概要

 措置法35条1項では、同法 31 条又は 32 条の土地、建物等の長期譲渡所得又は短期譲渡所得の計算において、通常の所得計算から最高3,000万円を控除(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)することができる旨定めています。この特例が適用できるか否かの争いについて、過去の事例においては譲渡家屋が「居住の用に供している家屋」かどうかが最大のポイントとなっています。

 措置法通達では、「居住の用に供している家屋」について、その者が生活の拠点として利用している家屋(一時的な利用を目的とする家屋を除く。)をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等(社会通念に照らしその者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の者をいう。)の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定するとしています(措通35-6 、31の3-2準用)。

 そして、留意点として、規定の適用を受けるためのみの目的で入居したと認められる家屋、その居住の用に供するための家屋の新築期間中だけの仮住まいである家屋その他一時的な目的で入居したと認められる家屋は、その居住の用に供している家屋には該当しないとしています(ただし、譲渡した家屋に居住していた期間が短期間であっても、当該家屋への入居目的が一時的なものでない場合には、当該家屋は上記に掲げる家屋には該当しません)。

 松江地裁平成25年12月26日判決(税資263号-241(順号12365))では、以下のように判示し納税者の請求を棄却しています。
「原告の本件家屋への居住期間、居住実態を基本として、その居住意思をも併せ考慮し、社会通念に照らして総合判断すると、原告は、本件土地建物の所有権取得後、所有者として、本件家屋を生活の本拠としてその用に供していたとはいい難いというべきである。」

 ここで判断要素として取り上げられているのが、「居住期間」「居住実態」「居住意思」の3つですが、「居住の用に供している家屋」について争われた他の事例(大阪地裁平成8年3月19日判決・税資215号922頁、神戸地裁平成10年12月16日判決・税資239号458頁、平成22年6月24日裁決・裁事79集、平成28年3月16日裁決・裁事102集、平成30年6月14日裁決・東裁(所)平29第140号等)においても重要な判断要素とされています。なお、「居住実態」については、公の書類の住所記載(住民票以外も含む)、水道光熱費の使用料の状況、近隣住民の申述内容などに基づき判定されています。

 なお、上記松江地裁判決では、争いになっている家屋が生活の本拠であるかの立証責任は納税者側にあるとの判示も以下のようにしています。
「生活本拠性は、措置法35条1項が、前示のとおり、租税の減免を認める例外的措置であることに照らすと、本件不動産譲渡が居住の用に供する家屋等の譲渡に当たることを主張する原告において、その立証責任を負うべきものである。」

譲渡家屋について生活の拠点としていたとは認められないから、「マイホーム3,000万円特別控除」を適用することはできないとされた事例-平成30年6月14日裁決(東裁(所)平29第140号)(棄却)

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人Xが、家屋及びその敷地の用に供されている土地を譲渡し、当該譲渡に係る譲渡所得について、措置法35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》1項に規定する特例を適用して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該家屋はXが居住の用に供している家屋ではないから本件特例を適用することはできず、また、Xは、当該家屋に居住していたかのような外形を作出したとして、更正処分及び重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、Xが、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

○本件における事実等は、次のとおりである。
① Xは、昭和56年3月25日に、〇〇〇所在の肩書地(以下「本件肩書地」という。)を住所とした。

② 平成22年譲渡
 Xは、平成19年に競売により取得した△△△所在の土地及び建物について、平成22年3月28日に売買契約を締結し、当該土地及び建物を譲渡(以下「本件22年譲渡」という。)した。Xは、本件22年譲渡につき、措置法35条1項に規定する居住用財産の譲渡所得の特別控除の規定を適用して、平成22年分の所得税の確定申告をした。Xは、上記の確定申告に係る申告書に、平成22年1月19日に本件肩書地から△△△所在の土地及び建物の所在地に転入し、同年4月1日に再び本件肩書地に転出した旨が記載された住民票(除票)の写しを添付した。

③ 平成26年譲渡
 Xは、平成25年4月5日に売買により取得した×××所在の土地及び建物について、平成26年8月3日に売買契約を締結し、当該土地及び建物を譲渡(以下「本件26年譲渡」という。)した。Xは、本件26年譲渡につき、措置法35条1項に規定する居住用財産の譲渡所得の特別控除の規定を適用して、平成26年分の所得税の確定申告をした。Xは、上記の確定申告に係る申告書に、平成26年5月14日に本件肩書地から×××所在の土地及び建物の所在地に転入し、同年7月31日に再び本件肩書地に転出した旨が記載された住民票(除票)の写しを添付した。

④ 原処分庁は、上記③に対し、本件特例を適用することはできず、また、Xは本件家屋に居住していたかのような外形を作出したとして、平成29年6月9日付で、平成26年分の所得税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。

(2)裁決要旨(棄却)

① 措置法35条1項に規定する居住の用に供している家屋とは、本件特例の適用を受けるために、短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいうものと解される。そして、譲渡資産がこれに該当するか否かについては、当該譲渡者及び家族の日常生活の状況やその家屋の利用の実態、その家屋の入居目的、その家屋の構造及び設備の状況等の諸事情を総合的に考慮し、社会通念に従って判断するのが相当である。

② Xは、本件家屋への住民票の住所変更の手続を行ったものの、それ以外の住所変更に伴う諸手続である運転免許証等の変更手続や郵便物の転送手続はしなかった。また、本件家屋の水道の使用期間からすると、Xが本件家屋を利用していた可能性のある期間は、約3週間とごく短期間であると認められる。そして、近隣住民からはXが本件家屋に入居したと気付かれないような使用の仕方であったことを自認している。以上からすれば、Xが本件家屋を使用していたとしても、その使用の態様をみると、一時的に出入りしていたことは認められるとしても、ある程度の期間継続して生活の拠点として使用していたとは認め難い使用状況であったといえる。

③ Xが子に同居の話を持ちかけていたとしても、Xは、同居の同意が確実に得られるものではないことはもとより、むしろ同意が得られる可能性はほぼないものと理解していたと考えるのが相当である。加えて、その他の事実も併せ考慮すれば、Xが子と本件家屋に同居するという現実的な見通しはなかったものといわざるを得ない。したがって、Xが子と同居する目的であったことをもってXに居住の意思があったと認めることも困難である。

④ 以上によれば、Xは、本件家屋について、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていたことはないと認められるから、本件特例を適用することはできない。Xは、本件特例の適用を受けるために、住民票上の住所を本件家屋に異動するなどして、本件家屋が「居住の用に供している家屋」であるかのように居住事実の外形を作出し、あたかも本件家屋が生活の拠点であるかのように装ったものと認められる。よって、本件申告は、通則法68条1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす。