概要

 我が国と他国とでは別個の租税管轄権に属し、それぞれ独立した法体系を形成することから、一方の国における課税上の取扱いが、他方の国の課税上の取扱いに影響を及ぼすことはありません。

 よって、外国における組織再編成が、我が国の適格組織再編成に該当するかどうかについては、慎重に判断する必要があります。

 なお、我が国の会社法上の分割法制は、「法令上当然に権利義務の移転が生じる一般承継」を重要な要素としており、そのことが令和元年8月1日裁決(裁事116集)の判断に影響を及ぼすこととなりました。

外国法人の事業分割に伴う株式の交付が配当所得に該当するとされた事例-令和元年8月1日裁決(裁事116集)(棄却)

(1)事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人Xに交付された外国法人の株式は剰余金の配当に当たるなどとして、所得税等の更正処分等をしたのに対し、Xが、当該株式を取得したことに実質的な利益は発生していないなどとして、それらの処分の一部の取消しを求めた事案である。

○本件におけるXの申告状況等は、次のとおりである。

① XのH社株式の保有状況
 Xの平成27年10月末現在のH社の株式の保有数は18,992株であった。Xは、H社の株式を米国のJ証券口座(以下「本件証券口座」という。)において保有し、毎年、H社の配当金を収受していた。H社は、コンピュータやプリンターなどを中心とした、コンピュータ関連機器の開発、製造、販売、サポートなどを行う米国のK州に登記上の本店を置く法人であり、L証券取引所に上場していた。

② H社の事業分割
(イ) H社の取締役会は、平成27年10月1日、以下を骨子とする事業分割(以下「本件事業分割」という。)案を承認し、プレスリリースした。
A H社は、平成27年11月〇日、M社とN社の独立した2社に分割され、前者はH社の企業向け技術インフラ事業、ソフトウエア事業、サービス事業及び金融事業(以下、これらの事業を併せて「エンタープライズ事業」という。)を継承し、後者はH社のプリンター事業及び個人向けシステム事業を継承する。
B 本件事業分割は、平成27年10月21日を基準日(以下「本件基準日」という。)とし、本件基準日現在のH社の株主が保有するH社の株式に対し、M社の株式を比例的に分配する(H社の株式1株に対し、M社の株式1株を割り当てる。)方法によって行われる。
C 本件事業分割は、平成27年11月〇日に実行され、H社はN社に社名変更し、N社の株式は引き続きL証券取引所で取引される。一方、M社は新たにL証券取引所に上場されるが、事業分割後両社には資本関係はなく、独立した上場会社としてそれぞれ別個に運営される。
D 本件基準日現在のH社の株主は、M社の株式の交付を受けるため、何らかの行為をすることは要求されず、その対価の支払をすることも、H社の株式と交換することもない。

(ロ) H社の株主には、平成27年10月8日付で、本件事業分割に関連する詳細事項が記載された書面が交付されたが、同書面には、本件事業分割が、米国歳入法355条及び同368条(a)(1)(D)に適合する組織再編成であり、米国内国歳入庁(以下「IRS」という。)から、税制適格の組織再編成である旨を認定する「個別ルーリング」の交付を受けることを条件とする旨、記載されている。

(ハ) H社、M社及びその他の関係会社は、平成27年10月31日付で、契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(ニ) 米国における組織再編成とその課税に関する規定
A 米国の法令には、我が国の会社分割法制のような権利義務の一般承継(包括承継)を特徴とする分割法制は存在しない。
B 米国歳入法368条(a)(1)(D)は、ある法人の資産の全部又は一部の他の法人への譲渡で、当該資産の譲渡の直後に、資産取得法人が、その対価として同法人の株式その他の有価証券を資産譲渡法人に交付し、資産譲渡法人が資産取得法人を支配した上で、資産譲渡法人の株主に対し、当該株式その他の有価証券を、同法355条に規定する税制適格取引として分配するものを組織再編成の一つとして規定している。
C 米国歳入法355条は、法人(「分配法人」と定義される。)による当該法人が支配する法人(「被支配法人」と定義される。)の株式等の税制適格の現物分配について規定している。
D 本件事業分割においては、上記のとおり、N社はIRSから個別ルーリングを取得しており、米国歳入法355条所定の税制適格要件を全て満たしたものと認められる。

③ XのM社株式の取得
 平成27年11月〇日、本件事業分割は実行され、Xは、本件証券口座においてM社の株式18,992株(以下「本件株式」という。)を取得した。なお、Xは、本件株式の取得について、米国で課税されなかった。

④ Xの確定申告
 Xは、平成27年分の所得税等について、確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出したが、H社から交付を受けた本件株式に係る所得をその所得計算に含めていなかった。

