概要
非居住者や外国法人(以下「非居住者等」といいます。)に不動産の賃借料や譲渡対価を支払う場合は、源泉徴収について注意をする必要があります。
非居住者等に不動産の賃借料を支払う場合
非居住者等から日本国内にある不動産(土地、家屋等)を借り受け、日本国内で賃借料を支払う者(賃借人)は、法人、個人(事業者かどうかは問いません。)問わず、その支払の際20.42パーセントの税率により計算した額の所得税等を源泉徴収しなければなりません(所法161①七、212①、213①)。
非居住者等に対して、国内において支払った不動産の賃借料から源泉徴収した所得税等は、原則として、支払った月の翌月10日までに納めなければなりません。
ただし、個人が自己またはその親族の居住の用に供するために不動産を借り受けて支払う場合には、その個人は源泉徴収をする必要はありません(所法212①かっこ書、所令328二)。
居住用のために不動産を借り受けた個人に対してまで源泉徴収義務を課すことについては適当でないとの考え方からです。
法人が不動産を借り受けて支払う場合には、源泉徴収をする必要があります。
非居住者等に不動産の譲渡対価を支払う場合
非居住者等から日本国内にある不動産を購入してその譲渡対価を国内で支払う者は、法人、個人(事業者かどうかは問いません。)問わず、その対価を支払う際10.21パーセントの税率により計算した額の所得税等を源泉徴収しなければなりません(所法161①五、212①、213①、所令281の3)。
非居住者等に対して国内において支払った土地等の譲渡の対価から源泉徴収した所得税等は、原則として、支払った月の翌月10日までに納めなければなりません。
ただし、個人が自己またはその親族の居住の用に供するために不動産を購入した場合であって、その土地等の譲渡対価が1億円以下である場合には、その個人は源泉徴収をする必要はありません(所法161①五かっこ書、所令281の3)。
法人が不動産を購入し、譲渡対価を支払う場合には、源泉徴収をする必要があります。
ありがちな源泉徴収忘れ事例
親から不動産を相続し、相続人のものとなったがその相続人が外国人と結婚していて日本に居住していない。今後も住む予定がないので、売却することになった。
この場合、その不動産を購入することになった不動産会社は源泉徴収をし、納付する必要があります。
非居住者の不動産の賃貸料及び譲渡対価
非居住者の不動産の賃貸料及び譲渡対価は、恒久的施設の有無にかかわらず、総合課税の対象になります(所法164①一ロ、二)。
外国法人が不動産を所有しているかどうかにかかわらず、外国法人へ不動産の賃借料を支払う場合には、源泉徴収義務を負うことになるとされた事例-令和元年7月2日裁決(東裁(所)令元第1号)(棄却)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人Xは、平成9年6月23日に設立された法人である。Gは、所得税法2条1項7号に規定する外国法人である。
② Gは、定期賃貸借契約により、平成23年11月20日から平成29年11月19日までの期間、C社からc建物のうち、1,188.28㎡(以下「本件貸室」という。)を賃借し、その賃料をC社が指定した銀行口座に送金している。
そして、このうち、57.59㎡をX事務所として、本件貸室の賃貸借期間と同期間、Xに貸し付けている。そして、Xは、事務所に係る月額賃料をGが指定した銀行口座に送金している(以下、Xが、賃料を支払う際に作成した各外国送金依頼書に記載された金額を「本件各送金額」という。)。
Gは、C社から賃借しているc建物内で、本件貸室の内装から各種備品まで全てそろえ、契約者が自由に使用可能な複数の会議室を常設し、最大18の企業等に貸し出し可能なレンタルオフィスを経営している。
③ Xは本件各送金額の支払の際に、源泉所得税等を徴収せず、法定納期限までに納付しなかった。
④ 原処分庁は、Xに対し、本件各送金額については、所得税法161条1項7号に規定する国内にある不動産の貸付けの対価に該当し、国内源泉所得として源泉徴収の対象であるとして、源泉所得税等の納税告知処分等(以下「本件各処分」という。)をした。
(2)本件の主な争点
本件の争点は、Xは、本件各送金額を支払う際に、源泉徴収義務を負うか否かである。
(3)裁決要旨(棄却)
① 本件各送金額は、賃貸借契約書に基づきXが事務所を賃借し、その賃料をGが指定した銀行口座に送金したものであるから、本件各送金額は、国内にある不動産の貸付けによる対価として所得税法161条1項7号に規定する国内源泉所得に該当する。
② 外国法人に対し、国内において国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について源泉所得税等を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならないとされている。これを本件に当てはめると、Xは、外国法人であるGに対し、国内において所得税法161条1項7号に規定する国内にある不動産の貸付けによる対価である国内源泉所得の支払をしたと認められることから、Xは、本件各送金額を支払う際に源泉徴収義務を負うことになる。
③ Xは、所得税基本通達161-12は「国内にある資産」について定められているが、そこには「非居住者の有する資産が国内にあるかどうかは所得税法施行令280条に定めるところによるもののほか」とあることから、所得税法161条1項7号に規定する国内にある不動産とは、「非居住者が有する国内にある不動産」を前提に規定されたものであると解釈できるとし、そうすると、Xが、Gから賃借しているX事務所は、Gが所有する国内にある不動産ではないことから、Xが支払った本件各送金額は、所得税法161条1項7号に規定する国内にある不動産の貸付けによる対価には該当せず、同法212条1項の規定に基づいた本件各処分は違法である旨主張する。
④ しかしながら、所得税基本通達161-12は、所得税法161条1項2号又は3号の規定の適用上、非居住者の有する資産が国内にあるかどうかについての判定について定められたものであり、国内の不動産の法的な所有者のいかんにかかわらず、その貸付けの対価を国内源泉所得とする同項7号の適用に関する定めではないことから、Xの主張には理由がない。
⑤ また、Xは、本件各送金額は、Gが本件貸室の内装から各種備品まで全てそろえ、契約者が自由に使用可能な複数の会議室を常設していることから実質的にレンタルオフィスというものの対価であり、所得税法161条1項1号に規定する事業の所得に該当するため源泉徴収義務はない旨主張する。
しかしながら、本件各送金額が所得税法161条1項7号に規定する国内にある不動産の貸付けによる対価であることは、上記のとおりであり、事務所内の各種備品を揃え、会議室を常設し、契約者に自由に使用させていることは不動産の貸付けに付随したものにすぎないことから、Xの主張には理由がない。