概要
債務、葬式費用は、相続財産から差し引けますので、結果的に相続税が安くなります(相法13)。これを、債務控除と言います。
ただし、相続税の計算上、差し引けることができる債務、葬式費用と、差し引けない債務、葬式費用がありますので、注意が必要です。
この債務控除の趣旨は、被相続人の借入金等の債務が存するときは、相続の結果、相続人の負担に属することとなるこれらの債務の額を積極財産の価値から控除し、相続によって取得する財産の実質的価格をもつて課税価格とすることにあります。
相続財産から差し引ける債務
被相続人の債務で「相続開始の際」に「現に存するもの」で「確実と認められるもの」がある場合は、その金額を相続により取得した財産の価額から控除することができます(相法13①一、相法14①)。
そして、その控除すべき債務の金額は、その時の現況によると規定されています(相法22)。
時期、時刻、時を示すには「時に」という用語があるのに、「際」との用語が用いられていることに照らせば、「相続開始の際」とは、相続の開始、すなわち被相続人の死亡及び被相続人の死亡に近接し、かつ、社会通念上これから起因して生じる事態の経過を含めた時間の範囲を示すものと解すべきであり、そして、「被相続人の債務」で「現に存する」とは、その債務の性質及び発生原因に照らして、被相続人に属すべき債務がその発生要件を充足していることにあると解されています(東京地裁平成8年2月28日判決・税資215号713頁、東京高裁平成8年10月16日判決・税資221号54頁)。
また、債務控除の対象となる債務は「確実と認められるもの」に限られるとされていますが、相続開始日現在において単に債務が存在するのみならず、①債務者においてその債務の履行義務が法律的に強制されるもののほか、②事実的、道義的に履行が義務付けられ、あるいは、履行せざるを得ない蓋然性の表象があり、相続人がその債務を履行し相続財産の負担となることが必然的な債務をいうものと解されています(山口地裁昭和56年8月27日判決・昭和55年(行ウ)4号、広島高裁昭和57年9月30日判決・税資127号1140頁)。
なお、債務が確実であるかどうかについては、必ずしも書面の証拠があることを必要としないものとされています(相基通14-1)。
債務となるもの、ならないもの
債務となるもの
●借入金
●未払医療費
●被相続人にかかる未払所得税、住民税、固定資産税など
●賃貸アパートなどの預かり敷金
債務とならないもの
●被相続人が生存中に買入れた墓碑や墓地等の非課税財産について、その代金が未払いの場合の未払金 (相基通13-6)
●遺言執行費用
●相続にかかわる弁護士費用、税理士費用
●団体信用保険付き住宅ローン
保証債務と連帯債務
保証債務は、原則として控除できませんが、相続開始時の現況において主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償しても、返還を受ける見込みがないときには、その弁済不能の部分の金額に限って債務控除することができます(相基通14-3(1)) 。
連帯債務については、その者の負担すべき金額が明らかとなっている場合のその負担額は控除されます。また、連帯債務者のうちに資力を喪失して弁済不能の状態にある者があり、その者に求償権の行使ができず、かつ、その弁済不能者の負担部分をも負担しなければならないと認められる部分の金額についても控除の対象となります(相基通14-3(2))。
相続財産から差し引ける葬式費用
葬式費用は、被相続人が生前にもっていた債務ではありません。しかし、葬式(葬儀、葬礼、おとむらい)は必ず行われるものです。そのため、葬式費用は、被相続人のマイナスの相続財産と考えられているのです。
ただし、相続税の取り扱いでは、債務控除できる「葬式費用となるもの」と債務控除できない「葬式費用とならないもの」がありますので、注意をして下さい。
葬式費用となるもの(相基通13-4)
(1) 葬式若しくは葬送に際し、又はこれらの前において、埋葬、火葬、納骨又は遺がい若しくは遺骨の回送、死亡届に要する費用その他に要した費用(仮葬式と本葬式とを行うものにあっては、その両者の費用)
(2) 葬式に際し、施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用(寺院等に対する読経料、御布施、戒名料(院料)等)
戒名料は、葬式に際して寺院等に支払われ、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものであれば、葬式費用に該当します。
(3) (1)又は(2)に掲げるもののほか、葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの(死亡広告費用・お通夜の費用・飲食等に要した費用・茶葉やタオル・ハンカチなどの会葬御礼費用等)
香典の有無に関わらず、全ての弔問客に対して一律に交付される会葬御礼費用は、葬式費用に該当します。
(4) 死体の捜索又は死体・遺骨の運搬費用
告別式を2回に分けて行った場合の相続税の葬式費用の取扱いについて(名古屋国税局/ 文書回答事例)
https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/bunshokaito/sozoku/101105/01.htm#besshi1
葬式費用とならないもの(相基通13-5)
(1) 香典返戻費用(香典を包んでくれた方にお渡しする返礼品であり、もらう香典には相続税が課税されないためです)
(2) 墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料
(3) 法会(法要、法事)に要する費用(初七日、四十九日、一周忌、三回忌などがあり、死者を葬る儀式である葬式と異なり、死者の追善供養のため営まれるものの費用)や永代供養料
(4) 医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用
令和3年1月20日裁決(金裁(諸)令2第2号)では、葬儀等の参列者全員に対して香典の有無にかかわらず渡されたものではなく、葬儀等の会場や被相続人の自宅等において香典を受領したことに対応して渡された商品券の購入費用は、会葬御礼費用ではなく香典返戻費用に当たり葬式費用として控除することはできないと判断しました。
債務、葬式費用を遺産総額から差し引くことができる人
債務などを差し引くことのできる人は、次の①又は②に掲げる者で、その債務などを負担することになる相続人や包括受遺者(相続時精算課税の適用を受ける贈与により財産をもらった人を含みます。)です。特定受遺者は対象になりません。
① 相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がある人(一時居住者で、かつ、被相続人が一時居住被相続人又は非居住被相続人である場合を除きます。)
② 相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がない人で、次のいずれかに当てはまる人
イ 日本国籍を有しており、かつ、相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがある人
ロ 日本国籍を有しており、かつ、相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがない人(被相続人が、一時居住被相続人又は非居住被相続人である場合を除きます。)
ハ 日本国籍を有していない人(被相続人が、一時居住被相続人、非居住被相続人又は非居住外国人である場合を除きます。)。
なお、相続人や包括受遺者であっても、上記の①又は②に該当しない人は、遺産総額から控除できる債務の範囲が限られ、葬式費用も控除することはできません。死亡保険金を受け取った者であっても、相続人や包括受遺者でなければ負担しても控除できません。
相続を放棄した者及び相続権を失った者が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合においては、その負担額は、その者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除してもよい取り扱いとなっています(相基通13-1)。
相続人間等において、実際に債務の負担すべき部分が確定している場合は、たとえ相続や遺贈により取得した財産の価額よりもその負担すべき債務の金額の方が多い相続人等がいる場合であつても、その超える部分の債務は、他の相続人等の債務控除とはなりません。