概要
会社設立を司法書士に依頼したときは、登記費用の支払だけでなく、報酬に対する源泉徴収にも注意が必要です。会社が個人の司法書士に報酬を支払う場合、原則として、所得税等を差し引いて支払い、その税額を国に納めます。
一方、司法書士法人への報酬や、行政書士に依頼した電子定款の作成報酬は、取扱いが異なります。請求書の総額だけで判断せず、支払先、業務内容、報酬と実費の内訳を確認しましょう。
以下は、国内の会社が、日本の居住者である個人又は内国法人に支払う場合の説明です。
司法書士・司法書士法人・行政書士で取扱いが異なる
| 支払先・依頼内容 | 会社が支払う場合の源泉徴収 |
|---|---|
| 個人の司法書士への設立登記等の報酬 | 原則として必要 |
| 司法書士法人への設立登記等の報酬 | 不要 |
| 行政書士への電子定款の作成等の報酬 | その業務の報酬については不要 |
個人の司法書士の業務に関する報酬は、源泉徴収の対象です。会社が支払者である場合、従業員を雇っていないことや、まだ役員報酬を支払っていないことだけで源泉徴収が不要になるわけではありません(所法204①二・②二)。
これに対し、司法書士法人に支払う通常の業務報酬は、源泉徴収の対象となりません。ただし、後述する支払調書の提出は別に判定します。
行政書士に依頼する電子定款の作成等の通常の行政書士業務の報酬は、所法204①二・所令320②に掲げられた報酬に該当しないため、源泉徴収の対象となりません。
ただし、行政書士への支払であっても、講演料・原稿料や、建築に関する申請・届出書類の作成など建築代理士の業務に該当する報酬は、別に判断する必要があります。資格名だけで一律に判断せず、実際に依頼した業務を確認してください(所法204①一・二、所令320②)。
司法書士報酬の源泉徴収税額の計算方法
個人の司法書士への報酬については、次の算式で源泉徴収税額を計算します。
源泉徴収税額=(源泉徴収の対象となる報酬額-1万円)×10.21%
1円未満の端数は切り捨てます。対象となる報酬額が1万円以下であれば、徴収する税額はありません(所法205二、所令322、国税庁タックスアンサーNo.2801)。
この1万円の控除は、司法書士、土地家屋調査士、海事代理士の業務報酬に関する取扱いです。税理士や弁護士などの通常の業務報酬に、そのまま適用することはできません。
1万円を差し引く単位は、原則として委託契約ごと
「同一人に対し1回に支払われる金額」は、原則として、一つの委託契約ごとに支払われる金額をいいます。
一定期間の委託契約に基づく報酬をまとめて支払う契約であれば、そのまとめて支払う金額が単位となります。一つの契約の報酬を分割して振り込む場合に、振込の都度1万円を差し引くという取扱いではありません(所基通205-1・205-2)。
登録免許税などは報酬と分ける
司法書士への支払には、報酬のほか、会社が本来国等に納める登録免許税や申請手数料などが含まれることがあります。
そのような税金・手数料に充てるために支払われたことが明らかな金額は、源泉徴収の対象に含めません。請求書の内訳や領収書等で、報酬と区分できるようにしておきましょう(所基通204-11)。
一方、司法書士に支払う日当や旅費等は、原則として源泉徴収の対象となる報酬に含まれます。会社が交通機関やホテル等へ直接支払い、通常必要な範囲内である交通費・宿泊費等については、対象に含めなくてもよいとされています(国税庁タックスアンサーNo.2801)。
消費税額が明確に区分されていれば、税抜報酬で計算できる
消費税・地方消費税を含めて報酬を支払う場合、原則として、税込金額が源泉徴収の対象となります。
ただし、請求書等で報酬額と消費税・地方消費税の額が明確に区分されている場合は、報酬額だけを対象として計算して差し支えありません。
この取扱いは、インボイス制度の開始後も変わっていません。源泉徴収の計算と、消費税の仕入税額控除の要件は、それぞれ確認する必要があります(国税庁タックスアンサーNo.2801)。
令和9年1月以後も、合計税率は10.21%
令和9年1月1日以後に生ずる所得については、防衛特別所得税が加わります。同時に復興特別所得税の税率が引き下げられるため、所得税率10%の場合の合計源泉徴収率は、改正前後とも10.21%です(国税庁「源泉所得税の改正のあらまし」令和8年4月、8頁)。
計算例:報酬10万円、消費税1万円、登録免許税15万円の場合
会社成立後に、会社が個人の司法書士に一つの委託契約の報酬を一括して支払うものとします。請求書で、次の金額が明確に区分されている場合の例です。登録免許税15万円は、実際に会社が負担する税額であることが確認できているものとします。
| 内訳 | 金額 | 今回の源泉徴収計算 |
|---|---|---|
| 司法書士報酬 | 100,000円 | 対象に含める |
| 消費税・地方消費税 | 10,000円 | 明確に区分されているため除外する |
| 登録免許税 | 150,000円 | 除外する |
| 源泉徴収前の合計額 | 260,000円 | 請求総額の全額を計算対象としない |
源泉徴収税額は、次のとおりです。
(100,000円-10,000円)×10.21%=9,189円
したがって、司法書士への振込額は250,811円、会社が国に納める源泉徴収税額は9,189円となります。
260,000円-9,189円=250,811円
請求書に源泉徴収税額が記載されていなくても、それだけで源泉徴収が不要になるわけではありません。源泉徴収義務を負う会社側で、税額と差引支払額を確認してください(所法204①)。
納付期限は原則として支払った月の翌月10日
司法書士報酬から差し引いた源泉徴収税額は、原則として、実際に報酬を支払った月の翌月10日までに納付します。請求書を受け取った日や、決算で費用計上した日を基準にするものではありません(所法204①)。
納付には「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」を使用し、司法書士報酬は「税理士等の報酬」欄で処理します。e-Taxによる手続も利用できます。
納期の特例が適用される場合
