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令和8年度税制改正による暗号資産の申告分離課税―対象取引・損失繰越・デリバティブ・ETFを解説

令和8年度税制改正による暗号資産の申告分離課税―対象取引・損失繰越・デリバティブ・ETFを解説

概要

 令和8年度税制改正により、個人が行う一定の暗号資産取引について、20%の申告分離課税制度が新設されました。ただし、「暗号資産なら何でも20%になる」という改正ではありません。

 分離課税になるためには、対象となる暗号資産だけでなく、どのような方法で譲渡したかについても要件があります。

 また、暗号資産の損失について3年間の繰越控除が設けられるほか、一定の暗号資産デリバティブについても先物取引に係る雑所得等の課税の特例へ加えられます。

 以下、令和8年度税制改正後の制度について整理します。

暗号資産すべてが20%の分離課税になるわけではない

 令和8年度税制改正によって新設された制度では、「特定暗号資産」の一定の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得について、他の所得と分離して20%(所得税15%、個人住民税5%)で課税されます(措法38の2、措令25の15の2)。

 令和9年分以後については、防衛特別所得税及び復興特別所得税を加味すると、実効税率は20.315%となります。

 重要なのは、「特定暗号資産」であれば、どのような取引でも申告分離課税になるわけではないという点です。

 申告分離課税の対象となる譲渡は、暗号資産取引業者への売委託によって行う譲渡又は暗号資産取引業者に対して行う譲渡に限定されています(措法38の2①)。

 したがって、分離課税になるかどうかを判断する際には、

  1. 対象となる暗号資産が「特定暗号資産」に該当するか
  2. その譲渡が法令で定められた暗号資産取引業者を介した対象取引に該当するか

 の両方を確認する必要があります。

 単純に「ビットコインだから20%」「国内で取引したから20%」というわけではありません。

海外取引所やDEXで取引した場合

 申告分離課税になるかどうかは、「国内取引所か海外取引所か」「中央集権型取引所かDEXか」という取引場所の名称だけで決まるものではありません。

 措法38条の2が適用されるためには、特定暗号資産について、法令で定められた暗号資産取引業者への売委託による譲渡又は暗号資産取引業者に対する譲渡に該当する必要があります(措法38の2①)。

 したがって、特定暗号資産そのものを保有していても、この取引要件を満たさない方法で譲渡した場合には、措法38条の2による申告分離課税の対象とはなりません。

 海外事業者を利用した取引やDEXによる取引についても、「海外だから」「DEXだから」という理由だけではなく、上記の法定要件を満たすかどうかによって判断する必要があります。

 申告分離課税の要件を満たさない取引については、通常の所得税の規定に戻り、取引の内容や継続性等の事実関係に応じて、事業所得、譲渡所得又は雑所得等の所得区分を判定することになります。

所得区分そのものがなくなるわけではない

 今回の改正では、特定暗号資産に係る事業所得、譲渡所得及び雑所得が申告分離課税の対象となります(措法38の2①)。そのため、税率という点では同じ制度の対象になります。

 しかし、事業所得・譲渡所得・雑所得という所得区分そのものがなくなるわけではありません。各所得の金額は所得税法のそれぞれの規定によって計算されるため、所得区分の判定は引き続き重要です。

 例えば、相続した暗号資産について相続税額の取得費加算の特例を検討する場合には、その暗号資産の処分による所得が譲渡所得に該当するかどうかが問題となります。

 したがって、「分離課税になるので所得区分は考えなくてもよい」ということではありません。

暗号資産の損失を3年間繰り越せる

 特定暗号資産の対象となる譲渡によって生じた損失について、その年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等から控除しきれない金額がある場合には、一定の要件の下で翌年以後3年間にわたって繰越控除できる制度が設けられました(措法38の3、措令25の15の3)。

 従来の個人の暗号資産課税では、雑所得に該当する暗号資産取引の損失を翌年以後へ繰り越す制度はありませんでしたので、大きな改正です。

 ただし、無条件で損失を3年間繰り越せるわけではありません。損失が生じた年分の確定申告書に所定の書類を添付し、その後も連続して確定申告書を提出するなどの手続要件があります(措法38の3)。

 上場株式の損失繰越や先物取引の損失繰越と同様、損失が生じた年の確定申告を忘れないよう注意する必要があります。

相続した暗号資産と相続税額の取得費加算

 相続によって取得した財産について相続税が課税され、その財産を一定期間内に譲渡した場合には、一定の相続税額を譲渡資産の取得費へ加算できる「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」があります(措法39)。

 暗号資産についても、その処分による所得が譲渡所得に該当し、相続税が課税されていることや所定の期間内に譲渡していることなど措法39条の要件を満たせば、取得費加算の特例の対象となり得ます。

 一方、暗号資産に係る所得が事業所得又は雑所得となる場合には、譲渡所得に対する取得費加算としてこの特例を適用することはできません。今回の税制改正後も所得区分の判定が重要になる理由の一つです。

