概要

 消費税における簡易課税制度は、中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から、事業者の選択により利用できる制度です。本来、消費税の納税は売上の際に預かった消費税から、仕入・外注等がかかった際に支払った消費税を控除して税務署に納税します。これを、原則(一般)課税制度といいます。

 例えば、売上3300万円(うち消費税300万円)、外注費2200万円(うち消費税200万円)だった場合、300万円-200万円=100万円を納税することになります。

 一方、簡易課税制度の場合は、みなし仕入率(40%~90%)を用いて、売上げに係る消費税額を基礎として仕入れに係る消費税額を算出することができる制度です(消法37①)。仕入・外注等がかかった際に支払った消費税については、納税額の計算上考えずに、売上げに係る消費税額にみなし仕入率を掛けて、その金額を控除して納税します。

 例えば、売上3300万円(うち消費税300万円)、外注費2200万円(うち消費税200万円)で、みなし仕入率が70%だった場合、300万円-300万円×70%=90万円を納税することになります。

 なお、みなし仕入率は事業者が行っている事業によって変わり、みなし仕入率の適用を受けるそれぞれの事業の意義は、次のとおりです(消法37①、消令57①、⑤、⑥)。

事業区分みなし仕入率売上に対する税負担率
(消費税10%の場合)
該当する事業
第一種事業90%1%卸売業
第二種事業80%2%小売業
第三種事業70%3%建設業、製造業等
第四種事業60%4%飲食店業等
第五種事業50%5%サービス業(飲食店業を除く。)等
第六種事業40%6%不動産業

 なお、売上に対する税負担率を利用しても、納税額がわかります。例えば、売上3300万円(うち消費税300万円)、外注費2200万円(うち消費税200万円)で、第三種事業の場合、3000万円×3%=90万円を納税することになります。結果、みなし仕入率を用いた場合と、同じ納税額となります。

 つまり、消費税における簡易課税制度とは、(課税)売上高が確定すれば、消費税の納税額が決まるということになります(正確な計算方法は複雑であり、実際の納税額とは多少の誤差があるでしょうが)。

簡易課税制度を選択できる条件

 簡易課税制度を利用するためには次の2つの要件を満たす必要があります(消法37①)。

(1)基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が5000万円以下であること
 中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から利用できる制度のためだからです。

(2)「消費税簡易課税制度選択届出書」を、原則として、簡易課税制度を適用しようとする課税期間の開始の日の前日までに所轄税務署長に提出していること
 新規開業等した事業者は、開業等した課税期間の末日までにこの届出書を提出すれば、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができます。法人設立(新設法人)の場合は、1期目の事業年度の末日までに提出すれば、1期目から簡易課税制度の適用を受けることができます。2期目から簡易課税制度の適用を受けたいときは、その開始日の前日までに提出します。
 なお、「消費税簡易課税制度選択届出書」は、当該届出書が提出された日の属する課税期間の翌課税期間(新たに事業を開始した場合には提出日の属する課税期間)から効力が生じるものであり、当該届出書には提出「期限」がありません。
 したがって、課税期間の末日が土曜日、日曜日、祝日(休日)等であっても、それらの翌日に提出すべき期間が延長されることはありません(通法10②)。

免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をし、かつ、簡易課税制度を選択する場合

 免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をし、かつ、簡易課税制度を選択する場合は、「適格請求書発行事業者の登録と取りやめ(消費税インボイス、令和5年9月30日までにやるべきこと)」のページまで。

原則(本則)課税制度と簡易課税制度の比較

 例えば、売上3300万円(うち消費税300万円)、外注費2200万円(うち消費税200万円)で、みなし仕入率が70%だった場合、原則課税制度と簡易課税制度では、納税額が以下のように変わってきます。

(原則課税制度)
 300万円-200万円=100万円を納税

(簡易課税制度)
 300万円-300万円×70%=90万円を納税

 よって、この場合、簡易課税制度を利用して納税をした方が、事業者にとっては節税となります。

 一方、売上3300万円(うち消費税300万円)、外注費2750万円(うち消費税250万円)で、みなし仕入率が70%だった場合、原則課税制度と簡易課税制度では、納税額が以下のように変わってきます。

