概要

 相続・贈与で上場株式等を受ける場合は、一般口座で株を受け入れるより、特定口座で株を受け入れた方が管理しやすいので、そちらの方が楽といえます。ただし、場合によっては相続人・受贈者の特定口座に移管することができない場合がありますので注意をしてください。

 相続・贈与において、一般口座間の移管については税法上の制限はありません。

 なお、例えば、換価分割等相続財産である株式をすぐに売却するような場合は、一般口座に移管する方がよいでしょう。

相続により取得する場合

(1)被相続人等の移管元口座と相続人等の移管先口座が同一金融機関の場合(措令25の10の2⑭三)
 相続又は遺贈の場合は、被相続人等が開設していた特定口座、一般口座、NISA口座、ジュニアNISA口座の中に入っていた上場株式等を、相続人等の特定口座に受け入れることは可能です。ただし、相続等により取得した上場株式等のうち同一銘柄の上場株式等は、全てをその被相続人等の口座から相続人等の特定口座へ移管する必要があります。
 この場合、被相続人等が開設していた特定口座、一般口座から相続人等の特定口座へ移管された場合の取得日は被相続人等の取得日を引き継ぎ、取得金額は被相続人等が取得した価額を引き継ぎます。一方、被相続人等が開設していたNISA口座、ジュニアNISA口座から相続人等の特定口座へ移管された場合の取得日は相続又は遺贈の日となり、取得金額はNISA口座、ジュニアNISA口座からの払出時の金額(時価)となります。

(2)被相続人等の移管元口座と相続人等の移管先口座が異なる金融機関の場合の場合(措令25の10の2⑭四)
 相続又は遺贈の場合は、被相続人等が開設していた特定口座、一般口座の中に入っていた上場株式等を、相続人等の特定口座に受け入れることは可能です。ただし、相続等により取得した上場株式等のうち同一銘柄の上場株式等は、全てをその被相続人等の口座から相続人等の特定口座へ移管する必要があります。
 この場合、被相続人等が開設していた特定口座、一般口座から相続人等の特定口座へ移管された場合の取得日は被相続人等の取得日を引き継ぎ、取得金額は被相続人等が取得した価額を引き継ぎます。

相続人等が提出する書類

 相続人等は、被相続人等の移管元口座が開設されている金融商品取引業者等の営業所(移管元の営業所)へ「相続上場株式等移管依頼書」を提出します(措令25の10の2⑮、⑯)。なお、被相続人等の移管元口座が一般口座の場合は、被相続人等が取得したその上場株式等の取得日及び取得金額を証する書類(契約締結時交付書面、取引報告書等)を添付する必要があります(措規18の11㉒、㉕)。

移管の可否例

(Q1)被相続人甲の口座のA株2,000株を、相続人乙の特定口座に1,000株、相続人丙の特定口座に1,000株移管することは可能か?
(A1)可能

(Q2)被相続人甲の口座のA株2,000株を、相続人乙の特定口座に1,000株、相続人丙の一般口座に1,000株移管することは可能か?
(A2)可能

(Q3)被相続人甲の口座のA株2,000株を、相続人乙の特定口座に1,000株、相続人乙の一般口座に1,000株移管することは可能か?
(A3)相続を受けた同一銘柄株式の一部のみ(1,000株)を相続人の特定口座に移管することはできない

贈与により取得する場合

(1)贈与者の移管元口座と受贈者の移管先口座が同一金融機関の場合(措令25の10の2⑭三)
 贈与の場合は、贈与者が開設していた特定口座、一般口座、NISA口座、ジュニアNISA口座の中に入っていた上場株式等を、受贈者の特定口座に受け入れることは可能です。ただし、贈与により取得した上場株式等のうち、①同一銘柄の上場株式等は「全て」その贈与者の口座から受贈者の特定口座へ移管し、かつ、②その移管がされる上場株式等がその贈与者の口座の「一部」である場合には、その受贈者の特定口座においてその移管がされる上場株式等と同一銘柄の上場株式等を有していない必要があります。
 この場合、贈与者が開設していた特定口座、一般口座から受贈者の特定口座へ移管された場合の取得日は贈与者の取得日を引き継ぎ、取得金額は贈与者が取得した価額を引き継ぎます。一方、贈与者が開設していたNISA口座、ジュニアNISA口座から受贈者の特定口座へ移管された場合の取得日は贈与日となり、取得金額はNISA口座、ジュニアNISA口座からの払出時の金額(時価)となります。

(2)贈与者の移管元口座と受贈者の移管先口座が異なる金融機関の場合の場合(措令25の10の2⑭四)
 贈与の場合は、贈与者が開設していた特定口座、一般口座の中に入っていた上場株式等を、受贈者の特定口座に受け入れることは可能です。ただし、贈与により取得した上場株式等のうち、①同一銘柄の上場株式等は「全て」その贈与者の口座から受贈者の特定口座へ移管し、かつ、②その移管がされる上場株式等がその贈与者の口座の「一部」である場合には、その受贈者の特定口座においてその移管がされる上場株式等と同一銘柄の上場株式等を有していない必要があります。
 この場合、贈与者が開設していた特定口座、一般口座から受贈者の特定口座へ移管された場合の取得日は贈与者の取得日を引き継ぎ、取得金額は贈与者が取得した価額を引き継ぎます。

