
概要
株式会社は、株主に対し剰余金の配当をすることができます(会社法453)が、その都度、株主総会の決議によって一定事項を定めなければならないということになっています(会社法454①)。つまり、株主に配当をする場合は、まず、株主総会の決議ありきで、株主から請求して確定するというわけではありません。
一方、合同会社の場合は、社員は合同会社に対し、原則としていつでも利益の配当を請求することができ確定します(会社法621①)。ただし、利益の配当を請求する方法その他の利益の配当に関する事項を定款で自由に定めることができます(会社法621②)。つまり、各社員が自由にいつでも配当を請求するようなことがないようにできます。
なお、合同会社の場合は、利益の配当により払い戻した財産の帳簿価額に相当する額は、資本剰余金の額からは控除しないものとされます(会計規31②)。よって、利益の配当は利益剰余金からされるものであり、配当財源とならない資本剰余金は利益の配当ではなく、出資の払戻し(会社法624)により払い戻されます。
株式会社では「その他利益剰余金」だけでなく「その他資本剰余金」から配当することも可能であるため、「剰余金」の配当(会社法453)といいますが、合同会社の場合は利益剰余金からしか配当できないため、「利益」の配当(会社法621)といいます。利益の配当により、利益剰余金が減少することとなります(会計規32②四)。
配当請求
合同会社では有限責任社員しかいないため、債権者保護のため、特則が設けられ、利益配当に関する制限などがされています。例えば、会社法628条では次のように利益の配当の制限についての特則が設けられています。
合同会社は、利益の配当額が配当をする日における利益額を超える場合には、利益の配当をすることはできません(会社法628)。なお、ここでいう利益額とは次に掲げる額のうちいずれか少ない額となります(会計規163)。
(イ)合同会社全体における利益額 利益の配当をした日における利益剰余金の額 (ロ)請求をした社員ごとの利益額 既に分配された利益の額-(既に分配された損失の額+既に利益配当された額) |
「(イ)合同会社全体における利益額(利益剰余金の額)」の制限があるのは、会社債権者を害することをないようにするためです。「(ロ)請求をした社員ごとの利益額」の制限があるのは、他の社員を害することをないようにするためです。
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「利益の配当」に関する定款への記載
合同会社の場合は、社員は合同会社に対し、原則としていつでも利益の配当を請求することができます(会社法621①)。そのため、配当を会社側でコントロールするのは難しいといえます。
ただし、合同会社は、利益の配当を請求する方法その他の利益の配当に関する事項を定款で定めることができます(会社法621②)。つまり、社員が自由にいつでも配当を請求するようなことがないようにすることもできます。この点につき、会社法立案担当者は以下のように解説しています。
「定款で定めることができる事項としては、利益の配当を請求することができる時期・回数、当期に配当する利益金額の決定方法などであり、その内容については、特に制約はない。」(論点解説 新・会社法594頁/相澤哲・葉玉匡美・郡谷大輔(編著)/ 商事法務)
よって、利益の配当について、比較的自由に定款で定めることができるので、利益配当を会社側でコントロールできるような、例えば、以下のようなものを定款で定めるのもよいでしょう。なお、定款に記載する場合は、「計算」の章の中で記載するのがよいでしょう。
(利益の配当) 第○条 利益の配当をしようとするときは、毎事業年度末日現在における社員に配当するものとし、業務執行社員の過半数の同意をもって次の事項について決定する。 一 配当財産の種類及び帳簿価額の総額 二 社員に対する配当財産の割当てに関する事項 三 利益の配当がその効力を生ずる日 2 社員は前項の決定後でなければ、利益の配当を請求することができない。 |
定款において「利益の配当」について、上記のように定めておけば、株式会社における剰余金の配当のような定めとすることができます。つまり、各社員が自由にいつでも配当を請求するようなことがないようにできます。
配当を支払う合同会社側の処理
配当の支払をする合同会社は、その支払の際、その配当等について所得税等を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを納付しなければならないとされています(所法181①、復特法28①)。
源泉徴収すべき所得税額等の額は配当等の金額に20.42%の税率を乗じて計算した金額となります(所法182二、復特法28②)。
なお、配当等について、支払の確定した日から1年を経過した日までにその支払がされない場合には、その1年を経過した日においてその支払があつたものとみなして、納付する必要があります(所法181②)。
支払の確定した日から1年を経過した日とは、支払の確定した日の属する年の翌年の応当日の翌日をいいます(所基通181-5)。
また、原則として、「配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書」を納税地等を所轄する税務署に提出します。
仕訳
配当を支払った場合の仕訳は以下のようになります。
利益剰余金 100,000 現預金 79,580
預り金 20,420
合同会社が米国親法人の完全子会社である場合
合同会社が米国親法人の完全子会社である場合には、社員が1人であり、その者が業務執行権を有する社員の100パーセントを占めることから、議決権のある株式の50パーセント以上を所有するという配当免税条項(日米租税条約10③)の要件を満たしていると考えられますので、所得税の源泉徴収をする必要はありません(国税庁HP質疑応答事例「合同会社の利益の配当に係る日米租税条約の適用」)。
ただし、租税条約に関する届出を行うことが必要となります。https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/joyaku/annai/1648_39.htm
利益の配当を受けた社員の税金
利益の配当を受けた社員が法人、個人によって取り扱いが違います。
法人
受取配当金は益金算入されますが、出資の割合に応じて、一定額が受取配当等の益金不算入の適用を受けることができます。
個人
配当所得にかかる収入となります。非上場会社の配当については申告分離課税の選択適用はできないので、総合課税となり配当控除の適用があります。
なお、少額配当に該当する場合は、所得税については申告不要を選択することができますが、住民税の申告は原則必要です。上場株式の配当と違って住民税が徴収されていないからです。
法令
会社法621条(利益の配当)
社員は、持分会社に対し、利益の配当を請求することができる。
2 持分会社は、利益の配当を請求する方法その他の利益の配当に関する事項を定款で定めることができる。
3 社員の持分の差押えは、利益の配当を請求する権利に対しても、その効力を有する。