会社を解散して残余財産を分配すると、株主側と会社側の両方で税務処理が必要です
会社を解散し、債務の弁済などを終えた後に財産が残っている場合、その残余財産は株主に分配されます。
このとき、個人株主が受け取った金額の全額を単純に「出資金の返還」と考えることはできません。
所得税では、残余財産の分配を受けた個人株主について、原則として次の2つに分けて課税関係を考えます。
- みなし配当となる部分
- 株式の譲渡収入とみなされる部分
さらに、みなし配当が生じる場合には、残余財産を分配する会社側で源泉所得税等を徴収し、国に納付する必要があります。
したがって、会社の清算では「株主にいくら分配するか」だけでなく、「みなし配当はいくらか」「株式の譲渡損益はいくらか」「源泉所得税等をいくら会社に残す必要があるか」「いつ源泉所得税等を納付し、いつ清算結了手続に進むか」まで一連の流れとして考える必要があります。
以下では、内国法人である非上場株式会社の株式を居住者である個人が保有している一般的なケースを前提として説明します。
「赤字会社なら所得税はかからない」とは限りません
会社を清算する場合、
「会社が赤字だから株主に税金はかからない」
「株主が出資した金額より少ない金額しか戻ってこないから所得税は生じない」
と考えてしまうことがあります。
しかし、必ずしもそうではありません。
みなし配当を計算する際に使う会社側の「資本金等の額」と、個人株主がその株式を取得したときの「取得価額」は別の概念だからです。
その結果、株主が経済的には損をしている場合でも、
「みなし配当」と「株式の譲渡損失」
が同時に発生することがあります。
会社が会計上赤字か黒字かだけで、個人株主に所得税が生じるかどうかを判断することはできません。
残余財産の分配のうち一定額を超える部分は「みなし配当」になります
個人株主が会社の解散による残余財産の分配として金銭その他の資産の交付を受けた場合、その交付を受けた金額等が、その株式に対応する法人税法上の資本金等の額を超えるときは、その超える部分が配当とみなされます(所法25①四)。
これが「みなし配当」です。
基本的な考え方は次のとおりです。
みなし配当額
=残余財産の分配として受け取る金額等
-その株式に対応する資本金等の額
ただし、「その株式に対応する資本金等の額」は、単純に会社の資本金を株式数で割ればよいわけではありません。
所得税法施行令61条に従って計算する必要があります。
「資本金等の額」は決算書の資本金などの単純合計とは限りません
みなし配当の計算で使用する「資本金等の額」は、法人税法上の資本金等の額です。
したがって、決算書に記載されている資本金、資本準備金、その他資本剰余金を単純に合計した金額と常に一致するとは限りません。
過去に自己株式の取得、資本の払戻し、組織再編などが行われている場合には、会計上の純資産科目と法人税法上の資本金等の額が異なっていることがあります。
実際の清算では、法人税申告書の別表五(一)なども確認して、税務上の資本金等の額を把握する必要があります。
残余財産を全部分配する場合は「払戻等割合」が原則1になります
残余財産の分配に対応する資本金等の額を計算するときには、「払戻等割合」を使用します(所令61②四、措通37の10-3)。
通常の払戻等割合の計算では、前事業年度末の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を控除した金額を基礎とし、前事業年度末から分配直前までに資本金等の額や利益積立金額に一定の増減があれば、その増減を調整します。
そのため、単純に、
「今回の分配額÷現在の純資産額」
と計算すればよいとは限りません。
一方、分配直前の資本金等の額がプラスで、残余財産の全部を分配する場合には、払戻等割合は1とされます。
普通株式1種類の会社が残余財産をすべて株主に分配する単純なケースでは、概ね次のように考えることができます。
その株主に対応する資本金等の額
=分配直前の法人税法上の資本金等の額
×その株主の分配対象株式数
÷分配対象株式総数
これに対して、残余財産を数回に分けて分配する場合などには、各回の払戻等割合を個別に計算する必要があります。
みなし配当以外の部分は株式の譲渡収入とみなされます
残余財産として受け取った金額のうち、みなし配当にならなかった部分についても、それで税務計算が終了するわけではありません。
その金額は、株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされます(措法37の10③四、措通37の10-3)。
