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妻のiDeCo(イデコ)の掛金を夫が負担した場合、夫の所得控除にできるのか?贈与税にも注意

妻のiDeCo掛金を夫の所得控除にすることはできない

 妻が加入者となっているiDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金について、夫がその掛金相当額を実質的に負担したとしても、その掛金を夫の「小規模企業共済等掛金控除」とすることはできません。

 iDeCoの掛金について所得控除を受けることができるのは、原則としてiDeCoの加入者本人です。妻が加入者であれば妻の小規模企業共済等掛金控除となり、夫が資金を負担したというだけで夫の所得控除に振り替えることはできません(所法75①②)。

社会保険料控除とは取扱いが異なる

 この点は、国民年金保険料などに適用される「社会保険料控除」と取扱いが異なります。

 社会保険料控除について、所得税法74条1項は、本人だけでなく、「自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族」の負担すべき社会保険料を支払った場合も、その支払った者の社会保険料控除の対象とすることを定めています。

 したがって、例えば、夫が生計を一にする妻の国民年金保険料を実際に支払った場合には、その夫が社会保険料控除を受けられることがあります(所法74①)。

 これに対して、小規模企業共済等掛金控除を定める所得税法75条には、社会保険料控除のように「生計を一にする配偶者その他の親族」の掛金まで控除できるという規定はありません。

 国税庁の確定申告の手引きでも、小規模企業共済等掛金控除について、「配偶者その他の親族が加入者となっている掛金」は本人の控除対象にならないことが明示されています(所法75①②、国税庁「所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」)。

iDeCoの個人払込は本人名義の口座から行う

 なお、現在のiDeCoでは、「個人払込」の場合、原則として加入者本人名義の預金口座から掛金が引き落とされます。

 特に、国民年金の第3号被保険者である専業主婦(夫)については、iDeCo公式FAQでも、掛金の納付方法は本人名義の預金口座からの「個人払込」に限定され、配偶者がその掛金をまとめて支払うことはできないとされています。

 そのため、実務上問題になるのは、「夫名義の口座から妻のiDeCo掛金を直接引き落とす」というよりも、夫が妻に掛金相当額の資金を渡し、妻本人名義の預金口座から妻のiDeCo掛金を納付するようなケースです。

 この場合でも、小規模企業共済等掛金控除を受けることができるのは、加入者である妻であって、夫の所得控除とすることはできません(所法75①②)。

 なお、妻に所得税の課税所得がなければ、小規模企業共済等掛金控除があっても、妻について所得税を軽減する効果はありません。

夫が妻にiDeCo掛金相当額を渡した場合は贈与税にも注意

 夫が妻にiDeCo掛金相当額の資金を渡す場合には、所得税だけでなく、贈与税についても検討する必要があります。

 夫婦その他の扶養義務者の間で、通常必要と認められる生活費や教育費を必要な都度贈与した場合には、贈与税は課税されません(相法21の3①二)。

 しかし、この非課税となるのは、通常の日常生活に必要な生活費等として必要な都度直接使用されるものです。生活費等の名目で渡された資金であっても、預貯金された場合や株式の購入などに充てられた場合には、生活費等の非課税の対象にはならないとされています(相基通21の3-3~6)。

 iDeCoは、現在の日常生活費を支払うための制度ではなく、老後のために資金を積み立て、運用する制度です。このため、夫が妻に渡したiDeCo掛金相当額について、「夫婦間の生活費だから当然に贈与税はかからない」と考えるのは適切ではなく、贈与として課税関係を検討しておく必要があります(相法21の3①二、相基通21の3-3~6)。

110万円は「iDeCo掛金だけ」で判定するものではない

 暦年課税の場合、贈与税には年間110万円の基礎控除があります(相法21の5、措法70の2の4)。

 ただし、この110万円は「夫が負担した妻のiDeCo掛金の金額」だけで判定するものではありません。

 妻がその年の1月1日から12月31日までに贈与により取得した課税財産の価額を合計して、年間110万円の基礎控除を判定します。

 例えば、夫から妻へのiDeCo掛金相当額の贈与が年間30万円であっても、それとは別に夫やその他の者から妻が課税対象となる財産の贈与を受けている場合には、それらを合わせて贈与税を検討する必要があります。

