概要
役員や従業員が不正や横領していても、会社は全く気付かず、税務調査で役員等の横領等が発覚するケースは結構多いです。
法人が自社の役員等に横領された場合、法人としては損害を受けている立場なのですが、税務上、厳しい取り扱いがされます。
つまり、自社の役員等が横領したことは、それを防げなかった(管理・監督が十分ではなかった)法人にも責任があり、法人の行為と同視できるということで、重加算税等が課せられることが多いです。
損益の計上時期
法人が自社の役員等に横領された場合、通常、横領による損害と、その横領した役員等に対する損害賠償請求権が発生することになると思います。
この横領による損害に係る損失に係る損金の額と、これに対応する損害賠償請求権に係る益金の額の計上時期については、以下のように、2つの考え方があります。
(1)横領による損害に係る損失の計上(発生時点)と同時に、同時に同額の損害賠償請求権を収益計上
(2)損失はその発生時点で計上し、損害賠償金はこれと切り離してその実現時の益金の額に算入
他の者から支払を受ける損害賠償金の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのですが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、その処理が認められます(法基通2-1-43)。
なお、当該損害賠償金の請求の基因となった損害に係る損失の額は、保険金等により補填される部分の金額を除き、その損害の発生した日の属する事業年度の損金の額に算入することができます(法基通2-1-43(注))。
つまり、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、横領による損害額について、先行して損金に算入することができるということになります。
ただし、「他の者」には自社の役員又は従業員を含まず、役員等が横領した場合は、横領による損害額について先行して損金に算入することはできないと考えられており、通常、(1)の考え方を採用します。
損害賠償請求権は、その原因である横領による損失とともにその発生事業年度の益金算入すべきである事例(東京高裁昭和40年10月13日判決・行裁集16巻10号1632頁、最高裁昭和43年10月17日第一小法廷判決・訟月14巻12号1437頁、東京高裁平成21年2月18日判決・税資259号-31(順号11144)、最高裁平成21年7月10日第二小法廷決定・税資259号-130(順号11243)、令和6年9月5日裁決・関裁(法・諸)令6第5号等)があります。
貸倒れ
損害賠償請求権について回収不能が明らかになった場合は、貸倒れとして損金経理ができます(法基通9-6-2)。ただし、回収可能性があるのに、貸倒損失処理した場合には、役員賞与等であると課税庁に指摘される場合があります。
代表取締役社長が横領した場合
役員等に対する損害賠償請求をする場合は、ケースバイケースに基づいて処理します。よって、代表取締役社長が横領した場合は、横領損失の計上ではなく、役員賞与としての処理を課税庁に求められる場合があります。
横領行為による代表取締役への経済的利益の移転は役員賞与に該当するとした東京地裁平成19年12月20日判決(税資257号-244(順号10853))があります。
損害賠償金を支出した場合
法人の役員又は従業員がした行為等によって他人に与えた損害につき法人がその損害賠償金を支出した場合には、次によります(法基通9-7-16)。
(1) その損害賠償金の対象となった行為等が法人の業務の遂行に関連するものであり、かつ、故意又は重過失に基づかないものである場合には、その支出した損害賠償金の額は給与以外の損金の額に算入します。
(2) その損害賠償金の対象となった行為等が、法人の業務の遂行に関連するものであるが故意又は重過失に基づくものである場合又は法人の業務の遂行に関連しないものである場合には、その支出した損害賠償金に相当する金額は当該役員又は従業員に対する債権(損害賠償請求権)とします。
損害賠償請求をせずにそのまま放っておいて、税務調査が入った場合には給与と認定される可能性があります。
「課税処分に当たっての留意点」(平成25年4月/大阪国税局/法人課税課/大阪国税局/法人課税課)
「課税処分に当たっての留意点」(平成25年4月/大阪国税局/法人課税課/大阪国税局/法人課税課)の179頁に以下のように記載されています。
「代表権のない者が行った行為」
代表権を有する者が行った不正行為は会社の行為となるが、その他の会社関係者が行った不正行為の結果、過少申告が生じた場合であっても、その不正行為を会社の行為と同視して重加算税を賦課できる場合がある。
