社に譲渡したH社の株式3,000万株(以下「本件株式」という。)に係る配当収入(平成元年9月期は0円、平成2年9月期は6億円及び平成3年9月期は9億円)であり、配当収入のほかには、平成2年9月期及び平成3年9月期に受取預金利息収入があつたのみである。同社は、平成4年8月に解散した。
② 上記①のように、Xは、平成元年3月、N社に対し、本件株式を総額3,450億円で譲渡し、その買受代金としてN社に対し、3,455億円余を返済期限及び利息を定めず、担保を徴することなく貸し付けた(以下「本件消費貸借」といい、その貸付金を「本件貸付金」という。)。なお、Xは、この資金繰りのため、 1日だけ銀行から3,455億円を借り受け、3,194万円余の利息(年利3.375%)を支払った。
その後、N社は、平成4年8月に解散し、本件株式(時価2,040億円に下落)等の所有資産をもって本件貸借に係る債務を代物弁済したが、Xは、本件貸付金の全額を回収できず、1,398億円余を免除した。
② Y税務署長(被告、被控訴人、双方上告人)は、平成4年6月、本件貸借について所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認、以下「本件規定」という。)を適用し、本件貸借によってXに利息収入が生じたものと認定し、平成元年から3年分までの所得税の雑所得金額を合計約495億円とする更正(以下「本件各更正」という。)と過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定」といい、本件各更正と併せて以下「本件各処分」という。)をした。
③ Xは、本件各処分を不服として、また、N社の解散等を理由に本件認定利息は回収できなかったとする更正の請求に対するY税務署長の理由がない旨の通知(以下「本件通知」という。)を不服として、本訴を提起した。
(2)本件の主な争点
(2)本件の主な争点
① 同族会社の出資者及び代表取締役が同会社に対してした無利息貸付けに所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認規定を適用して利息相当分につきした課税処分は適法か否かである。
② 過少申告加算税を賦課しない「正当な理由」があるか否かである。
(3)一審判決要旨(棄却)(X控訴)
(本件規定の要件及び効果)
① 個人と独立かつ対等で相互に特殊関係のない法人との間で、当該個人が当該法人に金銭を貸し付ける旨の消費貸借契約がされた場合において、右取引行為が無利息で行われることは、原則として通常人として経済的合理性を欠くものといわざるを得ない。そして、当該個人には、かかる不自然、不合理な取引行為によつて、独立当事者間で通常行われるであろう利息付き消費貸借契約によれば当然収受できたであろう受取利息相当額の収入が発生しないことになるから、結果的に、当該個人の所得税負担が減少することとなる。
② 株主等が同族会社に無利息で金銭を貸し付けた場合には、その金額、期間等の融資条件が同族会社に対する経営責任若しくは経営努力又は社会通念上許容される好意的援助と評価できる範囲に止まり、あるいは当該法人が倒産すれば当該株主等が多額の貸し倒れや信用の失墜により多額の損失を被るから、無利息貸付けに合理性があると推認できる等の特段の事情がない限り、当該無利息消費貸借は本件規定の適用対象になるものというべきである。
③ 本件消費貸借には、特段の事情は認められない。
(雑所得の額の計算)
④ 通常の経済人である個人が特殊関係のない法人に金員を貸し付けるに当たり、当該法人が金融機関から当該金員を借り入れる際に必要な利率と同額の利率を付することには経済的合理性が認められるから、結局において、銀行の貸出平均金利を基礎としてXの雑所得を計算することには合理性が認められるものというべきである。
⑤ N社が実質的な営業活動を行つていなかつたこと及び、本件消費貸借は期限の定めのないものとはいつても、その経済的実質に照らして判断すれば相当長期間にわたる貸付けであつたことは明らかであるから、本件消費貸借をその標準的な行為又は計算に引き直した場合に適用すべき利率は、全国銀行の長期貸出平均金利(5.58%)を基礎として雑所得の金額を計算することには合理性が認められる。
(本件各更正と本件各賦課決定)