株式の譲渡収入とみなされる金額
=残余財産として受け取る金額等
-みなし配当額
さらに、この譲渡収入から、その分配に対応する株式の取得価額を控除して、株式の譲渡損益を計算します。
したがって、残余財産の分配を受けた個人株主については、
「みなし配当はいくらか」
だけでなく、
「株式の譲渡損益はいくらか」
まで計算する必要があります。
具体例で計算してみます
次の会社が解散し、残余財産の全部を株主に分配するものとします。
解散するA社
- 資産 1,000万円
- 負債 500万円
- 法人税法上の資本金等の額 400万円
- 残余財産として分配する金額 500万円
- 分配対象株式総数 100株
個人株主甲
- 所有株式数 10株
- 残余財産の分配額 50万円
A社は残余財産の全部を分配し、分配直前の資本金等の額もプラスであるため、払戻等割合を1として計算します。
甲に対応する資本金等の額は、
400万円×1×10株÷100株=40万円
です。
したがって、甲のみなし配当額は、
50万円-40万円=10万円
となります。
一方、残余財産50万円のうち、みなし配当10万円を除いた40万円は、甲の株式の譲渡収入とみなされます。
50万円-10万円=40万円
さらに、甲の株式取得価額を控除して譲渡損益を計算します。
株式の取得価額が30万円だった場合
40万円-30万円=譲渡益10万円
この場合には、
- みなし配当 10万円
- 一般株式等の譲渡益 10万円
が生じます。
株式の取得価額が60万円だった場合
40万円-60万円=譲渡損失20万円
この場合には、
- みなし配当 10万円
- 一般株式等の譲渡損失 20万円
が生じます。
株式を60万円で取得し、残余財産として50万円しか受け取らないため、経済的には10万円の損失です。
それでも、所得税法上はみなし配当10万円が生じることがあります。
株式の譲渡損失とみなし配当は原則として相殺できません
非上場会社の株式は、原則として「一般株式等」に該当します。
一般株式等の譲渡損失は、他の一般株式等の譲渡益との間では通算できる場合がありますが、給与所得、不動産所得、配当所得などの他の所得と損益通算することは原則としてできません。
したがって、先ほどの例で、
みなし配当 10万円
株式譲渡損失 20万円
となったとしても、
「10万円-20万円=10万円の損失だから所得税はかからない」
とはなりません。
みなし配当と一般株式等の譲渡損失は、原則として別々に計算する必要があります。
国民健康保険と健康保険の任意継続を比較しましょう
会社の清算に伴って健康保険の被保険者資格を失っても、必ず国民健康保険に加入するわけではありません。残余財産の分配によって生じたみなし配当や株式の譲渡益は、国民健康保険料の計算に影響します。これらの所得が多額であれば、翌年度の国民健康保険料が高くなる場合があります。ただし、残余財産の分配額の全額が所得として計算に含まれるわけではありません。
健康保険の被保険者期間が資格喪失日の前日まで継続して2か月以上あり、資格喪失日から20日以内に手続きするなどの要件を満たせば、従前の健康保険に任意継続で加入できます。任意継続の保険料は、残余財産の分配による所得額には直接連動しません。協会けんぽでは、資格喪失時の標準報酬月額と所定の上限額のいずれか低い額を基に計算し、令和8年度の上限は月額32万円です。健康保険組合では、規約によって上限の取扱いが異なる場合があります(健保法3④、37①、47①②)。
国民健康保険料は前年の所得や世帯の加入人数などによっても変わります。任意継続を選べる場合は、分配を受ける年と健康保険の資格を失う時期を確認し、翌年度も含めて両者の保険料を比較しましょう。
みなし配当を支払う会社は源泉徴収をする必要があります
非上場会社から居住者である個人株主に支払われるみなし配当については、原則として所得税及び復興特別所得税20.42%を源泉徴収します。
地方税の源泉徴収はありません。
例えば、みなし配当が10万円であれば、
10万円×20.42%=20,420円
を会社が源泉徴収します。
ただし、20.42%は個人株主にとっての最終的な所得税率という意味ではありません。
非上場株式の配当所得は原則として総合課税の対象となり、源泉徴収された税額は確定申告で精算します。
一定の配当については、配当控除についても検討することになります。
会社が源泉徴収するのは、原則として残余財産を「支払う時」です
会社は、配当等を支払う際に所得税等を源泉徴収します(所法181)。
