(1)事案の概要
 本件は、スクラップ加工等を行う同族会社である審査請求人X(以下「X」という。)が、役員A(以下「A」という。)の分掌変更に伴いAに対し退職慰労金として支給した金員(以下「本件金員」という。)について、原処分庁が、Aは分掌変更により実質的に退職したと同様の事情にあるとは認められないから、本件金員は退職給与ではなく損金の額に算入されない役員給与であるとして法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに、本件金員は給与所得に該当するとして源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をしたことに対し、Xが、本件金員は退職給与ないし退職所得であるとして、処分の全部取消しを求めた事案である。本件は、同族会社がその役員の分掌を変更し、かつ、その給与を50%以上減額した際に退職慰労金として金員を支払った場合に、その金員が法人税法上の「退職給与」として所得金額の計算上損金の額に算入し得るか、また、その金員が所得税法上の「退職所得」として課税軽減の適用が認められるか、が争われたものである。

○本件における基礎事実等は、次のとおりである。
①Aは、Xの設立時取締役であり、昭和41年7月、Xの代表取締役社長に就任した。また、Aの長女であるBは、平成18年1月、Xの代表取締役に就任した。
②Xの発行済株式の総数は10,000株であるところ、平成11年頃から、Aが500株、Bが4,000株、Bの夫でXの取締役であるFが1,750株、G社が3,750株を保有していた。なお、Aは、G社の株式を保有していない。
③Aは、平成17年8月、平成21年7月にそれぞれ深刻な病気となり、入院したことがあり、平成22年7月に再度病気となった。その後、Aは治療のために通院を続けた。
④平成23年5月、Aは、Xの代表取締役社長を辞任し、代表権のない取締役会長となった(以下、このAの役職の変更を「本件分掌変更」という。)。本件分掌変更後のXの代表取締役はBのみであり、Xの取締役はA、B及びFであった。
⑤平成23年5月20日付の臨時株主総会において、Xは、本件分掌変更に際しAに対して退職慰労金を支給することを決議し、同月26日付でAに対し当該退職慰労金(所得税等控除後の残額)を支払った。Aの平成23年7月分の給与額は、改定前の平成23年6月分の給与額に比べて約55%減少した。ただし、当分の間、Aは、本件分掌変更後も、後任の代表取締役であるBの役員給与額の2倍の給与額を受け取っていた。
⑥Xは、平成22年6月1日から平成23年5月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)において、本件金員を役員退職金勘定に計上し、本件事業年度の法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入して、法定申告期限までに確定申告した。また、平成23年6月10日、Xは本件金員が退職所得に該当するとして、本件金員に対する源泉所得税を納付した。
⑦平成27年7月、Aは、Xの代表取締役に再度就任した。
⑧平成28年5月31日、所轄税務署長は、本件事業年度の法人税について、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。同日、平成23年5月分の源泉所得税について、納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした。
 
○本件分掌変更後の事実は、次のとおりである。
① Aの出勤状況
 Aは、本件分掌変更前は、ほぼ毎日、午前6時から6時半頃Xに出社し、午後4時から5時頃退社していたところ、本件分掌変更後は、ほぼ毎日、午前7時から8時頃Xに出社し、午前中に退社していた。また、Aは、発病直後を除き、本件分掌変更前後を通じ、自ら自動車を運転して通勤していた。
② 本件分掌変更後の取引先との折衝等
 Aは、本件分掌変更の後、流れ屑の取引価格及び配合方針の決定に係る権限をF等に徐々に移譲するようになった。ただし、権限移譲の過程においても、Aは、単発的に発生する流れ屑の取引価格についてF等から相談を受けてアドバイスをしたり、流れ屑の輸入取引に係る取引条件について取引先から直接連絡を受けることがあった。また、Aは、本件分掌変更後の平成24年2月頃まで、少なくとも22回以上、Xの取引先の幹部に対して飲食等の接待をした。
③ 本件分掌変更後の金融機関との折衝等
 Aは、本件分掌変更の後、融資交渉等の金融機関との折衝に係る権限を徐々にBに移譲するようになり、Bが金融機関からの借入れの申込みを行うようになった。また、本件分掌変更に伴い、Aは金融機関から同意を得て、Xの連帯保証人の地位から脱退した。なお、権限移譲の過程で、Aは、Bと金融機関との借入れに係る利率等の条件交渉の場に立ち会い、自らの意見を述べることもあった。
④ 本件分掌変更後の人事関係の決定等
 Aは、本件分掌変更前、従業員の採用決定に関与するとともに、従業員の給料や賞与の査定を行っていたが、本件分掌変更に伴い、それらに係る権限をB及びFに移譲した。
Aは、平成23年7月18日、Xの取締役会に出席し、B及びFと共に、役員給与の変更について決定した(平成24年7月30日の取締役会においても同じ)。また、Aは、平成25年5月、横領等の不正行為を働いた事業所長の解雇を、B及びFと共に決定した。
⑤ 本件分掌変更後の事業所に係る支出等
 Aは、本件分掌変更前と同様、取締役であるA、B及びFのみを構成員として年5、6回不定期に開催される経営会議に出席し、数千万円から1億円超にも及ぶ事業用資産の購入をB及びFと共に決定した。また、Xは、本件分掌変更前後を通じ、Xの事業所の操業継続に支障を及ぼす周辺の住民との間のトラブル(騒音、振動等に関するもの)を抱えており、Aは、そのトラブルの解決のために住民などに金員を渡すこととし、本件分掌変更前後を通じ、必要に応じて、Bに出金を指示して、住民などに金員(本件事業年度やその翌事業年度においては申告所得額の約1割に相当する額)を支払っていたが、その詳細については、B及びFに知らせていなかった。
 
(2)裁決要旨
①法人税法上の退職給与該当性について
 本件分掌変更に伴い、Aの地位や職務につき相当程度の変動が生じたことは認められるものの、Aは、本件分掌変更後も、Xの経営ないし業務において主要な地位を占め、Xの取締役として重要な決定事項に関与していたことが認められるから、Aは、本件分掌変更により、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあるとはいえず、本件金員は法人税法上の損金算入することができる退職給与に該当しないものと認められる。
②所得税法上の退職所得該当性について
 Aは、Xを退職しておらず、また、本件分掌変更によって、役員としての地位又は職務の内容が激変したとは認められないから、本件分掌変更に伴い支給された本件金員は退職所得に該当しない。そして、本件金員は、本件分掌変更後も引き続きXの取締役の地位を有し、重要な決定事項に関与するなどしていたAに対して、取締役としての稼働に対する対価として臨時的に支給されたものであると認められるから、その収入に係る所得は、所得税法第28条第1項に規定する給与所得(賞与)として認めるのが相当である。