従業員であっても、会社の主要な業務を任され、長期にわたる不正や多額な不正など会社が通常の注意をすれば容易に発見できる不正行為を管理監督しなかったために、これを見過ごし、結果としてこれを起因とする過少申告が生じた場合には、会社の行為と同視することができる(大阪高裁平成13年7月26日判決、国税不服審判所平成14年3月7日裁決、国税不服審判所平成17年6月29日裁決、東京高裁平成21年2月18日判決)。
なお、管理監督責任の不履行については事実関係を立証することが困難である場合が多いので、不正行為者がどの範囲まで業務を任され、当該業務がどのようにチェックされていたか等について、特に次の①から③までについて関係者に対する「質問応答記録書」を作成するなどして証拠化しておく必要がある。
① 重要な事務を担当していたこと。
② 当該従業員に業務を任せきりにしていたこと。
③ 法人が何らかの管理・監督をしないまま放置していたこと。
仕訳
売上金100万円(帳簿未計上)を従業員が横領して、同額の損害賠償を請求した場合
横領損失 100万円 / 売上 100万円
損害賠償請求権 100万円 / 雑収入 100万円
なお、上記の2つの仕訳は、通常、横領が発覚した事業年度ではなく、売上があった(横領があった)事業年度に計上するため、結果、100万円分の修正申告等が必要となる場合があります(横領は、それが行われた後の事業年度に発覚することが多いため)。
消費税
売上は課税売上高となり、横領損失と雑収入は不課税取引に該当します。
取締役及び従業員の不正行為による損失が発生した事業年度に損害賠償請求権の額を益金算入すべきとされた事例-仙台地裁令和5年12月25日判決(訟務月報71巻2号142頁)(一部認容)(控訴)
(1)事案の概要
電気工事業等を営む原告Xは、訴外A社に対する土木工事の外注費について、平成24年9月期から平成29年9月期までの事業年度の法人税等の計算上、これを損金の額に算入して申告したところ、所轄税務署長は、申告されたA社に対する外注費の一部は、Xの従業員であった甲、乙、丙及び丁並びにA社の代表取締役である戊らが行った工事代金の水増し請求によるものであり(以下、この水増し請求に係る甲らの行為を「本件不正行為」という。)、これを損金に算入することも、仕入税額控除を適用することもできず、法人税の計算上、本件不正行為により生じた損失は、各事業年度の損金に算入され、当該損失に対応する損害賠償請求権は、当該損失が生じた事業年度の益金に算入されることになるなどとして、各事業年度の法人税等の更正処分及び各事業年度の法人税の重加算税賦課決定処分等を行ったことから、Xが、各更正処分等を不服としてその全部の取消しを求める事案である。
(2)本件の主な争点
(争点1) 本件外注費水増し分の「損金」及び「課税仕入れ」該当性である。
(争点2) 益金に算入すべき損害賠償請求権の発生及びその益金への算入時期である。
(争点3) 重加算税賦課要件該当性である。
(3)判決要旨(一部認容)(控訴)
(争点1)
① 本件外注費水増し分は、XがA社から役務の提供等を受けた事実がないにもかかわらず、甲らが自身の利益を得る目的で、外注費を過大に水増しして計上したものにすぎず、事業の遂行上必要な資産の減少と認めることはできないから、本件外注費水増し分は法人税法22条3項の「損金」には該当しないものと認めるのが相当である。
② 本件外注費水増し分は、これに対応するA社からの反対給付(外注工事)がないにもかかわらず支払われたものであり、消費税法30条1項の「課税仕入れ」には該当しないものと認めるのが相当である。
(争点2)
③ 甲らは、Xをして、本件外注費水増し分の金額を水増ししてA社に対する土木工事の発注(外注)を行わせ、本来よりも過大な外注費を支払わせ、これにより、本件外注費水増し分と同額の損害をXに被らせたものであるから、Xは、甲らに対し、この損害につき、不法行為に基づく損害賠償請求権を有することとなり、これは、本件各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入されるべきこととなる。
④ 法人税法において、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る当該事業年度の収益の額とするものとされ(法人税法22条2項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(同条4項)。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきこととなり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきこととなる〔最高裁平成4年(行ツ)第45号同5年11月25日第一小法廷判決民集47巻9号5278頁〕。
