概要

 「売り手」である会社は、いくらで役員へ不動産を売却したとしても、不動産を時価で売却したとして法人税がかかります(名古屋地裁平成4年4月6日判決・税資189号24頁)。

 「有償又は無償による資産の譲渡」から収益が生じるとされています(法法22②)が、低額譲渡については、「有償による資産の譲渡」と「無償による資産の譲渡」の2つの取引で構成されていると考えるため、同様に、収益が生じます。

 仕訳は以下の通りになります。

 貸方(右側)は、時価と取得価額との差額が「売却益」となります。また、借方(左側)は、時価と売買価格の差額は、寄付金等になります。法人と個人間に雇用関係等(従業員・役員)があれば「賞与・役員賞与(臨時的な給与)」(法基通9-2-9(2))になり、雇用関係がなければ「寄付金」となります。

 取得価額300万円(時価1000万円)の土地を600万円で売却した。
 現預金   600万円     土地   300万円
 賞与    400万円     売却益  700万円
 
 一方、「買い手」である個人には、時価との差額は経済的利益と認められ所得税がかかります(所基通36-15(1))。法人と個人間に雇用関係等(従業員・役員)があれば「給与所得」(名古屋地裁平成4年4月6日判決・税資189号24頁)になり、雇用関係がない第三者との間の取引であれば「一時所得」となります。

 名古屋地裁平成4年4月6日判決(税資189号24頁)は、この点につき、以下のように判示しています。

「法人の役員に対し当該法人から支給される金銭又は経済的利益は、その支給が右役員の立場と全く無関係に、法人からみて純然たる第三者との間の取引ともいうべき態様によりなされるものでない限り、原則としてその職務執行の対価の性質を有するものとみることができる(。)」

 なお、法人から個人への不動産の低額譲渡の場合、譲渡資産である不動産時価相当額の算定が問題となりますが、事例によってまちまちであり、不動産鑑定士の鑑定(名古屋地裁平成4年4月6日判決・税資189号24頁)や、売買実例(千葉地裁昭和59年4月24日判決・税資136号124頁、東京高裁昭和59年11月14日判決・税資140号232頁)が採用されています。

名古屋地裁平成4年4月6日判決(税資189号24頁)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告である株式会社Xは、フオークリフト部品製造業を営む青色申告法人で、法人税法2条10号にいう同族会社である。
 Xの代表取締役は甲であり、甲の長男丙は取締役であり、甲の妻乙は従業員(昭和56年1月まではXの監査役であつた。)である。
② Xは土地(以下「本件土地」という。)と建物(以下「本件建物」といい、本件土地と合わせて「本件土地建物」という。)を所有していたが、昭和57年4月9日、本件土地を丙に代金3717万円余で、本件建物を乙に代金1089万円余で、それぞれ売り渡し(以下「本件譲渡」という。)、右売買価額を譲渡益として計上し、申告を行つた。
③ 被告である所轄Y税務署長は、Xが丙及び乙に対してした本件土地建物の本件譲渡について、その譲渡価額が時価相当額よりも低いためXにその差額分の益金の計上漏れがあつたとしてされた法人税の課税処分の適否、並びに右差額は右役員らに対して支払われた給与に当たるとしてされた源泉所得税の納税告知処分等をした。
 具体的には、以下である。
(イ) 本件譲渡に関しては、本件土地の時価相当額8911万円と譲渡価額3717万円余との差額5193万円余、及び本件建物の時価相当額1798万円と譲渡価額1089万円余との差額708万円余、合計5901万円余につき、法人税法22条2項により譲渡益計上漏れとして原告の所得金額に加算すべきものとした。
(ロ) 右時価相当額と譲渡価額との差額については、Xの役員丙及び従業員乙に対する利益供与であるが、丙の関係では、役員賞与の支払であり、法人税法35条1項により損金に算入することは許されない。また、乙の関係では、Xは同族会社であり、乙は代表取締役甲の妻であつて同族関係者であるからこそ右のような利益供与がされたものであり、法人税法132条の規定からして、右乙に対する利益供与分を損金として算入することは許されないとした。

(2)本件の主な争点

(争点1)いわゆる低額譲渡に対して、法人税法22条2項の適用がされるか否かである。
(争点2)本件土地の時価相当額がいくらかで否かである。
(争点3)本件建物の時価相当額がいくらかで否かである。
(争点4)源泉所得税の納税告知処分等の適否である。

(3)判決要旨(一部取消し)(確定)

