暗号資産の譲渡原価

 暗号資産の譲渡原価は、暗号資産の種類(ビットコインやイーサリアムなど)ごとに、「①:前年から繰り越した年初(1月1日)時点で保有する暗号資産の評価額」と「②:その年中に取得した暗号資産の取得価額の総額」との合計額から、「③:年末(12 月 31 日)時点で保有する暗号資産の評価額」を差し引いて計算します。

 この「③:年末時点で保有する暗号資産の評価額」は、その保有する暗号資産の「年末時点での1単位当たりの取得価額」に「年末時点で保有する数量」を乗じて求めますが、「年末時点での1単位当たりの取得価額」は、「総平均法」又は「移動平均法」のいずれかの評価方法により算出することとされています(所法48の2、所令119の2、119の3)。

 国税庁のホームページ「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について」において、暗号資産の譲渡原価を含め、その売却等に係る所得金額を計算できるEXCEL仕様の「暗号資産の計算書(総平均法用・移動平均法用)」が無料でダウンロードできますので、それを利用すると計算が簡単にできます。

 ただし、取引量が多い場合は、お金を払っても市販の暗号資産損益計算専用のソフト(ツール)を使うのが現実的といえます。

〇国税庁のホームページ「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/kakuteishinkokukankei/kasoutuka/index.htm

 株式の1単位当たりの取得価額を計算する場合、1単位当たりの金額に1円未満の端数があるときは、その端数を切り上げると定められています(措通37の10・37の11共-14)。

 一方、暗号資産の取得価額を計算する場合の端数処理についての定めはありません。そのため、現状は、国税庁のホームページからダウンロードできる「暗号資産の計算書(総平均法用・移動平均法用)」による端数処理で計算するしかないと思いますが、私が、端数処理が出るように仮定の数字でいくつか検証してみたところ、「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」に記載されている計算過程を経て計算した場合と「暗号資産の計算書(EXCEL)」で計算した場合では譲渡原価が1円違う場合がありました(気にするほどの違いではありませんが)。

 なお、「暗号資産の計算書」は、今後、修正されることもあると思いますので、「暗号資産の計算書」を利用する場合は、最新のものをダウンロードして利用されるのがよいと思います。

暗号資産の評価方法である総平均法と移動平均法

 「総平均法」とは、同じ種類の暗号資産について、年初時点で保有する暗号資産の評価額とその年中に取得した暗号資産の取得価額との総額との合計額をこれらの暗号資産の総量で除して計算した価額を「年末時点での1単位当たりの取得価額」とする方法をいいます(所令119の2①一)。

 「移動平均法」とは、同じ種類の暗号資産について、暗号資産を取得する都度、その取得時点において保有している暗号資産の簿価の総額をその時点で保有している暗号資産の数量で除して計算した価額を「取得時点の平均単価」とし、その年12月31日から最も近い日において算出された「取得時点の平均単価」を「年末時点での1単位当たりの取得価額」とする方法をいいます(所令119の2①二)。

 「総平均法」の場合は、暗号資産交換業者から送付される年間取引報告書に記載されている年間の購入や売却に関する合計の数量や金額を「暗号資産の計算書(総平均法用)(EXCEL)」に入力すれば、簡便に所得金額を計算することができます。

 一方、「移動平均法」の場合は、「暗号資産の計算書(移動平均法)(EXCEL)」に入力するといっても、購入や売却等の1取引ごとに数量や金額を入力することになり、「総平均法」のように、年間の合計の数量や金額だけ入力すればよいというわけではありません。

 そのため、計算の簡便さだけを求めるならば、「総平均法」を採用するのがよいということになりますが、計算の結果、「移動平均法」を採用したほうが、納税額が少なくなる場合もあるでしょう。

 よって、一概にどちらの方法を採用したほうがよいとはいえませんが、一度、採用した評価方法は、相当期間(特別の理由がない場合には3年)を経過していないと変更することはできないとされています(後述)。

取得価額を平均化する方法(総平均法又は移動平均法)の例外規定

 上述したように、暗号資産の取得価額を計算する場合は、取得価額を平均化する方法(総平均法又は移動平均法)が原則です(所令119の2①)。

 ただし、例外として、「暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得」につき、平均化の対象に含めないものとされています(所令119の2②)。

 この理由は、暗号資産の中には、全世界的に通貨(外貨を含む。)との交換ができず、特定の暗号資産とのみ交換できるものがあるところ、このような暗号資産の交換等のために一時的に必要となった暗号資産を含めて取得価額の平均化をすることは実態に合わないためであると解されるからです(所基通48の2-1、東京地裁令和7年2月5日判決・令和4年(行ウ)435号)。

 したがって、取得価額を平均化する方法(総平均法又は移動平均法)の例外規定が適用されるのは、暗号資産の中でも、全世界的に通貨との交換ができないという限られた暗号資産の交換等の場面に限定されると解されています。

 なお、一時的に必要な暗号資産の譲渡原価の計算における取得価額は、個別法(当該暗号資産について、その個々の取得価額をその取得価額とする方法をいう。)により算出することになります。

暗号資産の評価方法の選定と変更手続

(1)暗号資産の評価方法の選定と届出

 初めて暗号資産を取得した場合は、初めて暗号資産を取得した年分の確定申告期限(原則は、翌年3月15日)までに、納税地の所轄税務署長に対し、選択した評価方法(総平均法または移動平均法)など所定の事項を記載した「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」を提出する必要があります(所令119の3②)。

 また、暗号資産の評価の方法は、その種類(ビットコインやイーサリアムなど)ごとに選定しなければならないため(所令119の3①)、異なる種類の暗号資産を取得した場合にも、同様にその取得した年分の確定申告期限までに、届出書を提出する必要があります。名称の異なる暗号資産は、それぞれ種類の異なる暗号資産として区分します(所基通48の2-2)。

 すでに届出書を提出している種類の暗号資産については、それ以降、取得をしても届出書を提出する必要はありません。

 なお、評価方法の届出書の提出がない場合には、評価方法は法定評価方法である総平均法になります(所令119の5①)。

(2)暗号資産の評価方法の変更手続

 暗号資産につき選定した評価方法(評価方法を届け出ずに、「総平均法」を評価方法としていた場合を含みます。)を変更しようとする場合には、その年の3月15日までに、納税地の所轄税務署長に対し、変更後の評価方法を用いる旨を記載した「所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書」を提出して、その承認を受ける必要があります(所令119の4、101②)。

 この変更承認申請書を提出した年の12月31日までに承認又は却下の通知がない場合は、その日において承認があったものとみなされます(所令119の4②、101⑤)。

 変更前の評価方法を採用してから相当期間(特別の理由がない場合には3年)を経過していないときや、変更しようとする評価方法によっては所得金額の計算が適正に行われ難いと認められるときは、その申請が却下される場合があります(所令119の4②、101③、所基通48の2-3、47-16の2)。