相続時精算課税という制度は、生前に贈与をした場合には贈与税が軽減しますが、その代わりに相続のときには、贈与された財産と相続された財産を足した額に相続税がかかる、という制度です。

 ただし、過去に支払った贈与税分については相続税から控除できますので、二重に税金がかかるということはありません。また、控除しきれない場合は還付することができます。

 この制度の適用対象は原則として、60歳以上の者から20歳(2022年4月1日以降は18歳)以上の子供または孫(代襲相続人に限らない)への贈与に限られています(相法21の9①、措法70の2の6①)。年齢は贈与の年の1月1日現在のものとなります。

 なお、いったん相続時精算課税制度を選択すると、その贈与者からの贈与については110万円まで非課税である暦年課税制度には戻れません(相法21の9③、⑥)。

 もちろん、相続時精算課税制度を利用せず、暦年課税制度を利用し続けてもかまいません。暦年課税制度の方法で贈与税を支払うか、相続時精算課税制度を選択するかどうかは、贈与される子供が決めることができます。

 また、父母(祖父母)ごとに選択が可能ですので、父親からの贈与は相続時精算課税制度を利用し、母親からの贈与は暦年課税制度を利用するということをしてもかまいません。ただし、この場合、父親からの贈与についてはいったんこの制度を選択すれば二度と暦年課税に戻ることはできません。

 なお、相続時精算課税の適用に当たっては、贈与財産の種類等に制限はないため、適用要件さえ満たせば相続税法7条のみなし贈与であっても相続時精算課税の適用は受けられます。

贈与税額の計算と相続時における精算

 相続時精算課税制度を選択すると、贈与しても、2,500万円までの財産には税金がかかりません(相法21の12)。また、2,500万円を超えても、一律20%の贈与税がかかるだけです(相法21の13)。

 2500万円の特別控除額とは、財産をもらう人が一生でもらえる財産の総額であり、贈与の回数は何回あってもかまいません(前年以前に、この特別控除の適用を受けた金額がある場合には、2,500万円からその金額を控除した残額がその年の特別控除限度額となります)。

 
 (例)令和2年に、この制度を選択して父から1,500万円の贈与を受け、令和3年にさらに1,500万円の贈与を受けた場合の贈与税額は、いくらになるでしょうか?


 (答)令和2年 1,500万円-1,500万円=0円
    贈与税額0円 特別控除額の繰越1,000万円

    令和3年 1,500万円-1,000万円=500万円
    贈与税額   500万円×20%=100万円
 
 ただし、この制度における最大の注意点は、この制度を利用した贈与の場合、贈与者の相続のときには相続財産の他に贈与財産(相続時精算課税制度適用のもの)も含めて相続税の計算をしなくてはいけないということです。

 例えば、上記の例で、父が亡くなったときの相続財産が7,000万円であった場合は、贈与財産3,000万円を足した1億円で相続税の計算をする必要があります。

 その結果、算出された相続税額が仮に1,220万円だったとした場合、過去に支払った贈与税額100万円を差し引いた1,120万円が納付する相続税額となります。ですから、税金を二重に払うようなことはありません。

 この制度を別のいい方をして説明すると、生前の贈与はなかったものとされ、再度、相続税を計算し直すということです。サラリーマンの給料に置き換えるならば、生前に支払った贈与税は給料から天引きされる源泉税のようなものであり、再度、相続税を計算し直すことは年末調整をするようなものです。

 よって、算出された相続税額が仮に1,220万円であり、過去に支払った贈与税額が1,300万円だった場合は、相続税の申告をすることにより80万円が還付されます。

 還付を受けるための申告書は、相続開始の日の翌日から起算して5年を経過する日まで提出することができます。相続時精算課税に係る贈与税相当額の還付金請求については、当該贈与税納付後、相続開始時まで長期になるので、申告し忘れに注意が必要です。

贈与税の申告

 相続時精算課税制度を適用したい人は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に、贈与税の申告書と相続時精算課税制度選択届出書(受贈者の戸籍謄本添付)を受贈者の住所地の所轄税務署に提出する必要があります。