(原則課税制度)
 300万円-250万円=50万円を納税

(簡易課税制度)
 300万円-300万円×70%=90万円を納税

 よって、この場合、原則課税制度を利用して納税をした方が、事業者にとっては節税となります。

 このように、売上の際に預かった消費税と、仕入・外注等がかかった際に支払った消費税がどのくらいかかるかを予測して、簡易課税制度の方が税負担が少なければ、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出したほうが税金的には安くなります。

 ただし、原則課税制度の方が税負担が少ない場合は、ちょっと少ないぐらいだったら、簡易課税制度を選択したほうがよいと個人的には思います。

 もともと、簡易課税制度は、中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から利用できる制度です。ですから、基準期間における課税売上高が5000万円超だと簡易課税制度を利用できません。

 経理専属の者がいない小さな会社が、原則課税制度で、ちゃんとした消費税計算をできるのは難しいと思います。会計ソフトを利用するといっても、正しい入力や記帳をできるのかという問題があります。

 例えば、経費を払ったとしてもそれが課税仕入に該当するのか否か、また、軽減税率のものか否か(8%or10%)なのかを把握し、会計ソフトに入力する必要があります。また、インボイス制度が始まった後においては、その支払先が適格請求書発行事業者か否かを把握する必要があります。

 さらに、現時点でのクラウド会計を利用すれば銀行口座、カード口座に関することは同期化できるので利用者はわざわざ勘定科目や取引金額等を手打ちをしていないと思いますが(修正はするでしょうが)、摘要欄が銀行口座、カード口座に記載されているままなので摘要欄については追加で記載していく必要があります。

 つまり、仕入税額控除の要件を満たすためには、摘要欄にはしっかり「課税仕入れの相手方の氏名または名称」「課税仕入れに係る資産または役務の内容」を記載する必要があります。

 このように、課税売上高に基づいて納税する消費税額が決まる簡易課税制度と違って、原則課税制度の場合、相当な事務負担となるので、小さな会社で経理業務を会社の社長自らがする場合、時給換算でどのくらい余分にコストがかかるのかということも考える必要があります。

 ですから、原則課税制度と簡易課税制度のどちらを利用すべきかを考える場合、納税額だけではなく、事務負担も考える必要があるということになります。

簡易課税制度を選択する場合の注意点

(1)消費税の還付をしたい場合は簡易課税制度を選択しない
 多額の設備投資などをする場合は、支払う消費税が多額となるでしょう。 この場合、原則課税でないと消費税の還付が見込めないので簡易課税制度を選択すべきではないということになります。また、輸出業をメインにしている会社も、 一般的には、簡易課税制度を選択しないでしょう。

(2)(課税)売上の事業区分を間違わないようにすること
 消費税における簡易課税制度では、(課税)売上が同額でも、事業区分の違いによって納税額が変わってきます。例えば、売上3300万円(うち消費税300万円)の場合、第一種事業の納税額は30万円ですが、第二種事業の納税額は60万円となります。第一種事業と思って申告納税したが、税務調査が入り第二種事業が適正であると指摘されることがないように注意が必要です。自分のしている事業がどの事業区分か分からず、かつ、顧問税理士がいない場合は、所轄の税務署に相談に行かれるとよいでしょう。

(3)複数の事業を行っている場合は簡易課税でない
 自分の行っている事業が1つであれば、その事業区分に応じて納税額が決まります。ただし、複数の事業を行っていて、かつ、事業区分が違う場合は消費税の納税額の計算は難しいです。例えば、1つの会社で、卸売業、小売業、飲食店業を行っているというような場合は、事業区分上、第一種事業、第二種事業、第四種事業があるということになり、消費税の納税額の計算は難しいです。ただし、難しいというのは手計算で行う場合で、消費税の計算機能がある会計ソフト(だいたい今の会計ソフトには備わっています)で経理処理をしている場合は、自動的に納税額の計算や申告書の作成までできるので、そこまで難しくありません。もっとも、それぞれの(課税)売上高が正しく計上(登録)されているという前提でありますが。

簡易課税制度を選択した事業者が適用をやめようとする場合

 簡易課税制度の適用を受けている事業者が、その適用をやめようとする場合には、その課税期間の初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります(法37⑤)。

 ただし、簡易課税制度の適用を受けている事業者は、事業を廃止した場合を除き、2年間継続して適用した後でなければ、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出して、その適用をやめることはできません(消法37⑥)。

「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している場合であっても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える場合

 「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している場合であっても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える場合には、その課税期間については、簡易課税制度は適用できません。

