退職金

 役員退職金(給与)の損金算入時期は、本来、債務確定基準(法法22③二かっこ書)が適用されることになるので、原則として、その役員が退職し、退職給与の額が株主総会の決議等により具体的に確定した日の属する事業年度となります(法基通9-2-28)。

 株主総会の決議等が翌期に行われているという事実認定により、退職金の債務は確定していないとして退職慰労金の損金算入ができないとされた事例(名古屋高裁平成6年10月26日判決・税資206号95頁)があります。

 なお、上記のように役員に対する退職給与は、原則として、株主総会の決議等により具体的に確定した日の属する事業年度が損金算入の時期となるのですが、これを絶対的なものとすると、期中に死亡等により役員が退職した場合に株主総会の決議を翌期に行うことを前提に取締役会の決議で内定した金額を支払った場合や、株主総会の決議で役員退職給与の額を定めたのだが資金繰りがつくまで実際の支払いをしない場合等に問題が生じます。

 そこで、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認めることとしています(法基通9-2-28ただし書)。

役員退職金の分割払い

 役員退職金(給与)を複数年度にわたり分割払いをする場合においては、その総額が確定した事業年度においてその全額を損金の額として未払計上し、翌期以降における支払額はその未払金を取り崩す経理をすることが望ましいのですが、法人税基本通達9-2-28ただし書の文言から、特段の事情のない限り、そのような処理を要せずその支払のつど損金算入すれば足りるという考え方も成り立ちます。

 参考になる事例として、分掌変更による役員退職給与の分割払の損金算入時期等について争われた東京地裁平成27年2月26日判決(税資265号-30(順号12613))があります。同判決では、同族会社である原告の創業者である役員乙が原告の代表取締役を辞任して非常勤取締役となったこと(分掌変更)に伴い、原告は乙に対する退職慰労金として2億5,000万円を支給することを決定し、平成19年8月期に7,500万円を支払い、さらに平成20年8月期にその一部である1億2,500万円(第二金員)を支払いました(残額の5,000万円は支払われていない)。

 原告は本件第二金員が退職給与に該当することを前提として、平成20年8月期に損金の額に算入し、また、同金員が退職所得に該当することを前提として計算した源泉所得税額を納付しましたが、同金員が所得税法上の「退職所得」に当たるか、同金員が法人税法上の「退職給与」としての損金性を有するか、また、退職給与に該当する場合においても、平成20年8月期ではなく、平成19年8月期における退職給与として損金に算入すべきではないか、等が争われました。

 前掲東京地裁判決は、本件第二金員は所得税法上の退職所得に該当し、また、法人税法上の退職給与に該当するとしたうえで、次のように、本件第二金員を現実に支払った平成20年8月期の損金の額に算入することができると次のとおり判示しています。

「本件通達(法人税基本通達9-2-28)ただし書は、役員退職給与を分割支給する場合について直接言及したものではないものの、退職給与を複数年度にわたり分割支給した場合において、その都度、分割支給した金額を損金経理する方法についても、その適用を排除するものではないと解される。なお、被告(課税庁側)は、少なくとも、役員が完全退職して役員退職給与を分割支給する事例において、本件通達ただし書に基づき、支給年度損金経理が行われる場合があること自体は認めて(いる。)」
「支給年度損金経理は、企業が役員退職給与を分割支給した場合に採用することのある会計処理の一つであり(省略)、多数の税理士等が、本件通達ただし書を根拠として、支給年度損金経理を紹介しているのであって(省略)、本件通達ただし書が昭和55年の法人税基本通達の改正により設けられたものであり、これに依拠して支給年度損金経理を行うという会計処理は、相当期間にわたり、相当数の企業によって採用されていたものと推認できることをも併せ考えれば、支給年度損金経理は、役員退職給与を分割支給する場合における会計処理の一つの方法として確立した会計慣行であるということができる。」
「本件第二金員を平成20年8月期の損金に算入するという本件会計処理は、公正処理基準に従ったものということができる。」

 中小法人においては資金繰りの都合により役員退職給与を一時に支払えず分割支払いをすることがあるのですが、分割支払いをする場合には、分割支払いに至った事情に一定の合理性があるのは当然ですが、退職や分掌変更段階において退職給与の総額や支払いの時期(特に終期)を明確に定めておく必要があります。前掲東京地裁判決は、次のとおり判示しています。

「あらかじめ退職給与の総額及び分割支給の終期が明確に定められていない場合においては、現実に支払われた金員が退職に基因して分割支給されたものであるかどうかの判断は通常困難になるものと解される。」 

役員退職金の損金算入時期のまとめ

① 原則
 株主総会の決議等により具体的に確定した日の属する事業年度が損金算入の時期となるので、以下の通りの会計処理をすれば損金となります。

 役員退職金 〇円 現金預金 〇円

 なお、株主総会の決議等により具体的に確定した日の属する事業年度においては、資金繰りの都合上等により役員退職金を支給できない場合は、以下の通りの会計処理をすれば損金となります。

 役員退職金 〇円 未払金 〇円

② 法人税基本通達9-2-28ただし書き
 法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合は、その支給事業年度において、以下の通りの会計処理をすれば損金となります。

 役員退職金 〇円 現金預金 〇円

③ 例外
 期中に死亡等により役員が退職した場合に株主総会の決議を翌期に行うことを前提に取締役会の決議で内定した金額を支払った(内規に基づく金額を支給した)場合等は、以下の通りの会計処理をすれば損金となります。なお、仮払金処理していた場合は、損金算入は認められません。

 役員退職金 〇円 現金預金 〇円

もらう側の退職所得の収入時期

 退職所得の収入時期は、原則としてその支給の基因となった退職日によります。ただし、会社役員等の場合で、その支給について株主総会等の決議を要するものについては、その決議のあった日とされます(所基通36-10)。

法人税基本通達9-2-28(役員に対する退職給与の損金算入の時期)

 退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。