米国の遺族年金受給権が相続税の対象になるとした東京地裁判決
東京地裁令和8年2月25日判決(令和6年(行ウ)184号)では、米国のSocial Security制度に基づき、被相続人の死亡によってその妻が取得した遺族年金「widow’s benefits」の受給権について、相続税法3条1項6号の「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に該当し、相続税の課税財産になると判断されました。
この判決には前審となる国税不服審判所の裁決があります。
令和5年12月1日裁決(東裁(諸)令5第45号)です。
この裁決でも、米国遺族年金受給権が相続税法3条1項6号のみなし相続財産に該当するとされ、さらに、その評価について、契約に基づかない定期金には契約上の「予定利率」が存在しないため、それに代わる合理的な利率を用いることができるとの重要な判断が示されました。
東京地裁令和8年2月25日判決は、この裁決を経た取消訴訟です。
なお、2026年8月30日現在、この東京地裁判決は控訴されています。
また、この判決から「米国や外国の遺族年金はすべて相続税の課税対象になる」と考えるのは適切ではありません。
外国の遺族年金については、その年金がどの国のどの法令に基づくものか、被相続人の死亡によって遺族が直接取得する権利なのか、契約に基づくものなのか、給付期間、解約返戻金や一時金選択権の有無、日本法上の非課税規定の有無などを確認して個別に判断する必要があります。
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なぜ「相続した財産」でなくても相続税がかかるのか
相続税法3条1項6号は、被相続人の死亡により相続人その他の者が取得した「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」を、相続又は遺贈により取得したものとみなしています。
本件妻が取得したwidow’s benefitsは、夫が持っていた遺族年金受給権を相続によって承継したものではありません。
米国連邦規則集の規定に基づき、夫が死亡したことによって、妻自身が直接取得した権利です。
前審の令和5年12月1日裁決は、この受給権について、本件相続の効果として妻が被相続人から承継したものではなく、被相続人の死亡によって連邦規則集の規定に基づき原始的に妻が取得したものと認定しました。
その上で、このような受給権も相続税法3条1項6号の「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に該当すると判断しました。
東京地裁令和8年2月25日判決も、同号について、外国の法令を含む法令等の規定によって相続人等が直接取得する定期金に関する権利を含むと判断しています。
相続税基本通達3-29と3-46
相続税基本通達3-29は、退職年金を受けている者が受給期間中に死亡し、その相続人その他の者がその年金を継続して受けることとなった場合、その継続受給権が相続税法3条1項6号により相続又は遺贈により取得したものとみなされることを明らかにしています。
一方、今回の外国遺族年金との関係で、より直接的に重要なのは相続税基本通達3-46です。
相基通3-46は、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」として、相基通3-29に定める退職年金の継続受給権のほか、船員保険法や厚生年金保険法等による遺族年金等を挙げています。
「令和8年版 相続税法基本通達逐条解説」108~112頁(相基通3-46関係)では、契約に基づかない定期金受給権について、被相続人の死亡によって遺族等が原始的に取得するものと、保証期間付き定期金について継続受取人が残存期間の受給権を取得するものなどが説明されています。
本件の米国Social Securityのwidow’s benefitsは、前者、すなわち被相続人の死亡によって遺族が原始的に取得する受給権として理解することができます。
日本の遺族年金には相続税がかからないのに、なぜ米国の遺族年金には課税されるのか
日本の厚生年金や国民年金の遺族年金には、通常、相続税は課税されません。
しかし、これは単純に「遺族年金だから相続税法3条1項6号の対象外」ということではありません。
相続税基本通達3-46は、厚生年金保険法等による遺族年金も、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に含まれることを前提としています。
その上で、これらの国内遺族年金については、それぞれの根拠法令に非課税規定があることから、相続税を課税しない取扱いとしています。
「令和8年版 相続税法基本通達逐条解説」108~112頁(相基通3-46関係)では、この点についてさらに詳しく説明されています。
同書では、各年金法の非課税規定について、毎回支給される年金、いわゆる支分権に対する公課を非課税とするもので、年金を受給する根本的な権利である基本権への相続税まで当然に非課税とするものではないとの見解にも触れています。
