概要
贈与者が贈与をした年に死亡した場合、受贈者の贈与税や相続税の取扱いは「暦年課税(通常の贈与)」なのか、「相続時精算課税制度」を適用しているかによって取り扱いが異なります。
暦年課税(通常の贈与)の場合
(1)贈与税の申告
相続又は遺贈により財産を取得した者が、相続開始前7年以内(注)に当該相続に係る被相続人から贈与を受けていた場合、その贈与により取得した財産の価額を加算した価額(その財産のうち相続開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その財産の価額の合計額から100万円を控除した残額)が相続税の課税価格とみなされ、その者が相続開始の年に贈与を受けていた場合、贈与税の申告は不要となります(相法19①、21 の2④、相基通19-1)。
(注)加算対象期間は、相続開始日によって異なります。相続開始日が令和8年12月31日までの場合は相続開始前3年以内、令和9年1月1日から令和12年12月31日までの場合は令和6年1月1日から相続開始日まで、令和13年1月1日以後の場合は相続開始前7年以内となります。また、相続開始前3年以内以外の期間に取得した加算対象贈与財産については、その価額の合計額から総額100万円を控除した残額が加算されます(相法19①、令5改正法附則19①~③、相基通19-1・19-2、国税庁No.4161)。
つまり、受贈者が相続又は遺贈により財産を取得した場合、原則として、贈与者の死亡年に受けた暦年課税による贈与財産は相続税の課税価格に加算され、贈与税の申告は不要となります。
平成19年6月18日裁決(裁事例73集425頁)では、以下のように判断しています。
| 相続税の課税価格に加算された贈与財産の価額のうち相続開始の年において、その相続に係る被相続人から受けた贈与財産の価額は、相続税法第21条の2第4項の規定によって贈与税の課税価格に算入しないこととされている。 |
ただし、贈与税の配偶者控除や住宅取得等資金の非課税など、相続税の課税価格への加算対象とならない特例を適用する場合には、死亡年の贈与であっても贈与税の申告が必要となることがあります。
一方、相続又は遺贈により財産を取得していない者には、これらの規定は適用されないため、相続財産を取得しない場合は通常の「贈与税」の課税対象になり、贈与税の申告の対象となります(相基通21の2-3)。
よって、贈与税の暦年課税に係る基礎控除額を超えるか否かで申告・納税が必要か否かとなります。
暦年課税では、原則として、その年中に贈与税の課税価格に算入される贈与財産の合計額が基礎控除額110万円を超える場合には、翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告を行い、納付すべき税額がある場合には納税します。
なお、贈与税の配偶者控除や住宅取得等資金の非課税など、特例の適用を受けるために申告が必要となる場合があります。
(2)相続税の申告
相続財産を取得する場合には、被相続人から加算対象期間内に暦年課税に係る贈与により取得した財産の価額を、原則として相続税の課税価格に加算して相続税額を計算します。
ただし、贈与税の配偶者控除の適用部分や住宅取得等資金の非課税適用部分など、相続税の課税価格への加算対象とならない財産があります。
なお、相続開始前(死亡前)の生前贈与を相続財産に持ち戻して計算する「生前贈与加算」は、「相続や遺贈によって財産を取得した人」にのみ適用されます。
生前贈与加算の対象となるかどうかは、法定相続人であるか、相続放棄をしたかという形式だけではなく、その被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したかどうかで判定します。
したがって、相続放棄をした者であっても、遺贈を受けた場合や死亡保険金・死亡退職金などのみなし相続財産を取得した場合には、生前贈与加算の対象となることがあります。
一方、これらを含め相続又は遺贈により財産を一切取得していない場合には、暦年課税による贈与について相続税法19条1項の加算対象とはなりません。
なお、遺産を一切取得していない場合や相続放棄をした場合であっても、死亡保険金や死亡退職金などのみなし相続財産を取得していることがあります。
これらは相続税法上、相続又は遺贈により取得したものとみなされます(相続放棄者が取得した場合は遺贈により取得したものとみなされます)。
