概要

 法人における譲渡する有価証券の帳簿価額は以下のように計算します。

1単位当たりの有価証券の帳簿価額 × 譲渡した有価証券の数

 そして、1単位当たりの有価証券の帳簿価額の算出方法には、移動平均法と総平均法の2つの方法があります(法法61の2①二、法令119の2①)。

 移動平均法とは、有価証券をその銘柄の異なるごとに区別し、その銘柄を同じくする有価証券の取得をする都度その有価証券のその取得直前の帳簿価額とその取得をした有価証券の取得価額との合計額をこれらの有価証券の総数で除して平均単価を算出し、その算出した平均単価をもつてその1単位当たりの帳簿価額とする方法をいいます(法令119の2①一)。

 総平均法とは、有価証券をその銘柄の異なるごとに区別し、その銘柄の同じものについて、当該事業年度開始の時において有していたその有価証券の帳簿価額とその事業年度において取得をしたその有価証券の取得価額の総額との合計額をこれらの有価証券の総数で除して平均単価を算出し、その算出した平均単価をもつてその1単位当たりの帳簿価額とする方法をいいます(法令119の2①二)。

計算例

 A社株式の取得と譲渡があった場合の、③「年中譲渡30株」の譲渡原価の計算は以下の通りです(12月決算の法人が取得、譲渡した場合)。

① 2/1取得  100株  (取得価額 10,000円 )
② 4/3取得  60株   ( 取得価額  5,200円)
③ 7/3譲渡  30株
④ 9/9取得  40株   ( 取得価額  3,200円)

( 移動平均法 )
10,000円 ①+ 5,200円 ② / 100株 ①+ 60株 ② =95円   譲渡原価 95円×30株③=2,850円

( 総平均法 )
10,000円 ①+ 5,200円 ②+ 3,200円 ④ / 100株 ①+ 60株 ② + 40株 ④ =92円   譲渡原価 92円×30株③=2,760円

移動平均法の仕訳

現金預金 ×××  有価証券 ××× (譲渡原価)
          有価証券売却益 ×××

総平均法の仕訳

 譲渡後に、期中で新たに取得する銘柄でない場合は、上記の移動平均法と同じ仕訳で問題ないですが、譲渡後に、期中で取得する銘柄の場合は、売却時において、有価証券の譲渡原価がまだ確定していないことになります。よって、売却時には、一旦、以下の仕訳をします。

現金預金 ×××  有価証券 ×××

 そして、期末処理において、正確な譲渡原価を算出して、以下の決算仕訳をします。

有価証券 ×××  有価証券売却益 ×××

 または、仮受金勘定の利用でもよくて、その場合は、売却時には、一旦、以下の仕訳をします。

現金預金 ×××  仮受金 ×××

 そして、期末処理において、正確な譲渡原価を算出して、以下の決算仕訳をします。

仮受金 ×××  有価証券 ××× (譲渡原価)
         有価証券売却益 ×××

保有目的が違う場合

 有価証券をその銘柄の異なるごとに区別して、1単位当たりの帳簿価額を算出しますが、法人によっては、同じ銘柄の株式ではあるが、保有目的が違う場合ということもあるでしょう。

 このような場合は、有価証券を売買目的有価証券、満期保有目的等有価証券又はその他有価証券のいずれかに区分した後のそれぞれの銘柄別に1単位当たりの帳簿価額を算出します(法令119の2②)。

 例えば、A社株式を売買目的有価証券として100株、その他有価証券として100株持っているような場合は、それぞれの保有目的ごとに個別計算をするので、売買目的有価証券、その他有価証券ごとに個別計算をします。

届出

 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法は、有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法の有価証券の区分ごとに、かつ、その種類ごとに選定しなければなりません(法令119の5①)。

 有価証券の取得をした場合には、その取得をした日の属する事業年度の確定申告書の提出期限(中間申告書を提出する場合には、その中間申告書の提出期限)までに、区分及び種類を同じくする有価証券につき選定した帳簿価額の算出方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければなりません(法令119の5②)。

 ただし、取得日の属する事業年度前の事業年度においてその有価証券と区分及び種類を同じくする有価証券につき届出をする場合は届け出は省略ができます(法令119の5②ただし書き)。

