概要

 厚生年金の分割制度には、合意分割と3号分割の2つの制度があります。共働き夫婦でよく使われるのが合意分割であり、サラリーマンと専業主婦の夫婦でよく使われるのが3号分割です。

 合意分割と3号分割のどちらの分割であっても、贈与税が課税されることはありません(平成18年11月2日付相続税及び贈与税に関する質疑応答事例について(情報)問10「離婚時の厚生年金の分割制度により、厚生年金が分割された場合」)。

合意分割と贈与税

 厚生年金保険法では、保険給付を受ける権利は、原則として、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができないとされています(厚年法41①)。

 そのため、厚生年金そのものは、夫婦が離婚をした場合であっても、一般に財産分与の対象となりません。

 そこで、平成16年度の年金制度改正において、平成19年4月以後の離婚を対象として、一定の要件の下で、保険料納付記録の分割をすることにより年金の分割ができることとされました。

 つまり、年金そのものではなく、保険料納付記録の分割をするという方法で、実質、年金を分割して、財産分与をするということになります。

 この分割を、合意分割といいますが、保険料納付記録のあん分割合(最大2分の1)を離婚当事者間の協議又は裁判手続により決めることとされており(厚年法78の2)、例えば、離婚した夫婦のうち保険料納付記録の少ない配偶者(多くの場合は、妻)は、協議等により保険料納付記録の分割を受けることができることとなります。

 この場合、保険料納付記録の分割を受けた者は、離婚に伴い保険料納付記録の分与を受けたと認められますが、離婚に伴い財産を取得したときは、原則、贈与により取得した財産とはならないことから(相基通9-8)、当該保険料納付記録の分割については、原則、贈与税の課税対象とはなりません。

3号分割と贈与税

 3号分割も平成16年度の年金制度改正において導入されましたが、合意分割より1年遅れの平成20年4月施行となりました。

 この制度も、合意分割と同様に、保険料納付記録の分割をすることによって、実質、年金が分割されます。ただし、この制度の考えは、3号とあるように、専業主婦のような国民年金における第3号被保険者(国年法7①三)を前提としています。

 サラリーマンである夫が給与を稼いで社会保険料を支払っていけたのは、専業主婦の内助の功のおかげでもあるということです。

 つまり、サラリーマンである夫が単独で社会保険料を支払っているのではなく、専業主婦も共同で負担しているという考えです。

 そのため、合意分割のように、離婚の当事者の合意が必要なく、3号分割においては、サラリーマンである夫が平成20年4月以降に支払った保険料納付記録の2分の1を、離婚した3号であった主婦が分割請求をすれば、自動的、当然に分割を受けることができます(厚年法78の13、78の14)。

 分割された保険料納付記録は、離婚した3号であった主婦じたいの固有の権利に基づくものといえるため、当該保険料納付記録の分割については、贈与税の課税関係は生じないということになります。

 なお、上記はOLである妻と専業主夫の場合であっても、同じ取り扱いとなります。