これらを受け取っている場合には、相続又は遺贈により財産を取得した者に該当するため、原則として死亡年の暦年贈与及び加算対象期間内の暦年贈与について、生前贈与加算の対象となります。
この場合、死亡年の贈与財産は贈与税ではなく相続税の課税価格の計算対象となります。これらを含めて計算した結果、相続税法27条の申告要件を満たす場合には、相続税の申告が必要となります。
相続時精算課税制度を選択している(または適用する)場合
過去に「相続時精算課税選択届出書」を提出している、または死亡年の贈与について精算課税を適用する場合は、上記の暦年課税(通常の贈与)とルールが変わります(相法21の10、21の11の2①、21の15①、21の16①・③、28④、相基通11の2-5、21の2-3)。
(1)贈与税の申告
相続税で精算するため、死亡年の贈与について贈与税の申告・納税は不要です。なお、死亡年の贈与について初めて相続時精算課税を選択する場合には、贈与税の申告書は不要であっても、相続時精算課税選択届出書の提出が必要です。
(2)相続税の申告
相続や遺贈により他の財産を取得しなかった場合であっても、相続時精算課税適用財産については相続又は遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税価格に算入して相続税額を計算します。
ただし、令和6年1月1日以後の贈与については、年分ごとに相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額が算入対象となります。相続税の申告義務は、その計算結果に基づき相続税法27条により判定します。
相続財産の価額に相続時精算課税の適用を受けた贈与財産(「相続時精算課税適用財産」といいます。)の贈与時の価額(令和6年1月1日以後の贈与により取得した相続時精算課税適用財産については、贈与を受けた年分ごとに、相続時精算課税適用財産の贈与時の価額の合計額から相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額)を加算して相続税額を計算します。
相続税法基本通達
19-1(相続税の課税価格に加算される贈与により取得した財産の価額)
法第19条第1項の規定により相続税の課税価格に加算される同項に規定する加算対象贈与財産(以下41ー5までにおいて「加算対象贈与財産」という。)の価額は、当該財産の次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に定める金額となることに留意する。
(1) 加算対象贈与財産のうち相続の開始前3年以内に取得した財産 当該財産に係る贈与の時における価額
(2) 加算対象贈与財産のうち相続の開始前3年以内に取得した財産以外の財産 当該財産に係る贈与の時における価額の合計額から100万円を控除した残額
(注)
1 当該財産を取得した者ごとに100万円を控除することに留意する。
2 当該価額の合計額が100万円以下である場合には、当該残額は零となることに留意する。
21の2-3(相続又は遺贈により財産を取得しなかった者の贈与税の課税価格)
相続開始の年において、当該相続に係る被相続人からの贈与により財産を取得した者が当該被相続人からの相続又は遺贈により財産を取得しなかつた場合の贈与税の課税価格は、法第21条の5から第21条の7までの規定(措置法第70条の2の5の規定を含む。以下「暦年課税」という。)の適用を受けるもの又は相続時精算課税の適用を受けるもののいずれであるかに応じて、それぞれ次に掲げるとおりとなることに留意する。
(1) 暦年課税
法第21条の2第4項の規定は適用されず、当該贈与により取得した財産の価額は、贈与税の課税価格に算入される。
(2) 相続時精算課税
法第21条の10の規定により、当該贈与により取得した財産の価額は、贈与税の課税価格に算入されるが、法第28条第4項の規定により贈与税の申告書の提出を要しない。この場合、当該財産の価額について贈与税の更正又は決定は行わないことに留意する。
(注) 相続開始の年において当該相続に係る被相続人からの贈与により財産を取得した者で当該贈与を受けた年より前の年に当該被相続人からの贈与により取得した財産について相続時精算課税選択届出書を提出していないものが、当該財産について相続時精算課税の適用を受けるためには、相続時精算課税選択届出書を提出しなければならないのであるから留意する。