⑥ 本件各更正に際し信義則の適用の前提となる公的見解の表示があつたといえるか否かをみるに、なるほど、各文献(前職及び現職の東京国税局税務相談室長が編集した「昭和58年版・税務相談事例集」、東京国税局直税部長が監修し、同局法人税課長が編集した「回答事例による法人税質疑応答集」(昭和55年3月発行)及び「昭和59年版・回答事例による法人税質疑応答集」)は、税務官庁の担当者の手になるものであり、かつ、個人から法人への無利息貸付けは一般に課税対象とはならない旨の記述がみられるものではあるが、いずれも通常想定される一般的な税務事例に則した解説書の性質を有する私的な著作物というほかなく、右にいう公的見解の表示と同視することはできないし、右いずれの記述をみても、当該無利息貸付けが経済的にみて不自然、不合理と認められるような場合を含めて常に本件規定の適用がないと述べているものとは解されない。
よって、本件更正が信義則の適用によって違法となる余地はない。このことは、本件各賦課決定に関し、国税通則法65条4項に規定する「正当な理由」にも該当しない。
(4)控訴審判決要旨(原判決変更、一部取消し)(XY双方上告)
① Y税務署長が本件貸借について所得税法157条を適用したことに違法はない。その理由は、原判決の理由を引用する。
② 所得税法157条の趣旨が税負担の公平の維持にあり、租税回避に対する制裁にはないことを重視すれば、本件消費貸借については、個人が資金運用をするに当たって一般的にみて経済的に不合理とはいえないものというべき預金金利に相当する利息の約定があったものと解する余地もないとはいえないが、本件貸付金はN社の経営のための融資としてその金額が膨大であり、X自身も個人の預金等から支弁したものではなく、自己の経済人としての信用を媒介に金融機関からの融資を得て本件消費貸借を行ったものであり、本件消費貸借が行われない場合にXが本件貸付金を定期預金に供したであろうと合理的に推認することもできず、本件消費貸借の条件、貸付先の資力等を総合すれば、銀行の貸出平均金利をもってあるべき利率と認定したことをもって違法と評価することはできない。
③ ところで、原判決は、本件消費貸借をその標準的な行為又は計算に引き直した場合に適用すべき利率は、本件消費貸借当時の全国銀行における貸出平均金利であるとして平成元年3月の全国銀行の長期貸出約定平均金利である本件金利を用いている。しかし、これは、平成元年3月末日における利率別貸出残高の加重算術平均値であり、同日現在において既に貸し出されて残高として残っているものを利率別残高ごとに加重平均した値であるから、全国銀行における貸出平均金利として用いるのは適切でない。本件消費貸借をその標準的な行為又は計算に引き直した場合に適用すべき利率としての全国銀行における貸出平均金利は、平成元年の全国銀行の総合新規貸出約定平均金利である4.87%を用いるのが相当である(取消税額9億1,200万円)。
④ 本件各更正は、信義則に照らし違法とはいえない。その理由は、原判決の理由を引用する。
⑤ 個人から法人に対する無利息貸付については課税されないとの見解が記載されている解説書であるが、いずれも編者及び推薦者又は監修者として東京国税局勤務者が官職名を付して表示されており、財団法人大蔵財務協会(大蔵省唯一の総合外郭団体)が発行したものである。本件解説書は、正確にいえば私的な著作物であり、個人から法人に対する無利息貸付について本件規定の適用が一切ないことを保証する趣旨までは記載されていないが、各巻頭の「推薦のことば」、「監修のことば」等において、東京国税局税務相談室その他の税務当局に寄せられた相談事例及び職務の執行の際に生じた疑義について回答と解説を示す形式がとられていることが記載されており、税務当局の業務ないし編者等の税務当局勤務者の職務との密接な関連性を窺わせるものである。したがって、税務関係者がその編者等や発行者から判断して、その記載内容が税務当局の見解を反映したものと認識し、すなわち、税務当局が個人から法人に対する無利息貸付については課税しないとの見解であると解することは無理からぬところである。そして、Xの税務関係のスタッフも本件消費貸借をするに際し税務当局が個人から法人に対する無利息貸付については課税しないとの見解であると解していたことが認められ、これを単なる法解釈についての不知、誤解ということはできない。以上を総合すると、控訴人には本件各更正(ただし、前記違法と判断した部分を除く。)によって新たに納付すべき所得税があるが、過少申告加算税を課することが酷と思料される事情があり、国税通則法65条4項の正当の理由があるというべきである(取消税額34億円)。
(5)上告審判決要旨(破棄自判、Xの控訴棄却)(確定)
本件更正については、原判決維持。
本件賦課決定については以下のように判示し、原判決取消し。
