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個人事業主の必要経費は事業と直接関係あるものしか税務上認められないのか?

概要

 個人事業主が支出した費用を事業所得の必要経費にできるかどうかについて、「その支出が業務と直接関係していることが必要」と説明されることがあります。

 しかし、この「直接関係」は、本当に所得税法37条1項の必要経費の要件なのでしょうか。

 この問題を考える上で非常に重要なのが、弁護士が弁護士会の役員として支出した懇親会費等の必要経費性が争われた東京高裁平成24年9月19日判決(判時2170号20頁)です。

 この判決は、必要経費について「業務との直接関係」を独立した要件として要求することに疑問を呈した裁判例として、現在でもしばしば取り上げられています。

 もっとも、その後の裁判例や国税不服審判所の裁決例を見ると、「この判決によって必要経費の直接関連性要件が完全に否定された」と理解するのも正確ではありません。

 そこで本記事では、東京地裁平成23年8月9日判決(判時2145号17頁)、東京高裁平成24年9月19日判決(判時2170号20頁)、 最高裁平成26年1月17日第二小法廷決定(税資264号-6(順号12387))や、その後の裁判例・裁決例を踏まえ、所得税法37条1項の必要経費について「業務との直接関係」をどのように考えるべきなのかを整理します。

結論―「直接関係」を法定の独立要件として断定するのは慎重に

 以下で問題とするのは、所得税法37条1項後段の一般対応の必要経費について、「直接関連性」を独立した要件と解すべきかという問題です。なお、家事費・家事関連費については、所得税法45条1項1号及び所得税法施行令96条が別途適用されます(所法37①、45①一、所令96)。

 先に結論を述べると、所得税法37条1項後段に規定する販売費、一般管理費その他の一般的な必要経費について、「必要経費になるためには、所得税法37条1項により、必ず業務との直接関係がなければならない」と、法律上の独立した要件であるかのように断定することは慎重にした方がよいと考えられます。

 東京高裁平成24年9月19日判決が、「業務遂行上の必要性」とは別に「事業の業務との直接関係」を要求する根拠は見当たらないと判断しているためです。

 一方で、税務実務において「業務との直接関係」を全く考えなくてよいわけではありません。

 東京高裁判決後も、下級審裁判例や国税不服審判所の公表裁決例では、「業務と直接関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要であること」を必要経費の判断基準とするものが存在します。

 したがって実務上は、「直接関連性が法律上の独立した要件として確立している」とまで断定するのではなく、「具体的な業務との客観的な関連性と、その業務を遂行する上での必要性を説明できることが重要」と考えるのが適切です。

所得税法37条1項は2種類の必要経費を規定している

 この問題を理解するためには、まず所得税法37条1項の条文構造を確認する必要があります。

所得税法37条(必要経費)
 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
2 (略)

 同項は、必要経費について大きく2種類の費用を規定しています。

 1つは、「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用」です。例えば、商品の仕入原価など、収入との個別的な対応関係が比較的明確な費用がこれに当たります。

 もう一つは、「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」です。こちらは、広告宣伝費、事務所経費、通信費、交際費など、特定の売上と一対一で対応するとは限らない費用を含みます。

 ここで重要なのは、前者については条文に「直接に要した費用」という文言がありますが、後者については「直接」という文言がないことです。

  今回問題となる「直接関連性」は、主としてこの後者の費用について問題となります。

東京地裁平成23年8月9日判決の事案

 原告は仙台市で弁護士業を営む弁護士で、弁護士会会長、弁護士会連合会の副会長や理事などの役職を務めていました。

 原告は、これらの役員活動に伴って支出した懇親会費や立候補関係費用などを、弁護士業に係る事業所得の必要経費として計上しました。これに対し課税庁は、その多くを所得税法37条1項の必要経費として認めず、更正処分等を行いました。

 そこで原告が処分の取消しを求めて訴訟を提起したのが本件です。

 東京地裁平成23年8月9日判決は、一般的な必要経費について、「所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要であること」が必要であるとの判断枠組みを採用しました。