ここでいう「支払」は、単に現金を手渡した場合や銀行振込をした場合だけに限りません。
所得税基本通達では、支払債務が消滅する一切の行為を含むものとして取り扱われています。
残余財産分配の源泉徴収時期が争われた平成7年11月17日裁決(裁事50集215頁)でも、現実の金銭交付だけでなく、その支払債務が消滅すると認められる一切の行為を「支払」に含めて実質的に判断すべきであるとされています。
この裁決では、貸付金を仮払金へ振り替えた処理や実際の金員の支払などについて、それぞれ残余財産の分配時期が認定されました。
形式上の清算人会等の決議日だけを見て源泉徴収時期を判断するのではなく、実際にどの時点で株主等に利益が移転し、会社の支払債務が消滅したのかを確認する必要があります。
源泉所得税等は原則として翌月10日までに納付します
会社が残余財産を分配してみなし配当から源泉徴収した所得税等は、原則として、その源泉徴収をした月の翌月10日までに納付します(所法181)。
例えば、9月25日に残余財産を分配して源泉徴収した場合には、原則として10月10日が納期限です。
平成7年11月17日裁決(裁事50集215頁)でも、1月に分配された残余財産について2月10日、8月分について9月10日を法定納期限として判断し、期限後の納付について不納付加算税が問題となっています。
なお、給与等について源泉所得税の「納期の特例」の承認を受けている会社であっても、配当に係る源泉所得税等は納期の特例の対象ではありません。
残余財産分配に係るみなし配当については、原則どおり翌月10日までに納付する必要があります。
翌月10日まで待って納付する必要はありません
「翌月10日」は源泉所得税等を納付することができる日ではなく、納付期限です。
したがって、例えば9月25日に残余財産を分配した場合、10月10日まで納付を待つ必要はありません。
分配後、速やかに源泉所得税等を納付することができます。
清算結了を予定している会社では、残余財産分配後に源泉所得税等を早めに納付しておけば、その後の清算結了手続も進めやすくなります。
残余財産をそのまま全額株主に振り込んではいけません
清算実務では、ここが非常に重要です。
会社に現預金500万円が残っており、これを個人株主1人に残余財産として分配するとします。
そのうち100万円がみなし配当に該当する場合、2026年中の支払であれば、源泉徴収する所得税等は、
100万円×20.42%=204,200円
です。
この場合、会社が500万円全額をそのまま株主へ振り込んでしまうと、源泉所得税等を納付する会社の資金がなくなってしまいます。
実際に株主へ支払う金額は、
500万円-204,200円=4,795,800円
とし、
204,200円は源泉所得税等として会社側に残します。
その204,200円を原則として翌月10日までに国へ納付します。
つまり、
残余財産分配額 500万円
源泉所得税等 204,200円
株主の手取額 4,795,800円
という関係になります。
株主への残余財産分配を行う際には、会社の銀行口座をゼロにしてしまうのではなく、源泉所得税等その他の未払債務を支払うための資金を残しておく必要があります。
個人株主の所得計上時期と会社の源泉徴収時期は区別して考えます
残余財産分配に係るみなし配当について、個人株主側の配当所得の収入時期は、原則として「その分配開始の日」とされています(所基通36-4)。
分配が数回に分けて行われる場合には、それぞれの分配開始の日が収入すべき時期となります。
一方、会社側の源泉徴収は原則として実際の「支払」の際に行います。
したがって、残余財産の分配開始の日と、実際に株主に金銭を支払った日が異なる場合には、個人株主側の所得計上時期と会社側の源泉徴収時期が一致しないことがあります。
両者を同じものとして処理しないよう注意が必要です。
源泉所得税等を納付してから清算結了手続へ進むのが適切です
残余財産を分配した後、源泉所得税等の納期限は通常翌月10日になります。
では、その源泉所得税等を納付する前に清算結了登記をしてよいのでしょうか。
清算結了登記の申請に際して、法務局へ源泉所得税等の納税証明書を提出することが一般的な登記要件になっているわけではありません。
したがって、形式上は、租税債務が残っていても清算結了登記がされてしまう場合があります。
しかし、税務上・会社法上の実質的な清算という観点からは、それで清算事務が終わったことになるとは限りません。
