概要
みなし贈与は、通常、親族間で行われることが多いです。
そのため、相続を生じる特殊関係のある者相互間での行為のみが、みなし贈与課税の対象となり、第三者間での行為はみなし贈与課税の対象とならないのではないかとの疑義が生じることがあります。
しかしながら、さいたま地裁平成17年1月12日判決(税資255号-4順号9885)では、第三者間での行為においてもみなし贈与課税の対象となりうると以下のように判示しています。
「相続税法7条は著しく低い対価によって財産の取得が行われ、その担税力が増加したと認める状況があればよく、『財産の譲渡を受けた者』が相続予定者等の譲渡人と親族関係にあることを要せず、財産又は対価と時価の差額分を無償で譲り受ける意思や租税回避目的も要しないものと解すべきである。」
また、東京地裁平成19年1月31日判決(税資257号-13(順号10622))においても、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡が行われた場合には、それによりその対価と時価との差額に担税力が認められるのであるから、税負担の公平という見地から同条が適用されるというべきであり、租税回避の問題が生じるような特殊な関係にあるか否かといった取引当事者間の関係及び主観面を問わないものと解するのが相当である。」と判示して、相続を生じる特殊関係のある者相互間での贈与だけではなく、いわゆる第三者間の取引における、利益の授受について、みなし贈与課税することを相当としています。
さいたま地裁平成17年1月12日判決(税資255号-4順号9885)(一部取消し)(確定)
(1)事案の概要
原告Xが土地区画整理事業内の土地(以下「本件土地」という。)を平成8年8月21日に乙から代金1500万円で買い受けた(以下「本件売買契約」又は「本件譲受」という。)ところ、被告K税務署長は、本件土地の時価は7090万円余と評価され、本件売買契約は相続税法7条の規定による低額譲受に該当し、本件土地の時価との差額に相当する金額が贈与により取得したものとみなされるとして、平成8年分の贈与税として納付すべき税額3004万円余とする決定処分及び無申告加算税450万円余とする賦課決定処分(以下、これらの処分を個別にはそれぞれ「本件決定処分」、「本件賦課決定処分」といい、併せて「本件処分」という。)を行ったため、Xが、本件譲受は相続税法7条の低額譲受には当たらない等として、その取消しを求めた。
(2)本件の主な争点
相続税法7条が本件に適用されるかどうかである。
(3)判決要旨(一部取消し)(確定)
① 贈与税は、贈与により無償で取得した財産の価額を対象として課される税であるが、贈与という法律行為をとらずに財産の譲渡が行われた場合に一律に贈与税の対象とならないとすると、有償で、時価より著しく低い価額の対価で財産の移転を図ることによって、贈与税の負担から免れることになり、租税負担の公平を害することになる。そこで、相続税法7条は、このような租税回避の防止を図るために贈与という法律行為ではなくとも、時価より著しく低い価格で土地の譲受があった場合には、その対価と時価との差額に相当する金額の贈与があったものとみなすことにしたものと解される。
② 相続税法7条は著しく低い対価によって財産の取得が行われ、その担税力が増加したと認める状況があればよく、「財産の譲渡を受けた者」が相続予定者等の譲渡人と親族関係にあることを要せず、財産又は対価と時価の差額分を無償で譲り受ける意思や租税回避目的も要しないものと解すべきである。
③ 相続税法基本通達7-2は、不特定多数の者の競争により財産を取得する等公開された市場において財産を取得したような場合においては、たとえ、当該取得価額が当該財産と同種の財産に通常付けられるべき価額に比べて著しく低いと認められる価額であっても、課税上弊害があると認められる場合を除き、相続税法7条の規定を適用しないことに取り扱うものとすると規定しているが、上記通達は、不特定多数の者の競争により当事者の恣意性を排除して決められた価額が、一般の取引価額よりも著しく低額だからといってその差額に対して贈与税を課することは適当でないと思われることから相続税法7条の規定を課税実務上制限したものにすぎない。
