
概要
東京地裁令和8年2月25日判決(令和6年(行ウ)184号)、東京地裁令和8年2月25日判決(令和6年(行ウ)465号)において、米国の遺族年金を受給する権利は、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)に該当して相続税の課税財産となると判示されました。
同様に、京都地裁令和8年5月25日判決(令和6年(行ウ)17号)において、スイス連邦国(スイス)の遺族年金を受給する権利も相続税の課税財産となると判示されました。
今後、国外の遺族年金を受給する権利(年金の基本権)について、同様な判決や税務調査での指摘が増える可能性があるので注意が必要です。
個人的には疑問がある判決なので、三木義一先生には頑張ってもらいたいと思います。上記3つの事例とも納税者側が控訴しており、控訴審の行方が注目されています。
関連記事
受給権の評価額の算出方法
米国の遺族年金を受給する権利が相続税の課税財産となる場合、受給権の評価額をどのように算出するのかという疑問をもたれる方もいるでしょう。
このことについては、東京地裁令和8年2月25日判決(令和6年(行ウ)184号)では以下のように算出しているので、この事例を元にして同様に算出するのがよいと思います。
| 順号 | 区分 | 金額等 | 単位 |
|---|---|---|---|
| 1 | 給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額 | 13,272 | ドル |
| 2 | 余命年数 | 10 | 年 |
| 3 | 予定利率 | 2.8 | % |
| 4 | 複利年金現価率 | 8.618 | |
| 5 | 米国ドル建てによる本件受給権の価額(順号1×順号4) | 114,378 | ドル |
| 6 | 邦貨換算レート | 107.52 | 円 |
| 7 | 邦貨換算後の本件受給権の価額(順号5×順号6) | 12,297,922 | 円 |
順号1 給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額
米国では、社会保障給付による購買力がインフレによって損なわれないよう、支給される社会保障給付額について、毎年、生活費調整(Cost-of-Living Adjustment)が行われています。
生活費調整は、消費者物価指数等が一定程度上昇した場合に適用されるものであるため、生活費調整により、社会保障給付額が増加することはあっても、減少することはありません。
そのため、今後において遺族年金の受給金額が変更する可能性がありますが、「順号1 給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額」とする(ドル)金額は、当初の遺族年金の月額を12倍にした金額となります。
事例においては、被相続人は令和元年6月8日に死亡しましたが、令和元年の遺族年金の受給額は月額1,106米国ドルであっため、年換算は13,272米国ドルとなります。
順号2 余命年数
被相続人である夫が亡くなった日(令和元年6月8日)において妻は81歳でした。厚生労働省が作成した平成27年の第22回完全生命表(女)(本件相続開始日において公表されていた最新のもの)における81歳女性の平均余命年数は、10.99年でした。
1年未満の端数を切り捨てた10年が「順号2 余命年数」となります。
つまり、夫が亡くなったことにより遺族年金を受給することになった妻は相続日において81歳であったため、統計による平均余命年数から10年間遺族年金を受給できると仮定するということです。
なお、生命表(完全生命表)は5年ごとに作成、公表されており、現時点(2026年7月)の最新版は第23回完全生命表となります。
〇平成29年(2017年)第22回生命表(完全生命表)の概況(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/22th/dl/22th_11.pdf
〇令和4年(2022年)第23回生命表(完全生命表)の概況(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/23th/dl/23th-11.pdf
順号3 予定利率
相続した年における米国の社会保障年金信託基金の実効金利を「順号3 予定利率」とします。
具体的には下記米国社会保障庁HPの実効金利率(Effective Interest Rates)ですが、表の「OASI」「DI」「OASDI」と書かれた列の数値(%)の用語の意味と見方は以下の通りです。
OASI:老齢・遺族年金(Old-Age and Survivors Insurance)信託基金の実効金利
DI:障害年金(Disability Insurance)信託基金の実効金利
OASDI:上記2つの基金を合算した実効金利
事例においては、相続日(令和元年6月8日)は令和元年(2019年)であったため、「順号3 予定利率」は2.8%となります。
〇年金の実効金利率(米国社会保障庁HP)
https://www.ssa.gov/oact/progdata/effectiveRates.html
順号4 複利年金現価率
複利年金現価率とは、将来定期的に受け取る一定額の合計を、「いま一括で受け取るとしたら、いくらの価値になるか」を計算するために使う係数のことです。
下記国税庁HPのリンク先の「1 有期定期金」又は「4 その他」で複利年金現価率を算出することができます。