一定の暗号資産デリバティブも先物取引の分離課税へ

 令和8年度税制改正では、一定の特定暗号資産を対象とするデリバティブ取引について、「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」の対象に追加する改正も行われています(措法41の14)。

 これによって、対象となる暗号資産デリバティブ取引については、措法41条の14の対象となる店頭FXその他の先物取引との間で損益通算が可能となります。

 さらに、一定の要件を満たせば、その損失について3年間の繰越控除を行うこともできます(措法41の15)。

 ただし、海外取引所で行う暗号資産デリバティブなどが当然にこの特例の対象となるわけではありません。対象となるデリバティブ取引の法定要件を個別に確認する必要があります。

暗号資産ETFについて

 令和8年度税制改正では、暗号資産ETFの制度整備も予定されています。

 投資信託法施行令等について所要の制度整備が行われ、一定の要件を満たす暗号資産ETFが組成されることとなった場合には、そのETFの受益権について株式等と同様の課税制度へ組み入れる措置が設けられます。

 ここで注意したいのは、「暗号資産現物を直接売買する場合」と「暗号資産ETFを売買する場合」とは税制上の仕組みが異なることです。

 今後、国内で暗号資産ETFの商品化・上場等が行われる場合には、その時点の金融商品取引法、投資信託法関係法令及び税法を改めて確認する必要があります。 

分離課税の対象にならない暗号資産が譲渡所得となる場合

 申告分離課税の要件を満たさない暗号資産取引については、通常の所得税の規定に従って所得区分を判定します。

 このうち暗号資産の譲渡による所得が「譲渡所得」に該当する場合については、令和8年度税制改正によって一般の総合課税の譲渡所得とは異なる取扱いが設けられています。

 具体的には、通常の総合課税の譲渡所得について認められる50万円の特別控除は適用されません。

 また、所有期間が5年を超える資産の長期譲渡所得について認められる所得金額の2分の1課税についても、暗号資産には適用されません(所法22②、33⑤)。

 さらに、暗号資産の譲渡所得について生じた損失についても、原則として他の所得との損益通算はできません(所法69②)。

 したがって、「申告分離課税にならなかったから、通常の譲渡所得と同じ扱いになる」というわけではありません。総合課税における暗号資産の取扱いは、極めて冷遇される状況と言えます。

同じビットコインについて分離課税取引とそれ以外の取引がある場合

 同じ種類の暗号資産について、申告分離課税となる取引と、それ以外の課税関係となる取引が混在することは考えられます。この場合の取得価額計算には注意が必要です。

 現時点で公表されている法令及び国税庁・財務省資料からは、課税方式が異なるという理由だけによって、同一種類の暗号資産について申告分離課税用とそれ以外の取引用に取得価額を別々に計算するという取扱いは確認できません。

 取得価額・譲渡原価については、所得税法及び所得税法施行令に定められた暗号資産の評価方法に従って計算する必要があります(所法48の2、所令119の2)。

 この点については、今後国税庁からより詳細な質疑応答事例等が公表された場合には、その内容を確認する必要があります。 

暗号資産取引業者から税務署への情報提供

 今回の制度改正では、暗号資産取引業者から税務署長への取引情報の報告制度も整備されます。もっとも、「税務署が取引を把握できるから20%の分離課税になり、把握できない取引だから総合課税になる」という制度ではありません。

 申告分離課税になるかどうかは、あくまで措法38条の2に定められた対象暗号資産及び譲渡方法の要件によって判定します。

 報告制度は、暗号資産取引について税務当局が情報を把握し、適正な申告を確保するための制度として、分離課税の適用要件とは分けて理解した方がよいでしょう。

消費税の取扱いも改正

 令和8年度税制改正では、暗号資産について所得税だけでなく消費税についても改正が行われます。

 暗号資産の譲渡について非課税取引とする基本的な取扱いは維持されますが、課税売上割合の計算について見直しが行われます。

 また、暗号資産の貸付けについても非課税取引とする改正が行われます。所得税の申告分離課税とは別の改正ですので、暗号資産の売買や貸付けを事業として行っている場合には消費税の取扱いにも注意が必要です。

申告分離課税が始まる時期

 今回の暗号資産の申告分離課税は、税制改正法が成立したから直ちに適用されるわけではありません。

 改正金融商品取引法の所定の施行日の属する年の翌年1月1日以後に行われる対象取引から適用される仕組みとなっています(令和8年改正法附則39①)。

 改正金融商品取引法等自体は既に成立していますが、2026年8月15日現在、暗号資産関係の本体部分の施行日との関係から、所得税の新制度の適用開始年はまだ確定していません。

