概要

 本来、宿直料又は日直料(以下「宿日直料」といいます。)は給与等に該当します。宿日直料は、その人の本来の勤務に該当する対価ではないですが、勤務の対価としての性格をもつからです。

 よって、宿日直料をもらう立場の者からすると所得税の対象となり、払う立場の者からすると源泉徴収をする対象となるということです。

 ただし、所得税基本通達28-1において、次の(1)~(3)場合を除き、その支給の基因となった勤務1回につき支給される金額のうち4,000円までの部分については、課税されないものとされています。なお、このような通達を緩和通達といいます。

(1) 宿日直を本来の職務とする者の宿日直に対して支払われる宿日直料
(2) 代日休暇が与えられる宿日直に対して支払われる宿日直料
(3) 宿日直料の支給額が通常の給与の額にスライドするように定められた宿日直に対して支払われる宿日直料

 これは、宿日直料が宿日直という勤務の対価としての性格をもつ一方、宿日直をするためには家庭を離れて寝食をとらなければならず、そのために要する費用(例えば、食事代や寝間着、洗面具等の消耗品の費用等)を弁償するという実費弁償的な性格があることを否定できないからとされています(横浜地裁平成22年3月24日判決・税資260号-46(順号11402))。

 なお、所得税基本通達28-1における「宿日直」とは、「一応一般にいわれる宿日直(所定労働時間外や休日における勤務の一つであるが使用人がその本来の業務を行わず、見回り、文書の収受、電話の応答、非常事態に備えて待機(医療機関における入院患者の病状の急変等に対処するための待機、病室の定時巡回、定時検脈などを含む。)するものなどをいい、通常はほとんど労働する必要のない勤務)の範囲を想定しているが、労働基準法上の宿日直に限られないものと考えられる。」(所得税基本通達逐条解説令和3年版148頁)とのことです。

所得税基本通達28-1(宿日直料)

 宿直料又は日直料は給与等(法第28条第1項に規定する給与等をいう。以下同じ。)に該当する。ただし、次のいずれかに該当する宿直料又は日直料を除き、その支給の基因となった勤務1回につき支給される金額(宿直又は日直の勤務をすることにより支給される食事の価額を除く。)のうち4,000円(宿直又は日直の勤務をすることにより支給される食事がある場合には、4,000円からその食事の価額を控除した残額)までの部分については、課税しないものとする。

(1) 休日又は夜間の留守番だけを行うために雇用された者及びその場所に居住し、休日又は夜間の留守番をも含めた勤務を行うものとして雇用された者に当該留守番に相当する勤務について支給される宿直料又は日直料
(2) 宿直又は日直の勤務をその者の通常の勤務時間内の勤務として行った者及びこれらの勤務をしたことにより代日休暇が与えられる者に支給される宿直料又は日直料
(3) 宿直又は日直の勤務をする者の通常の給与等の額に比例した金額又は当該給与等の額に比例した金額に近似するように当該給与等の額の階級区分等に応じて定められた金額(以下この項においてこれらの金額を「給与比例額」という。)により支給される宿直料又は日直料(当該宿直料又は日直料が給与比例額とそれ以外の金額との合計額により支給されるものである場合には、給与比例額の部分に限る。)

所得税基本通達28-1の合理性について

 東京地裁平成26年10月9日判決(税資264号-160(順号12541))では、所得税基本通達28-1について、以下のように判示をし、合理性が認められるとしています。

「本件通達においては、宿日直料が給与等に該当するとした上で、宿日直料が非課税となる範囲を定めたものであるところ、これは、宿日直料が、宿日直という勤務の対価としての性格をもつ一方、その勤務をすることにより要する費用を弁償するものとしての性格を含むものであることから、宿日直料として支給される金額のうち一定額については、課税しないこととしたものであると解され、その内容は合理性を有するものということができる。」

宿日直料と食事の両方が支給される場合

 支給の基因となった勤務1回につき支給される金額のうち4,000円までの部分については、課税されないものとされていますが、無料で支給される食事がある場合には、4,000円からその食事の価額を控除した残額までとなります。

 宿直料3,800円、無料で支給される食事の価額900円の場合

 課税されない金額 4,000円-900円=3,100円
 課税される金額 3,800円-3,100円=700円

 なお、この場合において、無料で支給される食事については、課税されないものとされています(所基通36-24)。

所得税基本通達36-24(課税しない経済的利益……残業又は宿日直をした者に支給する食事)

 使用者が、残業又は宿直若しくは日直をした者(その者の通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限る。)に対し、これらの勤務をすることにより支給する食事については、課税しなくて差し支えない。

医師又は歯科医師の宿日直勤務に対する宿日直手当の所得税法上の取扱い

 医師又は歯科医師の宿日直手当については、所得税基本通達28-1ただし書の適用があります。

〇国立病院等の医師等に支給される宿日直手当に対する所得税の取扱いについて(昭和53年3月1日・直法6-8)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/gensen/780301/01.htm

宿日直料名目の支給額であっても、本来の勤務に該当する対価と認められるような場合には、所得税法28条1項の「給与所得」に該当するとされた事例-横浜地裁平成22年3月24日判決(税資260号-46(順号11402))(棄却)(控訴)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。

 原告Xが原告代表者甲に対し日直・宿直料の名目で支払った支給額には所得税が課されないとして、本件支給額に係る源泉所得税を徴収・納付していなかったところ、所轄税務署長が、本件支給額は通達の定めにより課税されないとする「宿日直料」には当たらず所得税が課されるとして、平成19年1月分ないし平成19年12月分の給与所得に対する源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分をしたことから、Xが、本件各告知処分等の取消しを求めている事案である。