① 株主又は社員から同族会社に対する金銭の無利息貸付けに本件規定の適用があるかどうかについては、当該貸付けの目的、金額、期間等の融資条件、無利息としたことの理由等を踏まえた個別、具体的な事案に即した検討を要するものというべきである。
② 本件貸付けは、3,455億円を超える多額の金員を無利息、無期限、無担保で貸し付けるものであり、納税者がその経営責任を果たすためにこれを実行したなどの事情も認め難いのであるから、不合理、不自然な経済的活動であるというほかはないのであって、税務に携わる者としては、本件規定の適用の有無については、上記の見地を踏まえた十分な検討をすべきであったといわなければならない。
③ 他方、本件解説書は、その体裁等からすれば、税務に携わる者においてその記述に税務当局の見解が反映されていると受け取られても仕方がない面があるが、その内容は、代表者個人から会社に対する運転資金の無利息貸付け一般について別段の定めのあるものを除きという留保を付した上で、又は業績悪化のため資金繰りに窮した会社のために代表者個人が運転資金500万円を無利息で貸し付けたという設例について、いずれも、代表者個人に所得税法36条1項にいう収入すべき金額がない旨を解説するものであって、代表者の経営責任の観点から当該無利息貸付けに社会的、経済的に相当な理由があることを前提とする記述であるということができるから、不合理、不自然な経済的活動として本件規定の適用が肯定される本件貸付けとは事案を異にするというべきである。そして、当時の裁判例(東京地裁昭和55年10月22日判決・月報27巻3号568頁は、「同族会社の主たる株主で代表取締役の地位にある者が、会社に無利息融資をした場合について、この規定を適用し、利息相当額を当該株主の所得に加算した。」との記載がある)等に照らせば、納税者の顧問税理士等の税務担当者においても、本件貸付けに本件規定が適用される可能性があることを疑ってしかるべきであったということができる。
そうすると、前記利息相当分が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法65条4項にいう正当な理由があったとは認めることができない。
同族会社に対する貸付金の利率が著しく低いとして、同族会社等の行為又は計算の否認等の規定が適用された事例-令和6年5月15日裁決(大裁(所)令5第47号)
同族会社への無利息貸付けは、経済的合理性を欠くものと認められ、受取利息相当額を雑所得の総収入金額に算入すべきであるとされた事例-令和6年6月10日裁決(東裁(所)令5第120号)(棄却)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人Xは、有価証券の保有等を目的とする会社、生命保険募集を行う会社など、同族会社3社(以下「本件各社」という。)の発行済株式の50%超を自らまたは長男と保有していた。Xは2社の代表取締役であり、残り1社については役員ではないものの、単独で50%超を保有する筆頭株主であった。
② Xは、本件各社に対し、社債の買入・消却資金、他社株式の取得資金、あるいは運転資金を融通する目的で金銭を貸し付けた。
貸付金額は黒塗り(非公開マスキング)となっており、正確な金額は不明である(ただし、20億円台と噂されている)。
すべての貸付けにおいて、条件は「無利息、無期限(返済期限の定めなし)、無担保」とされていた。
③ Xは、平成29年分、平成30年分及び令和元年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税等について、法定申告期限までに申告した(以下、当該各確定申告を「本件各確定申告」という。)。
④ 原処分庁は、本件各年分について、この無利息貸付けは所得税の負担を不当に減少させるものであるとして行為計算否認規定(所得税法157条1項)を適用し、日本銀行が公表する月次の貸出約定平均金利により算定した受取利息相当額を計算して雑所得に算入し、更正処分等(以下「本件各処分」という。)を行った。
⑤ Xは、当該貸付けはXの所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものではないなどとして、その全部の取消しを求めた。
(2)本件の主な争点
本件各無利息貸付けは、所得税法157条1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するか否かである。
(3)裁決要旨(棄却)
