概要
健康診断や人間ドックの費用を会社が負担した場合、受診者に給与課税をせず、会社の福利厚生費として損金に算入できることがあります。
そのためには、役員・従業員の健康管理を目的とする制度として、受診の機会や費用負担の基準が公平であり、検査内容・費用が一般的な範囲に収まっていることが重要です。
役員だけを対象とする費用負担などは、役員に対する給与と判断され、源泉徴収に加えて、法人税上の損金不算入が問題になります。受診者への給与課税、会社の損金算入、消費税の仕入税額控除は、それぞれ確認する必要があります。
以下は、内国普通法人が、居住者である役員・従業員の国内の健康診断・人間ドック費用を負担する一般的なケースについて、2026年10月14日現在の法令・通達等に基づいて説明したものです。
人間ドックではない一般的な健康診断費用の取扱い
従業員に対する法定健康診断の費用
会社には、対象となる労働者について、労働安全衛生法等に基づく雇入時の健康診断や定期健康診断を実施する義務があります。この法定健康診断の費用は、事業者が負担すべきものとされています(労働安全衛生法66①、労働安全衛生規則43条・44条、昭和47年9月18日付基発第602号・第66条関係)。
従業員の健康管理のため、会社がこのような通常の健康診断費用を負担する場合は、通常、従業員への給与として課税せず、福利厚生費等として損金に算入できます(法法22③二)。損金算入の対象になるのは人間ドックに限らず、一般的な健康診断費用も含まれます。
任意の健康診断や役員の健康診断の費用
法定項目を超える検査や任意の健康診断も、役員・従業員に公平な基準で実施し、内容と費用が健康管理のため通常必要な範囲であれば、福利厚生費として損金に算入できる場合があります(所基通36-29、法法22③二)。
ただし、代表取締役等は一般に労働安全衛生法上の労働者には当たらないため、代表者自身の健診費用について、従業員の法定健診と同じ理由で会社負担を説明できるとは限りません。役員だけを対象とする場合の扱いは、後述する「役員1名の会社・親族だけの会社の注意点」も確認してください。
人間ドックは一般に任意の健康診断に位置付けられます。「会社には健康診断の実施義務がある」という理由だけで、役員の高額な人間ドック費用が当然に給与課税の対象外になるわけではありません。
人間ドック費用を福利厚生費として処理できる条件
役員だけを対象とせず、対象者に公平な受診機会を設ける
国税庁の質疑応答事例「人間ドックの費用負担」では、健康管理のため、一定年齢以上の希望者全員に受診の機会を設け、受診した対象者全員の費用を会社が負担する場合について、給与等として課税する必要はないとしています(所基通36-29)。
この質疑応答事例では「35歳以上の希望者全員」という制度が示されています。ただし、35歳は照会事案の前提であり、人間ドック費用について全国一律に定められた税務上の年齢要件ではありません。
制度を設ける際は、役員や管理職など特定の地位にある人だけが利用できる仕組みにせず、健康管理上の合理的な基準に該当する役員・従業員が利用できるようにします。
また、実際の受診者が役員だけであったことと、制度自体が役員だけを対象としていることは区別して確認します。 対象となる従業員にも受診機会が実際に提供されていたか、費用負担の条件が同じであったかなど、規程と運用の両方を確認することが重要です。この説明から、従業員がいない会社でも規程だけで給与課税を回避できるとはいえません。
検査内容と費用が通常必要な範囲である
所得税基本通達36-29は、福利厚生に伴う経済的利益について、著しく多額である場合や役員だけに供与する場合を、課税しない取扱いから除いています。
人間ドックについても、健康管理のため一般的に利用される検査内容であること、会社の負担額が通常必要な範囲であることを確認します。高額なオプション検査などを特定の役員だけについて負担する場合は、通常の制度による負担と分けて検討する必要があります。
所基通36-29や上記質疑応答事例には、給与課税しない人間ドック費用の一律の金額上限は示されていません。費用の金額だけで判断せず、検査内容、対象者、費用負担の基準を併せて判断します。
役員1名の会社・親族だけの会社の注意点
役員1名で、従業員がいない会社
役員1名だけで従業員がいない会社について、「全員を対象としている」「費用は一般的な金額である」という理由だけで、健康診断費用や人間ドック費用を当然に福利厚生費として損金算入できるとはいえません。
