概要
例えば、従前から不動産貸付業を営んでいる白色申告者が、本年7月に事業所得を生ずべき事業を開始したので、事業を開始した日から2月以内に青色申告承認申請書を提出した場合でも、本年分については青色申告が認められません(平成20年9月16日裁決・裁事76集258頁)。
所得税法144条に規定する「新たに業務を開始した場合」とは、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務(青色申告の承認を受けることができる業務)のいずれも営んでいない者が、いずれかの業務を開始した場合をいいます(所法143、144カッコ書き)。
したがって、上記の例のように、既に青色申告承認申請を行うことができる不動産所得等を生ずべき業務を行っているような場合は、本年3月15日までに青色申告承認申請書を提出していない限り、本年分については青色申告によることはできません。
つまり、新規開業者として本年分の青色申告承認を受けることはできませんので、翌年3月15日までに青色申告承認申請書を提出した場合において翌年分から青色申告者としての承認を受けることになります。
会社員時代から不動産貸付業を営んでいた白色申告者が、定年後に事業所得を生ずべき事業を開始した場合に、よく起きるケースなので注意が必要です。
なお、不動産所得を生ずべき業務を本年3月に廃止し、その後同年7月に事業所得を生ずべき事業を開始した場合も同様です。
青色申告の承認を受けていなかった不動産所得を生ずべき業務を廃止した後、同一年内にまた新たに事業所得を生ずべき業務を開始した場合において、当該新たに開始した業務から生じる事業所得について、仮に青色申告承認申請が認められるとするならば、同一年内の不動産所得、事業所得について、白色申告と青色申告に課される義務のレベルの違う記帳が混在することになります。
そのため、不動産所得を生ずべき業務を本年3月に廃止した者が、その廃止年7月において新たに事業所得を生ずべき業務を開始した場合についても、その年分の青色申告承認申請は認められないことになります。
所得税法
143条(青色申告)
不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行なう居住者は、納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、確定申告書及び当該申告書に係る修正申告書を青色の申告書により提出することができる。
144条(青色申告の承認の申請)
その年分以後の各年分の所得税につき前条の承認を受けようとする居住者は、その年3月15日まで(その年1月16日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その業務を開始した日から2月以内)に、当該業務に係る所得の種類その他財務省令で定める事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
平成20年9月16日裁決(裁事76集258頁)(棄却)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人Xは、平成17年分以前から既に不動産所得の基因となる資産の貸付業務を行っていたが、青色申告の承認申請書を提出していなかった。
② Xは、平成18年10月に再生資源回収業を開始したとして、青色申告の承認申請書を平成18年11月に提出し、平成18年分の所得税について、青色の確定申告書により申告した。
③ 原処分庁が、Xは新たに業務を開始したことにならず、当該承認申請書は法定の提出期限(平成18年3月15日まで)を徒過して提出されているので、平成18年分からの青色申告は認められないとして、所得税の更正処分等を行った。
④ これに対し、Xが、当該承認申請書は法定の提出期限内に提出されたものであり、さらに、原処分庁はこれに対する却下の処分を書面により通知していないから青色申告の承認があったものとみなされるとして、更正処分等の取消しを求めた。
(2)本件の主な争点
平成18年分の所得税について、青色申告が認められるか否かである。
(3)判断要旨(棄却)
① Xは、Xが貸し付けている不動産は貸付けを目的として取得したものではなく当初から利益の発生が期待できないものであり、当該不動産の貸付けは所得税法143条に規定する不動産所得を生ずべき業務に当たらないから、平成18年10月にXが個人事業を開始した事実は同法144条に規定する「新たに業務を開始した場合」に該当する旨主張する。
② 所得税法26条及び37条1項の規定からすると、同法26条2項は、不動産の貸付けによる所得の金額はその年中の不動産の貸付けに係る総収入金額から不動産の貸付けに係る総収入金額を得るために直接に要した費用の額及びその年中における不動産の貸付けによる所得を生ずべき業務について生じた費用の額を控除した金額と解される。そうすると所得税法における「不動産所得を生ずべき業務」とは、不動産の貸付けによる所得を生ずべき業務、すなわち、不動産の貸付けをいうものと解するのが相当であって、このほかに、同法には「不動産所得を生ずべき業務」に該当しない不動産の貸付けが存することをうかがわせる規定はなく、また、同法26条1項は、不動産所得は不動産の貸付けによる所得とのみ規定し、同法には不動産の貸付けに至った事情又はその利益の有無によって、所得の種類等が左右されるとする規定もないから、Xが行う不動産の貸付けは、当該貸付けが当初から利益の発生が期待できない貸付行為であったとしても、同法143条に規定する「不動産所得を生ずべき業務」に該当し、Xが個人事業を開始した事実は同法144条に規定する「新たに業務を開始した場合」に該当しない。したがって、Xの主張には理由がない。
③ Xは、Xの青色申告の承認申請について、平成18年12月31日までに承認又は却下の通知がなかったのであるから、所得税法147条の規定により青色申告の承認があったものとみなされる旨主張する。
しかしながら、所得税法144条に規定する青色申告の承認申請書の提出期限は、青色申告の承認の申請の適法要件であるので、同法146条及び147条に規定する青色申告承認申請書の提出があった場合とは、文理上、青色申告承認申請書が法定の提出期限内に提出された場合と解するのが相当であり、青色申告承認申請書が法定の提出期限に遅れた場合には、同法146条及び147条の適用の余地はないというべきであるところ、Xが提出した青色申告の承認申請書は、その法定の提出期限である平成18年3月15日までに提出されていないから、同法147条の規定により青色申告の承認があったとものとはみなされない。したがって、Xの主張には理由がない。