その上で、恩給法に基づく扶助料請求権との均衡等から、遺族年金の基本権に相続税を課税することは適当ではないとの考え方が説明されています。
これに対し、本件の米国Social Securityのwidow’s benefitsについては、日本の相続税を非課税とする規定が設けられていません。
前審の令和5年12月1日裁決も、「米国遺族年金を受給する権利については、法令上、相続税が課税されないこととなる非課税規定は設けられていない」として、相続税の課税対象になると判断しました。
東京地裁も、日本の厚生年金等との取扱いの違いについて、個別法に非課税規定が設けられているかどうかによるものであり、本件受給権に相続税を課税しても平等原則に違反しないと判断しています。
米国遺族年金の受給権はいくらで評価するのか
本件では、米国遺族年金の受給権が相続税の課税財産になるかだけでなく、その受給権をいくらで評価するかも重要な争点となりました。
本件のwidow’s benefitsは、妻が死亡するまで定期的に給付される権利であることから、「終身定期金」に該当するとされました。
本件受給権は契約に基づく定期金ではありませんが、相続税法24条5項により、同条の定期金に関する評価規定が準用されます。
また、本件では解約返戻金がなく、年金に代えて一時金を受け取ることもできませんでした。
そのため、相続税法24条5項により準用される同条1項3号ハによって評価することとされました(相基通24-4参照)。
| 区分 | 金額等 |
|---|---|
| 1年当たりの給付額 | 13,272米国ドル |
| 余命年数 | 10年 |
| 「予定利率」に代わる利率として用いた実効金利 | 2.8% |
| 複利年金現価率 | 8.618 |
| 米国ドル建て受給権価額 | 114,378米国ドル |
| 邦貨換算レート(TTB) | 107.52円 |
| 相続税評価額 | 12,297,922円 |
前審の令和5年12月1日裁決が重要な理由
本件の評価方法を理解する上で、前審の令和5年12月1日裁決(東裁(諸)令5第45号)は非常に重要です。
相続税法24条1項3号ハは、終身定期金の評価について、「当該契約に基づき給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」と「当該契約に係る予定利率」を用いて計算することを前提としています。
ところが、本件の米国遺族年金は法令に基づくものであり、「契約」がありません。
したがって、契約上の「一年当たりの平均額」も「予定利率」も存在しません。
令和5年12月1日裁決は、この点について、契約に基づかない定期金に相続税法24条5項によって同条1項3号ハを準用する場合には、契約がない以上、これらの金額や予定利率が存在しないことは当然であり、このような場合には、それらに代わる合理的な金額又は利率を用いることを相続税法は予定していると判断しました。
これは、本件の評価論の中心となる判断です。
しかも、この令和5年12月1日裁決は、「令和8年版 相続税法基本通達逐条解説」534頁(相基通24-4関係)において、「相続税法第24条第5項の考え方が示された事例」として紹介されています。
したがって、本件の2.8%という利率については、単に「東京地裁が2.8%を認めた」というだけではなく、その前提として、前審裁決において相続税法24条5項の準用方法についての考え方が示され、それが逐条解説でも取り上げられている点が重要です。
1年当たりの給付額は13,272米国ドル
本件妻が令和元年に受給するwidow’s benefitsは月額1,106米国ドルであったため、年額は、
1,106米国ドル×12か月=13,272米国ドル
となります。
米国のSocial Security給付には生活費調整(Cost-of-Living Adjustment)があり、将来の給付額が変動する可能性があります。
しかし、相続開始時点では令和2年以降の給付額は判明していませんでした。
令和5年12月1日裁決は、相続開始時点で判明していた令和元年の年間受給額13,272米国ドルを、毎年一定の給付を受けるものと同様に取り扱うことは合理的であると判断しました。
東京地裁も、この金額を用いることを相当としています。
余命年数は10年
本件相続開始日の令和元年6月8日において、本件妻は81歳でした。
本件相続当時の相続税法施行規則12条の3は、終身定期金の評価に用いる平均余命について、厚生労働省が作成する完全生命表に掲げる年齢及び性別に応じた平均余命を用い、1年未満の端数を切り捨てることとしていました。
本件相続時に用いられた第22回完全生命表では、81歳女性の平均余命は10.99年であったため、1年未満を切り捨てた10年が余命年数とされました。
ここでいう「10年」は、本件妻が実際にあと10年間生存すると予測したものではありません。
終身定期金の相続税評価を客観的・画一的に行うため、統計上の平均余命を使用するものです。
本件相続当時の「相規12条の3」と現行の「相規12条の3」は別の規定
条文番号については注意が必要です。