受贈者が提出する書類

 受贈者は、贈与者の移管元口座が開設されている金融商品取引業者等の営業所(移管元の営業所)へ、贈与契約書を添付し「相続上場株式等移管依頼書」を提出します(措令25の10の2⑮、⑯、措規18の11㉑)。なお、贈与者の移管元口座が一般口座の場合は、贈与者が取得したその上場株式等の取得日及び取得金額を証する書類(契約締結時交付書面、取引報告書等)を添付する必要があります(措規18の11㉒、㉕)。

移管の可否例

(Q1)贈与者甲の口座のA株2,000株のうち1,000株を、受贈者乙の特定口座に1,000株移管することは可能か?なお、受贈者乙の特定口座にA株は保有されていない。
(A1)可能

(Q2)贈与者甲の口座のA株1,000株全部を、受贈者乙の特定口座に1,000株移管することは可能か?なお、受贈者乙の特定口座にA株1,000株が既に保有されている。
(A2)可能

(Q3)贈与者甲の口座のA株2,000株のうち1,000株を、受贈者乙の特定口座に1,000株移管することは可能か?なお、受贈者乙の特定口座にA株1,000株が既に保有されている。
(A3)移管することはできない。移管がされる上場株式等がその贈与者の口座の一部である場合には、その受贈者の特定口座においてその移管がされる上場株式等と同一銘柄の上場株式等を有していない必要があります。

(Q4)贈与者甲の口座のA株2,000株を、受贈者乙の特定口座に1,000株、受贈者乙の一般口座に1,000株移管することは可能か?
(A4)贈与を受けた同一銘柄株式の一部のみ(1,000株)を受贈者の特定口座に移管することはできない

(Q5)贈与者甲の口座のA株3,000株のうち2,000株を、受贈者乙の特定口座に1,000株、受贈者丙の特定口座に1,000株移管することは可能か?なお、受贈者乙、丙共に特定口座にA株は保有されていない。
(A5)可能

(Q6)贈与者甲の口座のA株2,000株を、受贈者乙の特定口座に1,000株、受贈者丙の特定口座に1,000株移管することは可能か?なお、受贈者丙の特定口座にA株1,000株が既に保有されている。
(A6)丙の特定口座に移管することはできない。移管がされる上場株式等がその贈与者の口座の一部である場合には、その受贈者の特定口座においてその移管がされる上場株式等と同一銘柄の上場株式等を有していない必要があります。

税制改正の経緯

平成20年度税制改正

 平成20年度税制改正前は、株式の贈与について、その一部を受贈者に贈与し、残りを他の受贈者に贈与又は自己で保有し続けたい場合であっても、その全てを移管する必要がありました。

 特定口座利用者の利便性の向上の観点から、贈与者が特定口座において保有する上場株式等の一部のみを受贈者の特定口座へ移管することが認められるよう要望されていました。

〇平成20年度税制改正に関する要望(平成19年9月/日本証券業協会・投資信託協会・全国証券取引所・日本証券投資顧問業協会)
「贈与者が特定口座において保有する相続上場株式等の一部を受贈者の特定口座へ移管する場合、同一銘柄の相続上場株式等の全てが移管される場合のみ移管が認められているが、同一銘柄の相続上場株式等の一部を移管することを認めること」

 要望通りに、平成20年4月30日以後に、贈与者が特定口座において保有する上場株式等の一部を受贈者の特定口座へ移管する場合、同一銘柄の上場株式等の全てが移管される場合のみ移管だけでなく、同一銘柄の上場株式等の一部を移管することが認められることになりました。

 ただし、移管がされる上場株式等がその贈与者の口座の一部である場合には、その受贈者の特定口座においてその移管がされる上場株式等と同一銘柄の上場株式等を有していない必要があると、現在の取扱いのような形となりました。

 なお、この段階では、贈与者、被相続人又は包括遺贈者の「特定口座」から、受贈者、相続人又は包括受遺者の特定口座に限定されていました。

平成21年度税制改正

 平成21年5月31日までの受入れをもって、平成17年4月1日以後の特定口座への上場株式等の保管の委託に関する特例(いわゆるタンス株の受入れ措置)は廃止され、特定口座外で管理・保有している上場株式等については、平成21年6月1日以後、原則として、特定口座への受入れができないこととなりました。

 このため、平成21年4月1日以後、相続又は遺贈により取得した上場株式等を被相続人の一般口座から一定の方法により相続人の特定口座へ受入れることが可能となりました。

 同様に、贈与により取得した上場株式等を贈与者の一般口座から一定の方法により受贈者の特定口座へ受入れることが可能となりました。

平成23年度税制改正

 平成23年6月30日前に特定口座に受入れる上場株式等については、「被相続人・贈与者の一般口座が開設されている金融商品取引業者等」と「相続人・受贈者の特定口座が開設されている金融商品取引業者等」が違っている場合は移管ができなかったのですが、平成23年6月30日以後に特定口座に受入れる上場株式等については、これらの金融商品取引業者等が異なる場合であっても特定口座に受入れることができるようになりました。

 なお、改正前においても、「被相続人・贈与者の特定口座が開設されている金融商品取引業者等」と「相続人・受贈者の特定口座が開設されている金融商品取引業者等」が違っていても、移管はできていました。