⑤ 原処分庁による更正処分等
 原処分庁は、平成30年2月5日付で、Xに交付された本件株式は剰余金の配当に当たるなどとして、所得税等の更正処分等をした。

(2)裁決要旨(請求棄却)

① 所得税法24条第1項は、法人から受ける剰余金の配当を同項所定の「配当等」として掲げ、当該配当等に係る所得を配当所得という旨規定する。本件事業分割は、米国歳入法355条及び同法368条(a)(1)(D)に適合する組織再編成であるところ、米国における組織再編成では、同法に定める税制適格要件に適合させることを前提に、ある法人が他の法人に資産を譲渡し、その対価として資産取得法人の株式等の交付を受け、両社の支配従属関係を成立させた上で、資産取得法人(被支配法人)の株式等が資産譲渡法人(分配法人)の株主に分配されるという類型の分割が一般的に行われている。そして、本件事業分割では、H社が、その有するエンタープライズ事業に係る資産及び負債をそれぞれM社に移転するとともに、その対価としてM社の株式の交付を受け、当該受領したM社の株式が、H社の株主に比例的に分配されたと認められるところ、H社によるM社の株式の交付に当たっては、本件事業分割に伴いH社から商号変更したN社の連結株主資本等変動計算書上、利益剰余金のみが減少していることが認められる。
 したがって、Xに対する本件株式の交付は、H社の株主としての地位を有する者に対し、H社の利益剰余金を原資として行われたものということができるから、所得税法24条1項に規定する剰余金の配当に該当すると認められる。

② 所得税法24条1項は、同項に規定する「法人(略)から受ける剰余金の配当」のうち資本剰余金の額の減少に伴うもの及び法人税法2条12号の9に規定する分割型分割によるものを当該剰余金の配当から除くとしている。この点、本件株式の交付がH社から商号変更したN社の資本剰余金の額の減少に伴うものと認められない。そこで、本件株式の交付が、同号の9に規定する分割型分割によるものといえるか否か、具体的には、米国の法令に準拠して行われた本件事業分割を法人税法上の分割のうちの「分割型分割」に該当するものとして取り扱えるか否かについて検討する。
 我が国の会社法上の分割では、分割の対象とされた分割会社の権利義務は、事業譲渡(会社法467条《事業譲渡等の承認等》1項参照)の場合のように個別に承継・移転されるのではなく、吸収分割契約又は新設分割計画により、承継会社又は新設会社に一括して承継されるという一般承継の法的効果が付与される(「一般承継」とは、法令上、ある者が他の者の権利義務の全てを一体として受け継ぎ、法律上その権利義務に関して他の者と同じ地位に立つことをいい、「包括承継」ともいう。)。
 他方、米国においては、権利義務の一般承継を特徴とする会社分割制度は存在しない。すなわち、我が国の会社法上の分割が、上記のとおり、法的効果としての権利義務の一般承継をその本質的要素とするのに対し、本件事業分割はかかる要素を欠いており、この点において、本件事業分割は、我が国の会社法上の分割に相当する法的効果を具備するものとはいえないというべきである。そして、本件における全証拠等によっても、他に本件事業分割を我が国の会社法上の分割に相当するものと認めるべき特段の事情も認められない。そうすると、本件事業分割を法人税法上の分割に相当するものとして取り扱うことはできない。したがって、本件事業分割は、法人税法2条12号の9に規定する分割型分割には当たらないというべきである。

③ Xは、自らが株式を保有していた米国法人が事業分割(本件事業分割)し、2社の独立した法人となったことにより、新たに事業を承継した法人の株式(本件株式)の交付を受けたことについて、当該米国法人の事業分割前の株価と事業分割後の米国法人2社の株価の合計額とがほぼ同等であり、当該分割の前後において、全体としての株式の価値の増減は見られないこと、本件事業分割について、米国の課税上、米国法人2社双方の株主が非課税扱いとされていたことからすれば、本件株式の交付によりXは所得を得ておらず、我が国の所得税法24条《配当所得》1項に規定する剰余金の配当に該当しない旨主張する。
 しかしながら、本件株式は、当該米国法人の株主としての地位を有する者に対し、当該米国法人の利益剰余金を原資として交付されたものと認められる。また、米国における課税上の取扱いが我が国の課税上の取扱いに影響を及ぼすことはない。加えて、本件事業分割は、我が国の会社法上の分割に相当する法的効果を具備するとはいえず、法人税法2条《定義》12号の9に規定する分割型分割には当たらないというべきであるから、本件株式の交付は所得税法24条1項に規定する剰余金の配当に該当する。

④ 以上のとおり、Xに対する本件株式の交付は、所得税24条1項に規定する法人から受ける剰余金の配当のうち、資本剰余金の額の減少に伴うもの及び法人税法上の分割型分割によるもののいずれにも該当しないものとして、同項所定の配当等に該当するものと認められる。