本件相続当時、終身定期金の評価に使用する平均余命を定めていたのは、相続税法施行規則12条の3でした。
しかし、その後の改正によって条文番号が変更されています。
現在の相続税法施行規則12条の3は、配偶者居住権の評価に使用する「配偶者の平均余命」を定める規定です。
現在、終身定期金の評価に使用する「定期金給付契約の目的とされた者に係る平均余命」を定めているのは、相続税法施行規則12条の6です。
したがって、本件判決における当時の「相規12条の3」と、現行の「相規12条の3」を同じ内容の規定と考えないよう注意が必要です。
現在の実務で終身定期金の平均余命について参照するのは、相続税法施行規則12条の6です。
2.8%は通常の意味での「予定利率」ではない
本件で特に重要なのが、2.8%という利率です。
本件のwidow’s benefitsは米国法令に基づく受給権であって、生命保険契約や個人年金契約のような契約がありません。
そのため、相続税法24条1項3号ハの「当該契約に係る予定利率」も存在しません。
前審の令和5年12月1日裁決は、相続税法24条5項によって同条1項3号ハを準用する場合には、「予定利率」に代わる合理的な利率を用いることができると判断しました。
そして、本件受給権は米国遺族年金を受給する権利であることから、その現在価値を計算するための合理的な利率として、米国遺族年金に関する運用利回り等を考慮するのが適切であるとしました。
令和元年の米国社会保障年金信託基金の実効金利は2.8%であり、老齢遺族保険(OASI)に係る信託基金の利率も同率でした。
そこで、2.8%を本件受給権の現在価値を計算するための合理的な利率として使用することが認められました。
東京地裁令和8年2月25日判決も、この評価方法を相当としています。
したがって、「外国の遺族年金なら、その国の年金基金の利率を使用すればよい」という一般的なルールがあるわけではありません。
各国の年金制度の内容に応じ、「予定利率」に代わるどの利率を用いることが合理的であるかを個別に検討する必要があります。
相続税基本通達24-4との関係
相続税基本通達24-4は、定期金に関する権利について、解約返戻金や一時金の金額が存在しない場合の評価方法を明らかにしています。
解約返戻金も一時金もない場合には、相続税法24条1項各号のハに掲げる金額によって評価することになります。
同通達の注書きにより、この取扱いは終身定期金である同項3号についても同様です。
「令和8年版 相続税法基本通達逐条解説」532~534頁(相基通24-4関係)は、この評価構造を解説するとともに、相続税法24条5項の考え方が示された事例として、本件184号判決の前審である令和5年12月1日裁決を紹介しています。
複利年金現価率は8.618
本件では、余命年数10年、利率2.8%を前提として、複利年金現価率は8.618とされました。
複利年金現価率とは、将来にわたって受け取る年金を、一定の利率を用いて相続開始時点の現在価値に換算するための係数です。
財務省『平成22年度 税制改正の解説』426~428頁では、それまでの定期金受給権の評価について、昭和25年当時の金利水準や平均寿命を基礎とした固定的な倍率では実際の現在価値との乖離が大きくなっていたことなどから、余命年数や予定利率を反映する現在の評価方法に改められた経緯が説明されています。
本件では、
13,272米国ドル×8.618=114,378米国ドル
として、米国ドル建ての本件受給権の価額が計算されています。
邦貨換算にはTTBを使用する
外貨建て財産を相続税評価する場合には、原則として、納税義務者の取引金融機関が公表する課税時期の最終の対顧客直物電信買相場(TTB)又はこれに準ずる相場によって邦貨換算します(評基通4-3)。
課税時期に為替相場がない場合には、課税時期前の相場のうち課税時期に最も近い日の相場を使用します。
本件の相続開始日は令和元年6月8日でしたが、同日は土曜日でした。
そのため、相続開始日前で最も近い令和元年6月7日の、本件原告の取引金融機関が公表する米国ドルのTTBである107.52円が使用されました。
その結果、
114,378米国ドル×107.52円=12,297,922円
とされ、本件受給権の相続税評価額は12,297,922円とされました。
実際に約1,230万円を受け取ったわけではない
本件妻が、被相続人の死亡時に約1,230万円を一括して受け取ったわけではありません。
妻が取得したのは、将来にわたってwidow’s benefitsを受け取ることのできる権利です。
その将来の年金受給権について、余命年数と利率を用いて相続開始時点の現在価値に換算した結果が12,297,922円ということです。
実際に受け取る米国遺族年金に所得税はかかるのか
相続税が課税される「遺族年金受給権」と、その受給権に基づいて実際に受け取る「年金」の所得税上の取扱いは別の問題です。
所得税法9条1項3号ロは、一定の遺族年金を非課税所得としています。
