概要

 民法において、共同相続人の1人が遺産分割前にその相続分を第三者に譲渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる旨規定されています(民法905①)。

 このことからすれば、遺産分割前の相続分の譲渡は法律的に可能であると解され、相続分の譲渡がされた場合の法的効果として、共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、相続分の譲受人は、従前から有していた自己の相続分と新たに譲り受けた相続分とを合計した相続分を有することになると解されています(最高裁平成13年7月10日第三小法廷判決・民集55巻5号955頁参照)。

 相続分の譲渡に関して、相続税法は何も規定していませんが、共同相続人間において相続分の譲渡があったときの相続税法55条に規定する「民法の規定による相続分」について、最高裁平成5年5月28日第三小法廷判決(集民169号99頁)は、「相続税法55条本文にいう『相続分』には共同相続人間の譲渡に係る相続分が含まれる」旨判示しています。

 上述の最高裁平成5年5月28日第三小法廷判決は原審(東京高裁平成元年8月30日判決・税資173号543頁)及び一審(東京地裁昭和62年10月26日判決・判時1258号38頁)の判断を支持しましたが、一審において、「同条(編注:相続税法55条)にいう相続分とは、民法900条ないし904条の規定により定まる相続分(以下「法定等相続分」という。)のみをいうものではなく、共同相続人間で相続分の譲渡があつた場合における当該譲渡の結果定まる相続分(譲渡人については法定等相続分から譲渡した相続分を控除したものを、譲受人については法定等相続分に譲り受けた相続分を加えたもの)も含まれるものと解するのが相当である。」旨判示しています。

 よって、共同相続人間で相続分の譲渡があつた場合における相続税の課税価格の計算は、譲渡人については法定等相続分から譲渡した相続分を控除したものとなり、譲受人については法定等相続分に譲り受けた相続分を加えたものと考えられます。しかし、これは、無償譲渡による場合といえます。

 大阪地裁令和4年4月14日判決では、共同相続人間において相続分を有償で譲渡した場合は、譲渡人は譲渡代金を取得しているため、相続税の課税価格の計算上、取得した譲渡代金相当を別途加算する必要があると判示されました。一方、譲受人は有償で相続分を譲り受けているため、相続税の課税価格の計算上、支払った譲渡代金相当を別途控除しないと不合理でしょう。

 共同相続人間において相続分を有償で譲渡して譲渡代金を取得することは、経済的実体としては、代償分割の方法により遺産分割が行われた場合に代償財産を取得することと等しいから、共同相続人間で相続分の譲渡が有償で行われた場合の相続税の課税価格の計算については、代償分割が行われた場合と同じ取扱いとするのが公平であるといえます。

 なお、共同相続人間における相続分の譲渡であれば、譲渡所得や贈与税の課税は生じないものと考えられます。

 一方、その相続分の譲渡が、共同相続人以外の第三者に譲渡された場合には、その相続分を譲り受けた第三者は遺産分割の当事者となっても、これにより共同相続人となるわけではありません。そのため、その第三者の取得した財産は、相続により取得したものであるとすることはできず、相続分を譲渡した共同相続人が一旦相続により取得したものとして、譲渡人に相続税の課税が生じます。

 その上で、別途、第三者が譲り受けたものとして、別の課税関係が生じるものと考えられ、譲渡人に対しては譲渡所得の課税が、譲受人である第三者に対しては贈与税の課税が生じる場合があるということになります。

 さいたま地裁平成17年4月20日判決(訟月52巻8号2661頁)では、相続人である者が、その子Xら(被相続人にとって孫にあたるが相続人ではない)に相続分の譲渡をし、その結果、相続税と贈与税のいずれがXらに課税されるのかが争われましたが、贈与税が課税されると判示されました。

最高裁平成13年7月10日第三小法廷判決(民集55巻5号955頁)要旨

 共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、譲受人は従前から有していた相続分と新たに取得した相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割に加わることとなり、分割が実行されれば、その結果に従って相続開始の時にさかのぼって被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになる。このように、相続分の譲受人たる共同相続人の遺産分割前における地位は、持分割合の数値が異なるだけで、相続によって取得した地位と本質的に異なるものではない。そして、遺産分割がされるまでの間は、共同相続人がそれぞれの持分割合により相続財産を共有することになるところ、上記相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。相続分の譲渡により生ずるこのような法的な状態は、譲渡前に個々の不動産について相続の登記がされたか否かにより左右されるものではない。

