個人事業主が法人成り(会社設立)の際に、個人事業の時に使用していた事業用資産を設立予定の会社でも利用するために移転しようとする場合があるでしょう。この場合、よく利用されるのが、現物出資の方法と、設立後に有償で移転する方法があります。

 なお、どちらの方法であっても、また、設立する会社が株式会社、合同会社のどちらであっても、その目的となる財産は、お金以外の財産であれば、基本的にその種類のいかんは問われません。

 不動産(建物、土地)、自動車、パソコン、債権、有価証券(国債・社債・株式等)、特許権などの知的財産権などです。しかし、一般的には、労務・信用は、現物出資の目的として認められないという取り扱いがされています。つまり、貸借対照表に資産計上ができ、移転可能なお金以外の財産ということになります。

現物出資

 株主、社員の出資は金銭等に限るとされています。金銭等による出資とは、お金での出資はもちろん、価額(モノの値段に相当する金額)の評価が可能なモノでの出資でも可能だということです。例えば、パソコンや車での出資が可能ということになります。

 また、定款における現物出資の記載方法があいまいなまま登記申請をした場合、登記所においてNGが出ます。そのため、現物出資をして会社を設立する場合は、登記申請前に必ず、登記所の窓口で事前相談をされるのがよいでしょう。

株式会社設立における現物出資

 会社設立に際しての現物出資は、発起人に限って認められます(会34①)。なお、現物出資する場合は、原則として、裁判所が選任した検査役の調査が必要であり、非常に手間がかかります。

 ただし、以下の3つの場合のどれかに当てはまる場合には、検査役の調査が不要となります。そのため、実質、検査役の調査不要で現物出資ができるケースがほとんどです(会33⑩)。

(1)現物出資財産の総額が500万円以下の場合
(2)現物出資財産が、市場価格のある有価証券であり、定款に記載された価額(定款の認証の日における最終市場価格、会規6)がその相場を超えない場合
(3)現物出資財産について定款に記載された価額が相当であることについて弁護士、税理士等の証明(現物出資財産が不動産である場合にあっては、これらの者の証明及び不動産鑑定士の鑑定評価)を受けた場合

 現物出資の場合、現金と違い、モノで出資するため実際の価額がいくらであるかは第三者にはわからないことがあります。そのため、発起人が10万円しか価値がないものを100万円の価値があると言って、出資する可能性も否定できません。しかし、それでは弊害が生じます。

 このように、会社の成立の時における現物出資財産等の価額が、定款に記載された価額に著しく不足するときは、原則として、発起人及び設立時取締役は、会社に対し、連帯して、その不足額を支払う義務を負うことになります(会社法52)。

 上記の例でいえば、100万円と10万円の差額である不足額90万円を、発起人及び設立時取締役が、会社に対し、連帯して支払う義務を負うことになります。

合同会社設立における現物出資

 株式会社の場合、現物出資財産について検査役や設立時取締役等の調査 、税理士等の証明、不動産鑑定士の鑑定評価が必要とされていますが、合同会社では要求されていません。

 また、株式会社の場合、現物出資財産の価額が定款に記載された価額に著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して不足額を支払う義務を負うことになっています。

 一方、合同会社の場合、このような規定はありません。とはいえ、現物出資財産の「客観的な価格」を「定款に記載する価額」とするのが当然望ましい、といえます。中古パソコンや中古車を現物出資する場合は、中古価格を目安とするといいでしょう。

 なお、設立登記申請書には、上記の理由により調査書や証明書は必要ないですが、財産引継書を添付する必要はあります。

株式会社における財産引受

 発起人が株式会社設立前に、会社のために会社の設立を条件として資産を購入する契約を締結することを「財産引受」と言います。現物出資の抜け道として利用されないように、株式会社の場合、 現物出資同様に、検査役の調査等が必要になる場合があります。

株式会社における事後設立

 事後設立とは、設立後2年以内の株式会社が、設立前より存在する営業のために継続して使用する財産を譲り受ける契約を締結することです。前述した「財産引受」が会社成立「前」の契約に限定しているため、「事後設立」の規定は会社設立「後」の契約にも規制をかけるものとなっています。

 ただし、検査役の調査等は不要とされています。また、対価として交付する財産の帳簿価額の合計額が純資産額の20%以下の場合には株主総会の承認決議は不要とされています(会社法467①五ただし書)。なお、20 %超の場合は株主総会の特別決議による承認が必要となります。特別決議とは、原則として、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を必要とする決議のことです(会社法309②)。