所基通36-29は、役員だけを対象として供与する経済的利益を、課税しない取扱いから除いています。また、国税庁の質疑応答事例「人間ドックの費用負担」は、役員と使用人がいる会社の制度を前提としており、役員1名・従業員なしの場合を直接扱った回答ではありません。
もっとも、後述する福岡地裁判決や平成28年9月20日裁決も、従業員がいる会社で、役員だけに別の人間ドック費用を負担した事案です。これらの事例が、役員1名の会社の通常の健康診断費用まで一律に損金不算入と判断したわけではありません。
このような会社では、会社が費用を負担する目的、検査内容・金額、受診者の地位などから、会社の通常の健康管理費用か、役員の個人的な費用を会社が負担する経済的利益かを個別に検討します。適正な金額であることや社内規程を設けたことだけで、給与課税しない取扱いが確実になるものではありません。 役員給与に該当する場合には、源泉徴収と法法34による損金算入の制限を確認します。
親族だけで構成されている会社
所基通36-29には、「役員・従業員が親族だけであること」を理由として、一律に給与課税するという規定はありません。この通達等から、親族だけの会社でも、実際に勤務する従業員がおり、役員・従業員を公平に対象とした健康管理制度で、検査内容・費用も通常必要な範囲であれば、福利厚生費として損金算入できると考えられます(所基通36-29、法法22③二)。
ただし、全員が役員である場合には、親族関係の有無とは別に、「役員だけを対象とする経済的利益」の問題を検討する必要があります。また、親族を従業員として扱っていても、実際に経営に従事するなどして税務上の役員、いわゆるみなし役員に該当しないかを確認します(法法2十五、法令7)。
勤務実態のない親族を形式的に従業員として扱っても、従業員に公平な受診機会を設けていることの根拠にはなりません。役員・従業員の区分、担当業務、勤務実態、受診対象者などを確認できる資料を整えます。
なお、労働安全衛生法上の労働者には、同居の親族のみを使用する事業等に使用される者を除くという定めがあります(同法2二)。法定健診の実施義務があるかは、親族関係や働き方を含めて別途確認します。法定健診の対象でないことだけで、健康管理のための費用が直ちに損金不算入になるわけではありません。
給与課税されない場合と給与に該当する場合の法人税
福利厚生として給与課税されない場合
健康管理のための通常の福利厚生費は、法人税上、販売費・一般管理費等として損金算入の対象になります(法法22③二)。
役員が受診した場合も、所得税上課税されない経済的利益であり、会社が役員給与として経理していないものについては、法人税上も役員給与として取り扱わないこととされています(法基通9-2-10)。
したがって、給与課税しない要件を満たす健康診断・人間ドック費用を福利厚生費として処理する場合、役員分であることだけを理由として損金不算入になるものではありません。
従業員の給与に該当する場合
福利厚生として給与課税しない取扱いが認められず、従業員への給与と判断される場合は、給与として源泉徴収を行う必要があります(所法28①、36①、183①)。
会社側では、通常の従業員給与は損金算入の対象になります。ただし、役員と特殊の関係がある使用人に対する不相当に高額な給与などには、別途、損金不算入の規定があります(法法22③二、36)。
役員の給与に該当する場合
役員に対する給与には、会社が個人的な費用を負担することによる経済的利益も含まれます(法法34④、法基通9-2-9)。
役員給与として損金算入するには、原則として、定期同額給与、事前確定届出給与又は一定の業績連動給与の要件を満たす必要があります。これらに該当しても、不相当に高額な部分や、隠蔽・仮装による支給には別途、損金不算入の規定があります(法法34①~③)。
健康診断や人間ドックを年1回受診し、その都度会社が費用を負担することによる経済的利益は、通常、毎月おおむね一定の利益を供与する定期同額給与には該当しません。その費用負担が役員給与と判断される場合は、通常、損金不算入となる点に注意が必要です(法法34①④、法人税法施行令69条1項2号、法基通9-2-11)。
なお、使用人兼務役員に供与した経済的利益で、他の使用人に供与する程度のものは、使用人としての職務に係るものとする取扱いがあります。代表取締役等の費用負担と同じように扱えるかは、役員の地位や職務も含めて確認します(法基通9-2-24)。
給与課税する場合は税込金額で源泉徴収を判断する
会社が負担した人間ドック費用が役員・従業員への給与に該当する場合、その経済的利益の額には消費税及び地方消費税を含めます。
