会計帳簿の作成
合同会社は、適時に、正確な会計帳簿を作成する必要があり、決算締め切りの時から10年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならないことになっています(会社法615)。
重要な資料とは、通帳、契約書、請求書、領収書等です。
計算書類(決算書)の作成
計算書類の作成は合同会社の業務執行に当たると考えられるため、定款に定めのない限り、業務執行社員がこれを作成します。
まず、設立日(成立日)における貸借対照表を作成する必要があります(会社法617①)。設立日は、謄本(履歴事項全部証明書)の一番下の記載の「登記記録に関する事項」の設立の登記日となります。通常、登記所(法務局)に設立登記申請書を提出した日となります。
また、その後は、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書、社員資本等変動計算書及び個別注記表)を作成する必要があります(会社法617②、会計規71①二)。 実務的には、freeeやマネーフォワードクラウド等の会計ソフトを利用して作成するのが一般的です。
なお、合同会社は、計算書類を作成した時から10年間、これを保存する必要があります(会社法617④)。
貸借対照表の純資産の部
貸借対照表の純資産の部の表示については、「社員資本」、「評価・換算差額等」の項目に区分する必要があります(会計規76①三)。
そして、社員資本に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならないです(会計規76③)。
一 資本金
二 出資金申込証拠金
三 資本剰余金
四 利益剰余金
株式会社のように、資本準備金、利益準備金の表示はありません。また、自己株式の取得のようなことは、合同会社ではできない(会社法587①)ので、「自己持分」というような表示はありません。
評価・換算差額等に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならないです(会計規76⑦)。
一 その他有価証券評価差額金
二 繰延ヘッジ損益
三 土地再評価差額金
なお、合同会社の多くは、評価・換算差額等に係る項目に関することが通常ないため、貸借対照表の純資産の部の表示については、社員資本に係る項目のみが表示されている場合が多いです。
また、社員資本に係る項目のうち、出資金申込証拠金に関することも、まず、ないです。よって、合同会社の多くの貸借対照表の純資産の部に関することは、以下のようになっています。
(社員資本)
資本金 ××円
資本剰余金 ××円
利益剰余金 ××円
また、社員が出資した金額全額を資本金として、資本剰余金に計上しない合同会社が多いため、貸借対照表の純資産の部に関することは、以下のようにシンプルな構造となっている合同会社がほとんどです。
(社員資本)
資本金 ××円
利益剰余金 ××円
計算書類(決算書)の承認
合同会社は、事業年度ごとに計算書類(貸借対照表、損益計算書、社員資本等変動計算書及び個別注記表)を作成(会社法617②、会計規71①二)しますが、それにより、当該事業年度の利益又は損失(当期純損益金額、会計規94)が確定し、利益剰余金に反映されます。また、社員に分配される損益が明らかになります。このことが、事業年度ごとに行われることになります。
なお、計算書類について、株式会社においては一定の手続きを行い、原則として定時株主総会の承認を受けなければならない(会社法436~439)とされていますが、合同会社においては、会社法上、計算書類の承認に係る規定が置かれていません。
そのため、計算書類が作成された日に計算書類は確定すると考えられますが、作成だけでなく、承認も必要であるという見解もあります。
そのため、例えば、以下のように、計算書類の承認に関することを定款で定め、はっきりとさせておくのもよいと思います。記載場所は「計算」の章の「事業年度」の直後に記載するとよいでしょう。
(定款記載例)
(計算書類の承認) 第〇条 業務執行社員は、各事業年度終了日から2か月以内に計算書類(貸借対照表、損益計算書、社員資本等変動計算書及び個別注記表をいう。)を作成し、総社員の承認を受けなければならない。 |
(計算書類の承認) 第〇条 業務執行社員は、各事業年度終了日から2か月以内に計算書類(貸借対照表、損益計算書、社員資本等変動計算書及び個別注記表をいう。)を作成し、当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならない。 |
(計算書類の作成と承認) 第○条 業務執行社員Aは、各事業年度終了の日の翌日から2月以内に、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書、社員資本等変動計算書及び個別注記表)を作成しなければならない。 2 前項の作成された計算書類は、作成した社員A以外の社員の過半数の承認を受けなければならない。 |
このような場合は、計算書類が承認された日に計算書類は確定することになります。
決算公告
合同会社は、株式会社と異なり、決算公告は義務づけられていません。
社員・債権者による閲覧請求
合同会社の社員は、その合同会社の営業時間内は、いつでも、計算書類の閲覧を請求することができます(会社法618①)。
定款で別段の定めをすることはできます。ただし、定款によっても、社員が事業年度の終了時に請求をすることを制限する旨を定めることはできません(会社法618②)。
債権者保護の観点から、債権者も計算書類の閲覧を請求することができます(会社法625)。
法令
会社法
第615条(会計帳簿の作成及び保存)
持分会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
2 持分会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。
第617条(計算書類の作成及び保存)
持分会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。
2 持分会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表その他持分会社の財産の状況を示すために必要かつ適切なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)を作成しなければならない。
3 計算書類は、電磁的記録をもって作成することができる。
4 持分会社は、計算書類を作成した時から十年間、これを保存しなければならない。
第618条(計算書類の閲覧等)
持分会社の社員は、当該持分会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
一 計算書類が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 計算書類が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
2 前項の規定は、定款で別段の定めをすることを妨げない。ただし、定款によっても、社員が事業年度の終了時に同項各号に掲げる請求をすることを制限する旨を定めることができない。
第625条
合同会社の債権者は、当該合同会社の営業時間内は、いつでも、その計算書類(作成した日から五年以内のものに限る。)について第六百十八条第一項各号に掲げる請求をすることができる。
会社計算規則
第71条(各事業年度に係る計算書類)
法第六百十七条第二項に規定する法務省令で定めるものは、次の各号に掲げる持分会社の区分に応じ、当該各号に定めるものとする。
一 合名会社及び合資会社 当該合名会社及び合資会社が損益計算書、社員資本等変動計算書又は個別注記表の全部又は一部をこの編の規定に従い作成するものと定めた場合におけるこの編の規定に従い作成される損益計算書、社員資本等変動計算書又は個別注記表
二 合同会社 この編の規定に従い作成される損益計算書、社員資本等変動計算書及び個別注記表
2 各事業年度に係る計算書類の作成に係る期間は、当該事業年度の前事業年度の末日の翌日(当該事業年度の前事業年度がない場合にあっては、成立の日)から当該事業年度の末日までの期間とする。この場合において、当該期間は、一年(事業年度の末日を変更する場合における変更後の最初の事業年度については、一年六箇月)を超えることができない。
3 法第六百十七条第二項の規定により作成すべき各事業年度に係る計算書類は、当該事業年度に係る会計帳簿に基づき作成しなければならない。