(1)事案の概要
 本件は、審査請求人Xが、相続により取得した土地(本件土地)について、鉄道騒音により利用価値が著しく低下している宅地に該当することなどを理由に、当該相続に係る相続税の更正の請求をしたところ、原処分庁が、利用価値が著しく低下している宅地に該当しないなどとして更正の請求を認めないことに対し、Xが、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
 本件土地は、その北西側に敷設されたd鉄道e線の線路敷から約10mから30mまでの範囲内に位置しており、Xが騒音測定をしたところ、d鉄道e線の列車走行により約80デシベル以上の騒音が生じていることから、国税庁ホームページのタックスアンサー「No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価」に記載された利用価値が著しく低下している宅地に該当することなどを理由に10%減額して評価(この取扱いを「本件取扱い」とする。)し直すよう、Xは更正の請求をした。
 なお、本件相続開始日における本件土地の固定資産税評価額は、d鉄道e線の鉄軌道中心線から10m以内に存する場合の鉄道騒音補正率0.90を適用して算定されている。

(2)裁決要旨(全部取消し)
① 本件取扱いは、課税実務上の取扱いとして、騒音等の各種の事情により、その付近にある他の宅地の利用状況からみて、利用価値が著しく低下していると認められる部分のある宅地について、その価値に減価を生じさせている当該事情が、その宅地の評価上適用すべき路線価の評定において考慮されていない場合に限り、その宅地固有の客観的な事情として10%の減額をするものであり、当審判所においても相当であると認められる。したがって、騒音により利用価値が著しく低下している宅地として本件取扱いにより減額して評価すべきであるのは、(イ)当該宅地の評価に当たって用いる路線価が騒音の要因を考慮して付されたものではないこと(路線価における騒音要因のしんしゃく)、(ロ)騒音が生じていること(騒音の発生状況)、及び(ハ)騒音により当該宅地の取引金額が影響を受けると認められること(騒音による取引金額への影響)の3つの要件が満たされている場合とするのが相当である。
② 当審判所の現地調査においても、列車通過時には普通の会話が聞こえづらくなる程度の騒音があったことが認められるところ、当該騒音が何デシベルであるか客観的に確定する証拠は存在しないものの、本件土地においては相当程度の騒音が発生していたことは、経験則上、容易に肯認できるというべきである。さらに、(イ)本件土地周辺には騒音防止措置等が施されていないことや、(ロ)1日の列車本数は400本以上で、運行時間帯は午前5時頃から深夜零時過ぎにまで及び、時間帯によっては5分弱間隔の頻度で列車が通過することからすると、d鉄道e線の列車走行による騒音は、長時間にわたり、相当の頻度で発生していることが認められる。
③ 本件土地の所在するa市及び隣接するR市においては、補正率の算出方法は異なるものの、いずれも鉄軌道中心線から30mの範囲内の土地について、固定資産評価基準に定められた所要の補正の一つとして、鉄道騒音により土地価格が低下することを固定資産税評価額に反映させるための減価補正が設けられ、しかも、d鉄道e線が当該補正の対象とされているのであって、現に、本件土地の固定資産税評価額については、d鉄道e線の鉄軌道中心線から10m以内に存する場合の0.90の鉄道騒音補正率を適用して算定されていることが認められる。
④ 以上のとおり、本件土地については、(イ)本件路線価に騒音の要因がしんしゃくされていないこと、(ロ)d鉄道e線の列車走行により、相当程度の騒音が日常的に発生していたと認められること、(ハ)当該騒音により、その地積全体について取引金額が影響を受けていると認められることから、本件土地の全体につき、騒音により利用価値が著しく低下している宅地として本件取扱いにより減額して評価すべきものと認められる。したがって、本件土地の評価額は、本件土地全体を利用価値が低下していないものとして評価した場合の価額から、当該価額に10%を乗じて計算した金額を控除した価額により評価するのが相当である。