 したがって、「妻のiDeCo掛金が年間110万円を超えなければ贈与税の問題はない」という考え方ではない点に注意が必要です。

現行のiDeCo掛金だけで年間110万円を超えることはない

 2026年8月25日現在、国民年金第1号被保険者のiDeCo掛金は、国民年金基金の掛金と合計して月額6万8,000円が上限です。また、企業年金等に加入していない第2号加入者及び第3号加入者は月額2万3,000円が上限です。

 そのため、現行制度では、iDeCo掛金そのものが年間110万円を超えることはありません。

 なお、iDeCoの拠出限度額については改正政令が既に公布されており、2026年12月1日から、第1号加入者のiDeCoと国民年金基金との共通限度額は月額7万5,000円、第2号加入者については企業年金等との共通の拠出限度額が月額6万2,000円に引き上げられます。

 改正後についても、第1号加入者の共通限度額は年間90万円です。そのため、iDeCo掛金だけで年間110万円を超えるわけではありません。

 贈与税について重要なのは、iDeCo掛金だけを見るのではなく、妻がその年中に受けた課税対象となる贈与全体を確認することです。

平成15年1月28日裁決(裁事65集268頁)

 この問題を考えるうえで参考になるのが、平成15年1月28日裁決(裁事65集268頁)です。

 この裁決はiDeCoそのものについて争われた事案ではなく、小規模企業共済の掛金について争われたものです。

 歯科医業を営む夫である請求人は、自分自身を契約者とする小規模企業共済掛金だけでなく、妻を共済契約者とする小規模企業共済掛金についても、自分の預金口座から支払っていました。

 そこで夫は、妻の掛金についても自分が実際に支払っている以上、自分の小規模企業共済等掛金控除の対象になると主張しました。

 これに対し、国税不服審判所は、所得税法75条1項について、居住者が自己の契約に基づく小規模企業共済掛金を支払った場合に所得控除を認める規定であると判断しました。

 そして、妻を共済契約者とする掛金が夫の預金口座から支払われていたとしても、その掛金を夫の小規模企業共済等掛金控除の対象とすることはできないと判断しています。

 この裁決はiDeCoについての裁決ではありませんが、小規模企業共済掛金とiDeCoの個人型年金加入者掛金はいずれも所得税法75条の「小規模企業共済等掛金控除」の対象です。

 そのため、「配偶者に帰属する掛金を自分が資金負担したという理由だけで、自分の小規模企業共済等掛金控除にできるか」という点を考えるうえで参考になる裁決といえます。

平成15年1月28日裁決(裁事65集268頁)要旨

 請求人は、所得税法第75条《小規模企業共済等掛金控除》第1項の規定は「居住者が、各年において、小規模企業共済等掛金を支払った場合には、その支払った金額を、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。」としていることから、請求人が支払っている以上、請求人の青色事業専従者の小規模企業共済掛金も同法の規定に該当し、請求人の所得控除の対象とすることができる旨主張する。

 しかしながら、同法の規定は、居住者が、各年において、自己が契約した小規模企業共済法の共済契約に基づく掛金を支払った場合に、その支払った金額について所得控除を認めるものであり、請求人が請求人の青色事業専従者を共済契約者とする小規模企業共済掛金を支払っていたとしても請求人の小規模企業共済等掛金控除の対象とはならない。

まとめ

 妻が加入者であるiDeCoの掛金相当額を夫が負担したとしても、その掛金を夫の小規模企業共済等掛金控除にすることはできません。社会保険料控除とは異なり、小規模企業共済等掛金控除には、生計を一にする配偶者その他の親族の掛金を支払った場合に、その支払者の所得控除とする規定がないためです(所法74①、75①②)。

 また、iDeCoの個人払込は原則として加入者本人名義の預金口座から行われます。夫が妻のiDeCo掛金相当額を負担する場合には、所得控除だけでなく、夫から妻への資金移転について贈与税の検討も必要です。

 贈与税の年間110万円の基礎控除は、iDeCo掛金だけについて判定するものではありません。妻がその年中に受けた課税対象となる贈与全体で判断する必要がある点にも注意してください(相法21の5、措法70の2の4)。

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