暗号資産現物取引の分離課税(20.315%)

 暗号資産取引業(仮称)を行う者に対して暗号資産(金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等に限る。以下「特定暗号資産」という。)の譲渡等をした場合には、その譲渡等による譲渡所得等については、他の所得と分離して20%(所得税15%、個人住民税5%)の税率により課税されることとなりました。復興税を含めると、20.315%の税率となります。

 ここでのポイントは、暗号資産取引業(仮称)を行う者ですが、今後、詳細が明らかになりますが、おそらくは、金融庁に登録されている金融商品取引業者となるでしょう。よって、金融庁に登録されていない海外の業者は含まれないことになるでしょう。

 「特定暗号資産」についてですが、対象となる銘柄等は今後明らかになるでしょう。

「譲渡等をした場合には、その譲渡等による譲渡所得等」とされていますが、ここでいう「譲渡等」が譲渡以外、どのような場合が含まれるのかが注目されます。

 なお、「譲渡所得等」については、上場株式の譲渡した場合のように、雑所得、事業所得になる場合を含む表現だと思います。

 そのため、一定以上の取引であれば譲渡所得ではなく雑所得、事業所得になる可能性も考えられますが、上場株式の取引と同様に、分離課税の枠内であるため、それほど大きな違いにはならないと思います。

 時期については、金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日とされているため、早くても、2027年からということになります。

損失の3年間繰越

 特定暗号資産を暗号資産取引業を行う者に対して譲渡等をしたことにより生じた損失の金額のうちに、その譲渡等をした日の属する年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額があるときは、一定の要件の下で、その控除しきれない金額についてその年の翌年以後3年内の各年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額からの繰越控除が可能となりました。

 簡単に言うと、上場株式の売却損と同じような取り扱いとなるということでしょう。

 時期については、金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日とされているため、早くても、2027年からということになります。

相続税の取得費加算の特例

 今まで、暗号資産については、雑所得あるいは事業所得としての取扱いであったため、相続税の取得費加算の特例の対象ではありませんでした。

 しかしながら、税制改正大綱の書き方が「譲渡所得」となっているため、改正後は、暗号資産は相続税の取得費加算の特例の対象となる可能性があります。

暗号資産デリバティブ取引

 先物取引に係る雑所得等の課税の特例及び先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用対象に、暗号資産デリバティブ取引(特定暗号資産に係るものに限る。以下「特定暗号資産デリバティブ取引」という。)に係る雑所得等が加えられました。

 「特定暗号資産」についてですが、対象となる銘柄等は今後明らかになるでしょう。

 特定暗号資産デリバティブ取引については、改正後は、国内FX取引と同じように、先物取引に係る雑所得等の課税の特例及び先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用対象となるということです。

 そのため、国内FX取引のような同じ先物取引の損益と特定暗号資産デリバティブ取引の損益を相殺するようなことができるようになるでしょう。

 時期については、適用開始日以後とされているため、早くても、2027年からということになります。

暗号資産ETF

 暗号資産ETFから生ずる所得は分離課税の対象となります。これについては、株式等の枠内に組み込まれることになるでしょう。

総合課税

 特定暗号資産の対象外となる総合課税の譲渡所得の基因となる暗号資産については、以下のような取り扱いとなります。

イ 当該暗号資産の譲渡益について、譲渡所得の特別控除額を控除しないこととする。
ロ 当該暗号資産については、5年を超えて保有した資産に係る譲渡所得の金額の計算上2分の1とする措置を適用しないこととする。
ハ 当該暗号資産に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額については、他の総合課税の対象となる所得との損益通算を適用しないこととする。

 総合課税の対象となる暗号資産取引については、今後、明らかとなるでしょうが、おそらく、金融庁に登録されていない海外の業者との取引は総合課税となるでしょう。

 なお、総合課税の譲渡所得といっても、「特別控除」、「5年超保有の1/2課税」、「損益通算」の対象外とされ、厳しい取り扱いとなっています。税制だけ考えれば、金取引の方がはるかに税制優遇がされています。