④ 本件において本件土地の売主である乙が公開された市場と同視できるような状況で買手を誘致していたと認めるに足りる証拠はなく、Xとの間に契約された本件売買契約も上記通達のいう公開された市場において財産を取得した場合には当たらないことは明らかであって、本件土地の譲受は上記通達の適用を相当とする場合には当たらない。
⑤ 本件においても、Xの贈与意思又は租税回避の目的を問うことなく相続税法7条該当性を検討すべきであって、Xが売主乙と何ら親族関係がないこと又はXに贈与意思や租税回避の目的がないことをもって本件には相続税法7条が適用される前提を欠くとするXの主張は理由がなく、採用できない。
東京地裁平成19年1月31日判決(税資257号-13順号10622)(棄却)(確定)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xは、株式会社A(資本金1億6,886万円余、発行済株式数33万7,729株)の代表取締役であり、その創業者であり、かつ、筆頭株主である。
② Xは、平成10年2月18日から同11年2月24日にかけて、合計116人の譲渡人(以下「本件各譲渡人」という。)から、Aの株式(以下「本件各株式」という。)9万2,301株を取得した(以下、この本件各株式の取得を併せて「本件各譲受け」という。)。
本件各譲受けの1株当たりの取得価額(売買価額)の大部分は1,250円であった。
Xは、本件各譲受けが第三者間の取引であり、正当な価額で取得したものとして処理した。
③ 所轄税務署長は、本件各譲受けが相続税法7条の「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に当たるとして、Xに対し、平成16年2月26日付けで、平成10年分及び平成11年分の贈与税の決定処分等(以下「本件各処分」という。)をした。
④ Xは、本件各処分を不服として、本件各処分の取消しを求め、本件訴訟を提起した。
(2)本件の主な争点
本件各譲受けが相続税法7条にいう「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に当たるか否かであり、具体的には、同条は、取引当事者が、租税回避の問題が生じるような特殊な関係にある場合に限り適用されるものであるかどうかである。
(3)判決要旨(棄却)(確定)
① 相続税法7条の趣旨は、法律的にみて贈与契約によって財産を取得したのではないが、経済的にみて当該財産の取得が著しく低い対価によって行われた場合に、その対価と時価との差額については実質的には贈与があったとみることができることから、この経済的実質に着目して、税負担の公平の見地から課税上はこれを贈与とみなすというものである。そして、同条は、財産の譲渡人と譲受人との関係について特段の要件を定めておらず、また、譲渡人あるいは譲受人の意図あるいは目的等といった主観的要件についても特段の規定を設けていない。
② このような同条の趣旨及び規定の仕方に照らすと、著しく低い価額の対価で財産の譲渡が行われた場合には、それによりその対価と時価との差額に担税力が認められるのであるから、税負担の公平という見地から同条が適用されるというべきであり、租税回避の問題が生じるような特殊な関係にあるか否かといった取引当事者間の関係及び主観面を問わないものと解するのが相当である。
③ Xは、独立第三者間取引が行われた場合に相続税法7条が適用されると、取引価額は評価通達に拘束され、価額設定の自由が奪われることになり、資本主義経済取引を否定することになるから、それを避けるため、同条を適用する際は、本来の立法目的に従い、租税回避の意図があることを主観的要件とするか、又は、独立第三者間取引においては同条を適用するべきでない旨主張する。
しかし、前記のとおり、同条は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた者の担税力の増加に着目し、それ自体に課税するものであるから、取引当事者間の関係及び主観面を問わないものと解すべきであるし、独立第三者間取引において同条が適用されるからといって、そのことにより、直ちに一般市場における取引価額が評価通達に定められた価額に拘束され、価額設定の自由が奪われるというものではない。
したがって、同条において、租税回避の意図があることを主観的要件とするか、又は、独立第三者間取引においては同条を適用するべきでない旨のXの主張を採用することはできない。