① 所得税法157条1項の趣旨、内容からすれば、同項にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、所得税の負担を減少させる結果となるものをいうと解するのが相当である。そして、株主等からの同族会社等に対する金銭の無利息貸付けが経済的合理性を欠くものであるかどうかについては、当該貸付けの目的、金額、期間等の融資条件、無利息としたことの理由等の諸事情を総合的に考慮して判断すべきである。
② 本件各無利息貸付けは、本件各社に需要が生じた資金を融通するなどの目的で行われたものであるところ、いずれも総額で多額に及ぶ金銭を無利息、無期限、無担保で貸し付けるものであって、その金額、期間等の融資条件は、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは大いに異なる点があるというべきである。また、本件各無利息貸付けについては、Xが自らの経営責任を果たすためにこれを実行したなどの事情をうかがうこともできない。
③ 以上の諸事情を総合すると、本件各無利息貸付けは、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、所得税の負担を減少させる結果となるものとして、所得税法157条1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するというべきである。
④ Xは、一般に、個々の貸付けにおける金利は、無リスク金利に当該貸付けにおける貸倒れリスクを加味して決定されるものであるところ、Xファミリーの間で行われる貸付けにおいては、その構成員間の信用の相互補完によって実質的に貸倒れリスクがないといえることから、本件各無利息貸付けは、Xの所得税の負担の軽減を図るものではなく、本件各社に経済的利益が生じるものでもない旨主張するとともに、実質的に貸倒れリスクがないといえる理由として、現にXファミリーの構成員が外部の金融機関からの借入れとスワップ取引を組み合わせた一体の取引によって実質的にマイナス金利での資金調達を行った実績もある旨主張する。
⑤ しかしながら、個々の貸付けにおける貸倒れリスクの有無は飽くまで当該貸付けにおける貸付金額等に左右されるというべきものであるところ、本件各無利息貸付けがいずれも総額で多額に及んでいることからすれば、本件各社に本件各無利息貸付けに係る貸倒れリスクがないとはいえず、このことは、金融機関からの借入れとスワップ取引を組み合わせた一体の取引によって実質的にマイナス金利での資金調達を行った実績があるからといって左右されるものでもない。したがって、Xの主張は前提において理由がなく、採用できない。
⑥ 本件各無利息貸付けは、所得税法157条1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するというべきである。
したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。
令和7年3月7日裁決(裁事138集)(一部取消し・一部棄却)―所得税法157条関係の請求人主張は排斥
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 平成29年6月7日、審査請求人Xは、自身が保有する優良なファミリー企業である「P社(不動産業等)」の株式を、長男Nが100%出資する同族会社L社に約29.4億円で譲渡する旨の契約を締結した。
② 平成29年6月29日に、L社は、株式取得資金としてR銀行から約29.4億円(融資契約1)を一時的に借り入れ、これをXに支払った。
Xは受け取った株式代金のうち、約23.4億円をR銀行に定期預金として預け入れた。
③ 平成29年7月28日に、L社は一時的な借入金を返済するため、銀行団(R銀行及びS銀行)から約29.4億円のシンジケートローン(融資契約2、そのうち個別貸付Bが23億4,459万円)を借りた。この融資の担保として、Xの上記②の定期預金に「質権」が設定された。
④ 個別貸付Bの満期日(平成30年6月29日)に、Xは定期預金を解約して約23.4億円を払い戻し、同日に同額をL社に「無利息・無期限(返済は随時)・無担保」で貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)。L社はこの資金で銀行への債務を完済した。
⑤ 令和5年3月13日に、L社はR銀行から新たに20億円を借り入れ(融資契約3、Xらの連帯保証あり)、その資金でXへの借入金(残高20億円)を全額弁済した。
