概要

 現在、最低資本金制度がないため、資本金1円で会社を設立することは可能です。ただし、その後が、大変です。法人口座をつくろうと思っても、資本金1円では金融機関にいやがれ口座がなかなかつくれません。

 まず、メガバンクは無理だと思ってください。信用金庫、地方銀行でも難しいです(ネット銀行は比較的、口座開設がしやすいですが)。正直な話、資本金10万円でも同じ感じです。

 法人口座をつくるのも一苦労なのですから、融資を受けるのは難しいと言えます。会社を設立する場合は、最低でも資本金100万円は用意した方が良いと思います。

会社設立時の資本金はどのくらいにすべきか(資本金の額の決定)

 株式会社の場合には、払込みまたは給付にかかわる額の2分の1以上を資本金として計上しなければならない規定がありますが、合同会社の場合にはそのような規定はありません。

 そのため、例えば500万円が出資された場合は、資本金の額を500万円としてもよいし、200万円としてもよいということです。なお、合同会社の場合、資本金に計上しなかった額は資本剰余金となります。

 ただし、設立の場合、出資された全額を資本金の額とするのが一般的です。例えば、100万円を株主や社員が出資したならば、資本金の額が100万円となります。

 資本金をいくらにしたらいいか悩む方はいると思います。資本金は1円でも、1万円でも設立できますが、資本金の額は登記事項であるため、登記事項証明書に記載されます。登記事項証明書は誰でもが取得できるため、取引しようとする人が躊躇するような資本金の額は避けたほうがよいといえます。

 また、業務運営の観点から、資本金が多いほうが当然にいいです。一般的な資本金の額の目安は、最低6か月分の運転資金となります。運転資金が1か月100万円かかる予定でしたら、最低資本金600万円が必要となります。

 実際に仕事をしてもすぐにお金が入ってくるわけではありません。だいたい3か月後に入金されると考えたほうがよいでしょう。それ以外の残りの3か月分は、仕事がうまくいかなかったときのことを考えて、余裕を持つ必要があるためです。余裕分がなかった場合、その時点で会社の運営がストップしてしまいます。

 なお、個人事業から会社にする(法人成り)の場合は、会社設立時の段階で売上入金等が見込めますので、もう少し少額の資本金で始めても大丈夫です。

 取引先や金融機関の信頼の観点からも、資本金が多いほうが当然にいいです。資本金=会社の体力と考えられますので、取引先なども資本金が多いほうを信頼する傾向にあります。

 上述したように、現在、金融機関は資本金10万円ぐらいの少額で会社を設立した場合、法人口座の開設をしたがらない傾向にあるので注意をしてください。

 なお、資本金の額を大きく見せたいために、見せ金をする方も多いですが、おすすめできません。なお、見せ金をして会社を設立してしまった方は、見せ金の税務のページを参考にしてください。

資本金はどのくらいにすべきか(税金の観点から)

 税金の観点から見ると、資本金には1000万円と1億円の壁があります。

 資本金が1000万円未満の場合、一定の要件を満たせば会社設立後2事業年度は消費税を納める必要がありません。

 資本金(正確には資本金等の額)が1000万円以下の場合、法人住民税の均等割が最低金額で済みます。法人住民税の均等割とは、会社が黒字だろうが赤字だろうが一切関係なく、毎期、支払わなければならない税金ですが、資本金と従業者数によって金額が変わっています。

 例えば東京23区の場合、資本金が1000万円以下(かつ、従業者数が50人以下)の場合、均等割額は年額7万円となっています。それが、1000万円を超えると、均等割額は年額18万円となってしまいます。

 均等割は毎年払わなければならないので、11万円の差は中小企業にとってはかなり大きいものといえます。また、1億円を超える(かつ、10億円以下)と、均等割額は年額29万円となります。

 次に、資本金が1億円を超えると税務上、中小企業とされないため、かなりの税優遇が受けられなくなります。主なものを挙げておきます。

① 取得価額が30万円未満である減価償却資産
 従業員500人以下である青色申告法人である中小企業は、取得価額が30万円未満の減価償却資産については、購入・使用時の期にすぐに損金算入できます(ラフにいうと経費にできる)が、それができなくなります。つまり、全額経費で落とすまでに数年かかるということになります。

② 特別償却・特別税額控除
 中小企業投資促進税制、中小企業技術基盤強化税制など、中小企業のための特別償却や特別税額控除が利用できなくなります。

③ 軽減税率
 法人税の税率は平成30年4月1日以後に開始する事業年度からは23.2%となっていますが、中小企業であれば、所得金額のうち年800万円以下の部分に対する法人税の軽減税率は15%(令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度)となっています。

④ 交際費
 中小企業の場合は、年800万まで経費で落とせます。資本金の額が1億円を超えると、原則、交際費は1円も経費になりません(損金不算入)。ただし、接待飲食費については、50%は経費となります(資本金100億円超の法人は除く)。得意先との飲食代でも、1人5000円以下なら接待交際費から除外できます。

⑤ 欠損金等の控除限度額
 中小企業以外の会社については、毎年の所得金額の50%までしか繰越欠損金を利用できないという制限が存在します。つまり、2000万円の赤字(欠損金等)が発生した翌年に2000万円の黒字(所得)が発生したとしても、50%の1000万円しか欠損金を利用することができず、1000万円に対して課税されますが、中小企業の場合は100%の2000万円の欠損金を利用することができ、課税されません(欠損金の繰越控除を利用できる法人は、欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出している法人です)。

⑥ 法人事業税の外形標準課税
 資本金の額が1億円を超えている法人は外形標準課税の対象となり、税負担と申告作業が増大します。

 旅行大手のJTBは、2021年(令和3年)3月31日付で資本金を23億400万円から1億円に大幅に減資しました。これにより税制上は「中小企業」と見なされるようになったのです。

設立時における資本金階級別の件数

 e-Stat(政府統計の総合窓口)によれば、2021年における株式会社、合同会社の設立時における資本金階級別の件数は以下のようになっています。

 合同会社の設立時における資本金の額は100万円未満の場合が半数近くあり、300万円未満が全体の80%以上を占めています。また、株式会社に比べると、少額の資本金で設立されていることがわかります。

●株式会社の設立時における資本金階級別の件数

100
万円未満
100
万円以上
300
万円以上
500
万円以上
1000
万円以上
2000
万円以上
5000
万円以上
1億円
以上
総数
設立件数(件)14,88638,14516,29821,2352,8021,12244229295,222
総数に占める割合(%)15.6340.0617.1222.302.941.180.460.31100

●合同会社の設立時における資本金階級別の件数

100
万円未満
100
万円以上
300
万円以上
500
万円以上
1000
万円以上
2000
万円以上
5000
万円以上
1億円
以上
総数
設立件数(件)17,89712,3562,8723,7321593216837,072
総数に占める割合(%)48.2833.337.7510.070.430.090.040.02100