 例えば、X2年度の課税売上高が6,000万円であったならば、X4年度の課税売上高が4,500万円であっても、X4年度において簡易課税は適用できません。

 なお、簡易課税制度選択届出書を提出した場合には、簡易課税制度選択不適用届出書を提出しない限り、効力は存続していますので、その後再び基準期間における課税売上高が5,000万円以下となった課税期間については、簡易課税制度の適用を受けることになります(消法30、37、消基通13-1-3、令和3年1月18日裁決・東裁(諸)令2第52号)。

売掛金について貸倒れが発生した場合

 売掛金の貸倒れに係る消費税額の控除は、仕入れに係る消費税額の控除とは別のものであり、簡易課税制度を適用していても、貸倒れに係る消費税額を控除できます(消法39①、消基通13-1-6)。

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納税者Xの簡易課税制度選択届出書は、税務代理を解約されたA税理士が無権代理により提出したものであって、当該届出書の効果はXに及ばない旨のXの主張が認められなかった東京地裁令和元年11月1日判決(税資269号-113(順号13336))・東京高裁令和2年9月10日判決(税資270号-90(順号13450))

(1)事案の概要

① 納税者Xは、平成7年2月頃に弁理士業を開業し、同時期に、知人から紹介を受けたA税理士に対し、自身の所得税の確定申告に係る税務代理を委任した。

② Xは、平成8年秋頃、仕事を通じて知り合ったB税理士に税務代理を委任する意思を有するようになり、同年11月頃、A税理士に対し、平成8年分の所得税の確定申告まではA税理士に委任するが、その後は、別の税理士に税務代理を委任する旨を告げた。

③ A税理士は、平成9年3月17日、C税務署長に対し、Xの「平成8年分の所得税の確定申告書」、「消費税課税事業者届出書」及び「簡易課税制度選択届出書」(以下「本件簡易課税制度選択届出書」という。)を提出した。

④ B税理士は、Xから委任を受けた税務代理の権限に基づき、平成10年課税期間以降の各課税期間の消費税等について、本則課税により控除対象仕入税額を計算して、消費税等の確定申告書を提出していた。

⑤ Y(課税庁)は、平成29年6月、Xは本件簡易課税制度選択届出書を提出していることから、簡易課税により控除対象仕入税額を計算すべきであるとして、Xに対し、平成26年課税期間及び平成27年課税期間に係る消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

⑥ Xは、本件簡易課税制度選択届出書は、A税理士が無権代理により提出したものであって、当該届出書の効果はXに及ばないなどとして、上記5の各処分の取消しを求めて本訴を提起した。

(2)主な争点

 本件簡易課税制度選択届出書の効力がXに及ぶか否か。

(3)一審判決要旨

 認定事実によれば、①Xは、A税理士との間で、税務代理の内容を定める契約書を作成していないこと、②A税理士は、平成7年中にXに対し、Xの税務代理を引き受けることができる旨を述べたこと、③Xは、上記②と同じ頃、A税理士に対し、自己の税務代理を依頼する旨を述べたこと、④Xは、上記②と同じ頃、税務に関する専門的知識を有していなかったこと、⑤Xは、平成8年秋頃以降、B税理士に対し、自己の平成9年分以降の所得税に係る税務代理を含むXの税務全般に係る税務代理を包括的に委任していることの各事実が認められる。

 これらの事実に加え、個人事業者が、特段の事情のない限り、税目ごとに別々の税理士に対して税務代理を委任することはなく、自己の税務全般に係る税務代理を包括的に委任するものであるとの一般的な経験則があることにも照らすと、Xは、A税理士に対し、自己の税務全般に係る税務代理を包括的に委任したものと認めるのが相当である。

 したがって、A税理士は、当該委任された代理権に基づき、C税務署長に対し、有効に本件簡易課税制度選択届出書を提出したと認められるから、その効果はXに帰属する。

(4)控訴審判決要旨

① 認定事実によれば、A税理士は、Xの税務代理を受けた当時、平成7年の課税売上高が消費税の納税義務者となる3,000万円に迫っていたという事情を把握していたことが認められる。

