概要
土地と建物をまとめて売却したときは、売買代金を土地部分と建物部分に区分する必要があります。事業として行う売却では、土地の譲渡は消費税が非課税である一方、建物の譲渡は原則として課税対象となるためです。
ただし、売主と買主が合意して契約書に内訳を記載すれば、どのような区分でも税務上認められるわけではありません。反対に、契約書に内訳がないからといって、売買代金の全額を土地代金とすることもできません。
この記事では、売主側の土地・建物の価額区分と消費税について、契約書の扱い、税込総額の按分、固定資産税等の精算金、裁判例を中心に解説します。区分方法の全体像は土地・建物の売買価額の区分に関する総合解説、購入時の取得価額や減価償却に関する問題は土地・建物を一括取得したときの取得価額の按分と裁判例をご覧ください。
最初に確認するのは、建物の売却が消費税の課税対象になるか
事業用・賃貸用の建物の売却は、原則として課税対象
消費税は、国内において、事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等を課税対象としています。販売用不動産だけでなく、事業に使用していた建物や、賃貸用の建物の売却も対象となります(消法2①八、4①、消基通5-1-7)。
住宅の家賃が非課税であることと、その住宅を売却したときの扱いは別です。 住宅の貸付けは原則として非課税ですが、賃貸事業に使用していた住宅の売却は、建物部分について課税対象となります。
また、買主が自宅として購入する個人であっても、売主が事業として建物を譲渡する場合には、買主の用途だけを理由に非課税となるわけではありません。
自宅の売却や、売主の納税義務は別に確認する
個人が生活の用に供している自宅を売却する場合は、原則として「事業として」行う取引に当たらず、消費税の課税対象とはなりません。店舗兼住宅などは、事業に使用していた部分と生活用の部分を分けて確認する必要があります。
さらに、課税対象となる取引であっても、その売主に消費税の納税義務があるかは別の問題です。基準期間等の課税売上高、課税事業者の選択、適格請求書発行事業者の登録などを確認します。建物を高額で売却したという事実だけで、その売却時点の納税義務を判断しないようにします。
以下では、主に、課税事業者が国内の土地・建物を事業として一括売却する場合を扱います。
契約書に内訳がある場合でも、合理的な区分であることが必要
土地は非課税、建物は課税として対価を区分する
土地の譲渡は非課税です。一方、建物の譲渡に係る消費税の課税標準は、原則として、建物の譲渡の対価の額から、その消費税及び地方消費税に相当する額を除いた金額となります(消法6①・別表第一一、28①)。
土地と建物を同一の買主に同時に譲渡する場合、合理的な基準で対価を区分していれば、その区分が計算の出発点となります。契約書の内訳、消費税等の記載、価格交渉の内容や算定資料を確認します。
しかし、対価が合理的に区分されていない場合には、譲渡時における各資産の価額を基に区分することになります。これは、内訳の記載がない場合だけの問題ではありません(消令45③、消基通10-1-5)。
「当事者が合意した内訳だから大丈夫」とはいえない
買主が売買総額を重視している場合には、土地・建物の内訳について、総額と同じように十分な価格交渉が行われているとは限りません。売主が消費税を少なくするために建物部分を低く設定し、その金額を契約書に記載しただけでは、区分の合理性を説明したことにはなりません。
カチタス事件でも、契約書に土地・建物の代金額が区分されているにもかかわらず、その区分の合理性が否定されています(東京地裁令和5年5月25日判決・税資273号、順号13853)。事件の具体的な算定方法や裁判所の判断は、カチタス事件にみる土地・建物の価額区分で解説しています。
契約書への記載と、その記載金額の合理性は、分けて確認する必要があります。
内訳がない場合・合理性に問題がある場合の按分
譲渡時の価値を説明できる資料を用いる
国税庁は、土地・建物の代金が区分されていない場合の方法として、次のようなものを例示しています。
- 譲渡時の土地・建物それぞれの時価の比率による按分
- 相続税評価額や固定資産税評価額を基にした按分
- 土地・建物の原価を基にした按分
これらは、売主が納税額を比較して、都合のよい結果だけを選べるという意味ではありません。どの資料が対象物件の価額区分を合理的に説明できるかを、取引の実態に照らして検討します。各方法の基本的な考え方は、総合解説をご覧ください。
