遺産分割の3つの方法

 遺産分割の方法は、①現物分割②換価分割③代償分割の3つがあります(相基通19の2ー8)。 

 ①現物分割⇒個々の財産を誰が取得するのか決める方法であり、最も一般的な方法です。「Aには家屋敷を、Bには現金を」というように個々の財産を割り振る方法です。

 ②換価分割⇒共同相続人又は包括受遺者のうちの1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部を金銭に換価し、その換価代金を分割する方法をいいます。財産が、不動産だけしかないなど、各相続人等にうまく財産を割り振れない場合に使われる方法です。

 ③代償分割⇒共同相続人又は包括受遺者のうちの1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいいます(家事事件手続規則195)。事業や居住用財産を継ぐなど、財産を細分化されると困る場合、使われる方法です。

換価分割

換価分割のための相続登記

 換価分割の都合上、共同相続人のうち1人の名義に相続登記をしたうえで換価し、その後において、換価代金を分配するようなことがあります。一般的には、対価の授受を行わないで財産の名義を変更した場合には、原則として贈与が行われたものとして取り扱われることになっています(相基通9ー9)。

 しかし、共同相続人のうちの1人の名義で相続登記をしたことが、単に換価のための便宜のものである場合には、贈与によって財産を取得したことにはならないので、贈与税は課税されません。

換価分割したことによる譲渡所得の申告

 処分した財産が土地や建物など譲渡所得の基因となる資産である場合は、その財産の処分者となる相続人等に対し、その処分(譲渡)による所得、つまり、譲渡所得について所得税が課税されます。なお、換価時に換価代金の取得割合が確定しているものと、確定しておらず後日分割されるものとがあります。

1 換価時に換価代金の取得割合が確定している場合
 この場合には、①相続人が各法定相続分に応じて換価代金を取得することとなる場合と、②あらかじめ換価時までに換価代金の取得割合を定めている(分割済)場合とがあります。
 ①の場合は、各相続人が換価遺産に有する所有割合である法定相続分で換価したのですから、その譲渡所得は、所有割合(=法定相続分)に応じて申告することとなります。
 ②の場合は、各相続人は換価代金の取得割合と同じ所有割合で換価したのですから、その譲渡所得は、換価遺産の所有割合(=換価代金の取得割合)に応じて申告することになります。

2 換価時に換価代金の取得割合が確定しておらず、後日分割される場合
  遺産分割の対象は換価した遺産ではなく、換価により得た代金であることから、譲渡所得は換価時における換価遺産の所有割合(=法定相続分)により申告することになります。ただし、所得税の確定申告期限(収入すべき時期は、資産の引渡しがあった日)までに換価代金が分割され、共同相続人の全員が換価代金の取得割合に基づき譲渡所得の申告をした場合には、その申告は認められます。しかし、申告期限までに換価代金の分割が行われていない場合には、法定相続分により申告することとなりますが、法定相続分により申告した後にその換価代金が分割されたとしても、法定相続分による譲渡に異動が生じるものではありませんから、更正の請求等をすることはできません。

最高裁第一小法廷昭和54年2月22日判決(集民126号129頁)の判示要旨

 共同相続人が全員の合意によつて遺産分割前の相続財産を構成する特定不動産を第三者に売却した場合における代金債権は、特別の事情のない限り、右相続財産に属さない分割債権であり、各共同相続人がその持分に応じて個々にこれを分割取得するものである。

代償分割

代償分割の概要

 代償分割とは、特定の相続人が財産を相続する代わりに、その相続人が他の相続人にお金を払うなどの債務を負担する方法のことをいいます。代償分割に係る代償債務の種類や、代償債務の履行期限について法令等で限定されてはいません。

 例えば、相続人が長男Aと次男Bの2人がいるが、相続財産としては時価 2,000万円の土地1つしかないとします。この場合、時価 2,000万円の土地を長男Aが相続により取得するかわりに、長男Aが次男Bに 1,000万円を払うようなことをいいます。

 この場合、次男Bが相続財産に代えて交付を受ける1,000万円の金銭の額は、次男Bの相続税の課税価格に算入されることになり、長男Aが次男Bに交付する1,000万円の金銭の額は、長男Aの相続税の課税価格から1,000万円控除されることになります(相基通11の2-9、11の2-10)。

 なお、長男Aが相続により取得した土地を将来譲渡した場合には、次男Bに支払った 1,000万円は譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算することはできません。次男Bに対する債務は長男Aの相続税の課税価格の計算上控除されるべきものであつて、遺産である土地の取得費を構成するものではありません(所基通38-7(1))。