② そのほか、(イ)Xは、税務に関する専門的知識が乏しかったため、A税理士に税務代理を委任することとしたこと、(ロ)個人事業者の税務において、消費税等の納税義務の判断や税額の計算等は、所得税の損益計算を基礎として行われ、これらの事務は密接に関係するものであることから、所得税と消費税等のどちらか一方のみを委任することは例外的といえること、(ハ)XがA税理士に税務代理を委任するに際し、委任の内容を限定すべき具体的な動機や事情等は見当たらず、実際にも、Xが開業当時の消費税等に係る税務事務について他の税理士に依頼した事実はないこと、(ニ)Xは、A税理士との間で、税務代理の内容を定める契約書等を作成していないが、A税理士との委任契約の解消以降、Xの所得税及び消費税等を含む税務全般に係る税務代理を委任していたB税理士との間においても、同様に税務代理の委任等に関する契約書は取り交わされておらず、これらに加えて、(ホ)審査請求手続の段階では、X自身が、A税理士に税務代理を委任した際のやりとりについて、「税務をお願いする。任せる。」と述べたことを認めていたこともうかがわれる。

③ これらのことからすれば、Xは、開業当初、A税理士に対し、少なくとも所得税及び消費税等に係る税務について、年分(期間)を限ることなく税務代理を委任したものと認めるのが相当であり、A税理士は、平成8年分の所得税の確定申告が終了するまで、Xの所得税及び消費税等を対象として、税務全般に係る税務代理権を有していたというべきである。

④ したがって、A税理士がYに対し、Xから委任された税務代理権に基づき有効に簡易課税制度選択届出書を提出したものと認められるから、その効果はXに帰属する。

消費税等の計算について不適用承認申請書を提出しておらず、所轄税務署長の承認を受けていないことから、簡易課税が適用された東京地裁令和4年4月12日判決(棄却)(控訴)・東京高裁令和4年10月26日判決(棄却)(上告・上告受理申立て)

(1)事案の概要

① X(納税者)は、平成元年9月30日、簡易課税制度選択届出書(本件簡易課税届出書)をY(課税庁)に提出した。

② Xは、平成18年1月課税期間から平成29年3月課税期間までの各課税期間について、本則課税を適用して消費税等を算出し申告を行っていた(上記各課税期間の各基準期間の課税売上高はいずれも5千万円を超えていたことから、簡易課税制度の適用はなかった。)。

③ Xは、平成30年3月課税期間(本件課税期間)の消費税等についても、本則課税で計算し還付申告を行ったところ、Yは、本件課税期間の基準期間である平成29年1月課税期間(本件基準期間)の課税売上高が5千万円以下であることから、簡易課税を適用して消費税等を計算し、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件更正処分等)を行った。
 なお、Xは、本件課税期間に係る簡易課税制度選択不適用届出書(本件不適用届出書)を提出期限である本件課税期間の開始の日の前日(平成29年3月31日)までに提出せず、平成30年9月10日に提出した。また、Xは、本件不適用届出書を当該前日までに提出できなかった事情等を記載した申請書(消費税法施行令57条の2第3項に規定する申請書。本件不適用承認申請書)を提出していなかった。

④ 平成20年頃にXの経理責任者が甲(Xの現代表者)に交代する際、本件簡易課税届出書に係る引継ぎが行われなかったため、甲は本件簡易課税届出書が提出されていた事実に気付かなかったのであるから、Xは、本件課税期間の前日までに本件不適用届出書を提出できなかったことが消費税法37条8項に規定する「やむを得ない事情」によるなどとして、本件更正処分等の一部につき取消しを求めて提訴した。

(2)主な争点

 本件課税期間の消費税等の計算につき、簡易課税が適用されるか否かである。

(3)一審判決要旨(棄却)(控訴)

① Xは、本件課税期間の開始の日の前日までに本件不適用届出書の提出をしておらず、かつ、本件基準期間の課税売上高が5千万円を下回っている。そして、Xは、本件課税期間の消費税等の計算について本件不適用承認申請書を提出しておらず、所轄税務署長の承認を受けていないことから、やむを得ない事情の有無にかかわらず、簡易課税が適用される。

② この点をおいたとしても、Xが本件不適用届出書を提出期限までに提出しなかった主な理由は、平成20年にXの経理責任者が甲に交代した際に本件簡易課税届出書に関する事務引継が十分に行われず、甲が本件課税期間について簡易課税が適用されることに気付かず、その適用の有無について十分な確認がされなかったことであると認められ、Xの責めに帰することができない事情はうかがえないから、やむを得ない事情があったということはできない。

(4)控訴審判決要旨(棄却)(上告・上告受理申立て)

 一審判決の判断を引用し、Xの控訴を棄却した。