所得税基本通達9-2では、非課税となる年金として、死亡した者の勤務に基づき、その使用者であった者から遺族に支給される年金や、死亡した者がその勤務に直接関連して加入した社会保険、共済、退職年金制度等に基づき遺族に支給される年金で、死亡した者が生存中に受給したならば所得税法35条3項の公的年金等となるものなどを掲げています。
「令和8年版所得税基本通達逐条解説」60頁(所基通9-2関係)では、死亡した者の勤務に基づいて遺族に支給される恩給や年金は生活保障的な性格を有することから非課税所得とされており、所基通9-2は、この非課税となる年金に該当するものを例示したものと説明されています。
したがって、外国の遺族年金だから当然に所得税非課税になるわけではありません。
死亡した者の勤務との関連、外国の社会保険制度等の内容、死亡した者自身が受給していた場合に所得税法35条3項の公的年金等に該当するかなどを確認して、所得税法9条1項3号ロ及び所得税基本通達9-2の適用を判断する必要があります。
なお、東京地裁令和8年2月25日判決で直接争われたのは相続税です。
実務上は海外勤務歴のある被相続人に注意
外国の遺族年金受給権は、預貯金や不動産のように相続財産一覧に現れにくいため、相続税申告で見落としやすい財産です。
特に、被相続人に海外勤務歴があり、外国の社会保障制度や公的年金制度から老齢年金等を受給していた場合には、死亡後に配偶者等が取得する遺族年金受給権の有無まで確認する必要があります。
外国遺族年金を確認した場合には、少なくとも次の事項を確認する必要があります。
- 遺族年金の根拠となる外国法令
- 被相続人の死亡によって遺族が直接取得する権利か
- 契約に基づくものか、法令等に基づくものか
- 有期、無期、終身のいずれの定期金に該当するか
- 解約返戻金があるか
- 定期金に代えて一時金を受け取ることができるか
- 1年当たりの給付額
- 余命年数
- 「予定利率」に代わる合理的な利率
- 外貨建ての場合の邦貨換算レート
- 実際に受け取る年金の所得税上の取扱い
今回の東京地裁判決だけを根拠として、すべての外国遺族年金を同じ方法で課税・評価することは適切ではありません。
各国の制度内容と日本の相続税法上の規定を個別に照合することが重要です。
まとめ
東京地裁令和8年2月25日判決は、米国Social Securityのwidow’s benefitsについて、外国法令に基づき被相続人の死亡によって妻が直接取得した受給権であっても、相続税法3条1項6号の「契約に基づかない定期金に関する権利」に該当し、みなし相続財産として相続税の対象になると判断しました。
その前審である令和5年12月1日裁決は、さらに、契約に基づかない定期金について相続税法24条5項を準用する場合には、契約上の給付額や予定利率が存在しないため、それらに代わる合理的な金額・利率を用いることを相続税法は予定しているとの考え方を示しました。
この裁決は、「令和8年版 相続税法基本通達逐条解説」534頁(相基通24-4関係)でも「相続税法第24条第5項の考え方が示された事例」として紹介されています。
本件では、1年当たりの給付額13,272米国ドル、余命年数10年、米国社会保障年金信託基金の実効金利2.8%を用いて計算し、本件受給権の相続税評価額は12,297,922円とされました。
もっとも、この東京地裁判決は2026年8月30日現在、控訴されています。
また、外国の遺族年金制度は国ごとに異なるため、「外国遺族年金ならすべて相続税が課税される」「米国で使用された2.8%を他国にも使用する」といった一律の処理はできません。
海外勤務歴や外国年金の受給歴がある方の相続では、死亡後に遺族が取得する外国年金受給権まで確認することが重要です。
主な根拠資料
- 相続税法3条1項6号、24条1項3号、24条5項
- 相続税法施行令5条の8
- 相続税法施行規則12条の6
- 相続税基本通達3-29、3-46、24-4
- 財産評価基本通達4-3、200-3
- 所得税法9条1項3号ロ、35条3項
- 所得税基本通達9-2
- 財務省「平成22年度 税制改正の解説」426~428頁
- 「令和8年版所得税基本通達逐条解説」60頁(所基通9-2関係)
- 「令和8年版 相続税法基本通達逐条解説」88~89頁(相基通3-29関係)、108~112頁(相基通3-46関係)、532~534頁(相基通24-4関係)
- 令和5年12月1日裁決(東裁(諸)令5第45号)
- 東京地裁令和8年2月25日判決(令和6年(行ウ)184号)
- 東京地裁令和8年2月25日判決(令和6年(行ウ)465号)
- 令和6年5月22日裁決(名裁(諸)令5-28)
- 令和6年2月15日裁決(大裁(諸)令5-29)
- 京都地裁令和8年5月25日判決(令和6年(行ウ)17号)
受給権の評価額の算出方法
米国の遺族年金を受給する権利が相続税の課税財産となる場合、受給権の評価額をどのように算出するのかという疑問をもたれる方もいるでしょう。
このことについては、東京地裁令和8年2月25日判決(令和6年(行ウ)184号)では以下のように算出しているので、本件と同様に、受給者の死亡まで給付が継続し、一時金選択権や解約返戻金がない国外遺族年金については、本判決の評価方法が参考になると思います。