 さらに、その判断は納税者本人の主観だけで決めるのではなく、事業の内容や支出の目的などの個別具体的事情に即し、社会通念に従って客観的に行うべきものとしました。

 そして、弁護士会等と個々の弁護士は別人格であり、弁護士会役員としての活動を弁護士個人が事業所得を得るために行う弁護士業務と同一視することはできないなどとして、問題となった支出の必要経費性を原則として否定しました。東京地裁では原告の請求は棄却されました。

東京高裁は「直接関係」を独立した要件とすることを否定

 これに対し、東京高裁平成24年9月19日判決は、東京地裁の判断枠組みを一部変更しました。

 課税庁側は、一般対応の必要経費について、「事業の業務と直接関係を持ち、かつ、その業務の遂行上必要であること」を要すると主張していました。

 しかし東京高裁は、ある支出が業務の遂行上必要である場合には、その業務との関連性も当然認められるのであり、それとは別に、「事業の業務と直接関係を持つこと」まで要求すると解釈する根拠は見当たらないと判断しました。

 また、「直接」という言葉の意味自体も必ずしも明らかではないと指摘しています。この部分が、東京高裁平成24年9月19日判決が必要経費の「直接関連性」を考える際によく引用される最大の理由です。

 東京高裁は、弁護士会の活動についても東京地裁とは異なる評価をしています。

 弁護士会等の活動は、弁護士に対する社会的信頼を維持し、弁護士業務の改善に資するものであり、弁護士として事業所得を得る業務に密接に関係するとしました。

 その上で、弁護士会役員として行った活動それ自体が「事業所得を生ずべき業務」ではなかったとしても、その活動のために支出した費用が、弁護士として行う事業所得を生ずべき業務を遂行する上で必要な支出であれば、必要経費になり得ると判断しました。

 その結果、公式行事や会議等に伴う懇親会費などの一部について必要経費性が認められ、東京地裁判決が一部取り消されています。

 ただし、弁護士会関係の支出であれば何でも必要経費になるとしたわけではありません。

 二次会の費用、個人的な交際の性格が強いもの、業務遂行上必要な部分を区分できないものなどについては必要経費性が否定されています。

 したがって、東京高裁判決も、業務との関係を一切問わなくてよいとしたわけではありません。

 問題となる支出の目的・内容、役職、会合の性格、金額などを具体的に検討して、業務遂行上必要な支出なのかを判断しています。

最高裁は「直接関連性不要」と判断したわけではない

 東京高裁判決に対して国側が上告受理申立てをしましたが、最高裁第二小法廷は平成26年1月17日、「本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない」として、上告審として受理しない旨の決定をしました。

 その結果、東京高裁判決は確定しています。しかし、ここは注意が必要です。最高裁は、「必要経費について業務との直接関連性は必要ない」と判示したわけではありません。

 上告受理申立てを受理しなかっただけであり、「直接関連性を独立した要件とすることができるか」という所得税法37条1項の解釈について、最高裁が実体的な判断を示したものではありません。

 したがって、「最高裁判例によって、必要経費には直接関連性が不要であることが確定した」という説明は正確ではありません。

 正確には、「東京高裁が直接関連性を独立要件とすることを否定し、その判決について国が上告受理申立てをしたものの、最高裁が不受理としたため、高裁判決が確定した」ということになります。

東京高裁判決後も「直接関連性」を要求する裁判例がある

 重要なのは、東京高裁平成24年9月19日判決によって「直接関連性」という判断基準が、その後の裁判実務から消えたわけではないことです。

 例えば、東京地裁平成26年1月14日判決(税資264号-1(順号12382))は、ある支出が必要経費として収入金額から控除されるためには、事業活動と直接の関連を持ち、事業の遂行上必要な費用であることが必要であるとの判断枠組みを採用しています。同判決は請求棄却となり、確定しています。