共同相続人間における相続分の譲渡に伴って譲渡人が取得した金員は、「相続又は遺贈により取得した財産」に当たるとされた事例-大阪地裁令和4年4月14日判決(tains:Z888-2541)(棄却)(控訴)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① Zが死亡し、相続(以下「本件相続」という。)が開始した。Zの法定相続人は、Zの長女であるAとZの二女である原告Xの2人である。
② Xは、平成28年1月28日、Aとの間で、Zの相続に係る自己の相続分を全てAに譲渡し(以下、この相続分の譲渡を「本件相続分譲渡」という。)、同月29日、Aから譲渡代金として1000万円の支払を受けた。
③ X及びAは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の法定申告期限内である平成28年2月29日、処分行政庁に対し、本件相続税の申告書を提出した。
④ 処分行政庁は、令和2年11月30日付けで、Xに対し、Xが本件相続分譲渡によって取得した譲渡代金1000万円は相続税の課税対象となることなどを理由として、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件各処分」という。)を受けたことから、本件各処分は、Xが相続分の譲渡によって取得した譲渡代金を相続税の課税対象とする点で法律の根拠に基づかずに課税するものであり、租税法律主義について定める憲法30条及び84条に反し違憲・違法であるなどと主張して、本件各処分の取消しを求めた。

(2)本件の主な争点

 本件各処分が憲法30条及び憲法84条に適合するか否かである。具体的には、相続分の譲渡によって取得した譲渡代金は相続税の課税対象となるのか否かである。

(3)判決要旨(棄却)(控訴)

① Xは、所轄税務署長が相続分の譲渡についての新たな立法手順を踏むことなく、本件相続分譲渡によって得た譲渡代金に課税したことは、憲法30条及び憲法84条に違反する旨主張する。すなわち、相続税法は、相続税の納税義務者を「相続‥により財産を取得した‥者」と定め(相続税法1条の3第1号)、その例外(みなし相続)として法定されているのは、生命保険金等に限定されており(同法3条)、相続分の譲渡によって得た譲渡代金は、直接「相続‥により」財産を取得するものではなく、また、みなし相続として法定されていないことから、相続分の譲渡は、相続税法11条の2第1項の「相続又は遺贈により取得した財産」に当たらず、本件各処分は、法律の根拠なくされたものであって、違憲・違法である旨主張する。
 そこで、相続分の譲渡によって得た譲渡代金が、相続税法11条の2第1項の「相続又は遺贈により取得した財産」に当たるか否かについて検討する。
② 相続税法は、相続又は遺贈によって財産を取得した場合に、その取得した財産に対して課税することにより、私人の相続の機会を捉えて、被相続人の遺産の一部を社会に還元させることを目的とするものであると解される。このような相続税法の目的や、相続税の負担の公平という観点からすれば、直接被相続人から相続によって承継取得した財産だけでなく、相続権に基因して取得した財産も、相続によって取得した財産と実質的には同視し得ることから、「相続‥により取得した財産」に当たると考えるのが相当である。
③ 共同相続人間における相続分の譲渡は、譲渡人が相続によって取得した積極財産と消極財産とを包含した遺産全体に対する割合的な持分を、他の共同相続人に譲渡することをいい、これに伴い、譲渡人が有する個々の相続財産についての共有持分も譲受人に移転するものである。相続分の譲渡は、譲渡人と譲受人の合意のみによって行うことができ、相続人全員の合意を必要とせず、その効果は相続開始時に遡及せず、相続分の譲渡の時に生ずるなど、遺産分割とはその内容性質を異にするものではあるが、譲渡の対象となる相続分は譲渡人が相続によって取得したものであり、譲渡人が相続分の譲渡によって受領する金員は、代償分割における代償金と経済約に異なるところはなく、自己の相続権に基因して取得した財産であるといえる。したがって、共同相続人間における相続分の譲渡に伴って譲渡人が取得した金員は、相続税法11条の2第1項の「相続又は遺贈により取得した財産」に当たるというべきである。
④ Xは、平成28年1月28日、Aとの間で、Zの相続に係るXの相続分を代金1000万円でAに譲渡する旨の契約を締結し、同月29日、Aから、同契約に基づき譲渡代金1000万円の支払を受けたのであり、XがAから得た譲渡代金1000万円は、自己の相続権に基因して取得した財産であり、相続税法11条の2第1項の「相続又は遺贈により取得した財産」に当たる。
⑤ したがって、本件各処分は、憲法の委任を受けた相続税法11条の2第1項に基づく処分であるといえるから、憲法30条及び憲法84条に適合する。