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概要

 FX取引とは一定の保証金を差し入れて、その保証金の25倍までの外国為替(外国通貨)を売買できる取引であり、為替レートの変動により為替差損益が生じます。FX取引を行う場合、まず新規取引を行って外貨を保有しますが、これを「ポジション」と呼びます。

 そして、新規取引と反対の決済取引を行うことで、ポジションが決済され、新規取引と決済取引との為替差損益(売買損益)が確定します。例えば、1ドル100円で1万ドルを買って、1ドル110円で1万ドルを売れば、10万円の為替差益が確定します。

 また、FX取引においては、このような為替差損益の他にも、取引する2通貨間の金利差調整額である「スワップポイント」というものがあります。金利の高い通貨を買い、それより金利の低い通貨を売ると金利差調整額(スワップポイント)の受け取りが発生し、これが益となります。逆の場合は、損となります。

 差金決済時に、為替差損益とスワップポイントによる損益を合算して損益(決済損益)を計算します。

決済損益 = 為替差損益(売買損益) + スワップ損益

 納税者自身が、差金決済を行っているのであれば、そこで生じる損益について、必要とあれば、納税者自身も確定申告をするでしょう。問題は、未決済建玉の場合です。未決済建玉とは、FX取引においてまだ決済していない手持ちポジションのことをいいます(例えば、外貨を買ったが、その後は売りをしていないと未決済建玉となる。)。

 通常、FX取引は、取引約定日の2営業日後を受渡日として取引が行われますが、実際の資金受渡しを避けるために、ロールオーバーが行われ、未決済建玉の決済日が繰り延べられ、反対売買がなされない限り決済期限は原則として無期限となります。

 未決済建玉のロールオーバーが行われる場合、未決済建玉の約定価格が値洗いされる方式と値洗いされない方式の2つの方式があります。

 未決済建玉の約定価格が値洗いされなければ、約定時の建値を決済時まで維持され、評価損益及び未決済スワップとして損益が実現しません。つまり、ポジション決済時に初めて課税対象となります。

 しかしながら、未決済建玉の約定価格が値洗いされる方式であれば、為替差損益及びスワップポイントが実現損益となるため、納税者が建玉の決済を行っていない場合でも、確定申告が必要な場合があるということになります。

 また、スワップポイントが通貨証拠金取引口座に振り込まれる様なケースでは、口座に反映された時点でスワップポイントは課税対象となります。

 FX取引に基因して生じた差損益金及びスワップポイントに係る収入の原因となる権利の確定時期は、ロールオーバーの時であるとされた大阪高裁令和2年1月24日判決(税資270号-10(順号13370))があります。

平成21年4月27日裁決(裁事77集91頁)判断要旨

 本件FX取引は、請求人(納税者)の未決済ポジションにつき営業日ごとに評価替が行われ、当該評価替によって生じる本件為替差損益は本件取引口座において営業日ごとに清算がされ、営業日ごとに行われる本件清算型ロールオーバーにより、評価益が生じた場合には取引会社には評価益相当額の支払義務及び請求人には評価益相当額を受け取る権利が確定し、これとは逆に評価損が生じた場合には取引会社には評価損相当額の支払を受ける権利及び請求人には評価損相当額を支払う義務が確定することから、本件清算型ロールオーバーが行われた時点において、本件為替差損益が確定し、これについて現実に収入があった又は収入の原因たる権利が確定的に発生したというほかなく、そうすると、原処分庁(課税庁)の主張は理由があり、請求人の主張は採用することができない。

FX取引に基因して生じた差損益金及びスワップポイントに係る収入の原因となる権利の確定時期は、ロールオーバーの時であるとされた事例-大阪高裁令和2年1月24日判決(税資270号-10(順号13370))(却下・棄却)(上告・上告受理申立て)

(1)事案の概要

 本件は、給与所得者であるX(原告、控訴人)が行った外国為替保証金取引(以下「本件FX取引」という。)において値洗い型ロールオーバーが行われていたところ、同取引に係る為替差損益金及び取引通貨間の金利差損益金について、Xが、その収入計上時期は、ロールオーバーの時点ではなく、顧客が発注して建玉の決済をした時点であると主張して、所轄税務署が行った所得税等の更正処分等の取消しを求めている事件である。前審の大阪地裁平成31年4月12日判決(税資269号-41(順号13264))は、Xの請求を却下した。