 このように、東京高裁平成24年判決後も、「直接関係+業務遂行上の必要性」という従来型の判断枠組みを採用する裁判例があります。

 したがって、東京高裁平成24年判決だけを根拠に、「現在では直接関連性は必要経費の判断要素ではない」と一般化することには慎重であるべきです。

 さらに、長野地判平成30年9月7日(税資268号-78・順号13183)は、所得税法37条1項、45条1項及び所得税法施行令96条等を踏まえ、一般対応の必要経費について業務との直接関連性及び業務遂行上の必要性を要求しました。

 その控訴審である東京高判令和元年5月22日(税資269号-49・順号13272)は、所得税法37条1項の解釈に当たり所得税法45条1項1号及び所得税法施行令96条の文理等を考慮することは許されるとした上、控訴人が引用した東京高判平成24年9月19日については本件とは事案を異にするとして、原審の結論を維持しています。

 最二小決令和2年6月26日(税資270号-62・順号13422)は上告を棄却し、上告受理申立てを不受理として確定しました。ただし、この最高裁決定自体が所得税法37条1項の「直接関連性」について実体的な法解釈を示したものではありません。

 なお、より新しい熊本地判令和6年2月28日(税資274号・順号13950)も、所得税法37条1項の必要経費について、事業活動との直接の関連性及び事業遂行上の必要性を要求する判断枠組みを採用しています。

 控訴審の福岡高判令和6年10月2日(税資274号・順号14025)は控訴を棄却していますが、国税庁公表資料では上告・上告受理申立てとされています。

 国税不服審判所の公表裁決例を見ると、この点はさらに明確です。司法書士がロータリークラブの入会金や年会費を事業所得の必要経費として計上した事案(平成26年3月6日裁決・裁事94集)です。

 興味深いのは、請求人自身が東京高裁平成24年9月19日判決を引用し、「所得税法37条1項を文理解釈すれば、業務と直接の関係を持つことを必要経費の要件とすることはできない」と主張していることです。

 しかし国税不服審判所は、その主張を退け、支出の必要経費性について、業務との関係、支出の趣旨・目的等を総合考慮し、社会通念に照らして客観的に判断しています。

 そして、ロータリークラブの活動については司法書士業務との直接的な関係や業務遂行上の必要性が認められないとして、入会金・会費の必要経費算入を認めませんでした。

 この裁決からも、国税不服審判所が東京高裁平成24年判決を「一般的に直接関連性要件を否定したことにより、今後は直接関連性を考える必要がなくなった」とは理解していないことが分かります。

 また、不動産貸付業を営む納税者が、賃貸していた土地上の賃借人所有建物を収去するために支出した費用の必要経費性が争われた事案(令和元年9月20日裁決・裁事116集)があります。

 国税不服審判所は、この支出について、不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、その業務を遂行する上で必要なものであったとして、必要経費への算入を認め、課税処分を全部取り消しました。

 つまり、「直接関連性」という基準は、課税庁側に有利な方向にだけ使われるものではありません。客観的な事業との結び付きが認められれば、納税者側の必要経費性を肯定する根拠にもなります。

 また、比較的新しい公表裁決として参考になるのが、令和4年3月4日裁決(裁事126集)です。

 デジタルWEBコンテンツの販売あっせん事業を行っていた納税者が、コンテンツの購入代金等を必要経費として主張した事案です。

 国税不服審判所は、支出の全部を必要経費とは認めませんでした。

 一方、事業を行うためには販売会社の会員となって会員IDを取得する必要があり、そのID取得のために一定のコンテンツを購入することが必要だったことから、その部分については、「客観的にみて本件事業と直接関係を持ち、かつ、本件事業の遂行上必要な費用」と認め、必要経費への算入を認めました。

 この裁決も、「直接関連性」という考え方が現在の審判所実務においてなお用いられていることを示す裁決例といえます。

「直接関係」とは「特定の売上との直接対応」を意味するわけではない

 ここで注意したいのが、「直接関係」という言葉の意味です。

 必要経費になるためには、「この支出をしたから、この売上が発生した」という一対一の直接的な因果関係まで必要である、と考えるのは適切ではありません。

 所得税法37条1項自体が、売上原価等だけでなく、販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用を必要経費として認めています。

