みなし役員

概要

 法人税法上の役員の範囲は、取締役等で会社法その他の法令に基づき選任された役員よりも広く規定されています。つまり、法形式上は役員になっていないが、実質的に法人の経営に従事して、その意思決定に大きな影響力を持つと認められる者が含まれます(法法2十五、法令7)。このような会社法等の役員ではないが、法人税法上の役員とみなされる者を「みなし役員」といいます。

 なお、よくあるケースは、夫が会社の社長であり、妻が登記上の役員でなく従業員(しかし、会社経営に従事して、その意思決定に大きな影響力を持つ)で働いている場合です。そして、妻が従業員だからといって決算賞与を支払ったが、妻が「みなし役員」と認定され、賞与の損金算入が認められなかった(「事前確定届出給与」でない)というような事例があります。

 また、代表が退職したといって会社として退職金を支払ったが、代表には実質退職した事実がなく継続的に経営に従事しており「みなし役員」であるとし、退職金を賞与(損金の額に算入できない)とされた事例もあります。

役員の範囲

 法人税法上の役員の範囲は、具体的には次の者をいいます。法形式上の役員(登記されている役員)である(1)以外の者は「経営に従事」しているか否かがポイントとなります。

(1) 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人(会社法等で定められた役員)
(2) 会長、相談役、顧問等のように、登記上の役員ではないが、使用人以外の者で実質的に法人の経営に従事している者(法令7一)
(3) 同族会社の使用人のうち、同族会社の判定の基礎となった特定の株主グループに属しているなど次の三つの要件の全てに該当している株主(「特定株主」と称する。)でその会社の経営に従事している者(法令7二、71①五)
 イ 各株主グループの所有割合の多い順に順位を付し、第一順位のグループから順次所有割合を足したときに、初めて50%を超えるグループに属していること
 ロ 自己の属する株主グループの所有割合が10%を超えていること
 ハ 自己の所有割合(配偶者及び所有割合50%超の関係会社を含む。)が5%を超えていること

 業務執行社員を定めている合同会社の場合の「所有割合」とは、そのグループに属する業務執行社員の数がその会社の業務執行社員の総数のうちに占める割合をいいます。

「経営に従事」とは

 法人が役員の分掌変更等に際し、その役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、「常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと」のような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等により、その役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことにされています(法基通9-2-32、同旨所基通30-2(3))。

 一方、みなし役員に該当する場合の「経営に従事している者」は、「経営上主要な地位を占めていると認められる者」より、適用範囲が広いと考えられており、経営上主要な地位ではなくても経営に従事していれば、該当してしまうということになります。

 「経営に従事」の該当性については、事案ごとに特有の事実関係が含まれているため、事実認定上問題の多いところですが、結局は、取締役等と同様に当該法人の事業運営上の重要事項の意思決定に参画しているかどうかによって決すべきことになります。

 一般的には、経営方針に参画して次のような計画・決定に自己の意思を表明し反映させている場合が該当するとされています。
 職制の決定、販売計画、仕入計画、製造計画、人事計画、資金計画、設備計画など

 山口地裁昭和40年4月12日判決(税資41号330頁)では、次のとおり判示しています。
「Xは、形式上役員として登記されていず、原告に出資していなくても、原告の事業運営上の重要事項に参画しているというべきであるから、(省略)税法上原告の役員として取扱うべきである。」

 また、昭和55年2月20日裁決(裁事20集181頁)では、株主ではなく、また、商業登記上の役員でもない者が、①会社の資金調達等に当たり、銀行から資金を借り入れることを決定する等、その資金計画を行っていること、②商品の仕入、販売の計画を行っていること、③従業員の採用の諾否及び給与の決定を行う等、当該会社の業務運営を実質的に行っていたとして、税法上の役員に該当すると判断しています。

 一方、令和2年12月15日裁決(裁事121集)では、「経営会議での指示命令」、「金融機関に対する対応」、「新規事業の決定」、「給与を受領していない」等の事実関係を詳細に認定した上で、元代表者が退職後も継続して法人の経営に従事していたと認めることはできないから、退職の事実があると判断しています。

「みなし役員」と退職金との関係

 上記のように、法人税法上の役員は、会社法上の役員よりも範囲が広いということになります。そのため、みなし役員が取締役に就任した場合、あるいは取締役が退任してもみなし役員である場合には、法人税法上は役員の継続中となるため、それぞれそのときに支給される退職金名義の金員の性格が問題となります。

 東京地裁令和2年3月24日判決(平成28年(行ウ)589号)では、商業登記上の役員でもない者(その後、役員になる)が、①会社の経理面の重要な業務に関する行為を行っていたほか、②会社の予算管理に係る行為も行っていたものであり、③会社の重要な経営判断やその実務処理に実質的に参与したとして、実質的に会社の経営に従事していたと認めるのが相当であるとして、役員退職給与適正額の算定における勤続年数に、その商業登記上の役員でなかった期間も通算されるべきと判示しました。

 取締役を退任してみなし役員になったときに支給された退職金を役員賞与(損金不算入)と認定した課税処分を是認した東京地裁昭和53年5月25日判決(訟務月報24巻9号1827頁)等があります。

 もっとも、使用人であるが税法上はみなし役員に該当する者が取締役に就任したときに清算払いされた退職給与について、法人税法上の役員になることと使用人を退職することとは別個の概念であるとして、使用人時代の退職金は、みなし役員になったときではなく、取締役に就任したときに支給できると判示した大阪高裁昭和54年2月28日判決(税資104号531頁)等も見受けられます。