そして、不法行為に基づく損害賠償請求権は、通常、その損害が発生した時には発生、確定しているから、これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則であると考えられるものの、例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難なため、直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような場合には、当該事業年度に、損失については損金計上するが、損害賠償請求権は益金に計上しない取扱いをすることが許されるというべきである。そして、この判断は、税負担の公平や法的安定性の観点からして客観的にされるべきものであるから、通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点から判断するのが相当である。
⑤ これを本件についてみると、本件外注費水増し分に係るXの甲らに対する損害賠償請求権は、原則として、本件外注費水増し分に係る損害が発生した年度に発生、確定するから、当該年度の益金として算入すべきことになる。
(争点3)
⑥ Xの従業員又は取締役であった甲は、平成21年4月以降、Xの営業部の統括次長の地位にあり、当時、営業部には部長職がなかったため、実質的に営業部の最高責任者の地位にあり、同時期以降も同様の地位にあったほか、Xの経営戦略会議にも出席していた。しかし、経営戦略会議に出席していたという事実以上に、具体的に、甲がXの経営を中心となって担っていたという事実を認めるに足りる証拠はなく、Xの組織として、Xの発注(外注)する土木行為に係る外注先や外注費について、甲に対し、自身の裁量によって決定することができる権限を与えていたものと認めることはできない。また、Xの従業員であった乙らについても、Xの会社組織として、自身の裁量によって決定することができる権限を与えていたものと認めることはできない。
⑦ 以上によれば、本件不正行為を行った甲らについて、Xから、外注先や外注費の決定権限を与えられていたわけではなく、また、営業部の最高責任者の地位にあった甲は、本件不正行為の発覚を防ぐため、プラント建設部の乙らを取り込んだ上で、自身の利益を図ることを目的として、本件不正行為を行っていることからすると、Xの管理体制の不備を考慮したとしても、甲らの行為をXの行為と同視することができるとまでは認めるに足りないというべきである。したがって、Xについては、重加算税の賦課要件を充足しないものと認めるのが相当である。
東京高裁昭和40年10月13日判決(行裁集16巻10号1632頁)要旨
① 横領金は書類上これに相当する経費の記載があつても、右は架空経費であつて、横領金が経費とされる理由はないのであるから、被控訴人(所轄税務署長)のなした経費否認は極めて当然であり、そして横領金自体は控訴会社の横領者に対する仮払金として処理し何等損益に算入しなかつたのであるが、これを損金に算入するとすれば、控訴会社は横領者に対し同額の損金賠償請求権を有するのであるから、これを益金に算入すべきであつて、その結果控訴会社の所得金額は横領金については何等これを損益に算入しない場合と変らない。
② 法人税法は昭和40年3月31日の全文改正の前後を通じて、これが施行規則ないし施行令等の規定と相まち、所得の計算につきいわゆる発生主義を採用し、特段の規定がない限り損益の発生は権利義務の実行のときとせず、その発生のときとしているものと明らかに解せられるから、犯罪行為に基く損害賠償請求権についても、特に異る取扱をする旨の規定が存しない以上は、商行為に基く債権と同様その発生をもって資産の取得とするのが当然である。
③ 犯罪行為による損害とこれに対応する損害請求権とを共に損益に算入しない方法と共に、損益に算入する方法のいずれの方法をとるとしても、犯罪行為による損害については、貸倒れと同様に、その回収の見込がないと認められるに至つたときは、これを損金に算入し得ることは疑がない。
④ 横領金に相当する金額を犯罪発見より以前の事業年度の益金に計上することは不可能であつて申告納税制度と矛盾するとの主張については、法人税法は、たしかに申告納税を原則としているのではあるが、更に修正申告、更正等の手続等を定めて課税標準たる所得の正確な計算並びに納税義務の完全な履行が行なわれることを期しているのであるから、控訴人の右主張は到底是認できない
⑤ 控訴人は多額の金員を横領された上更にこれに対し課税されると二重の損失を受けるというが、企業が横領の犯罪行為によつて損失を蒙るのは課税とは何らの関係もなく、課税については加算税を除いては横領行為がなくても当然課せられるものであるから、二重の損失というのは当らない。
⑥ 横領者は控訴会社の営業、経理会計を担当していたばかりでなく、その代表取締役でさえあつたことが明らかであるから、同人の計上した架空経費が当初申告に際し、損金に算入されたことは到底正当事由に基くものとはいえず、過少申告加算税を課した処分が憲法第30条に違反するということはできない。
東京地裁平成19年12月20日判決(税資257号-244(順号10853))要旨
(1)事案の概要