 例えば、事務所家賃、通信費、広告宣伝費、税理士報酬、業務用ソフトウェアの利用料などは、通常、特定の1件の売上との対応関係を示すことはできません。

 それでも事業全体を遂行するために必要な支出であれば、必要経費となり得ます。

 したがって、裁判例や裁決例で使用される「直接関係」は、「特定の売上を直接生じさせたこと」という意味に狭く理解するのではなく、「単に事業に何らかの利益をもたらす可能性があるという程度ではなく、具体的な業務との客観的な結び付きが認められるか」という観点から理解するのが実務上は適切でしょう。

特に問題になりやすいのは「事業にも私生活にも関係する支出」

 個人事業主の必要経費で難しいのは、個人には「事業活動を行う側面」と「私生活を営む側面」の両方があることです。

 例えば、飲食代、旅行代、自動車関係費、携帯電話代、インターネット代、各種団体の会費、書籍代、衣服代、交際費などは、事業にも私生活にも使用される可能性があります。

 そのため、「事業に役立つ可能性がある」「顧客を獲得できるかもしれない」「人脈形成になる」というだけでは、必要経費性を十分に説明できない場合があります。

 重要なのは、「何のための支出なのか」「誰に対する支出なのか」「具体的にどの業務に関係するのか」「その支出をする必要性がどの程度あったのか」「私的な目的が含まれていないか」「私的部分がある場合に業務部分を合理的に区分できるか」「金額が社会通念上妥当か」といった事情です。

 必要経費に該当するかどうかは、「直接関係」という言葉だけで形式的に判断するのではなく、このような個別具体的な事実関係から客観的に判断する必要があります。

 なお、事業と私生活の双方に関係する支出が家事関連費に該当する場合には、所得税法37条1項だけでなく、所得税法45条1項1号及び所得税法施行令96条を検討する必要があります。

 所令96条1号は、家事関連費の主たる部分が業務遂行上必要であり、かつ、その必要部分を明らかに区分できる場合を定めています。

 また、同条2号は、青色申告書を提出することにつき承認を受けている居住者について、取引記録等に基づき業務遂行上直接必要であったことが明らかな部分を定めています。

 したがって、家事関連費についてまで「直接性は法令上問題にならない」と一般化することはできません(所法45①一、所令96一・二、所基通45-1・45-2、国税庁タックスアンサーNo.2210)。

「直接関連性」について現在どのように理解すべきか

 以上を整理すると、所得税法37条1項後段に規定する必要経費について、現在の法的状況は次のようになります。

 まず、所得税法37条1項後段には「直接」という文言はありません。

 そして東京高裁平成24年9月19日判決は、「業務遂行上必要」であることとは別に「事業との直接関係」を独立した要件として要求する根拠はないと判断しました。

 一方、その後の裁判例や国税不服審判所の裁決例には、「業務と直接関係し、かつ、業務遂行上必要」であることを必要経費の判断基準としているものがあります。

 また、最高裁平成26年1月17日決定は上告受理申立てを不受理としただけであり、この問題について最高裁として実体的な法解釈を示したものではありません。

 したがって、「必要経費になるためには、法律上、必ず事業との直接関連性が必要である」と断定するのも、「東京高裁判決によって直接関連性は必要なくなった」と断定するのも、いずれも正確ではないと考えます。

 実務上は、「その支出が具体的な業務と客観的な関連性を有し、その業務を遂行する上で必要な支出であることを説明できるか」を中心に考えるのが適切です。

税務調査に備えて「なぜ必要だったのか」を証拠に残す

 税務実務でより重要なのは、抽象的な法律論だけではなく、その支出の必要性を証拠によって説明できるかどうかです。

 例えば飲食費であれば、領収書だけを保存するのではなく、「飲食した相手」「相手との事業上の関係」「会食の目的」「参加人数」「具体的に話した業務内容」などが分かるようにしておくことが重要です。

 団体の会費であれば、「団体の目的」「入会する必要性」「事業との関係」「団体で実際に行っている活動」「その活動が自分の業務にどのようにつながっているか」を説明できる資料を残しておく必要があります。