例えば、「1 有期定期金」をクリックし、「(3) 相続税法24条1項1号ハの金額(複利年金現価)を計算します。」に情報を入力します。
「① 1年当たりの平均額を入力してください。」は「順号1 給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額」である13,272を入力してください。なお、国税庁HPではドルではなく円となっていますが、無視してドルの金額を入力してください。
「② 予定利率を入力してください。」には、「順号3 予定利率」の2.8%を入力します。
「③ 権利の取得年月日を入力してください。」には、相続日の令和元(1)年6月8日を入力します。
「④ 定期金の給付が終了する年月日を入力してください。」には、「順号2 余命年数」が10年であったため、令和11年6月7日を入力します。
そこまで入力したうえで「計算」をクリックすると、複利年金現価率は、8.618とでます。なお、入力を間違えた場合は「入力内容を訂正」をクリックして正しく入力してください。
なお、この8.618という数字は、当初に8.618年分の遺族年金をもらえ、かつ、2.8%の利率で運用すればこの先10年間にわたって遺族年金をもらえることと経済的利益は同じであるということをいっています。
〇定期金給付事由が発生しているもの(国税庁HP)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/nofu-shomei/teikikin/teikikin_menu.html
順号5 米国ドル建てによる本件受給権の価額
「順号5 米国ドル建てによる本件受給権の価額」=「順号1 給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額」×「順号4 複利年金現価率」
=13,272ドル×8.618=114,378ドルとなります。
なお、上記「順号4 複利年金現価率」において国税庁HPで複利年金現価率を算出した際に「⑦ ①×⑥の金額は、」でも114,378と算出されていると思います。
なお、国税庁HPで算出した金額はドルではなく円となっていますが無視してください。
順号6 邦貨換算レート
取引金融機関の米国ドルの対顧客直物電信買相場(TTB)を採用します。
なお、事例では相続開始日(令和元年6月8日)は土曜日であったため、同日の為替相場はありませんでした。そのため、相続開始日の前日である令和元年6月7日におけるレート107.52円が採用されました。
順号7 邦貨換算後の本件受給権の価額
「順号7 邦貨換算後の本件受給権の価額」=「順号5 米国ドル建てによる本件受給権の価額」×「順号6 邦貨換算レート」
=114,378ドル×107.52=12,297,922円となります。
この12,297,922円が米国の遺族年金を受給する権利の評価額となります。
所得税はかかるのか?
年金制度(遺族年金を含む)において「基本権」と「支分権」があります。
年金を受給するための「根本となる権利(受給権)」のことを基本権といいます。一方、基本権に基づいて、「具体的に各月(偶数月の15日など)に支払われる年金を受け取る権利」のことを支分権といいます。
国外の遺族年金(基本権)について相続税の課税対象となることとなると、次は、国外の遺族年金(支分権)について所得税が課されるのかという問題があります。
これについては、死亡した者の勤務に基づいて支給される遺族年金は非課税の対象であるとの規定(所法9①三ロ、所基通9-2)により課税されない説と、課税される説があります。
個人的には、現状は課税されない説が有力かと思います。なぜなら、相続税に関し税務調査が入り裁判になっている事例が多発している状況と違い、所得税に関しては裁判例がでてきてません。
国税が相続税だけでなく所得税にも課すと判断したならば、同時期に、所得税についても税務調査が入り裁判例がでてきていると思われます。
もっとも、今後、でてくる可能性もありますので、相続税に関する事例の控訴審の行方だけでなく、注目していきたいと思います。
所得税基本通達9-2(非課税とされる年金の範囲)
法第9条第1項第3号ロに掲げる年金には、次に掲げるものが含まれる。
(1) 死亡した者の勤務に基づき、使用者であった者から当該死亡した者の遺族に支給される年金
(2) 死亡した者がその勤務に直接関連して加入した社会保険又は共済に関する制度、退職年金制度等に基づき、当該死亡した者の遺族に支給される年金で、当該死亡した者が生存中に支給を受けたとすれば法第35条第3項《雑所得》の規定によりその者の公的年金等とされるもの
「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相法3①六)
「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相法3①六)とは、相続の効果として被相続人から承継するものではなく、法律の規定その他契約以外の事由によって相続人等が取得するもので、これには、次の2つのような場合が含まれていると解されています。
(1)退職年金を受けている者の死亡により、その相続人等が当該年金を継続して受けることとなった場合における当該年金の受給に関する権利(相基通3-29)
(2)船員保険法の規定による遺族年金、厚生年金保険法の規定による遺族年金等(相基通3-46)
相続税法基本通達3-29(退職年金の継続受取人が取得する権利)
