法人税における「退職給与」の意義

 役員に対する退職給与は、通常、退職慰労金の名目で支給されるのですが、かかる退職慰労金は、その在職中における職務執行の対価として支給されるものであれば、会社法(商法)上の役員報酬に該当するものと解されています(最高裁昭和39年12月11日第二小法廷判決・民集18巻10号2143頁等参照)。

 現行の法人税法上は、退職給与の意義については特に定められていません。ただし、旧法人税通達昭和31年直法1-102(昭和44年に「法令解釈上疑義がない」として廃止された)によれば、所得税法上の退職所得の意義に対比し、法人税法上の退職給与とは、退職給与規程に基づいて支給されるものであるかどうかを問わず、また、その支出の名義のいかんにかかわらず、役員又は使用人の退職により支給される一切の給与をいい、所得税法上、退職所得として取り扱われるもの及び相続税法上相続財産とみなされる退職手当等が退職給与に含まれるものはもちろん、退職により支給される退職年金も退職給与に含まれることになります。

 長野地裁昭和62年4月16日判決(税資158号104頁)は、次のとおり判示しています。
「法人税法36条(編注:当時)に定める役員退職給与とは、予め定めた退職給与規定に基づくものであるかどうかを問わず、また、その支出名義の如何を問わず、役員の退職に起因して支給される一切の役務提供の対価としての給与をいうものと解される。」

 もっとも、退職に伴って支給される金員であっても、弔慰金、葬祭料及び香典は、その実質が退職給与の一部であると認められない限り、退職給与に含まれません。

給与所得との違い

 過去の裁判例によれば、給与所得又は退職所得のいずれに該当するかで争われることが多いです。その理由は、退職所得の金額は、原則として、次のように計算するからです。

(収入金額(経済的利益の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額

 また、退職所得は、給与所得・不動産所得など他の所得と合算せずに、単独で超過累進税率により税額計算するので、税負担が軽減される仕組みとなっています。

 よって、一般的に、給与所得となるより、退職所得である方が納税者にとっては税負担が軽くなるため、課税庁との間で給与所得又は退職所得のいずれに該当するかで争われることが多いのです。

所得税における「退職所得」の意義

 所得税法上は、退職所得の意義について「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得」と規定しています(所法30①)。

 従業員の勤務年数を5年間で打ち切ることとし、5年ごとに退職金を支給し、その後本人の希望により同じ条件で勤務を継続することができる場合に、当該退職金が給与所得に当たるか退職所得に当たるかが争われた事案につき、最高裁昭和58年9月9日第二小法廷判決(民集37巻7号962頁)は、給与所得に当たる旨の判断をしましたが、所得税法30条1項にいう「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」の判定基準について、次のとおり判示しています。

「ある金員が、右規定(編注:所法30①)にいう『退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与』にあたるというためには、それが、(1)退職すなわち勤務関係の終了という事実によってはじめて給付されること、(2)従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、(3)一時金として支払われること、との要件を備えることが必要であ(る。)」

 また、形式的には上記3つの各要件の全てを備えていなくても、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものは、規定(所法30①)にいう「これらの性質を有する給与」として退職所得に含まれることになりますが、前掲最高裁判決は、次のとおり判示しています。

「『これらの性質を有する給与』にあたるというためには、それが、形式的には右の要件のすべてを備えていなくても、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、右『退職により一時に受ける給与』と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解すべきである。」

 なお、10年ごとに打ち切り支給された退職金名義の金員を給与所得と判断した最高裁昭和58年12月6日第三小法廷判決(集民140号589頁)は、「これらの性質を有する給与」に該当する具体例として、次のとおり判示しています。

「『これらの性質を有する給与』にあたるというためには、当該金員が定年延長又は退職年金制度の採用等の合理的な理由による退職金支給制度の実質的改変により精算の必要があって支給されるものであるとか、あるいは、当該勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があることを要するものと解すべき(である。)」

 かくして、所得税法に係る上記各判決の考え方は、法人税法上の「役員退職給与」の解釈上参考になります(類推適用されることになります。)。