事業目的とは、会社が行う事業の内容のことです。会社の事業目的は定款の絶対的記載事項ですから、定款に記載されていないと厳密にはその会社の事業とはなり得ません。そのため、定款の作成前に事業目的を決めておく必要があります。個人事業主から法人化される方は、今まで行っていたビジネスを軸に事業目的を決めるとよいでしょう。

 事業目的は1つだけ定款に記載するのでもかまいません。また、どれだけ多くの目的を掲げてもかまわないという建前になっています。会社を設立した後、目的の変更や追加をした場合、定款の変更や登記をし直さなければならないので費用と時間がかかります。そのため、当面は予定していないような事業についても目的に掲げる会社は多いものです。

 ただし、あまりにも多くの「目的」が記載されていると、第三者は違和感を覚えるものです。取引をしようと思う人がいても「ウリがない会社」や「何の事業をしたいのかわからない会社」と敬遠される可能性があります。

 さらには会社設立後、金融機関で預金口座の開設や借入をする場合に、あまりにも事業目的が多い場合は不審がられると思います。ある金融機関は、ホームページ上の「法人口座を開設されるお客さまへ」のところで「謄本上事業目的が多岐にわたる場合、その内容についてご説明をお願いします」と記載しています。

 そのため、本当に自分がやろうとする事業だけを記載するのがよいと思われます。また、記載する目的の最後に「前各号に附帯する一切の業務」等と入れれば、目的の範囲を広げることができます。

 目標としている会社があるならば、その会社の登記事項証明書をとり、事業目的を参考にするとよいでしょう。登記事項証明書は、その会社の経営者等関係者でなくても誰でも取得できます。

 なお、会社の目的の記載には次のルールがあります。

①適法性(法令または公序良俗に反しないこと)

 会社は、法規範のもとに存在しているものですから、強行法規(当事者の意思にかかわらず、その適用を排除できない法規)又は公序良俗に反する事業を目的とすることはできません。

 例えば、たばこ事業法によって、たばこは、日本たばこ産業株式会社でなければ、製造してはならないとなっています。そのため、設立しようとしている会社の目的に「たばこの製造」を入れることはできません。

②営利性(会社の目的は利益を得ること)

 利益を得る可能性のない事業を会社の目的とすることはできません。例えば、「政治献金」は、それによって、直接利益をあげ得る可能性がないので入れることはできません。

③明確性(目的の意味が明らかであること)

 明確であるとは、現時点で、語句の意味が明らかであり、目的全体の文意が明らかであることをいいます。例えば、インターネットという語句は、現時点では、明確性がありますが、30年ほど前には明確性があるとはいえませんでした。

 そのため、目的に「インターネットを利用した各種情報提供サービス業」と記載しても公証人から認証(株式会社の場合)を拒絶され、登記も受理されませんでした。ただし、語句というものは時間とともに認知されていくものなので、現時点では明確性がないと判断されても、数年後には明確性が出てくる場合もあります。

 なお、法務省の見解は下記のとおりです(法務省HP、設立登記申請書様式の定款例目的の注)。
「ローマ字による用語や専門用語等を使用する場合には、それらが一般に市販されている用語辞典に掲載されているなど、広く社会的に認知されているものでないときには、登記申請が受理されない場合もありますので、御留意ください。また、これらの場合には、ローマ字による用語や専門用語の後に括弧書きで当該用語を説明するなど、登記事項証明書を取得した方に理解しやすいものとなるように御留意ください」

 例えば、ITという用語が広く社会的に認知されているとまではいえないような時代には、「IT(インフォメーションテクノロジー)」や「IT(情報技術)」のように、丸括弧書きで説明を書くのが一般的で「IT(情報技術)を活用したコンサルタント」のように事業目的を記載していました。

④具体性(目的の意味が具体的であること)

 以前は、目的の記載については、具体性がなければならないとされていましたが、現在では、会社の目的の具体性については、審査を要しないものとされました(取扱通達・第7部 商業登記に関するその他の改正 第2 会社の目的の具体性 129ページ)。

 そのため、「商業」、「商取引」といったような記載でも相当とされます。しかし、会社の目的が具体的でないと、例えば許認可や取引等において不都合が生ずることもあり得ます。したがって、具体性があったほうが望ましいといえます。

 なお、法務省の見解は下記のとおりです(設立登記申請書様式の定款例目的の注)。
「事業等を行うことについて官公庁等の許認可、登録、届出(以下「許認可等」といいます。)等が必要な場合や登記事項証明書の提出が必要な場合等には、定款に定める目的に問題がないかどうかを当該官公庁等に事前にお問い合わせください。登記申請が受理された場合であっても、許認可等の関係で問題とされる場合がありますので、御留意ください」