株式会社であるX(原告会社)において、その代表取締役が、取引先(以下「本件各仕入先」という。)からの仕入金額を水増しするなどし、本件各仕入先との取引を通じて利益を得ていたところ、課税庁が、その水増し部分についてはXの売上原価ではなく役員賞与であり、損金の額への算入は認められないとして、Xに対して更正処分をした
。
また、課税庁は、架空の売上原価を計上して控除対象仕入税額に含めたことを理由に、代表取締役が得た利益については給与所得に該当しXに源泉徴収義務があるとして、Xに対し納税告知処分をした。
本件は、これらの各処分に対して、Xが、上記代表取締役の行為は横領行為であり、Xから代表取締役への給与ではないから、これを役員賞与として処分したことに対し更正処分は違法であり、また、給与所得として源泉徴収義務があるとして納税告知処分をしたことは違法であるとして、各処分の取消しを求めた事案である。
(2)本件の主な争点
横領行為による代表取締役への経済的利益の移転は役員賞与に該当するか否かである。
(3)判決要旨(棄却)(確定)
① 給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価としての使用者から受ける給付をいう。
なお、とりわけ、給与支給者との関係において、何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならないと解される(最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決)。
ただし、上記のとおり、所得税法上の給与所得の概念は包括的なものであることからすれば、給与所得の対象となる給与等は、労務の直接的な対価にのみ限定されるのではなく、その勤労者たる地位に基づいて使用者から支給される金銭的給付なども含まれているものとして観念されるべきであって(最高裁昭和37年8月10日第二小法廷判決)、上記の対価性は、労務又は役務との間で厳密かつ直接の対価性を要求するものではないというべきである。
② 法人からの金銭の給付又は経済的利益の供与があった場合、これが法人税法上及び所得税法上の給与等に該当するか否かは、その金銭の給付又は経済的利益の供与が、職務執行の対価又は対価に準ずる性質を有するかどうかといった事情にとどまらず、当該受給者の法人における地位に基づいて支給されたといえる関係にあるかどうかという点も併せて考慮して決すべきであると解するのが相当である。
③ 所得税法183条1項は、給与等の支払をする者に対し、その支払の際、その所得税を徴収することを義務づけており、この「支払」とは、所得の正確な把握と徴収の確保という趣旨から、所得の源泉を問わずに担税力を増加させる経済的利益の移転行為のすべてをいうものと解され、これがいかなる源泉で生じたものであるか、適法な利得か不法な利得かを問わない包括的な利益移転行為をいうと解するべきである。
そうすると、「支払」については、それが給与等に該当するものである以上、支払者がいかなる趣旨でこれを支払ったかというような支払者の主観的意思とはかかわりなく決すべき事柄であるから、給付等の客観的性格から給与等に該当することが判断でき、かつ、これを移転する行為が認められれば足りると解するのが相当である。
④ 給与に該当するか否かについては、法人から個人への金員の移転や特定の個人が法人から利益を得た場合に、その金員の移転や利益の取得が、職務執行の対価に準ずる性質を有するかどうかといった事情や法人における地位に基づいて支給されたものかどうかといった点を併せ考慮して判断する事項である。
当該支出が私法上の給与として支給される基準に基づいてなされたか否かといった事情やその支給に当たり、当該法人において給与として適正な手続きを経て支給されたのかといった事情が影響するものではない。
もちろん、当該法人が事前又は事後に当該支給を給与とすることに対し、明示又は黙示に同意を与えるか否かといった事情が影響するものではない。
このことは、給与の意義については、その金員の有する客観的な性質によって判断されるところ、法人の主観的意思によって給与所得か否かが決することは、所得の基礎となる給与該当性の判断を当該法人が恣意的に操作する結果となるおそれがあるという面からも、上記解釈が正当であるといえる。
⑤ 国税通則法68条(重加算税)の趣旨は、加算税を賦課すべき過少申告行為が課税要件事実の隠ぺい・仮装という手段で行われた場合に、違反者に行政上の制裁として重加算税を賦課することにより、申告納税制度の適正・円滑な運営を図ろうとする法技術上の制度であるから、納税者において仮装・隠ぺいした事実に基づき申告するという認識を要さず、結果として過少申告の事実があれば足りるものと解される(最高裁昭和62年5月8日第二小法廷)。
これを本件についてみるに、原告の当時の代表取締役であったSが、仕入代金の単価の水増し、仕入代金の水増し及び仕入代金の架空計上をし、これらを損金に算入して算定した法人税及び消費税等の確定申告書を提出したものであるから、原告が仮装・隠ぺいの事実に基づき納税申告をしたものといえるから、上記重加算税賦課の要件を満たしているといえる。