 本件では、甲が個人で所有する賃貸用不動産についてB1ないしB5の5社(いずれも、従業員は代表者である甲の妻のみ。以下「本件関係各社」という。)に管理委託をし、さらに委託業務の一部がX(従業員は、代表者甲のみ)に委託されていた。

 Xは、就業時間外の電話番等にかかる宿日直を定めた規定を定め、甲は、365日自宅において宿日直を行ったとして平日4,000円、休日8,000円の宿日直料を支給のうえ、本件通達に従い、非課税所得として処理していた。

(2)本件の主な争点

 本件の争点は、本件支給額が所得税法28条1項の「給与所得」に該当するかどうかである。

(3)判決要旨(棄却)(控訴)

① 所得税法28条1項の「給与所得」の意義については、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付された所得をいうと解すべきであり、法人の取締役として法人から受ける報酬も、雇用関係に準ずる役員等の委任関係に基づき収受される非独立的な労務の提供の対価と見ることができる場合には、「給与所得」に当たるというべきである。そして、夜間・休日の勤務の対価として、宿日直料が支給された場合であっても、それが労務の提供の対価と認められる限り、所得税法28条1項の「給与所得」に該当すると解すべきであり、所得税基本通達28-1本文はこの趣旨を定めるものとして合理的である。
② もっとも、当該給付に、勤務の対価だけでなく、その勤務をすることにより増加する費用の弁償分が含まれている場合、費用の弁償分については、税制上、課税除外とされるべきものであり、「給与所得」から除外されると解すべきである。そして宿日直料が宿直又は日直という勤務の対価としての性格をもつ一方、宿日直をするためには家庭を離れて寝食をとらなければならず、そのために要する費用(例えば、食事代や寝間着、洗面具等の消耗品の費用等)を弁償するという実費弁償的な性格があることも否定できないところから、本件通達ただし書は、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の削減という見地から、同ただし書(1)ないし(3)のいずれかに該当する宿日直料を除き、給与所得を構成しない費用の実費弁償分が含まれていることが明らかな宿日直料で、かつその部分の金額が僅少で課税上弊害がないと認められるものについては、一律に実費弁償分の金額を認定し、その支給の基因となった勤務1回につき支給される宿日直料の金額のうち一定金額までの部分については、費用の弁償に該当するものとして課税しないこととしたものであると解される。以上の本件通達ただし書の取扱いもまた合理的なものということができる。
 なお、本件通達ただし書に列挙されているのは、宿日直を本来の勤務とする場合〔ただし書(1)及び(2)前段〕、及び宿日直の勤務が本来の勤務に振り替わった場合〔ただし書(2)後段〕に各支給された宿日直料、又は本来の勤務に対する手当と別異に扱うべき合理性が認められない宿日直料〔ただし書(3)〕である。上記各宿日直料は、全額が勤務に対する対価として支給されるものであり、本来全額課税されるべきものであるから、本件通達ただし書(1)ないし(3)は、上記各宿日直料は所得税法28条1項の「給与所得」に該当する旨を注意的に規定したものであると解される。
 よって、宿日直料名目の支給額であって、本件通達ただし書(1)ないし(3)の文言に形式的に当てはまらないものであっても、本来の勤務に対する対価であって、実費弁償の性格がないと認められるような場合には、所得税法28条1項の「給与所得」に該当し、全額課税されるというべきである。
③ Xには、甲が役員であるほかに従業員はおらず、甲が唯一の役員兼従業員であるから、本件関係各社からXに委託された業務については、すべて甲において行われることが予定されていること、Xが宿日直料の支給の原因として主張している甲の勤務(以下「本件勤務」という。)の内容は、就業時間外の管理住宅物件における、災害、犯罪、事故などによる緊急電話の受理等、非常事態の発生に備えての勤務であり、これは、本件関係各社からXに補助委託された業務そのものであることから、本件勤務は、Xにおける唯一の役員兼従業員である甲の本来の職務執行にほかならない。
 甲は、Xの代表権を有する取締役(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律2条1項、会社法349条1項(株式会社の代表))であり、労働基準法上の使用者(労働基準法10条)であるから、甲には同法第4章の労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇等の規定は適用されず、Xが「就業規則」及び「役員規程」を定めて役員の正規の勤務時間を定めていたとしても、甲は、当該各規定によって勤務時間等について制限を受けるものではないから、甲が電話の応答業務等を休日又は夜間に行ったとしても、甲が勤務時間外に本来の職務とは別の職務を行ったものとは認めることができない。
 Xの業務は甲の自宅において行われており、Xの主張によれば、本件勤務の場所は甲の自宅で行われていると認めることができ、年間365日すべてにおいて甲による宿日直が行われているとされていることも併せ考えると、本件勤務は、Xにおける唯一の役員兼従業員である同人の本来の職務執行が継続しているに過ぎないと認めることができる。
 一般の会社においては、代表取締役は、勤務時間の管理を受けない一方、夜間や休日における業務に対する対価も含めて、取締役報酬(会社法361条)を受けているのが通常であることにも照らすと、Xの甲に対する宿日直料名目の支給額(以下「本件支給額」という。)は、形式的には宿日直料として支給されているものの、その実質においては、別途区別されて支給されている役員報酬と異ならないというべきである。
④ 本件支給額は、甲の本来の勤務に対する対価に該当し、本件勤務は甲の自宅で行われていると認められるところ、宿日直をする上で寝食をとるために要する費用はそもそも発生しないと考えられる上、Xは本件支給額に実費弁償たる性格があることの主張立証もしていないことから、本件支給額に実費弁償の性格はないと認めることができ、本件支給額は所得税法28条1項の「給与所得」に該当すると認めるのが相当である。