概要
公的年金の収入計上時期は、その支給の基礎となった法令等により定められた支給日であるため、前年分以前の期間に対応する年金が一括して支給されても、年分ごとに区分して収入金額を計算します(所得税基本通達36-14(1))。
仙台高裁平成19年3月27日判決(税資257号-60(順号10669))(棄却)(上告)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 納税者Xは、公的年金の受給者であり、平成12年分及び平成13年分の確定申告において、妻の所得金額は両年分とも38万円以下であるとして、配偶者控除(38万円)及び配偶者特別控除(8万円)をそれぞれ適用して計算した内容の申告書をそれぞれ法定申告期限内に提出した。
② Xの妻は、平成14年9月に山形社会保険事務所長に対して、厚生年金保険給付裁定請求をした結果、平成14年10月に老齢厚生年金を支給する旨の裁定を受け、同年11月に平成9年11月分ないし同14年9月分の老齢厚生年金(以下「本件年金」)を一括して受領した。
③ 課税庁は、本件年金はその支給期の属する各年分に帰属するとし、そうするとXの妻の「平成12年分」及び「平成13年分」の所得金額はいずれも38万円を超えるので、Xの同年分につき、配偶者控除の適用はなく、配偶者特別控除(38万円)のみが適用されるという内容の更正処分を行った。
④ Xは、異議申立て及び審査請求を経て訴訟を提起し、第一審判決(請求棄却)を不服として本訴に及んだものである。
(2)本件の主な争点
Xの妻が受領した老齢厚生年金の収入の帰属時期はいつかである。
(3)判決要旨(棄却)(上告)
① 所得の帰属時期
所得税法は、一暦年を単位としてその期間ごとに課税所得額を計算し課税を行うこととしているのであるが、同法36条1項が同期間中の収入金額の計算について「収入すべき金額」によるとしており、また、課税に当たって常に現金収入の時まで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期しがたいことからすれば、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして前記権利確定の時期に属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される。そして、収入の原因となる権利が確定する時期はそれぞれの権利の特質を考慮して決定されるべきである。
② 老齢厚生年金受給権の発生時期
厚生年金保険法(以下「厚年法」)の定める年金給付に係る受給権は、同法の定める受給要件を満たした時点で基本権が発生し、その後支給期日が到来することにより支分権が発生し、受給権者が裁定の請求さえすればいつでも年金の支給を受けることができる状態にあるから、その支給期日が到来した時点で年金の支給を受ける権利を確定したものと解される。
また、法令により定められた支給日をもって当該年金の収入すべき時期と解すれば、納税者が恣意的に所得の帰属年度を操作する余地を排して課税の公平を図ることができるのに対し、裁定により一時に支払われることとなった老齢厚生年金の収入すべき時期を当該裁定時と解したのでは、受給権者が裁定の請求を遅らせることによって所得の帰属年度を人為的に操作する余地が生じるなど、納税者の恣意を許し、課税の公平を害することとなる。
よって、老齢厚生年金については、厚年法36条に規定された支払期月が到来した時にその支給を受ける権利が確定すると解されるのであるから、裁定により前年分以前の老齢厚生年金が一時に支払われることとなった場合には、厚年法36条が定める支払期月の属する年分の収入金額として課税所得を計算すべきである。