東京高裁平成21年2月18日判決(税資259号-31(順号11144))要旨
① 本件各事業年度において詐取行為により被控訴人が受けた損失額を損金に計上すると同時に益金として損害賠償請求権の額を計上するのが原則ということになるが、本件各事業年度当時の客観的状況に照らすと、通常人を基準にしても、本件損害賠償請求権の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるとすれば、当該事業年度の益金に計上しない取扱いが許されるということになるから、その点を検討する。
② 乙(被控訴人の経理部長)は、被控訴人(A株式会社。原告)の経理担当取締役らに秘して本件詐取行為をしたものであり、被控訴人の取締役らは当時本件詐取行為を認識していなかったものではあるが、本件詐取行為は、経理担当取締役が預金口座からの払戻し及び外注先への振込み依頼について決済する際に乙が持参した正規の振込依頼書をチェックしさえすれば容易に発覚するものであったのである。また、決算期等において、会計資料として保管されていた請求書と外注費として支払った金額とを照合すれば、容易に発覚したものである。こういった点を考えると、通常人を基準とすると、本件各事業年度当時において、本件損害賠償請求権につき、その存在、内容等を把握できず、権利行使を期待できないような客観的状況にあったということは到底できないというべきである。そうすると、本件損害賠償請求権の額を本件各事業年度において益金に計上すべきことになる。
③ 乙は、本件各事業年度当時、資産として約5000万円で購入したマンションを有していたほか、約200万円相当の自家用車を所有していたし、約400万円程度の預金を有し、月額30万円を超える金額の給与を得ており、本件詐取行為に係る刑事裁判の際、200万円の弁償を申し出ている。確かに乙は、本件損害賠償請求権に係る債務のほか、住宅ローン等の債務を抱えていたから、債務超過に陥っていた可能性が高いが、全く弁済能力がなかったとはいえないのであるから、本件各事業年度当時において、損害賠償請求権が全額回収不能であることが客観的に明らかであったとは、言い難いといわなければならない。
④ 乙が隠ぺい、仮装行為をし、被控訴人は、それに基づき架空外注費を計上して確定申告を行ったものであって、被控訴人の経理業務の責任者で実務上の経理を任されていた者であり、かつ、被控訴人としても、容易に乙の隠ぺい、仮装行為を認識することができ、認識すればこれを防止若しくは是正するか、又は過少申告しないように措置することが十分可能であったのであるから、乙の隠ぺい、仮装行為をもって、被控訴人の行為と同視するのが相当である。そうすると、本件で、国税通則法68条1項により過少申告加算税に代え、重加算税を課したことに違法はない。
専務取締役が行った架空取引は請求人が行ったと認めるのが相当であり、青色申告の承認取消し処分は相当であるとされた事例-平成14年3月7日裁決(裁事63集362頁)要旨
請求人は、原処分庁が青色申告の承認取り消し理由としてあげた各事実は、元専務取締役が個人的利益を図るために行ったものであり、請求人はまったく関与していないから、法人税127条1項3号に規定する青色申告の承認取り消しは誤りである旨主張する。
しかしながら、[1]Mに対して架空売上を計上していた事実、[2]R及びSに対して架空仕入れを計上していた事実、[3]元専務取締役がMから簿外で回収した金員とMの担当者に返還した金員の差額を収入から除外した事実、[4]元専務取締役がMの担当者から再バックを受けた金員を収入から除外した事実が認められるところ、上記[1]から[4]の各事実について代表者の認識の有無及び承認した事実の存否は必ずしも明らかではないが、帳簿書類の正確な記帳を推進するとの青色申告制度の趣旨にかんがみれば、仮装隠蔽行為が代表者によってなされたか、あるいは代表者が知っていた場合に限定されるものと解すべきではなく、当該法人のために働く従業員が代表者の承認を得ずに行った場合でも該当するものと解するのが相当であり、請求人の記帳は法人税法第127条第1項第三号に規定する要件に該当し、原処分庁が行った青色申告の承認取り消し処分は適法である。
請求人の従業員の行った不正経理行為は、請求人の行為と同一視されるとして、重加算税の賦課決定処分を認容された事例-平成17年6月29日裁決(裁事69集18頁)要旨
請求人は、本件不正経理行為については、[1]従業員が自己の窃盗又は横領行為の発覚を防止するために行った不正行為であること、[2]請求人が通常の調査をしても発見できない方法で本件売上等圧縮行為が行われ、また、記帳や現金管理を任せ切りにした事実もないこと、[3]請求人の取締役が従業員に対して本件棚卸圧縮行為を指示した事実はないことから、請求人に結果責任を課すべきではなく、課税主体である請求人の隠ぺい又は仮装行為に該当しない旨主張する。