例えば、検診料50,000円、消費税等5,000円を会社が全額負担し、その費用相当額が給与に該当する場合、源泉徴収の計算に反映する経済的利益は55,000円です。
会社が税抜経理方式を採用していても、受診者の給与課税の金額は税込金額で判断します。源泉徴収税額は、給与・賞与の区分などに応じた方法で計算します(所法36①②、183①、平成元年1月30日付直法6-1「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて」1)。
役員だけを対象とした人間ドック費用が否認された裁決
平成28年9月20日裁決の事案
この裁決は、会社が役員2名の人間ドック費用を福利厚生費又は雑費として損金算入したところ、役員給与に該当するとして、法人税等の更正処分と源泉所得税等の納税告知処分などを受けた事案です。会社は、成人病総合健診に係る費用について、給与には該当しないなどと主張しました。
事件番号は「名裁(法・諸)平28第8号」です。審査請求は棄却されています。
従業員には会社負担で人間ドックを受診する機会が与えられておらず、一般の健康診断だけが実施されていました。裁決本文で示された費用は、次のとおりです。
| 区分 | 検診内容 | 1人当たりの費用 |
|---|---|---|
| 従業員 | 一般の健康診断 | 最大18,522円(税込) |
| 役員 | 成人病総合健診 | 346,500円又は356,400円(税込) |
役員の成人病総合健診の税抜費用はいずれも330,000円で、上記税込金額は当時の消費税等の税率5%又は8%によるものです。
給与課税と損金不算入の判断
審判所は、従業員に人間ドックの受診機会がなく、従業員の健康診断費用と役員の成人病総合健診費用に大きな差があることを踏まえ、役員だけに経済的利益を供与した場合に当たると判断しました。
会社は、役員が病気になった場合の経営上のリスクなども主張しましたが、それによって給与該当性の判断は変わらないとされています。
さらに、当該費用は役員給与として損金算入できる法法34①各号のいずれにも該当しないため、法人税上の損金算入は認められませんでした。会社には源泉徴収義務も認められ、給与課税の計算には税込金額を用いるべきと判断されています。
この裁決は、従業員の一般健診費用との差額だけを給与とする判断を示したものではありません。また、330,000円を一律の課税基準としたものでもありません。制度の対象者と実際の費用負担の違いが重要です。
前回の税務調査で修正されなかったことの扱い
会社は、前回の税務調査で同様の費用が修正対象にならなかったことを理由に、加算税を課さない「正当な理由」があるとも主張しました。
しかし、審判所は、調査担当者が将来も同じ処理を認める確定的な見解を表明したとは認められないとして、この主張を退けました。過去の調査で修正されなかったことだけで、その後の処理の適法性や加算税の免除が保証されるものではありません。
参考となる裁判例・裁決例
福岡地裁平成21年2月19日判決
この判決は、会社が負担した社員旅行等の費用や人間ドック費用について、給与所得に該当するかが争われた源泉所得税の事件です。事件番号は「平成19年(行ウ)第60号」、資料番号は「税務訴訟資料第259号-32・順号11145」です。
会社は、従業員には一般の健康診断を受診させ、役員には人間ドックを受診させていました。役員の人間ドック費用の1回の会社負担額は、34,000円から207,900円までと、役員や年度によって異なっていました。
裁判所は、役員だけに人間ドック費用が支給され、多額の支給を受けた者も含まれることなどから、当該人間ドックは社会通念上一般に行われている健康診断とはいえず、役員への経済的利益として給与所得に該当すると判断しました。
会社が役員の意思にかかわらず受診を強制していても、役員は従業員にない経済的利益を得ているとして、給与課税することには合理性があるとされています。会社が受診を義務付ければ当然に給与課税されなくなる、という判断ではありません。
この判決は、34,000円を給与課税の境界となる金額としたものではなく、費用が一定額以下なら給与課税しないという基準も示していません。また、従業員がいる会社の事案であり、役員1名・従業員なしの会社を直接扱ったものではありません。
なお、この判決が直接判断しているのは給与所得への該当性と源泉所得税の問題です。 法人税の損金算入については、役員給与に該当する場合の法法34などに基づき、別途判断します。
令和2年1月20日裁決
全従業員に一律のポイントを付与するカフェテリアプランで、人間ドック等の補助について源泉徴収義務が否定された公表裁決もあります(裁決事例集第118集)。
