概要
会社を設立したときの仕訳は、資本金の額だけで決まるわけではありません。出資金を誰が保管しているか、設立費用を出資金から支払ったか、発起人が別のお金で立て替えたかによって、借方の科目や負債の有無が変わります。
資本金の計上と、出資金の移動・設立費用の精算を分けて考えると、仕訳を整理しやすくなります。
以下では、個人が出資する小規模な株式会社の発起設立を中心に、出資の履行が適法に完了し、出資額の全額を資本金とする例を説明します。仕訳例では、消費税の税抜経理による区分や報酬の源泉徴収などを省略しています。
1.金銭出資による資本金の仕訳
資本金は会社の設立時に計上する
株式会社は、本店所在地で設立の登記をすることによって成立します。設立前に発起人の口座へ払い込んだ金額は、会社の帳簿では設立時の出資として整理します(会社法34、49)。
出資を受けた金額は、売上や雑収入に計上するものではありません。法人税上も、資本金等の額を増加させる資本等取引は、通常の収益取引と区別されています(法法22②⑤)。
なお、株式会社では、払込み・給付額の2分の1を超えない額を資本準備金とすることもできます。以下の例は、そのような振分けをせず、全額を資本金とする場合です(会社法445①~③)。
出資金が発起人の個人口座にある場合
資本金100万円を払い込み、設立時点では、その全額を発起人の個人口座で会社のために一時保管しているとします。ここでは、会社の資金であることが分かるように「預け金」という科目を使います。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 預け金 | 1,000,000円 | 資本金 | 1,000,000円 |
預け金には、発起人の氏名や「設立時払込金」などの補助科目・摘要を付け、個人の資金と区別して残高を管理します。個人口座の預金残高全部を会社の資産にするわけではありません。
実際に会社の手元現金として受け入れた場合は、借方を「現金」とします。また、会計ソフトの初期設定では、個人口座で保管中の出資金を便宜上「現金」として登録する方法も案内されています。採用した科目と実際の保管状況が対応するように管理することが大切です。
法人口座に移したときの仕訳
法人口座を開設し、発起人が一時保管していた100万円を直接その口座へ送金した場合は、次のように処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,000,000円 | 預け金 | 1,000,000円 |
現金を経由していなければ、現金に振り替える仕訳を挟む必要はありません。初期設定で「現金」として登録している場合は、その現金から普通預金への振替として処理します。
設立時に資本金を計上しているため、法人口座への送金時に資本金をもう一度計上しないようにします。
2.創立費20万円がある場合の仕訳
まず、会社が負担すべき設立費用かを確認する
法人税上の創立費は、設立登記の登録免許税や、その他の法人設立のための費用で、その法人が負担すべきものをいいます。定款の作成・認証や設立手続のための専門家報酬などが代表例です(法令14①一)。
設立前に支払ったものを、すべて創立費にまとめるわけではありません。会社が取得する備品、返還される敷金、前払費用などは、その内容に応じて別の資産として処理します。また、法人税上の開業費は、法人設立後、事業開始までに開業準備のため特別に支出する費用です(法令14①二)。
以下の例では、20万円の全額が会社の創立費に該当し、いったん繰延資産として計上するものとします。
出資金から創立費を支払った場合
前記の預け金100万円のうち20万円を、会社が負担する創立費の支払いに充てた場合は、次の仕訳になります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 創立費 | 200,000円 | 預け金 | 200,000円 |
その後、残った80万円を法人口座に送金した場合の仕訳は、次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 800,000円 | 預け金 | 800,000円 |
この場合、法人口座に入金するのは残額の80万円で構いません。資本金100万円の全額を改めて入金する必要はありませんが、20万円の支出内容を領収書や精算書で説明できるようにします。
設立後に会社の事業資金を使っても、登記した資本金がその支出によって自動的に減るわけではありません。この例でも資本金は100万円です。
発起人が出資金とは別のお金で立て替えた場合
次は、前の例とは別のケースです。出資金100万円はそのまま残っており、設立後に役員となる発起人が、自己の別のお金から創立費20万円を支払ったとします。会社がその立替額を返す場合は、未精算額を負債として計上します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 創立費 | 200,000円 | 役員借入金 | 200,000円 |
この例では、出資金100万円は減っておらず、預け金100万円と創立費20万円に対し、資本金100万円と役員借入金20万円が対応します。未精算額の管理に未払金などの科目を使う場合もあります。
出資金100万円を法人口座に送金した後、その口座から立替額20万円を返済した場合は、次のように処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員借入金 | 200,000円 | 普通預金 | 200,000円 |
出資金から支払った費用と、発起人が別途立て替えた費用を区別し、会社に残るお金と未精算の負債を正しく把握します。
「現金80万円・創立費20万円/資本金100万円」とまとめられる場合
会社の現金として出資金100万円を受け入れ、そのうち20万円を創立費として支払った取引をまとめると、次の仕訳になります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 800,000円 | 資本金 | 1,000,000円 |
| 創立費 | 200,000円 |
この仕訳は、会社に残る現金が80万円で、発起人への未精算額がなく、創立費20万円を繰延資産として計上するという前提の例です。資金を個人口座で一時保管している場合は、管理方法に応じて「現金」を「預け金」に置き換えます。
3.創立費の会計処理と法人税上の償却