しかしながら、重加算税を課すためには、納税者において、過少申告を行うことの認識を有していることまで必要とするものではないから、隠ぺい又は仮装の行為は、納税義務者たる法人の代表者に限定されるものではなく、従業員を自己の手足として経済活動を行っている納税者においては、隠ぺい又は仮装行為が代表者の知らない間に従業員によって行われた場合であっても、その従業員の行為を納税者の行為と同一視することが相当である場合には、法人自身が当該行為を行ったものとして重加算税を賦課することができるものと解するのが相当である。そして、本件においては、[1]従業員は請求人の経理事務を担う重要な地位にいたこと、[2]不正経理行為は請求人の課税申告に直接反映していること、[3]不正経理行為は長期に及び、現金出納帳などの確認をすれば容易に把握できたと認められるところ、[4]請求人はそれらの確認を行っていないことを総合勘案すれば、本件不正行為は請求人の行為と同一視すべきと認められるから、本件重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
請求人の取締役が、外注先に対して架空の請求書を発行するよう依頼した行為は、請求人による行為と同視できるとされた令和元年6月20日裁決(裁事115集)要旨
請求人(建築、土木資材販売等を目的とする株式会社)は、国税通則法68条(重加算税)1項は、隠蔽又は仮装の主体を納税者と規定していることから、専務取締役(本件専務)が外注先業者に対して架空の請求書を発行するよう依頼した行為(本件仮装)を請求人の行為と同視できないのであるから、同項の規定は適用できない旨主張する。
しかしながら、法人が納税義務者である場合、代表者自身が隠蔽又は仮装した場合に限らず、法人内部において相応の地位と権限を有する者が、その権限に基づき、法人の業務として行った隠蔽又は仮装であって、全体として納税者たる法人の行為と評価できるものについては、納税者自身による行為と同視されると解するのが相当である。本件専務は、常務取締役又は専務取締役として対外的な営業業務を行っていたこと、請求人の他の営業担当者に対して営業方法を指導する立場にあったこと、請求人の営業利益の大部分を占める業績があり、代表者に次ぐ報酬を得ていたことから、大きな影響力を有する地位にあったと認められ、また、代表者は取引先との取引の詳細な内容まで把握しておらず、本件専務は、代表者から取引先との交渉を一任されていたことからすると、本件専務は、取引先の選定及び取引内容を確定する権限があったと認められる。そうすると、本件仮装は、上記のような地位及び権限に基づき、請求人の業務として行われた行為であると認められ、請求人において本件仮装を防止するための措置を講じたとも認められず、全体として請求人の行為と評価できる。したがって、本件仮装は納税者である請求人による行為と同視でき、請求人が事実を仮装したものと認められる。
請求人の従業員が、架空の請求書を作成して請求人に交付した一連の行為は、請求人による行為と同視できないとされた令和元年10月4日裁決(裁事117集)要旨
原処分庁は、請求人(建物の総合管理の請負を目的とする法人)の従業員(本件従業員)が行った金員の詐取を目的とした仮装行為(本件仮装行為)について、法人の従業員の業務に関連する行為は、当該法人の活動領域内の行為として自己の行為の一部分とみることができるから、従業員の行為が納税者である法人の行為と同視できないといえるような特段の事情がない限り、請求人に国税通則法68条(重加算税)1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実がある旨主張する。
しかしながら、①本件従業員は、請求人の経営に参画することや、経理業務に関与することのない一使用人であったと認められ、②本件仮装行為は、請求人の業務の一環として行われたものではなく、本件従業員が私的費用に充てるための金員を請求人から詐取するために独断で行ったものであると認められる。一方、③請求人においては、一定の管理体制が整えられていたものの、本件仮装行為のような詐取行為を防止するという点では、管理・監督が十分であったとは認められない。もっとも、職制上の重要な地位に従事せず、限られた権限のみを有する一使用人が、独断で請求人の金員を詐取したという事件の事情に鑑みれば、本件従業員に対する請求人の管理・監督が十分ではなく、本件仮装行為を発覚できなかったことをもって、本件仮装行為を請求人の行為と同視することは相当ではない。したがって、以上の点を総合考慮すれば、本件従業員による本件仮装行為を納税者たる請求人の行為と同視することはできないと判断するのが相当であり、同項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があるとは認められない。