役員退職金を現金預金でなく不動産、株式で支給しても問題ありません。ただし、現物給付されるモノの価額を適正に算定することが、退職役員に係る所得税の源泉徴収義務の履行において重要な課題となります。
 東京地裁平成6年11月29日判決(税資206号449頁)は、原告であるX会社が代表取締役甲の退任に伴い、同人に対し退職慰労金の一部としてX会社所有の土地の帳簿価額2,500万円をもって現物支給したが、被告であるY税務署長は本件土地を時価1億6,053万円余と算定し帳簿価額との差額1億3,553万円余が益金の額に算入され、当該金額が甲に対する退職慰労金に加えられるべきであるが損金経理されていないとして、当該金額を損金の額に算入しないとする更正をしたため争われた事案です。
 前掲東京地裁は、Y税務署係官が抽出した近隣の売買実例10件の平均価額等からみて、本件土地の時価は2億957万円余であることが認められ、当該算定方法は、売買実例の抽出方法等に照らし、合理的なものと認めることができるとし本件土地の譲渡価額は少なくとも1億6,053万円余を下回るものではないとし、また、本件土地の時価と帳簿価額との差額に相当する金額について損金経理したことにならないと判断しました。なお、控訴審東京高裁平成8年3月26日判決(税資215号1114頁)及び上告審最高裁平成10年6月12日第二小法廷判決(税資232号600頁)も、第一審判断を維持しました。
 その他、役員に対して土地建物を現物給付した場合に、当該土地建物の価額について、不動産鑑定士の評価を重視して評価すべき旨判示した裁判例(名古屋地裁平成4年4月6日判決・税資189号24頁)等があります。

時価の判定日

 役員退職金を不動産、株式で支給する場合、いつの時点の時価で判定するのかという問題点があります。上記、東京地裁平成6年11月29日判決では、下記のような事実状況等において、課税庁は本件譲渡時(昭和62年2月28日)における本件土地の価額で時価算定しています。

  • X会社の昭和61年3月1日から昭和62年2月28日までの事業年度における退職金損金計上で争われた。
  • 昭和61年5月31日のX会社の株主総会において、代表取締役甲から、昭和62年2月28日をもつて代表取締役を辞任したい旨の申し出がされ、甲に対する退職慰労金として本件土地建物を充てること等が株主全員の承認を得て可決された。
  • 甲は、昭和62年2月28日、X会社の代表取締役を退任し、X会社は、甲に対し、退職慰労金の一部として本件建物とともに本件土地を現物支給するという形で譲渡し、その帳簿価額2,659万円余(本件土地2,500万円及び本件建物159万円余)を支給額として計上した旨の経理処理がされた。