この事案には、従業員が費用をいったん支払い、領収書を添付して申請した後に、会社が給与の支払に合わせて補助額を精算する仕組みが含まれていました。
審判所は、職務上の地位等による格差がなく、補助額も著しく多額ではないこと、ポイントを無条件で現金に換える制度ではないことなどを確認し、利用したメニューの内容に応じて課税関係を判断しました。
この裁決を踏まえると、実費を後から精算することだけを理由に、直ちに給与課税が必要と断定することはできません。規程、対象者、検査内容、補助額、領収書による確認などを含め、制度の実態を確認します。
健康診断・人間ドック費用の消費税
健康保険の対象となる診療とは取扱いが異なる
健康保険法等に基づく療養の給付などは、消費税の非課税取引です。一方、通常の人間ドックや健康診断の検診料は、原則として消費税の課税対象で、税率は10%です(消法6①・別表第二六、消基通6-6-1)。
会社が福利厚生として医療機関から検診サービスを購入する場合、原則として課税仕入れに該当します(消法2①十二)。
給与課税の判断と仕入税額控除の判断を分ける
医療機関から購入した検診サービスの費用を給与として課税する場合も、そのことだけで医療機関への支払が課税仕入れから除かれるわけではありません。
課税仕入れの該当性は、会社が事業として医療機関から役務の提供を受けたかなど、取引の実態に基づいて判断します。役員・従業員に給与を支払う取引と、医療機関から検診サービスを購入する取引を分けて確認する必要があります(消法2①十二、消基通11-1-2、11-2-1参照)。
一般課税で仕入税額控除を受ける場合は、原則として適格請求書等と帳簿の保存が必要です。従業員等が立て替えた場合も、医療機関の請求書等と精算書などによって、会社の課税仕入れであることを確認できるようにします(消法30⑦~⑨)。
実際の控除額は、課税売上割合、用途区分、請求書等の保存状況、適用される特例・経過措置などにより判断します。簡易課税等を適用する場合は、その制度に応じて計算します。
福利厚生費として処理する場合の仕訳例
給与課税しない要件を満たし、会社が検診料50,000円と消費税等5,000円を医療機関へ支払った場合の例です。税抜経理方式、一般課税で仕入税額を全額控除できることを前提としています。勘定科目は例示です。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 福利厚生費 | 50,000円 | 普通預金 | 55,000円 |
| 仮払消費税等 | 5,000円 |
支払総額は50,000円+5,000円=55,000円です。この金額は仕訳例であり、給与課税しない金額の上限を示すものではありません。
役員給与に該当し、損金不算入となる場合は、会計上の費用計上とは別に、法人税申告書別表四で加算する必要があります。申告調整額は、税抜・税込経理方式や仕入税額控除の処理も含めて確認します。
社内規程と証拠資料を整える
受診対象者、対象年齢、検査コース、会社負担の上限、オプション費用、申請・精算方法などを社内規程で定め、対象者へ周知しておくと、制度の公平性や会社負担の範囲を説明しやすくなります。
国税庁の質疑応答事例では、会社と契約した医療機関で受診しています。ただし、「会社が指定・契約した医療機関であること」は、その事案の前提です。医療機関を指定する運用は管理に役立ちますが、指定の有無だけで給与課税の結論を決めることはできません。
税務上の説明に備え、次のような資料を保存します。
- 社内規程と対象者への周知記録
- 対象者・受診者の一覧と費用負担の記録
- 検査コースや料金の内容が分かる資料
- 医療機関の請求書・領収書、支払記録
- 立替払いの場合の申請書・精算書
受診実績に基づく費用の精算と、受診の有無を問わず支給する現金の手当は区別して処理します。後者は通常、給与として取り扱います(所法28①)。
主な根拠資料
- 法人税法2十五、22③二、34①④、36、法人税法施行令7条・69条1項2号
- 所得税法28①、36①②、183①、所得税基本通達36-29
- 法人税基本通達9-2-9~11、9-2-24
- 国税庁・質疑応答事例「人間ドックの費用負担」
- 国税庁・タックスアンサーNo.5202「役員等に対する経済的利益」
- 国税庁・タックスアンサーNo.5200「役員の範囲」
- 労働安全衛生法2二・66①、労働安全衛生規則43条・44条
- 昭和47年9月18日付基発第602号「労働安全衛生法および同法施行令の施行について」・第66条関係