 例えば、株式会社を設立して、その後、特別決議を経て賃貸用不動産(収益物件)を購入すれば会社法違反にはならないということになります。なお、事後設立を承認した株主総会議事録は作成し保存をしておきましょう。

設立後に有償で移転

 会社設立時に個人事業の時に使用していた事業用資産を有償で売却する方法です。現物出資と違って、手続きは簡単です。資本金額を大きくしたいという人でなければ、設立後に有償で移転する方法をお勧めします。

 なお、一般的に、会社の代表者から会社への有償譲渡となるので、単に領収書で済ますのでなく、譲渡契約書等は作成したほうが良いでしょう。また、そのモノの時価が分かる書類を添付しておくのが良いです。

時価による移転

  現物出資の方法と、設立後に有償で移転する方法のどちらであっても、その際の時価(客観的な価格)で移転する必要があります。

 中古パソコンや中古車を移転する場合は中古価格を目安とするといいですが、「客観的な価格」といいながらも実際判定が難しいモノもあるでしょう(中古車の場合は、日本自動車査定協会で数千円の費用を払えば査定してもらえます)。

 ただし、「客観的な価格」と「移転価格」が著しく違わない限り、そんなに気にする必要はないですが以下にポイントを書いときます。

客観的な価格

  時価(客観的な価格) といっても、実際いくらなのかわからないということで、個人事業主の時の、モノの帳簿価額(減価償却した後の未償却残高)で会社に渡す方法がとられることが多いです。

 ほとんどの場合、それで、税務上、問題になることはないのですが幾つか注意点はあると思われます。あくまでも、別の人格を有する個人と会社とが取引を行うには、第三者間で行われる取引と同様に時価によって行われる必要があると考えられるからです。

(1) 個人事業主の時は定額法で減価償却していた
  車両やPC等のは、その使用を開始して新品が中古品になった時点で急激に下落します。よって、定額法で減価償却していた場合、未償却残高では、一般に時価を超えると考えられています。そのため、定率法を適用していたと仮定した場合の未償却残高をもって算定されるべきと思われます。

(2)個人時代には事業で使用していなかったモノを会社に渡す
 中古資産を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却の方法として、耐用年数に1.5を乗じて計算した年数を採用する方法があります。例えば、本来の耐用年数が4年のモノであれば、耐用年数6年で未償却残高を計算するということになります。これも、新品が中古品になった時点で急激に下落するようなモノには適用すべきでないと思われます。 

税務上の注意点

(1)譲渡所得税がかかる場合がある
 現物出資であろうが、 設立後に有償で売却であろうが、建物、土地、車両及び備品等の固定資産を会社に渡した場合は、原則として譲渡所得税の課税の対象となります。取得価額より高い金額で会社に渡す場合は注意をしてください。

 現物出資した場合の譲渡収入金額は、出資したモノの時価ではなく、現物出資により取得した株式や出資持分の時価となります。ただし、その価額が出資したモノの時価の2分の1未満の場合は、出資したモノの時価が収入金額とみなされます。

 モノの売却先が会社であり、しかも売却価額が時価の2分の1を下回っている場合は、売ったモノの時価を収入金額として譲渡所得が計算されます。例えば、同族会社の代表者個人がその会社に時価1億円の土地を4,000万円で売った場合は、売った金額4,000万円ではなく1億円が譲渡所得の収入金額になります(所法59、所令169)。

 なお、少額減価償却資産の譲渡による所得は事業所得とされますが、少額減価償却資産であってもその業務の性質上基本的に重要なもの(少額重要資産)の譲渡による所得は譲渡所得とされます(所令81二、所基通33-1の2)。

(2)個人事業主の場合は消費税に注意する
  個人事業主が、建物や機械などを会社に渡した場合は、消費税の納税に注意をしてください。

(3)会社側の処理
 会社側は適正な時価でモノを受け入れるならば、基本的に、問題になることはありません。なお、時価より低い金額で受け入れた場合は、譲渡価額から時価までの部分は、その会社が贈与を受けたこと(受贈益)になり益金に算入されます。

 また、減価償却資産であれば、中古資産の耐用年数(見積もり)によって、会社では減価償却していくことができます。つまり、会社における償却限度額については、 会社は中古資産を取得することになるのですから、法定耐用年数ではなく、見積もり耐用年数によることになります。

 例えば、新車を購入した時の法定耐用年数は、普通自動車で6年、軽自動車で4年となっていますが、中古車の場合は見積もり耐用年数によることになり、最短期間は2年となっています。よって、現物出資したモノは早く経費化(減価償却費)できます。

その他