元代表者に退職金として支払った金員は、当該元代表者に退職の事実があるから、損金の額に算入されるとされた事例-令和2年12月15日裁決(裁事121集)(全部取消し)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 審査請求人Xは、昭和36年10月に設立された不動産の賃貸等を営む株式会社であり、同族会社である。なお、平成25年3月期において、Xの元代表取締役Lの長男HがXの発行済株式総数の8割を超える株式を保有していた。
② Lは、平成24年11月、Xの代表取締役及び取締役をいずれも辞任し(以下「本件辞任」という。)、同年12月、その旨の登記がされた。
③ Xは、平成24年11月、Lに対して退職慰労金を支給する旨の臨時株主総会の決議に基づき、Xの役員退職金規程により算出した7億2500万円(以下「本件金員」という。)を役員退職慰労金勘定に計上し、同年12月から平成25年9月までの間に、Lに対し、本件金員から源泉所得税額を差し引いた全額を支払った。
 Xは、本件金員を、退職給与として平成25年3月期の損金の額に算入した。
④ Lは、平成24年12月以降少なくとも平成29年3月までの期間において、Xの登記上役員としての地位を有しておらず、使用人でもなかった。また、Xが、上記期間において、Lに対して役員給与及び従業員給与を支給した事実もなかった。
⑤ Lの妻であるFは、平成24年6月、Xの代表取締役に就任し、LとFの娘であるMは、平成28年4月、Xの代表取締役に就任し、以後、両名がXの代表取締役を務めている。
⑥ Lは、平成24年6月に、Fは、平成27年9月に、いずれも国内住所○○(以下「本件住所地」という。)からシンガポール共和国へ住所を移転した。また、Mは、原処分がされた令和元年5月30日当時、住民票及びXの登記において、本件住所地を住所としていた。
⑦ Xは、所轄税務署長から、Lは本件辞任後も実質的に役員であったから、本件金員は損金の額に算入できないとする更正処分を受けたので、それを不服として、審査請求した。

(2)争点

 退職給与として、平成25年3月期の損金の額に算入されるか否かについてだが、元代表取締役Lが登記上退任した後もXの経営に従事しており、実質的に退職したか否かである。

(3)裁決要旨(棄却)(全部取消し)

① 原処分庁は、Lは、本件辞任後においても従来どおりXの経営に従事しており、Xのみなし役員に該当するから、Xを実質的に退職したとは認められないとして、本件金員は退職給与として平成25年3月期の損金の額に算入されない旨主張する。ところで、法人税法2条15号が取締役等の法的な地位を有していない者でも「法人の経営に従事している者」を法人の役員に含めた趣旨が、取締役等と同様に法人の事業運営上の重要事項に参画することによって法人が行う利益の処分等に対し影響力を有する者も同法上は役員とするところにあることからすると、上記の「法人の経営に従事している」とは、法人の事業運営上の重要事項に参画していることをいうと解される。そこで、Lが、本件辞任後も継続して、Xの経営に従事、すなわち、Xの事業運営上の重要事項に参画しており、実質的に退職していないと認められるかにつき、以下検討する。
② 本件経営会議への出席及び指示命令について
Lの長男であるHが、平成25年当時、Xの発行済株式総数の8割を超える株式を保有するとともに、本件法人グループの持株会社といえるU社の全株式を保有し、また、Lが本件法人グループの従業員等から「オーナー」と呼ばれ、さらに、Lが本件法人グループ間の資金移動などの様々な指示ともとれるような連絡をしていたことなどからすると、原処分庁が指摘するように、Xが本件法人グループの一員として本件経営会議の参加者とされ、Lが、本件経営会議において、本件法人グループの各代表取締役らより上位の立場で振舞っていたという事実があったとしても、そのことをもって、Lが、本件辞任後も継続して、Xの経営に従事していたとまで直ちに認めることはできない。
③ 金融機関に対するLの対応について
 X提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、Xは、本件辞任の日から平成28年3月までの期間において、金融機関から新規融資を受けていないと認められ、実際に新規融資に向けた具体的な交渉が行われたことを認めるに足りる証拠もない。
 Xの取引銀行からの融資につき、本件辞任の約3か月後である平成25年3月に、その連帯保証人がLから当時の代表取締役であるFに変更されたことが認められるところ、この事実は、本件辞任に対応した措置が金融機関との間で具体的に執られたことを示すものである上、FがXの代表者としての自覚と責任のもとに自ら決定したことを推認させるものといえる。
 そうすると、Lが、Xにつき、本件辞任後も継続して、金融機関との間で具体的な交渉を行い、自ら最終的な判断をしていたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
④ 新規事業の決定等について
 Xは、平成27年3月頃にY社から太陽光発電設備を購入していると認められるところ、当該購入は、本件辞任から約2年4か月後のことであり、そもそも、本件辞任後間もない時期に、Xが太陽光発電事業を新規に開始することを決定したとは認められず、その他、Lが、本件辞任後に、Xの事業運営上重要な新規事業を決定したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
⑤ 以上に加え、Lは、本件辞任の日以降少なくとも平成29年3月までの間、Xから役員給与や従業員給与を受領していないと認められること、他方で、本件辞任後にXの代表取締役の地位にあったFが、本件辞任直後から、その代表取締役としての職務を全く行っていなかったことを認めるに足りる証拠もないこと、また、Lが本件辞任の約5か月前に海外に住所を移転しており、本件辞任に至った経緯が不自然であるともいえないことからすれば、Lが、本件辞任後も継続して、Xの事業運営上の重要事項に参画するみなし役員に該当し、Xを実質的に退職していなかったと認めることはできない。
⑥ 以上のほか、本件金員が退職給与として損金の額に算入されないと判断すべきその他の事情もないことから、本件金員は、退職給与として、Xの平成25年3月期の損金の額に算入される。