- 国税庁「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて」1
- 消費税法2①十二、30⑦~⑨、消費税法基本通達6-6-1、11-1-2、11-2-1
- 国税庁・タックスアンサーNo.6496「仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存」
- 平成28年9月20日裁決・名裁(法・諸)平28第8号
- 福岡地裁平成21年2月19日判決・平成19年(行ウ)第60号・税務訴訟資料第259号-32・順号11145
- 令和2年1月20日裁決・裁決事例集第118集
- 『所得税基本通達逐条解説』令和8年版336頁、『法人税基本通達逐条解説』十二訂版903~904頁、『消費税法基本通達逐条解説』令和6年版345~346頁・610~611頁
役員のみが受診した人間ドック費用を福利厚生費とすることはできないとされた事例-平成28年9月20日裁決(名裁(法・諸)平28第8号)(棄却)
(1)事案の概要
本件は、審査請求人Xが、役員2名(代表取締役と専務取締役)が受診した人間ドックに係る費用を損金の額に算入し、法人税及び復興特別法人税の申告を行ったところ、原処分庁が、当該費用はいずれも損金の額に算入することができない役員給与に該当するとして、法人税等の各更正処分等を行うとともに、当該費用の額は役員の給与所得の収入金額に算入すべき金額であるとして、源泉徴収に係る所得税等の各納税告知処分等を行ったのに対し、Xが、当該費用のうち成人病総合健診に係る費用については役員に経済的利益をもたらすものではなく給与には該当しないなどとして、その一部の取消しを求めた事案である。
なお、本件各役員以外のXの従業員は、本件各事業年度において、人間ドックを受診する機会は与えられなかったが、健康診断(以下「本件健康診断」という。)を受診した。本件健康診断の受診に係る費用は一人当たり最大で18,522円(消費税等を含む。)であり、Xが当該費用を支払った。
(2)本件の主な争点
Xの本件成人病健診に係る費用(以下「本件費用」という。)は本件各役員に対する給与等に該当するか否かである。
(3)裁決要旨(棄却)
① 所得税法28条1項及び36条1項は、使用者が役員又は使用人の人間ドックの費用を負担することは、役員又は使用人がその費用相当分の経済的利益を受けたことになるから、その役員又は使用人に対する給与等に該当し、その利益相当分は給与所得の収入金額とされるのが原則である。もっとも、役員又は使用人の健康管理の必要から、使用者に対し、労働安全衛生法66条及び労働安全衛生規則44条に基づき、健康診断の実施が義務付けられていることに鑑みて、一定年齢以上の希望者は全て人間ドックを受けることができ、かつ、健診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担するような場合で著しく多額でないものについては、給与所得として課税する必要まではないと解される。
② 本件人間ドック費用は、Xが負担しているから、各役員に対する給与等に該当し、給与所得の収入金額とされるのが原則である。そして、役員以外のXの従業員は、各事業年度において人間ドックの費用をXが負担して受診する機会を与えられず、また、健康診断を受診したものの、その一人当たりの費用の最大額は18,522円(税込)であり、役員にかかった成人病健診の一人当たりの費用346,500円(33万円+消費税5%)又は356,400円(33万円+消費税8%)とは大きな差があることを考慮すると、本件費用に相当する経済的利益は役員だけを対象として供与された場合に該当するといえるから、課税する必要がない給与所得には当たらず、また、所得税基本通達36-29に定める要件も満たさない。したがって、本件費用は各役員に対する給与等に該当する。
③ 平成元年1月30日付直法6-1「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて」(国税庁長官通達)は、所得税法183条の規定が適用される給与等が物品又は用役などにより支払われる場合において、当該物品又は用役などの価額に消費税等の額が含まれているときは、当該消費税等の額を含めた金額が給与等の金額となる旨定めていることから、Xの源泉所得税及び源泉所得税等の納付すべき税額は、消費税等を含めた人間ドックに係る費用の金額を基に算出するのが相当である。当審判所において、Xの源泉所得税及び源泉所得税等の納付すべき税額を算出すると、いずれも審判所認定額が各告知処分の額を上回るから、本件各告知処分はいずれも適法である。