 したがって、「2027年から」「2028年から」などと現時点で断定することはできません。今後公表される金融商品取引法関係法令の施行日を確認する必要があります。

まとめ

 令和8年度税制改正によって、暗号資産税制は大きく変わります。

 最も注目されるのは一定の特定暗号資産について20%の申告分離課税が導入されることですが、すべての暗号資産取引が20%になるわけではありません。

 特定暗号資産に該当するかどうかだけでなく、暗号資産取引業者への売委託による譲渡又は暗号資産取引業者への譲渡という取引要件も満たす必要があります(措法38の2)。

 また、一定の損失について3年間の繰越控除が可能となり、一定の暗号資産デリバティブも先物取引に係る雑所得等の課税の特例の対象となります(措法38の3、41の14、41の15)。

 一方、申告分離課税の対象とならない暗号資産については、事実関係に応じて事業所得、譲渡所得又は雑所得等として課税されます。

 特に、譲渡所得となった暗号資産については50万円の特別控除や長期譲渡所得の2分の1課税が適用されず、譲渡損失の損益通算も制限されるため注意が必要です(所法22②、33⑤、69②)。

 今回の制度は改正金融商品取引法の施行時期と連動して適用が開始されるため、実際の適用開始年については今後の政令等の公表を確認する必要があります。

暗号資産に関する令和8年度税制改正大綱

令和8年度税制改正の基本的考え方

 暗号資産の分離課税化等

 暗号資産取引に係る課税については、令和7年度税制改正大綱で示された、投資家保護のための説明義務をはじめとする健全な取引環境の構築に向けた法整備等への対応を前提に、国民の資産形成に資する暗号資産に限って、その現物取引、デリバティブ取引及びETFから生ずる所得を分離課税の対象とする。国民が安心して暗号資産市場に参加できる環境の構築を図る観点から、3年間の繰越控除制度を創設する。
 こうした暗号資産の資産形成に資する金融商品としての位置付けは、デジタルエコノミーの進展にもつながるものである。

所得税

 金融商品取引法等の改正を前提に、次の措置を講ずる。

① 居住者等が、暗号資産取引業(仮称)を行う者に対して暗号資産(金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等に限る。以下「特定暗号資産」という。)の譲渡等をした場合には、その譲渡等による譲渡所得等については、他の所得と分離して20%(所得税15%、個人住民税5%)の税率により課税する。

② 暗号資産取引業を行う者は、その年中に特定暗号資産の取引を行った居住者等の氏名、住所及び個人番号、その取引に係る特定暗号資産の名称その他の事項を記載した報告書を、その取引があった日の翌年1月31 日までに、税務署長に提出しなければならないこととする。

③ 特定暗号資産を暗号資産取引業を行う者に対して譲渡等をしたことにより生じた損失の金額のうちに、その譲渡等をした日の属する年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額があるときは、一定の要件の下で、その控除しきれない金額についてその年の翌年以後3年内の各年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額からの繰越控除を可能とする。

④ 先物取引に係る雑所得等の課税の特例及び先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用対象に、暗号資産デリバティブ取引(特定暗号資産に係るものに限る。以下「特定暗号資産デリバティブ取引」という。)に係る雑所得等を加える。

⑤ 投資信託及び投資法人に関する法律施行令の改正を前提に、次の措置を講ずる。
イ 上場証券投資信託等の償還金等に係る課税の特例の適用対象に、一定の投資信託を加える。
ロ 一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例等の対象となる株式等の範囲に、特定暗号資産を投資の対象とする投資信託の受益権を加える。

⑥ 総合課税の譲渡所得の基因となる暗号資産について、次の措置を講ずる。
イ 当該暗号資産の譲渡益について、譲渡所得の特別控除額を控除しないこととする。
ロ 当該暗号資産については、5年を超えて保有した資産に係る譲渡所得の金額の計算上2分の1とする措置を適用しないこととする。
ハ 当該暗号資産に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額については、他の総合課税の対象となる所得との損益通算を適用しないこととする。

⑦ その他所要の措置を講ずる。
(注1)上記①及び③の改正は、金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日(以下「適用開始日」という。)以後に行う特定暗号資産の譲渡等について適用する。
(注2)上記②の改正は、適用開始日の属する年の翌年の1月1日以後に行う特定暗号資産の取引について適用する。
(注3)上記④の改正は、適用開始日以後に行う特定暗号資産デリバティブ取引に係る差金等決済について適用する。
(注4)上記⑥の改正は、金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年分以後の所得税について適用する。

消費税

 金融商品取引法等の改正を前提に、次の措置を講ずる。

① 暗号資産の譲渡を有価証券に類するもの(現行:支払手段に類するもの)の譲渡として、引き続き消費税を非課税とする。
② 消費税の課税売上割合の計算上、暗号資産の譲渡については、その譲渡に係る対価の額の5%相当額を資産の譲渡等の対価の額に算入する。
③ 暗号資産の貸付けについて消費税を非課税とするほか、所要の措置を講ずる。
(注)上記の改正は、金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に行われる暗号資産の譲渡等について適用する。

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