ただし、実際の評価に当たっては、各国の年金法令及び受給権の内容を確認し、相続税法24条のどの区分に該当するかを個別に判断する必要があります。
| 順号 | 区分 | 金額等 | 単位 |
|---|---|---|---|
| 1 | 給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額 | 13,272 | ドル |
| 2 | 余命年数 | 10 | 年 |
| 3 | 予定利率 | 2.8 | % |
| 4 | 複利年金現価率 | 8.618 | |
| 5 | 米国ドル建てによる本件受給権の価額(順号1×順号4) | 114,378 | ドル |
| 6 | 邦貨換算レート | 107.52 | 円 |
| 7 | 邦貨換算後の本件受給権の価額(順号5×順号6) | 12,297,922 | 円 |
順号1 給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額
米国では、社会保障給付による購買力がインフレによって損なわれないよう、支給される社会保障給付額について、毎年、生活費調整(Cost-of-Living Adjustment)が行われています。
生活費調整により将来の給付額が増加する可能性はあるものの、権利取得時には将来の増額幅は判明しておらず、給付額が減少することもないことから、本件においては、取得時に判明していた月額1,106米国ドルを年換算した1万3,272米国ドルを用いることは、評価上の安全性にも配慮した合理的な方法であるとされました。
順号2 余命年数
本件被相続人である夫が亡くなった日(令和元年6月8日)において本件妻は81歳でした。厚生労働省が作成した平成27年の第22回完全生命表(平成29年3月公表)(女)(本件相続開始日において公表されていた最新のもの)における81歳女性の平均余命年数は、10.99年であり、1年未満の端数を切り捨てた10年が「順号2 余命年数」となります。
つまり、本件妻が実際に10年間受給することを認定したものではなく、相続税法上の評価に当たり、81歳女性の平均余命10.99年の1年未満を切り捨て、余命年数を10年として計算したものです。
なお、生命表(完全生命表)は5年ごとに作成、公表されており、現時点(2026年8月)の最新版は第23回完全生命表ですが、下記の厚生労働省HP「第23回生命表(完全生命表)の概況」で公表されています。
〇平成29年(2017年)第22回生命表(完全生命表)の概況(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/22th/dl/22th_11.pdf
〇令和4年(2022年)第23回生命表(完全生命表)の概況(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/23th/dl/23th-11.pdf
なお、下記の「順号4 複利年金現価率」における国税庁HPにおいて情報を入力すれば、10年とわかりますので、国税庁HPを利用するのであれば余命年数をわざわざ調べる必要はありません。
順号3 予定利率
本件受給権は契約に基づかないため、「当該契約に係る予定利率」は存在しません。そこで、本件では、これに代わる合理的な利率として、本件相続開始年における米国社会保障年金信託基金の実効金利(下記の米国社会保障庁HP「Effective Interest Rates」)を用いることとされました。
具体的には下記米国社会保障庁HPの実効金利率(Effective Interest Rates)ですが、表の「OASI」「DI」「OASDI」と書かれた列の数値(%)の用語の意味と見方は以下の通りです。
OASI:老齢・遺族年金(Old-Age and Survivors Insurance)信託基金の実効金利
DI:障害年金(Disability Insurance)信託基金の実効金利
OASDI:上記2つの基金を合算した実効金利
本件においては、相続日(令和元年6月8日)は令和元年(2019年)であったため、「順号3 予定利率」は2.8%となります。
〇年金の実効金利率(米国社会保障庁HP)
https://www.ssa.gov/oact/progdata/effectiveRates.html
順号4 複利年金現価率
複利年金現価率とは、将来定期的に受け取る一定額の合計を、「いま一括で受け取るとしたら、いくらの価値になるか」を計算するために使う係数のことです。
下記国税庁HPのリンク先の「3 終身定期金」で複利年金現価率を算出することができます。
「3 終身定期金」をクリックし、「相続税法24条1項3号ハの金額(複利年金現価)を計算します。」に情報を入力します(米国遺族年金の場合、解約返戻金や一時金の給付はないため、(1)と(2)は無視します)。
「① 1年当たりの平均額を入力してください。」は「順号1 給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額」である13,272を入力してください。なお、国税庁HPではドルではなく円となっていますが、無視してドルの金額を入力してください。