「仕事に役立つと思ったから」という本人の主観だけではなく、第三者から見ても業務との関係と必要性が分かる証拠を残すことが大切です。

 こうした事項について、領収書、会合案内、メール、議事メモその他の資料を残しておくことは、支出の業務関連性及び必要性を客観的に説明する上で有用です。

 特に家事関連費については、取引記録等に基づく業務部分の区分が問題となります(所法45①一、所令96、所基通45-1・45-2、国税庁タックスアンサーNo.2210)。

まとめ

 所得税法37条1項の必要経費については、しばしば「事業との直接関連性が必要」と説明されます。

 しかし、東京高裁平成24年9月19日判決は、所得税法37条1項後段について、業務遂行上の必要性とは別に「事業の業務と直接関係を持つこと」を要求する根拠はないと判断しています。

 また、前記東京高判令和元年5月22日の上告審である最二小決令和2年6月26日決定も、上告棄却・上告受理申立て不受理の決定であり、同決定自体がこの点について実体的法解釈を示したものではありません。

 さらに、その後の下級審裁判例や国税不服審判所の公表裁決例では、「業務と直接関係し、かつ、業務遂行上必要」であることを判断基準とする事例が引き続き見られます。

 そのため、「直接関連性は絶対的な法律上の要件である」あるいは逆に、「現在は直接関連性を考える必要はない」と単純化することは適切ではありません。

 必要経費に該当するかどうかを検討する際には、その支出が具体的な業務と客観的に結び付いているか、そして、その業務を遂行する上で必要な支出であるかを、支出の目的や内容、相手方、金額、事業との関係などの個別具体的な事情から判断する必要があります。

 そして税務調査を考えれば、「なぜこの支出がこの事業に必要だったのか」を第三者にも説明できる資料を残しておくことが、何より重要です。

東京地裁平成23年8月9日判決(判時2145号17頁)、 東京高裁平成24年9月19日判決(判時2170号20頁)、 最高裁平成26年1月17日第二小法廷決定(税資264号-6(順号12387))

(1)事案の概要

 本件は、弁護士業を営み、弁護士会の役員を務めたX(原告、控訴人)が、役員としての活動に伴い支出した懇親会費等の各支出(以下「本件各支出」という。)を事業所得の金額の計算上必要経費に算入して申告したところ、所轄税務署長が、これらの費用については、所得税法37条1項に規定する必要経費に算入することはできないとして更正処分等をした事案である。

(2)本件の主な争点

 本件各支出を所得税法37条1項に規定する必要経費に算入することができるか否かである。

(3)一審判決要旨(棄却)(控訴)

① 事業所得の金額の計算上必要経費が総収入金額から控除されることの趣旨や所得税法等の文言に照らすと、ある支出が事業所得の金額の計算上必要経費として控除されるためには、当該支出が所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ当該業務の遂行上必要であることを要すると解するのが相当である。そしてその判断は、単に事業主の主観的判断によるものではなく、当該事業の業務内容等個別具体的な諸事情に即して社会通念に従って客観的に行われるべきである。
② 弁護士は、当事者等の依頼又は官公署の委託によって、訴訟事件、非訟事件等の法律事務を行うことを職務とし、法律事務を行う対価として報酬を得ることで事業所得を得ているのであるから、弁護士が弁護士の地位に基づいて行う活動のうち、所得税法上の「事業」に該当する活動とは、事業主である弁護士がその計算と危険において報酬を得ることを目的として継続的に法律事務を行う経済活動をいうことになる。
③ 弁護士会及び日弁連の目的は、弁護士等の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことにあり、これらの目的の下に行われる活動等から生ずる成果は、当該活動を行った弁護士個人に帰属するものではなく、弁護士会や日弁連ひいては弁護士等全体に帰属するものと解される。また、弁護士会等は、会費を徴収するなどして活動に必要な支出に充てていること等が認められ、弁護士会等の役員としての活動に必要な資金や人的物的資源は、基本的には弁護士会等によって調達されるものであるということができる。
④ 以上のような事情の下でXが弁護士会等の役員として行う活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動は、Xが弁護士として対価である報酬を得て法律事務を行う経済活動に該当するものではなく、社会通念上、弁護士の所得税法上の「事業」に該当するものではないというべきである。
⑤ そうすると、弁護士会等の役員として出席した酒食を伴う懇親会等の費用については、これらが弁護士会等の役員としての活動との関連で支出されたものであるからといって、Xの事業所得を生ずべき業務に直接関係して支出された必要経費であるということはできない。
⑥ Xが弁護士会会長に立候補するための活動費用等は、弁護士会等の役員としての活動との関連で支出されたもの、あるいは、弁護士会等の役員としての活動の準備として支出されたものというのが相当であるから、弁護士会の役員に就任するための活動に必要な費用の支出が、Xの事業所得を生ずべき業務に直接関係して支出された必要経費であるということはできない。