退職年金を受けている者の死亡により、その相続人その他の者が当該年金を継続して受けることとなった場合(これに係る一時金を受けることとなった場合を含む。)においては、当該年金の受給に関する権利は、その継続受取人となった者が法第3条第1項第6号の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされるのであるから留意する。
相続税法基本通達3-46(契約に基づかない定期金に関する権利)
法第3条第1項第6号に規定する「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」には、3―29の定めに該当する退職年金の継続受取人が取得する当該年金の受給に関する権利のほか、船員保険法の規定による遺族年金、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)の規定による遺族年金等があるのであるが、これらの法律による遺族年金等については、それぞれそれらの法律に非課税規定が設けられているので、相続税は課税されないことに留意する。
(注)1~3 略
米国の遺族年金を受給する権利は、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)に該当して相続税の課税財産となるとされた事例-東京地裁令和8年2月25日判決(令和6年(行ウ)184号)(棄却)(控訴)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xの父(以下「本件被相続人」という。)は、令和元年に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続に係る法定相続人は、本件被相続人の妻(以下「本件妻」という。)及び子であるXの2人である。
② 本件被相続人は、本件相続の開始日の属する令和元年当時、米国の年金制度が規定されている連邦規則集(連邦規則集)に基づき、老齢給付金として月額1,106米国ドル受給していた。本件妻は、本件被相続人の死亡により、連邦規則集の規定に基づき、本件受給権を取得した。
本件受給権に係る令和元年中の受給額は、本件被相続人の老齢給付金と同額の月額1,106米国ドルであり、年換算すると13,272米国ドル(以下「本件受給額」という。)であった。
③ Xは、課税庁Yに対し、本件妻が取得した本件受給権を本件相続に係る相続税の課税財産に含めず、相続税の申告書を提出した。
④ Yは、Xに対し、本件受給権はみなし相続財産である「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に当たるとして、本件受給権の価額を相続税法24条5項で準用する同条1項3号ハの規定に基づき評価し、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という。)をした。
⑤ Xは、(イ)本件受給権は「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に当たらない、(ロ)国内年金受給権を非課税とし、国外年金受給権に課税するのは、憲法に定める平等原則に違反するなどと主張して、本件更正処分等の取消しを求め本訴を提起した。
(2)本件の主な争点
(争点1)共同相続人の一人が取得した米国の遺族年金である「widow’s benefits」を受給する権利(本件受給権)が「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)に該当して相続税の課税財産となるか否かである。
(争点2)更正処分における本件受給権の評価額が正当であるか否かである。
(争点3)本件受給権に相続税法3条1項6号を適用することが平等原則に違反するか否かである。
(3)判示要旨(棄却)(控訴)
(争点1)
① 「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)とは、法令等(外国の法令を含む。)の規定によって相続人等が直接に取得する定期金に関する権利をいうと解するのが相当であるところ、本件受給権は、連邦規則集の規定に基づき、本件被相続人の遺族である本件妻が直接取得した米国遺族年金を受給する権利であるから、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に当たり、相続税の課税財産となる。
(争点2)
② 本件受給権の価額は、相続税法24条1項3号ハの規定に基づき、「余命年数」は10年(本件相続開始日における本件妻の年齢に係る平均余命年数)を、「給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」は本件受給額を、「予定利率」は米国の社会保障年金信託基金の実効金利をそれぞれ用いて評価するのが相当であるところ、更正処分における本件受給権の評価額は、これら各数値を用いて算出される金額と同額であるから、正当である。
(争点3)
③ 様々な性格を有する国外の遺族年金受給権を、国内の遺族年金受給権と同様に、一律に相続税の課税財産としないとすることは必ずしも適当ではないというべきであり、米国遺族年金の受給権である本件受給権について、相続税の課税対象としない旨の規定を設けなかったとしても、そのことから直ちに立法府の裁量の範囲を逸脱し、これを濫用したこととなるものではない。
そして、本件受給権について相続税の課税対象としない旨の個別の規定が設けられていないことを前提に、本件受給権が課税財産に当たるものとして行われた本件更正処分等についても、合理性を欠くということはできない。したがって、本件受給権に相続税法3条1項6号を適用することは平等原則に違反するとはいえない。