○Xは、J証券との間で本件FX取引を行うため、J証券にX名義の外国為替保証金取引口座を開設し、本件FX取引を開始した。本件FX取引の内容(要旨)は、次のとおりである。
① J証券は、未決済建玉について、顧客から反対売買による差金決済又は現引きによる決済を行う旨の意思表示がJ証券所定の日時までに行われなかった場合には、J証券が定める日時(原則として日本時間の午前6時30分以降)において、建玉の決済日(取引約定日の2営業日後)を自動的に1営業日繰り延べる処理(以下、FX取引において未決済建玉の決済日を繰り延べる処理を「ロールオーバー」といい、本件FX取引におけるロールオーバーを「本件ロールオーバー」という。)を行う。
② 本件ロールオーバーが行われることにより、未決済建玉の約定価格が更新され、これに伴い、本件ロールオーバー時に差損益金(差金決済又はロールオーバーによって実現した損益をいう。以下、本件ロールオーバー時に発生する差損益金を「本件差損益金」という。)が発生する。本件差損益金の額は、未決済建玉の約定価格と本件ロールオーバー時においてJ証券が提示する未決済建玉に係る価格との差に基づき算出される。
③ 本件ロールオーバーが行われることにより、スワップポイント(ロールオーバー時に、取引通貨間の金利差を調整するために、その差に基づいて算出される額をいう。以下、ロールオーバー時に発生する差損益金とスワップポイントを併せて「ロールオーバー差損益金等」といい、本件ロールオーバー時に発生するスワップポイントを「本件スワップポイント」といい、本件差損益金と本件スワップポイントを併せて「本件差損益金等」という。)が、発生する。
④ 本件差損益金等は、顧客に事前に通知されることなく、それぞれの発生後直ちに、顧客が外国為替保証金取引口座に預託している保証金(以下「預託保証金」という。)の額に加算又は減算される。
⑤ 顧客は、J証券が提供するオンライントレード・システム上で、当該システムのメンテナンス時を除く全ての時間帯において、預託保証金のうち証券総合口座に振り替えることができる金額(預託保証金の額から、ⅰ未決済建玉及び発注済みの未約定注文について預託が必要な額、ⅱ既に振替請求している額などを除いた金額であり、以下「本件振替可能額」という。)を確認することができ、J証券に対し、本件振替可能額の範囲内で預託保証金を証券総合口座へ振り替える請求を行うことができる。

(2)一審判決要旨(却下・棄却)(控訴)

① 所得税法36条1項は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして当該権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される。そして、収入となるべき権利が発生した後、これを法律上行使することができるようになり、権利実現の可能性を客観的に認識することができる状態になったときは、収入となるべき権利が確定したものというべきである。
② 本件FX取引において、(1)ロールオーバーによる本件差損益金等、すなわち本件差損益金及びスワップポイントは、それぞれ、ロールオーバーが行われた際、値洗い計算によって生じる為替差損益金及び取引通貨間の金利差損益金であって、顧客発注決済がされる前であっても、直ちに、預託保証金の金額に加算又は減算され、顧客は、(2)本件差損益金等に係る利益が生じた場合には、直ちに、当該利益に相当する額を取引保証金として使用することができるほか、(3)預託保証金の額がロールオーバー後の建玉に基づき必要な取引保証金等の額を上回る場合(建玉余力がある場合)には、直ちに、証券会社に対し、当該上回る額の範囲内において、預託保証金を自己の証券総合口座に振り替えるよう請求した上、同口座から、差損益金等のうち同口座に振り替えられた金額を引き出すことができる。
③ そうすると、本件差損益金等については、ロールオーバーが行われた時点において、収入となるべき権利が発生した後、これを法律上行使することができるようになり、権利実現の可能性を客観的に認識することができる状態になったと認められ、収入となるべき権利が確定したものということができる。

(3)控訴審判決要旨(却下・棄却)(上告・上告受理申立て)

一審判決を引用し、同趣旨。