(4)控訴審判決要旨(原判決変更・一部取消し)(上告受理申立て)

① 事業所得の金額の計算上必要経費が総収入金額から控除されることの趣旨や所得税法等の文言に照らすと、ある支出が事業所得の金額の計算上必要経費として控除されるためには、当該支出が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であることを要すると解するのが相当である。
② 国は、一般対応の必要経費の該当性は、当該事業の業務と直接関係を持ち、かつ、専ら業務の遂行上必要といえるかによって判断すべきであると主張する。しかし、所得税法施行令96条1号が、家事関連費のうち必要経費に算入することができるものについて、経費の主たる部分が「事業所得を‥生ずべき業務の遂行上必要」であることを要すると規定している上、ある支出が業務の遂行上必要なものであれば、その業務と関連するものでもあるというべきである。それにもかかわらず、これに加えて、事業の業務と直接関係を持つことを求めると解釈する根拠は見当たらず、「直接」という文言の意味も必ずしも明らかではないことからすれば、国の上記主張は採用することができない。
③ Xの弁護士会等の役員等としての活動がXの「事業所得を生ずべき業務」に該当しないからといって、その活動に要した費用がXの弁護士としての事業所得の必要経費に算入することができないというものではない。なぜなら、Xが弁護士会等の役員等として行った活動に要した費用であっても、これが、Xが弁護士として行う事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出であれば、その事業所得の一般対応の必要経費に該当するということができるからである。
④ 弁護士会等の活動は、弁護士に対する社会的信頼を維持して弁護士業務の改善に資するものであり、弁護士として行う事業所得を生ずべき業務に密接に関係するとともに、会員である弁護士がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことにより成り立っているものであるということができるから、弁護士が人格の異なる弁護士会等の役員等としての活動に要した費用であっても、弁護士会等の役員等の業務の遂行上必要な支出であったということができるのであれば、その弁護士としての事業所得の一般対応の必要経費に該当すると解するのが相当である。
⑤ 弁護士会等の目的やその活動の内容からすれば、弁護士会等の役員等が、(イ)所属する弁護士会等又は他の弁護士会等の公式行事後に催される懇親会等、(ロ)弁護士会等の業務に関係する他の団体との協議会後に催される懇親会等に出席する場合であって、その費用の額が過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解するのが相当である。
⑥ また、弁護士会等の役員等が、(ハ)自らが構成員である弁護士会等の機関である会議体の会議後に、その構成員に参加を呼び掛けて催される懇親会等、④弁護士会等の執行部の一員として、その職員や、会務の執行に必要な事務処理をすることを目的とする委員会を構成する委員に参加を呼び掛けて催される懇親会等に出席することは、それらの会議体や弁護士会等の執行部の円滑な運営に資するものであるから、これらの懇親会等が特定の集団の円滑な運営に資するものとして社会一般でも行われている行事に相当するものであって、その費用の額も過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解するのが相当である。
⑦ 弁護士が弁護士会等の役員に立候補した際の活動に要した費用のうち、立候補するために不可欠な費用であれば、その弁護士の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出に該当するが、その余の費用については、これに該当しないと解するのが相当である。

(5)最高裁決定要旨(申立人国・上告受理申立て不受理・確定)

 本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。

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