なお、所得税又は法人税の土地の譲渡等に係る課税の特例の計算における取扱いにより区分している場合には、消費税でもその区分による取扱いがあります。これは、単に帳簿上で土地と建物を分けておけば、どのような区分でもよいという趣旨ではありません(消基通10-1-5)。
購入時の割合や帳簿価額を、そのまま売却時の割合としない
購入時から売却時までに、土地の相場、建物の状態、改修の内容などが変わっていることがあります。購入時に土地と建物を合理的に区分していたとしても、その割合が売却時にもそのまま妥当するとは限りません。
また、減価償却後の帳簿価額は、売却時の取引価額と同じものではありません。建物の帳簿価額がわずかであることだけを理由に、売買代金のほぼ全額を土地に配分できるわけではありません。
原価を基に按分する場合にも、どの費用を土地・建物それぞれの原価に含めたか、改修等を反映しているか、その区分が販売時の事情に照らして合理的かを確認します。
固定資産税評価額比より、鑑定評価額比による按分が採用された裁判例
東京地裁令和4年6月7日判決では、不動産貸付業を営む個人が土地・建物を一括売却した際の、建物の譲渡対価の算定が争われました。契約書には土地・建物の代金の内訳がなく、課税庁は固定資産税評価額の比率を用いて更正処分を行っていました。
裁判所は、訴訟で実施された適正な鑑定の内容や、地域の地価上昇が土地の固定資産税評価額に十分反映されていなかった事情などを検討し、鑑定評価額の比率による按分を採用しました。更正処分等の一部が取り消され、判決は確定しています(東京地裁令和4年6月7日判決・税資272号、順号13726)。
この判決から、固定資産税評価額比を使えば必ず認められるとはいえません。一方、鑑定書があれば、どのような評価内容でも優先されるということでもありません。譲渡時の個別事情を踏まえた、評価内容の合理性が重要です。
また、この事件では、鑑定評価額比の採用と、税込総額の按分計算は別に検討されています。裁判所は、売主が主張した「税込総額を税抜の鑑定評価額比で按分し、建物部分だけを税抜きにする」という計算までは採用していません。この点は、次の計算例でも注意が必要です。
税込総額を按分するときは、建物の消費税等を考慮する
土地を含む総額に、そのまま10/110を乗じない
建物だけの税込代金であれば、税率10%の場合、100/110を乗じて税抜代金を求めることができます。しかし、土地と建物を合わせた税込総額には、消費税がかからない土地代金も含まれています。
したがって、土地・建物の売買総額全体に10/110を乗じても、建物に係る消費税等の額は求められません。
税抜の評価額比を用いる場合の計算例
ここでは、土地・建物の評価額の比を、それぞれの税抜売却価額の比として用いることが合理的である場合を前提とします。売主は課税事業者、建物に係る消費税等の税率は10%とし、固定資産税等の精算金や他の資産は含めません。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 土地・建物の売買総額(消費税等を含む) | 1億400万円 |
| 按分の基礎とする土地の評価額 | 3,000万円 |
| 按分の基礎とする建物の評価額(税抜) | 2,000万円 |
税抜の価額比は、土地3:建物2です。ただし、税込総額を配分するためには、建物側に消費税等を加えた、土地3:建物2.2という比率を用います。
建物の税抜売却価額は、次の式で求めることができます。
建物の税抜売却価額=税込売買総額×建物の税抜評価額÷(土地の評価額+建物の税抜評価額×1.10)
この例では、1億400万円×2,000万円÷(3,000万円+2,000万円×1.10)=4,000万円となり、内訳は次のとおりです。
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 土地の売却価額 | 6,000万円 |
| 建物の税抜売却価額 | 4,000万円 |
| 建物に係る消費税等 | 400万円 |
| 合計 | 1億400万円 |
税込総額を先に3:2で配分し、建物に配分した金額だけを1.10で割ると、この計算とは一致しません。税抜の評価額比をそのまま税込総額に用いると、建物に係る消費税等の一部を土地側に配分することになるためです。