 例え、贈与金額が2,500万円以下であり、贈与税ゼロであってもする必要があります。

 また、翌年以降、贈与を受けた場合は、贈与税が発生しない場合でも申告をする必要があります(相法21の11、21の9③)。

「暦年課税の贈与」と「相続時精算課税の贈与」の比較

暦年課税
相続時精算課税
贈与者制限なし。親族間のほか、
第三者からの贈与を含む。
60歳以上の者
受贈者制限なし20歳以上の子供または孫


非課税枠贈与を受ける人ごとに毎年、年間110万円(基礎控除額)贈与をする人ごとに生涯にわたり2,500万円(特別控除額)。父母から2,500万円づつの計5,000万円も可(相法21の12①)。
税金(貰った価額-110万円)
 ×超過累進税率
(貰った価額-2,500万円)
 ×20%
計算期間暦年(1/1から12/31)届出後相続開始まで
申告非課税枠内であれば、申告不要非課税枠内でも、適用を受ける子供等は、贈与を受けた翌年の2/1から3/15までに申告
納付贈与時に完了贈与税がある場合は納付し、相続時に精算


贈与財産贈与財産は、相続税の計算には関係しない。ただし、相続開始前3年以内の贈与財産 (贈与時の価額で) は相続財産にプラスして相続税の計算をする相続財産に制度適用の贈与財産(贈与時の価額で)をプラスして相続税の計算をする
納付済贈与税額相続財産に加算した贈与財産に係る納付済贈与税額は相続税額から控除。払い過ぎた分は還付なし納付済贈与税額は相続税額から控除。払い過ぎた分は還付あり
贈与財産からの債務控除 できないできる
節税効果ある。贈与財産は、相続時に計算の対象外になる。よって、その分は、財産を少なくし、結果的に相続税が安くなる。ない。2500万円の非課税枠はあるが、すべて相続時に合算されて相続税がかかる。ただし、贈与時の価額で合算されるため、その財産が相続時に値上がりしていれば、間接的に節税になる。
メリット相続財産を減らすことが可能。結果的に相続税が安くなる。一度に大型贈与がしやすい
デメリット一度に大型贈与がしにくい相続税を安くすることができない。また、一度この制度を選択すると、その贈与者からの贈与については、暦年課税制度が使えなくなる。
相続時精算課税1
相続時精算課税2

相続時精算課税に係る贈与税相当額の還付金請求権は、相続開始日の翌日から起算して5年を経過した時点で時効消滅するとされた事例-東京地裁令和2年3月10日判決(tainz:Z888-2323)(棄却)(控訴)

(1)事案の概要

 本件は、原告Xが、被告国に対し、相続時精算課税に係る贈与税相当額の還付金300万円及び還付加算金の支払を求めた事案であるが、被告は、当該贈与税相当額の還付金請求権(以下「本件還付金請求権」という。)が時効により消滅している旨主張している。

○本判決に至るまでの事実等は、次のとおりである。
① Xは、相続開始の日の翌日から約5年9か月経過した後に、相続時精算課税に係る贈与税相当額の還付を受けるため、相続税の還付申告書を所轄税務署へ提出した。
② 所轄税務署が、Xに対し、本件還付金請求権は、相続開始の日の翌日から5年を経過したことによって時効により消滅した旨の連絡をしたところ、Xは、当該還付申告書は相続税の法定申告期限(相続開始があったことを知った日の翌日から10か月を経過する日)の翌日から5年以内に提出されており、本件還付金請求権は時効により消滅していないと主張して、還付金及び還付加算金の支払を求め、本訴を提起した。

(2)判決要旨(棄却)(控訴)

① 相続時精算課税に係る贈与税相当額の還付金請求権は、国税通則法74条1項所定の「還付金等に係る国に対する請求権」に該当するところ、同項は、当該請求権は、「その請求をすることができる日から5年間行使しないことによって、時効により消滅する。」と規定している。そして、同項所定の「その請求をすることができる」とは、法律上権利行使の障害がなく、権利の性質上、その権利行使が現実に期待のできるものであることを要すると解するのが相当である〔最高裁昭和40年(行ツ)第100号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁、最高裁平成4年(オ)第701号同8年3月5日第三小法廷判決・民集50巻3号383頁参照〕。
② 相続時精算課税に係る贈与税相当額の還付金請求権は、相続税還付申告書を提出することによって請求をすることができる。そして、相続税法上、同還付金請求権について申告期限の定めはないところ、相続の開始時に相続税の納税義務が発生する(国税通則法15条2項4号)一方で、同還付金請求権がある場合には、その額の算定も可能となるから、同還付金請求権に係る同法74条1項所定の「その請求をすることができる日」は、相続開始の日と解すべきである。したがって、同還付金請求権は、相続開始の日の翌日から起算して5年を経過した時点で時効消滅する。
③ そうすると、Xは相続開始の日の翌日から5年を経過した後に、所轄税務署に対し、還付申告書を提出しているから、その提出の時には既に還付金請求権は、時効により消滅したものと認められる。