平成22年12月16日裁決(裁事81集241頁)は、清算株式会社に「課されるべき国税又は納付すべき国税債務などの租税債務」が存在する場合には、清算事務はいまだ終了しておらず、清算の目的の範囲内で会社はなお存続すると判断しています。
この裁決は消費税等について清算結了登記後に行われた課税処分の効力が争われた事案ですが、「租税債務が残っている以上、清算事務は終了していない」という考え方は、清算実務を考える上で重要です。
したがって、残余財産分配に伴って発生した源泉所得税等についても、会社に納付資金を残し、納付を済ませた上で清算結了手続へ進むのが適切です。
より正確には、
「源泉所得税等を納付しなければ清算結了登記を申請できない」
という意味ではなく、
「源泉所得税等その他の租税債務を残したまま、清算事務がすべて終了したものとして清算結了手続を進めるべきではない」
と考えることになります。
清算結了までの実務の流れ
一般的には、次のような順序で進めることが考えられます。
- 会社の債権・債務を整理する
- 残余財産の額を確定する
- 法人税法上の資本金等の額を確認する
- 個人株主ごとのみなし配当額を計算する
- 株式の譲渡収入・譲渡損益を計算する
- みなし配当に係る源泉所得税等を計算する
- 源泉所得税等その他の支払資金を会社に残した上で、株主へ残余財産を分配する
- 源泉所得税等を納付する
- 法人税、地方税、消費税その他の租税債務や未払債務が残っていないか確認する
- 清算事務を終了し、決算報告について株主総会の承認を受ける
- 清算結了登記を行う
清算会社では、「株主への残余財産の分配が終わった=清算手続がすべて終わった」と考えないことが重要です。
税金を含めた会社の債務を処理して初めて、清算事務が実質的に終了することになります。
残余財産を数回に分けて分配すると計算が複雑になります
実際の清算では、残余財産を1回ですべて分配するとは限りません。
一部分配を数回行うこともあります。
この場合には、それぞれの分配について払戻等割合や株式の取得価額を計算する必要があります。
また、所得税基本通達上も、残余財産の分配が数回に分けて行われる場合には、それぞれの分配開始の日が配当所得の収入時期になります。
源泉徴収についても各回の実際の「支払」を確認する必要があります。
したがって、一部分配の場合は、全部分配の場合に比べてみなし配当・株式譲渡損益・源泉徴収の計算が複雑になります。
残余財産の分配では会社側と株主側を一体で確認することが重要です
会社を解散・清算して個人株主に残余財産を分配する場合、税務上は単純に「出資金を返した」と考えることはできません。
個人株主側では、まず残余財産分配額を、
「みなし配当」
と、
「株式の譲渡収入とみなされる部分」
に分けます。
さらに、株式の譲渡収入から株式取得価額を控除して譲渡損益を計算します。
その結果、株主が経済的には損をしている場合でも、「みなし配当」と「株式譲渡損失」が同時に発生することがあります。
一方、会社側では、みなし配当について源泉徴収し、その源泉所得税等を原則として翌月10日までに納付しなければなりません。
そのため、残余財産を全額そのまま株主へ振り込んで会社預金をゼロにしてしまうことは避ける必要があります。
源泉所得税等その他の租税債務を支払う資金を確保し、必要な納税を済ませた上で、清算結了手続へ進むことが重要です。
主な根拠資料
所得税法25条1項4号
所得税法181条
所得税法施行令61条2項4号
租税特別措置法37条の10第3項4号
所得税基本通達36-4
所得税基本通達181~223共-1
租税特別措置法通達37の10-3
国税庁「タックスアンサーNo.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)」
国税庁「タックスアンサーNo.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い」
国税庁「タックスアンサーNo.1536 株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合-法人の合併等、自己株式の取得等の場合-」
国税庁「タックスアンサーNo.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」
財務省「令和4年度税制改正の解説」73頁以下
令和8年版所得税基本通達逐条解説(所得税法25条・所得税基本通達36-4関係)
平成7年11月17日裁決(裁事50集215頁)
平成22年12月16日裁決(裁事81集241頁)