(争点1)
① 法人税法22条2項は、「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」と定めているところ、右の規定により課税の対象となる収益の額は、譲渡が適正な対価によつてされた場合や無償でされた場合だけではなく、低廉な対価によつてされた場合にも、当該資産が譲渡された当時における時価相当額をもつて算定すべきものと解するのが相当である。けだし、右規定において、資産の譲渡に係る収益を益金として課税の対象としているのは、法人の資産が売買等によりその支配外に流出したのを契機として、顕在化した資産の値上り益の担税力に着目し、清算課税しようとする趣旨であると解されるところ、法人が資産を時価相当額より低廉な対価により譲渡した場合には、あたかも右資産を時価相当額で譲渡すると同時にその譲渡対価との差額を譲受人に贈与したのと同一の経済的効果を有するのであるから、法人が資産を時価相当額で譲渡した場合との税負担の公平という見地からしても、収益の額は右資産の時価相当額によるのが相当だからである。

(争点2)
② 本件土地の価格について検討するに、時価相当額の認定資料としては、一般的には、不動産鑑定士による鑑定が最も信頼すべきものということができるところ、本件における鑑定は合理的な方法によつてなされたものである。
 以上によれば、本件土地の時価相当額は8911万円であるというべきであり、Xには譲渡価額3717万円余との差額5193万円余の譲渡益計上漏れがあつたというべきである。

(争点3)
③ 一般的には専門家による鑑定の結果は十分尊重されなければならないが、本件建物が昭和42年9月ころに1930万円余りで取得されたものであるのに、前記鑑定の結果によれば、それから14年半を経た昭和57年4月当時の時価が取得価額を上回る2568万円であつたというのであるから、それ相応の根拠が提出されない以上、右鑑定の結果を直ちに採用することはできないし、また、本件裁決も指摘しているように、本件建物はその構造が従業員用の寄宿舎向きであるため、その用途が限定され、一般的な賃貸マンシヨンや賃貸アパートのような市場性には欠けるという特殊性があるという事情も考慮することが必要であり、結局、右鑑定の結果は採用し難いものというべきである。
 他方、本件建物の再調達価額が、Xが本件建物の譲渡価額を決めるに当たつて前提とした1坪当たり15万円を上回るものとみるべき資料はなく、また、本件建物の取得価額から減価償却費の累積額を控除した未償却額が1096万円余となることとの比較においても、右再調達価額に基づいて算出される本件建物の再調達価額から定率法による減価償却をした残額1556万円余が本件建物自体の時価相当額として均衡を欠くものということもできないから、結局本件建物自体の時価相当額は1556万円余を上回らないものと認めるのが相当である。
④ 本件建物については、乙らが借家権を有していたところ、本件建物の周辺においては借家権価格が形成されており、その割合は30パーセントであると認められるから、これを右1556万円余から控除すると1089万円余となり、本件建物の譲渡価額と一致するから、本件建物は乙に対して時価相当額を下回らない価額で売り渡されたものということができる。
 したがつて、本件建物について、低額譲渡があつたとして法人税法22条2項を適用する余地はないというべきである。

(争点4)
⑤ Xは、その取締役である丙に対し、本件土地の時価相当額8911万円とその譲渡価額3717万円余との差額5193万円余について経済的利益を供与したものであるところ、右経済的利益の供与は、法人たるXがその役員に対して支給した臨時的な給与というべきであり、したがつて、役員賞与に当たるということができる。そして、所得税法28条1項によれば、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得は給与所得とされ、その支払をする者は、同法183条1項により源泉徴収義務を負うものであるから、本件における右経済的利益の供与については、Xに源泉所得税の徴収義務が生じるというべきである。
⑥ これに対し、Xは、本件のように法人が時価相当額による譲渡であると確信して売買した場合には、役員の役務の提供の対価としての性質を持たないから、所得税法上の一時所得であつてXに源泉徴収義務はないと主張するけれども、法人税法上の役員賞与に該当するか否かは、法人の主観的意思によつて左右されるものではなく、当該経済的利益の供与が役員の職務執行の対価の性質を有するか否かという客観的な基準によつて判断すべきものと解される。そして、一般に、法人の役員に対し当該法人から支給される金銭又は経済的利益は、その支給が右役員の立場と全く無関係に、法人からみて純然たる第三者との間の取引ともいうべき態様によりなされるものでない限り、原則としてその職務執行の対価の性質を有するものとみることができるところ、本件においては、Xがその役員に対してX所有の本件土地を低額で譲渡し、時価相当額との差額分の経済的利益を供与したものであり、役員の立場と無関係に第三者との取引としてなされたものとは到底いえず、取締役たる丙の職務執行の対価の性質を有するものというべきである。
 したがつて、Xの右主張は理由がない。

関連記事