給与の支給人員が常時10人未満などの要件を満たし、納期の特例の承認を受けている場合、司法書士報酬の源泉徴収税額も、次の期限までにまとめて納付できます(所法216)。
| 特例の適用対象となる支払の期間 | 納付期限 |
|---|---|
| 1月から6月まで | その年の7月10日 |
| 7月から12月まで | 翌年1月20日 |
新設会社であることや、従業員が少ないことだけで自動的に適用される制度ではありません。通常、申請書を提出した月の翌月に源泉徴収する分から適用対象となるため、設立時の報酬については、申請時期と適用開始月を確認してください。
なお、納付期限が土曜日・日曜日・祝日等に当たる場合は、原則としてその翌開庁日が期限となります(国税庁タックスアンサーNo.2505)。
会社設立前に発起人が支払った場合は、支払者の確認が必要
設立登記前の支払では、発起人個人の支払なのか、設立中の会社・団体としての支払なのかを確認する必要があります。
給与等について源泉徴収義務を有しない個人が支払者である場合、その個人が支払う司法書士報酬は、源泉徴収の対象から除かれます。一方、法人や人格のない社団等が支払者である場合には、この個人についての適用除外を使うことはできません(所法204②二、国税庁タックスアンサーNo.2502・No.2793)。
設立日前であることや、個人口座から振り込んだことだけで、源泉徴収の要否を決めることはできません。契約の当事者、支払時点の設立手続の状況、請求書の宛名、費用負担などの実態を確認してください。
また、設立前の費用を会社の第1期の所得計算に含める取扱いと、源泉徴収の要否・納付期限は別の問題です。源泉徴収義務がある支払について、会社成立後の精算日まで納付期限を繰り延べてよいと判断しないようにしましょう。
設立費用の経理と源泉徴収は分けて考える
設立登記や定款作成のための専門家報酬など、会社の設立のために支出する費用で、その会社の負担に帰すべきものは、法人税法上の創立費に該当します(法令14①一)。
会計上、中小会計指針では、創立費は原則として費用処理し、繰延資産として資産計上することも認められています。中小会計要領でも、費用処理する方法又は繰延資産として資産計上する方法が示されています。採用する会計ルール・会計方針に従って処理してください(中小会計指針40~42項、中小会計要領・各論9)。
例えば、上記の260,000円について、設立費用を当期の費用として処理する税込経理の場合、次のような仕訳が考えられます。勘定科目は一例です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 支払報酬料 | 110,000円 | 普通預金 | 250,811円 |
| 租税公課 | 150,000円 | 預り金(源泉所得税等) | 9,189円 |
源泉徴収税額を納付したときは、次のように預り金を取り崩します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 預り金(源泉所得税等) | 9,189円 | 普通預金 | 9,189円 |
会社が預かった源泉徴収税額を納付しても、会社の追加の費用にはなりません。また、差引振込額だけを報酬・費用として計上しないように注意してください。
法人税上、創立費の償却は、損金経理した償却額について、原則として未償却残高を限度に損金算入できる取扱いです。会計上の処理と税務上の損金算入を区別して確認します(法法32①、法令64①一)。
消費税については、国内の司法書士業務の報酬は原則として課税仕入れに該当し、登録免許税そのものは課税仕入れに該当しません。一般課税で仕入税額控除を受ける場合は、自社の課税関係やインボイス等の保存要件を別に確認します。
創立費を繰延資産として計上した場合でも、仕入税額控除の時期は、原則として課税仕入れを行った日の属する課税期間です。創立費を償却する年度に合わせて控除するものではありません(消法30、消基通11-3-4)。
創立費・開業費や設立前の費用の帰属については、関連記事「会社設立前の経費はどこまで会社の経費になる?創立費・開業費と法人成りの損益の帰属」もご参照ください。
司法書士法人への支払でも、支払調書を確認する
司法書士報酬については、同一人に対するその年中の支払金額の合計が5万円を超える場合、原則として「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出が必要です。未払分を含め、支払の確定した年で判定します(所法225①三、国税庁タックスアンサーNo.7431)。
司法書士法人に支払う場合も、提出範囲に該当すれば支払調書が必要です。源泉徴収をしていないことと、支払調書を提出しなくてよいことは、同じではありません。
提出範囲の金額は原則として税込金額で判定しますが、消費税・地方消費税の額が明確に区分されていれば、税抜金額で判定しても差し支えありません。また、会社が本来負担する登録免許税等を司法書士が立て替えて納付したことが明らかな金額は、支払調書の支払金額に含める必要はありません。
提出期限は、原則として支払の確定した年の翌年1月31日です。納付手続と併せて、年末の法定調書の作成に必要な資料も保存しておきましょう。
主な根拠資料
- 国税庁「No.2801 司法書士等に支払う報酬・料金」
- 国税庁「No.2793 報酬・料金等の源泉徴収義務者」
- 国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」
- 国税庁「No.7431 『報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書』の提出範囲と提出枚数等」
- 国税庁質疑応答事例「行政書士に報酬を支払った場合」「司法書士に支払った登録免許税等」「法人に対して支払った報酬等」
- 国税庁「所得税基本通達・法第205条関係」
- 国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)」8頁
- 日本税理士会連合会「中小会計指針・中小会計要領」(中小会計指針は令和7年9月19日修正版)
- 国税庁「消費税法基本通達・第11章第3節」
2026年10月16日現在の法令・公表資料に基づいています。