按分資料が税込の取引価額なのか、税抜の価額なのかによって計算の前提は異なります。評価資料の扱いと、契約上の税込・税抜をそろえて計算することが重要です。
なお、この例の400万円は、当該建物の売却代金に含まれる消費税等の額です。その課税期間に実際に納付する税額は、他の売上げや仕入税額控除、適用する計算制度などを踏まえて算定します。
固定資産税・都市計画税の精算金も、売却対価の一部になる
売主が負担した税金の精算でも、単なる預り金にはならない
不動産売買では、売主に課された固定資産税・都市計画税について、引渡日以後の期間に対応する金額を買主が負担することがあります。
このような未経過固定資産税等の精算金は、買主が地方公共団体に税金を納めるものではなく、売主・買主間で授受する売却対価の一部です。売買代金と別に受け取っていても、土地に対応する部分は非課税、建物に対応する部分は課税となります(消基通10-1-6)。
建物の精算金は、税込・税抜の合意も確認する
例えば、建物に対応する精算金を、消費税等を含む総額13万2,000円として合意した場合、税率10%であれば、税抜対価は12万円、消費税等は1万2,000円となります。
これに対し、税抜対価を定めて消費税等を別途加算する合意であれば、受け取る総額が異なります。「固定資産税等の精算金」という名称だけで処理を決めず、精算書の土地・建物の内訳と、税込・税抜の扱いを確認します。
土地と建物の税額を基にそれぞれ精算額を計算している場合には、その対応関係を確認します。精算金の総額を、売買代金と同じ比率で機械的に配分するとは限りません。
売却損が出ていても、建物の売却対価が消費税の計算対象になる
所得税や法人税では、売却代金から取得費・帳簿価額や譲渡費用等を差し引いて、売却による所得・損益を計算します。これに対し、消費税の課税標準は、原則として建物の譲渡対価の額です。
したがって、購入時より安く売却した場合や、建物について売却損が出た場合でも、それだけで建物の売却が非課税となるわけではありません。売却益にだけ消費税率を乗じる計算もしません。
個人の譲渡所得について、過去の購入代金を確認・推定する問題は、売却代金を土地・建物に区分する問題とは別です。取得費の資料が不足している場合は、個人の譲渡所得における取得費の確認・推定に関する解説をご覧ください。
契約前に区分の根拠を確認し、書類と申告を整合させる
売買契約を締結する前に、総額だけでなく、土地・建物の内訳と、その計算根拠を確認しておくことが重要です。特に税込総額が確定している取引では、建物への配分が増えると、総額の中に含まれる消費税等の額も増えるため、税抜の売却代金や納税額の見込みに影響します。
| 確認する資料・事項 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 売買契約書・覚書 | 売買総額、土地・建物の内訳、消費税等の額、税込・税抜の合意 |
| 区分の根拠資料 | 譲渡時の査定・鑑定、評価額、原価計算、改修内容、価格交渉の経緯 |
| 固定資産税の評価資料 | 価格(評価額)と課税標準額の区別、対象物件と年度、売却時の状況との対応 |
| 精算書 | 固定資産税等の精算金の土地・建物別の金額、建物部分の消費税等 |
| 請求書・会計処理・申告書 | 契約・精算内容との整合、課税売上げと非課税売上げの区分 |
適格請求書を交付する場合には、契約書や精算書との対応を確認します。ただし、適格請求書に金額を記載したこと自体が、土地・建物の区分の合理性を保証するわけではありません。
また、買主が取得価額をどのように処理したかという問題と、売主の売却対価をどう区分するかという問題は、当事者それぞれの立場で検討する必要があります。買主側の減価償却や取得価額の裁判例は、取得時の詳説をご覧ください。
売却時の価額区分は、消費税の納付額だけを見て決めるものではありません。物件ごとの事情を踏まえて区分の理由を説明できるようにし、その根拠と計算過程を、契約書等とともに保存しておくことが大切です。
参考資料
- 国税庁:課税標準・建物と土地を一括譲渡した場合の建物代金
- 国税庁:消費税基本通達10-1-1、10-1-5、10-1-6
- 国税庁:個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税、事業者が事業として行うものとは
- 国税庁:納税義務の免除、消費税等と譲渡所得
- 『令和6年版 消費税法基本通達逐条解説』10-1-5・10-1-6関係