代償分割に係る資産が土地や株式の場合

 代償分割は、一般的には、他の相続人に対してお金で払うことが多いのですが 、この場合には、譲渡所得税の問題は生じません。しかし、代償分割に係る資産が土地や株式のような譲渡所得を生じうる財産の場合、すなわち含み益がある財産については、その履行の時における時価によりその資産を譲渡したとして、譲渡所得税が課されます(所法36①②、所基通33-1の5)。

 例えば、代償分割により債務を負担した長男Aから次男Bに、債務の履行としてお金ではなく、(他の)土地で支払われたとします。この場合、長男Aには相続税と譲渡所得税が課され、次男Bには相続税が課されます。

 そして、次男Bはその土地を貰ったときに、その時の時価により取得したこととなります(所基通38-7(2))。

 代償財産の価額が相続財産の価額を超過する場合には、その超過額に相当する部分の金額は、代償分割の範囲を超えた財産の移転になりますので、贈与税の対象となります。

生命保険金を目的とした代償分割をすることの可否

 長男が、被相続人の死亡を保険事故とする生命保険金1億円(保険料の負担者は被相続人)を取得し、その受け取った生命保険金から現金2,500万円を次男に支払ったとします。

 この場合は2,500万円を代償債務として課税価格から控除することはできず、支払った2,500万円については、次男に対する贈与となります。

 代償分割は、本来の相続財産を現物分割することに代えて行われるものであるところ、保険金は受取人固有の財産であって代償債務の目的となるべき現物分割の対象財産となりえません。

相続時精算課税の適用を受けた贈与財産を目的とした代償分割をすることの可否

 長男が、5年前に1億円の贈与を受け、相続時精算課税を選択して贈与税の申告をしました。本年、被相続人が死亡したが相続財産0であったため、長男が現金5,000万円を次男に支払ったとします。

 この場合は5,000万円を代償債務として課税価格から控除することはできず、支払った5,000万円については、次男に対する贈与となります。

 代償分割は、本来の相続財産を現物分割することに代えて行われるものであるところ、過去に贈与を受けた財産は代償債務の目的となるべき現物分割の対象財産となりえません(特別受益として法定相続分の計算上考慮される場合はある。民法903)。

代償分割の計算例

 相続人が長男Aと次男Bの2人がいる。相続人長男Aが、相続により土地(相続税評価額8,000万円、代償分割時の時価1億円)を取得する代わりに、相続人次男Bに対し現金4,000万円を支払った場合。
(1) 長男Aの課税価格
 8,000万円 - 4,000万円 = 4,000万円
(2) 次男Bの課税価格
 4,000万円

 ただし、代償財産(現金4,000万円)の額が、相続財産である土地の代償分割時の時価1億円を基に決定された場合には、長男A及び次男Bの課税価格はそれぞれ以下のように計算します。
(1) 長男Aの課税価格
 8,000万円 - {4,000万円 × (8,000万円 ÷  1億円 )} = 4,800万円
(2) 次男Bの課税価格
 4,000万円 × (8,000万円 ÷  1億円 ) = 3,200万円

遺産分割協議書の記載

 相続人Aが不動産を取得し、相続人Bが土地Zを取得しない代償としてAより現金を取得する場合は、遺産分割協議書において以下のように記載します。

 Aの欄「取得した土地Zの代償として、Bに現金〇円を令和〇年〇月〇日までに支払うものとする」

 Bの欄「代償によりAから現金〇円を令和〇年〇月〇日までに受取るものとする」

最高裁第三小法廷平成6年9月13日判決(集民173号79頁)の判示要旨

 相続財産は、共同相続人間で遺産分割協議がされるまでの間は全相続人の共有に属するが、いつたん遺産分割協議がされると遺産分割の効果は相続開始の時にさかのぼりその時点で遺産を取得したことになる。したがつて、相続人の1人が遺産分割協議に従い他の相続人に対し代償としての金銭を交付して遺産全部を自己の所有にした場合は、結局、同人が右遺産を相続開始の時に単独相続したことになるのであり、共有の遺産につき他の相続人である共有者からその共有持分の譲渡を受けてこれを取得したことになるものではない。そうすると、本件不動産は、上告人(納税者)が所得税法60条1項1号の「相続」によつて取得した財産に該当するというべきである。

 したがつて、上告人がその後にこれを他に売却したときの譲渡所得の計算に当たつては、相続前から引き続き所有していたものとして取得費を考えることになるから、上告人が代償として他の相続人に交付した金銭及びその交付のため銀行から借り入れた借入金の利息相当額を右相続財産の取得費に算入することはできない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。