「② 予定利率を入力してください。」には、「順号3 予定利率」の2.8%を入力します。
「③ 権利の取得年月日を入力してください。」には、相続日の令和元(1)年6月8日を入力します。
「④ 定期金給付契約の目的とされた者の生年月日及び性別を入力してください。」には、相続開始日(令和元年6月8日)に81歳であったため、仮に、昭和13年1月1日と入力します。また、女性であっため、女性にチェックします。
そこまで入力したうえで「計算」をクリックすると、複利年金現価率は、8.618とでます(余命年数10年であることもわかります)。なお、入力を間違えた場合は「入力内容を訂正」をクリックして正しく入力してください。
なお、複利年金現価率8.618とは、年利2.8%を前提として、今後10年間に毎年受け取る年金の現在価値が、年額の8.618倍に相当することを示す係数であることをいっています。
〇定期金給付事由が発生しているもの(国税庁HP)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/nofu-shomei/teikikin/teikikin_menu.html
順号5 米国ドル建てによる本件受給権の価額
「順号5 米国ドル建てによる本件受給権の価額」=「順号1 給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額」×「順号4 複利年金現価率」
=13,272ドル×8.618=114,378.096ドル
本件では、端数処理され114,378ドルとされています。
なお、上記「順号4 複利年金現価率」において国税庁HPで複利年金現価率を算出した際に「⑦ ①×⑥の金額は、」でも114,378と算出されていると思います。
なお、国税庁HPで算出した金額はドルではなく円となっていますが無視してください。
順号6 邦貨換算レート
取引金融機関の米国ドルの対顧客直物電信買相場(TTB)を採用します。
なお、本件では、相続開始日(令和元年6月8日)は土曜日であったため、同日の為替相場はありませんでした。そのため、相続開始日の前日である令和元年6月7日におけるレート107.52円が採用されました。
順号7 邦貨換算後の本件受給権の価額
「順号7 邦貨換算後の本件受給権の価額」=「順号5 米国ドル建てによる本件受給権の価額」×「順号6 邦貨換算レート」
=114,378ドル×107.52=12,297,922.56円
本件では、端数処理され12,297,922円とされて、結果、この12,297,922円が米国の遺族年金を受給する権利の評価額とされました。
「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相法3①六)
「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相法3①六)とは、相続の効果として被相続人から承継するものではなく、法律の規定その他契約以外の事由によって相続人等が取得するもので、これには、次の2つのような場合が含まれていると解されています。
(1)退職年金を受けている者の死亡により、その相続人等が当該年金を継続して受けることとなった場合における当該年金の受給に関する権利(相基通3-29)
(2)船員保険法の規定による遺族年金、厚生年金保険法の規定による遺族年金等(相基通3-46)
相続税法基本通達3-29(退職年金の継続受取人が取得する権利)
退職年金を受けている者の死亡により、その相続人その他の者が当該年金を継続して受けることとなった場合(これに係る一時金を受けることとなった場合を含む。)においては、当該年金の受給に関する権利は、その継続受取人となった者が法第3条第1項第6号の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされるのであるから留意する。
相続税法基本通達3-46(契約に基づかない定期金に関する権利)
法第3条第1項第6号に規定する「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」には、3―29の定めに該当する退職年金の継続受取人が取得する当該年金の受給に関する権利のほか、船員保険法の規定による遺族年金、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)の規定による遺族年金等があるのであるが、これらの法律による遺族年金等については、それぞれそれらの法律に非課税規定が設けられているので、相続税は課税されないことに留意する。
(注)1~3 略