 つまり、国として、暗号資産に関しては、特定暗号資産以外の取引には厳しい対応をし、特定暗号資産の取引を増やす方向にもっていくということでしょう。

 特定暗号資産であれば、暗号資産取引業者が提出する報告書により課税庁が取引を全て把握できるからです。

 また、気になる点は、「譲渡所得」のことしか書かれていません。特定暗号資産の対象外となる場合は総合課税となることは間違いないでしょうが、雑所得あるいは事業所得になる可能性があるのか注目されます。

暗号資産に関する税制改正大綱

令和8年度税制改正の基本的考え方

 暗号資産の分離課税化等

 暗号資産取引に係る課税については、令和7年度税制改正大綱で示された、投資家保護のための説明義務をはじめとする健全な取引環境の構築に向けた法整備等への対応を前提に、国民の資産形成に資する暗号資産に限って、その現物取引、デリバティブ取引及びETFから生ずる所得を分離課税の対象とする。国民が安心して暗号資産市場に参加できる環境の構築を図る観点から、3年間の繰越控除制度を創設する。
 こうした暗号資産の資産形成に資する金融商品としての位置付けは、デジタルエコノミーの進展にもつながるものである。

所得税

 金融商品取引法等の改正を前提に、次の措置を講ずる。

① 居住者等が、暗号資産取引業(仮称)を行う者に対して暗号資産(金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等に限る。以下「特定暗号資産」という。)の譲渡等をした場合には、その譲渡等による譲渡所得等については、他の所得と分離して20%(所得税15%、個人住民税5%)の税率により課税する。

② 暗号資産取引業を行う者は、その年中に特定暗号資産の取引を行った居住者等の氏名、住所及び個人番号、その取引に係る特定暗号資産の名称その他の事項を記載した報告書を、その取引があった日の翌年1月31 日までに、税務署長に提出しなければならないこととする。

③ 特定暗号資産を暗号資産取引業を行う者に対して譲渡等をしたことにより生じた損失の金額のうちに、その譲渡等をした日の属する年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額があるときは、一定の要件の下で、その控除しきれない金額についてその年の翌年以後3年内の各年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額からの繰越控除を可能とする。

④ 先物取引に係る雑所得等の課税の特例及び先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用対象に、暗号資産デリバティブ取引(特定暗号資産に係るものに限る。以下「特定暗号資産デリバティブ取引」という。)に係る雑所得等を加える。

⑤ 投資信託及び投資法人に関する法律施行令の改正を前提に、次の措置を講ずる。
イ 上場証券投資信託等の償還金等に係る課税の特例の適用対象に、一定の投資信託を加える。
ロ 一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例等の対象となる株式等の範囲に、特定暗号資産を投資の対象とする投資信託の受益権を加える。

⑥ 総合課税の譲渡所得の基因となる暗号資産について、次の措置を講ずる。
イ 当該暗号資産の譲渡益について、譲渡所得の特別控除額を控除しないこととする。
ロ 当該暗号資産については、5年を超えて保有した資産に係る譲渡所得の金額の計算上2分の1とする措置を適用しないこととする。
ハ 当該暗号資産に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額については、他の総合課税の対象となる所得との損益通算を適用しないこととする。

⑦ その他所要の措置を講ずる。
(注1)上記①及び③の改正は、金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日(以下「適用開始日」という。)以後に行う特定暗号資産の譲渡等について適用する。
(注2)上記②の改正は、適用開始日の属する年の翌年の1月1日以後に行う特定暗号資産の取引について適用する。
(注3)上記④の改正は、適用開始日以後に行う特定暗号資産デリバティブ取引に係る差金等決済について適用する。
(注4)上記⑥の改正は、金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年分以後の所得税について適用する。

消費税

 金融商品取引法等の改正を前提に、次の措置を講ずる。

① 暗号資産の譲渡を有価証券に類するもの(現行:支払手段に類するもの)の譲渡として、引き続き消費税を非課税とする。
② 消費税の課税売上割合の計算上、暗号資産の譲渡については、その譲渡に係る対価の額の5%相当額を資産の譲渡等の対価の額に算入する。
③ 暗号資産の貸付けについて消費税を非課税とするほか、所要の措置を講ずる。
(注)上記の改正は、金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に行われる暗号資産の譲渡等について適用する。