⑥ Xは、平成30年分ないし令和4年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税等について、各確定申告書を法定申告期限までに提出した。
⑦ 原処分庁は、令和6年2月27日付で、所得税法157条1項の規定を適用し、本件貸付けによりXが収受すべき利息相当額(以下「本件貸付けの利息相当額」という。)が雑所得の総収入金額に算入されるとして、本件融資契約3の利率に準じ、日本円TIBORのうち3か月に対応した利率に○%を加算した利率を基礎として本件貸付けの利息相当額を計算し、本件各年分の所得税等の各更正処分等(以下「本件各更正処分等」という。)をした。
⑧ Xは、令和6年5月24日に、原処分に不服があるとして、その全部の取消しを求めて審査請求をした。
(2)本件の主な争点
(争点1) 本件貸付けを無利息としたことは、所得税法157条1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するか否かである。
(争点2) 原処分庁が本件貸付けの利息相当額の計算の基礎とした利率は適正か否かである。
(3)裁決要旨(一部取消し・一部棄却)―所得税法157条関係の請求人主張は排斥
(争点1)
① 本件貸付けは、本件融資契約2の個別貸付Bに係る債務の弁済を目的に行われたものと認められるところ、本件貸付けは、約23.4億円という多額に及ぶ金銭を、無利息、無期限、無担保で貸し付けるものであって、その融資条件は、独立かつ対等で相互に特殊の関係のない当事者間で通常行われる取引とは大いに異なるというべきである。
② L社の財務状況を踏まえると、本件貸付けの当時、本件貸付けを無利息としなければ本件同族会社に倒産の危険があったとはいえず、Xが本件同族会社に対して無利息で本件貸付けをすることに合理的な理由を見出すことはできない。
以上の諸事情を総合すると、本件貸付けを無利息にしたことは、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、Xの所得税の負担を減少させる結果となるものであると認められるから、所得税法157条1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するというべきである。
(争点2)
③ 本件貸付けの融資条件は、貸付額及び貸付期間の点で、本件各融資契約のうち本件融資契約3の融資条件との類似性が高く、本件貸付けの担保の状況及び本件同族会社の信用力を考慮すると、本件貸付けの標準的な利率は、本件融資契約3の利率を下回ることはないものといえるから、本件貸付けの利息相当額の計算に当たり、本件融資契約3の利率を参照することには合理性があるものと認められる。
④ 本件融資契約3の利率は、各利率適用期間開始日の2営業日前に、R銀行が短期金融市場等において利率適用期間につき調達可能な金利に、○%を加算した利率であるところ、原処分庁は、日本円TIBORのうち3か月に対応した利率に○%を加算した利率を本件貸付けの利息相当額の計算の基礎としているから、この合理性について以下検討する。日本円TIBORは、日本において、民間金融機関が短期的な資金の過不足を調整する無担保での貸し借りの場である本邦無担保コール市場の実勢を反映した利率であるから、「各利率適用期間開始日の2営業日前に、R銀行が短期金融市場等において利率適用期間につき調達可能な金利」は、日本円TIBORの利率と近似したものになると考えられる。
そして、本件融資契約3の利率適用期間は、利率適用期間開始日から、そのおおむね3か月後である次回の利率適用期間開始日までであることからすれば、日本円TIBORのうち、3か月に対応した利率を用いるのが相当である。
以上によれば、原処分庁が、本件貸付けの利息相当額の計算の基礎として、日本円TIBORのうち3か月に対応した利率に○%を加算した利率を用いたことは、本件融資契約3の利率に準じる利率を用いたものとして、合理性があるものと認められる。
⑤ 以上のことから、原処分庁が本件貸付けの利息相当額の計算の基礎とした利率は適正である。
(編注) 所得税法157条の適用及び認定利率に関する請求人の主張は退けられているが、別の争点である先物取引に係る損失の繰越額について原処分の一部に誤りがあったため、裁決全体としては、平成30年分から令和2年分の更正処分について一部取消し、令和3年分及び令和4年分の更正処分並びに過少申告加算税について棄却となっている。