米国の遺族年金を受給する権利は、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)に該当して相続税の課税財産となるとされた事例-東京地裁令和8年2月25日判決(令和6年(行ウ)184号)(棄却)(控訴)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xの父(以下「本件被相続人」という。)は、令和元年6月8日に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続に係る法定相続人は、本件被相続人の妻(以下「本件妻」という。)及び子であるXの2人である。
② 本件被相続人は、本件相続の開始日の属する令和元年当時、米国の年金制度が規定されている連邦規則集に基づき、老齢給付金として月額1,106米国ドルを受給していた。本件妻は、本件被相続人の死亡により、連邦規則集の規定に基づき、米国の遺族年金である「widow’s benefits」を受給する権利(以下「本件受給権」という。)を取得した。
本件受給権に係る令和元年中の受給額は、本件被相続人の老齢給付金と同額の月額1,106米国ドルであり、年換算すると13,272米国ドル(以下「本件受給額」という。)であった。
③ Xは、課税庁Yに対し、本件妻が取得した本件受給権を本件相続に係る相続税の課税財産に含めず、相続税の申告書を提出した。納付税額は2,426万円余であった。
④ Yは、Xに対し、本件受給権はみなし相続財産である「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に当たるとして、その価額を相続税法24条5項により準用される同条1項3号ハに基づき評価し、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、併せて「本件更正処分等」という。)をした。
⑤ Xは、本件受給権が相続税法3条1項6号に該当しないこと、その評価が違法であること及び同号の適用が平等原則に違反することなどを主張し、更正処分のうち納付すべき税額2,426万円余を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求めた。
(2)本件の主な争点
(争点1)共同相続人である本件妻が取得した本件受給権が「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)に該当して相続税の課税財産となるか否かである。
(争点2)本件更正処分等における本件受給権の評価額が正当であるか否かである。
(争点3)本件受給権に相続税法3条1項6号を適用することが平等原則に違反するか否かである。
(3)判示要旨(棄却)(控訴)
(争点1)
① 「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相続税法3条1項6号)とは、法令等(外国の法令を含む。)の規定によって相続人等が直接に取得する定期金に関する権利をいうと解するのが相当であるところ、本件受給権は、連邦規則集の規定に基づき、本件被相続人の遺族である本件妻が直接取得した米国遺族年金を受給する権利であるから、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に当たり、相続税の課税財産となる。
(争点2)
② 本件受給権の価額は、相続税法24条5項により準用される同条1項3号ハの規定に基づき、「余命年数」は10年(本件相続開始日における本件妻の年齢に係る平均余命年数)を、「給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」は本件受給額を、「当該契約に係る予定利率」に代わる合理的な利率として米国社会保障年金信託基金の実効金利をそれぞれ用いて評価するのが相当であるところ、本件更正処分等における本件受給権の評価額は、これら各数値を用いて算出される金額と同額であるから、正当である。
(争点3)
③ 厚生年金保険法による遺族年金等については相続税の課税対象とならない一方、本件受給権については相続税の課税対象となるところ、このような取扱いの相違は、厚生年金保険法41条2項等の個別法における規定の有無によるものである。そして、本件受給権を含む国外公的年金受給権について、個別法に規定を設けてこれを課税対象としないものとするか否かについては、立法府の総合的な政策判断等に基づく裁量の範囲に属する事柄であるというべきである。
様々な性格を有する国外の遺族年金受給権を、国内の遺族年金受給権と同様に、一律に相続税の課税財産としないとすることは必ずしも適当ではないというべきであり、米国遺族年金の受給権である本件受給権について、相続税の課税対象としない旨の規定を設けなかったとしても、そのことから直ちに立法府の裁量の範囲を逸脱し、これを濫用したこととなるものではない。
そして、本件受給権について相続税の課税対象としない旨の個別の規定が設けられていないことを前提に、本件受給権が課税財産に当たるものとして行われた本件更正処分等についても、合理性を欠くということはできない。したがって、本件受給権に相続税法3条1項6号を適用することは平等原則に違反するとはいえない。
関連する判決・裁決
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