企業会計基準委員会の実務対応報告第19号では、創立費は原則として支出時に費用処理し、繰延資産に計上することも認めています。繰延資産に計上する場合は、会社成立時から5年以内の効果の及ぶ期間にわたり定額法で償却します。
一方、法人税上は、創立費の未償却残額を限度とする任意償却が認められます。損金算入には損金経理が必要です。支出額を償却費以外の費用科目で損金経理した場合も、この損金経理額に含まれます(法法32①、法令64①一、法基通8-3-2)。
例えば、繰延資産に計上した創立費20万円を初年度に全額償却する場合の仕訳は、次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 創立費償却 | 200,000円 | 創立費 | 200,000円 |
税務上の任意償却と、採用する会計基準に基づく費用処理・償却方法は、区別して検討します。前記の仕訳例も、創立費の資産計上を必須とするものではありません。
また、通常必要と認められる設立費用は、定款等に会社負担の定めがなくても、法人税上の創立費に該当する取扱いがあります。ただし、株式会社が設立費用を負担するための会社法上の定款記載等とは、別の問題です(法基通8-1-1、会社法28四)。
4.金銭60万円と備品40万円を出資した場合
金銭以外の財産による出資を、現物出資といいます。
金銭60万円と備品40万円を出資し、その合計100万円を資本金とする例を考えます。ここでは、備品40万円という受入額が会計・税務上ともに適切であり、引き継ぐ負債や資本準備金への振分けもないものとします。
金銭60万円を発起人の個人口座で一時保管している場合は、次のように処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 預け金 | 600,000円 | 資本金 | 1,000,000円 |
| 工具器具備品 | 400,000円 |
金銭を会社の手元現金として受け入れた場合は、預け金を現金に置き換えます。法人口座へ移す金額は金銭部分の残額であり、備品の価額まで現金で入金するものではありません。
備品の金額は、出資者の購入価額や帳簿残高をそのまま使えるとは限りません。定款に定める価額、会計上の受入額、税務上の取得価額を、それぞれ確認します。会社計算規則も、定款価額と帳簿価額が必ず一致するとはしていません(会社計算規則43①二・⑤、法令54①六)。
株式会社の設立時の現物出資には、定款への記載などの手続が必要です。検査役調査については少額の場合などに例外がありますが、調査不要であっても、価額を適切に定める必要があります(会社法28一、33⑩)。
出資者が個人の場合は、資産の移転に伴う所得税や消費税等の検討も必要になることがあります。資産移転の方法の比較については、関連記事「法人成りの際に事業用資産を会社に移転する方法」をご覧ください。
なお、合同会社でも、金銭の保管と費用の立替精算を区別する考え方は共通ですが、資本金の額の決め方や現物出資の手続は、株式会社と異なります(会社法578、579、会社計算規則44)。
5.会計ソフトの開始残高は二重入力と消費税に注意する
会計ソフトでは、設立時の資産・負債・純資産を開始残高として入力する方法と、設立時の仕訳として登録する方法があります。ソフトの仕様に従い、同じ内容を両方に入力しないようにします。
創立費20万円を設立時に繰延資産として計上する場合でも、費用の負担・精算状況によって、次のように残高が異なります。
| 状況 | 資産 | 負債・純資産 |
|---|---|---|
| 出資金100万円から創立費20万円を支払い、残額を一時保管している | 預け金80万円、創立費20万円 | 資本金100万円 |
| 出資金100万円は残り、役員の立替額20万円が未精算である | 預け金100万円、創立費20万円 | 役員借入金20万円、資本金100万円 |
創立費を直ちに費用処理する場合は、その費用が当期の損益に反映されるように登録します。設立後に発生した取引は、その発生日の取引として登録し、設立時の開始残高に混ぜないようにします。
消費税を一般課税で申告する場合は、開始残高に入力した費用・固定資産の税区分にも注意が必要です。例えばfreeeの公式案内では、開始残高に入力した内容は消費税の対象外として扱われるため、仕入税額控除を反映させるための取引登録が案内されています。
創立費を繰延資産に計上しても、消費税の仕入税額控除は償却額に応じて行うものではなく、課税仕入れを行った課税期間で判断します。登録免許税など課税仕入れに該当しない部分を分け、帳簿・請求書等の保存要件も確認します(消基通11-3-4)。
設立期間中の課税仕入れを会社の最初の課税期間に含める取扱いには、設立期間が通常より長期にわたる場合や、引き継いだ個人事業に係る仕入れなどの例外があります。個人事業の費用を、会社の創立費や課税仕入れへ一律に付け替えることはできません(法基通2-6-2、消基通9-6-1)。
設立前の支出の範囲については、関連記事「会社設立前の経費はどこまで会社の経費になる?」で説明しています。
6.設立時の記帳のために準備する資料
- 定款、登記事項証明書、資本金の額を決めた書面
- 出資金の払込みと、その後の移動・支払いが分かる通帳や取引明細
- 設立費用の請求書・領収書と、登録免許税・報酬等の内訳
- 発起人が立て替えた金額と、会社が精算した金額を確認できる明細
- 現物出資財産の内容、評価の根拠、会社への引渡しが分かる資料
これらの資料から、設立時点の資産・負債と、その後の資金移動を整理します。資本金、会社に残るお金、設立費用、未精算の立替額がそれぞれ対応していることを確認して記帳します。
主な根拠資料・参考資料
- 会社法:28、33、34、49、445、578、579
- 会社計算規則:43、44
- 法人税法:22②⑤、32①
- 法人税法施行令:14①一・二、54①六、64①一
- 国税庁・法人税基本通達:2-6-2、8-1-1、8-3-2
- 国税庁・消費税法基本通達:9-6-1、11-3-4
- 企業会計基準委員会・実務対応報告第19号「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」3(3)
- 国税庁・「譲渡所得の対象となる資産と課税方法」、「資産の譲渡の具体例」
- 弥生・「資本金が入金されたときはどのように仕訳すればよいですか?」
- freee・「開始残高設定を設定する(新設法人の場合)」
本文中の「法法」は法人税法、「法令」は法人税法施行令、「法基通」は法人税基本通達、「消基通」は消費税法基本通達を指します。2026年10月28日時点で確認した法令・公表資料に基づいています。