〇有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_18.htm

区分と種類

 区分とは、売買目的有価証券、満期保有目的等有価証券又はその他有価証券の別をいいます。

 種類とは、おおむね金融商品取引法2条1項1号から21号まで(17 号を除きます。)の各号の区分によります(法基通2-3-15)。

 この場合、外国又は外国法人の発行するもので同項1号から第9号まで及び12号から16号までの性質を有するものはこれに準じて区分します。

 したがって、例えば、国債証券、地方債証券、社債券(相互会社の社債券を含みます。)、株券(新株予約権を表示する証券を含みます。)、証券投資信託の受益証券、貸付信託の受益証券などは、それぞれ種類の異なる有価証券として区分することができます。

 また、新株予約権付社債は、それ以外の社債とはそれぞれ種類の異なる有価証券として区分し、外貨建ての有価証券と円貨建ての有価証券又は外国若しくは外国法人の発行する有価証券と国若しくは内国法人の発行する有価証券は、それぞれ種類の異なる有価証券として区分することができます。

〇金融商品取引法2条1項
 この法律において「有価証券」とは、次に掲げるものをいう。
一 国債証券
二 地方債証券
三 特別の法律により法人の発行する債券(次号及び第十一号に掲げるものを除く。)
四 資産の流動化に関する法律に規定する特定社債券
五 社債券(相互会社の社債券を含む。以下同じ。)
六 特別の法律により設立された法人の発行する出資証券(次号、第八号及び第十一号に掲げるものを除く。)
七 協同組織金融機関の優先出資に関する法律(以下「優先出資法」という。)に規定する優先出資証券
八 資産の流動化に関する法律に規定する優先出資証券又は新優先出資引受権を表示する証券
九 株券又は新株予約権証券
十 投資信託及び投資法人に関する法律に規定する投資信託又は外国投資信託の受益証券
十一 投資信託及び投資法人に関する法律に規定する投資証券、新投資口予約権証券若しくは投資法人債券又は外国投資証券
十二 貸付信託の受益証券
十三 資産の流動化に関する法律に規定する特定目的信託の受益証券
十四 信託法に規定する受益証券発行信託の受益証券
十五 法人が事業に必要な資金を調達するために発行する約束手形のうち、内閣府令で定めるもの
十六 抵当証券法に規定する抵当証券
十七 外国又は外国の者の発行する証券又は証書で第一号から第九号まで又は第十二号から前号までに掲げる証券又は証書の性質を有するもの(次号に掲げるものを除く。)
十八 外国の者の発行する証券又は証書で銀行業を営む者その他の金銭の貸付けを業として行う者の貸付債権を信託する信託の受益権又はこれに類する権利を表示するもののうち、内閣府令で定めるもの
十九 金融商品市場において金融商品市場を開設する者の定める基準及び方法に従い行う第二十一項第三号に掲げる取引に係る権利、外国金融商品市場(第八項第三号ロに規定する外国金融商品市場をいう。以下この号において同じ。)において行う取引であつて第二十一項第三号に掲げる取引と類似の取引(金融商品(第二十四項第三号の三に掲げるものに限る。)又は金融指標(当該金融商品の価格及びこれに基づいて算出した数値に限る。)に係るものを除く。)に係る権利又は金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行う第二十二項第三号若しくは第四号に掲げる取引に係る権利(以下「オプション」という。)を表示する証券又は証書
二十 前各号に掲げる証券又は証書の預託を受けた者が当該証券又は証書の発行された国以外の国において発行する証券又は証書で、当該預託を受けた証券又は証書に係る権利を表示するもの
二十一 前各号に掲げるもののほか、流通性その他の事情を勘案し、公益又は投資者の保護を確保することが必要と認められるものとして政令で定める証券又は証書

届出をしなかった場合

 法人が届出をしなかった場合は、法定算出方法による移動平均法とされます(法令119の7①)。

 ただし、税務署長は、法人が有価証券につき選定した1単位当たりの帳簿価額の算出方法(算出方法を届け出なかつたことにより、法定算出方法による移動平均法とされた場合を含む。)によりその1単位当たりの帳簿価額を算出しなかつた場合でも、その法人が行った算出の方法が移動平均法あるいは総平均法のうちいずれかの方法に該当し、かつ、その行った方法によってもその法人の各事業年度の所得金額の計算を適正に行うことができると認めるときは、その方法により計算した各事業年度の所得の金額を基礎として更正又は決定をすることができることになっています(法令119の7②)。