概要

 法人の有する売掛金、貸付金等の金銭債権が回収不能になったことによる貸倒損失の額は、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されます(法法22③三)。

 実務上は、貸倒れの判定に関する一般的な基準である法人税基本通達9-6-1~9-6-3における定めにより判定しますが、課税庁と解釈を巡って争われることが多いです。

 単に、回収ができないというだけで貸倒損失として処理をした場合、寄附に該当すると課税庁に否認される可能性が極めて高いです。

 下記のうち、「法律上の貸倒れ」の場合は、法人がこれらを貸倒損失として損金経理をしているか否かを問わず、その事実の発生した日の属する事業年度においてその消滅した部分の金額が損金の額に算入されます(法人が損金経理していないときは、申告減算をします)。

 一方、「事実上の貸倒れ」と「形式上の貸倒れ」の場合は、貸倒損失として損金経理をしている場合に限り、損金に算入されます。

法律上の貸倒れ(法基通9-6-1)

 次に掲げるような事実に基づいて切り捨てられた金額は、その事実が生じた事業年度の損金の額に算入されます。

(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
 イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
 ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの

(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間(おおむね3年以上)継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

債務免除と寄附金

 上記(4)の場合とは、債務超過(相当期間継続)かつ弁済を受けることができないと認められる場合なので、例え債務者が債務超過でも、回収が可能な場合には、債務免除相当額は寄附したものとされます(法法37⑦⑧)。

 また、裁判上の和解による債務免除でも事実認定の1つの資料に過ぎないため、損金算入できるとは限りません(東京地裁平成元年11月21日判決・判タ734号142頁)。

 なお、債務免除した側の法人の取扱いが貸倒損失あるいは寄附金のどちらであっても、債務免除を受けた法人においては、その債務免除に相当する金額を受贈益として益金に算入することとなります。個人の場合は債務免除相当額の経済上の利益(一時所得等)を取得したものとみなされます。

大阪地裁昭和33年7月31日判決(行裁集9巻7号1403頁)要旨

① 法人の有する債権が回収不能であるかどうかは、単に債務者たる法人が債務超過の状態にあるかどうかのみによってでなく、たとえ債務超過の状態にあるとしてもなお支払能力があるかどうかによって決定すべく、たとえば債務超過の状態が相当の期間継続し他から融資を受ける見込もなく、とうてい再起の見通しがたたず、事業を閉鎖あるいは廃止して休業するに至ったとか、会社整理、破産、和議、強制執行、会社更生などの手続きをとってみたが債権の支払をうけられなかったなど、債権の回収不能が客観的に確認できる場合であってはじめて回収不能と判定すべきである。

② 債権放棄をなした会社と債務会社との間において、(イ)特殊関係があり債務会社の監督援助をしていたこと、(ロ)他の債権者は債権放棄をしていないこと、(ハ)債権放棄当時債務会社はなお借入金を返済していたこと、(ニ)債権放棄後になお貸付していたこと、(ホ)債務会社の事業は不振であったが有利な情勢が見えはじめていたこと、(ヘ)特に債権回収の手続きを採っていなかったこと、等が認められるときは、債権放棄が回収不能によるものとみることはできないから、右債権放棄は会社の債務会社への寄附金と解すべきである。

東京地裁昭和54年3月5日判決(昭和48年(行ウ)172号)要旨

 債務者たる原告X(個人)には資力も支払能力もあったにもかかわらず、会社がXに対する貸付金を単純に貸倒れとして損金計上したことは、Xと会社及びその代表者との個人的関係等(会社の関与税理士で、会社代表者の娘婿)をもあわせ考えると、その時点において同社としてはもはや債務者であるXに対しその貸付金債務の履行を求める意思を放棄し、右債務を免除したものと解するのが相当であり、このことは、X自身も十分認識していたということができる。したがって、Xは、これによりその債務免除相当額の経済上の利益(一時所得)を取得したものである。

東京地裁平成元年11月21日判決(判タ734号142頁)要旨

 原告は、本件和解の内容に従つて課税すべき旨を主張するので検討するに、裁判上の和解は裁判官及び裁判所書記官立会いの下にされた当事者の陳述に基づいて成立するものではあるが、裁判官及び裁判所書記官は必ずしも和解の内容が事実に符号するか否かを検討するわけではなく、当事者の合意に従つた内容の和解を成立させるものである(このことは当裁判所に顕著である。)から、裁判上の和解が成立したからといつてその内容が事実に符号するということはできず、結局、裁判上の和解が成立したということも事実認定の1つの資料たるに過ぎないものというべきである。

事実上の貸倒れ(法基通9-6-2)

 債務者の資産状況、支払能力等から金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合は、その明らかになった事業年度において貸倒損失として損金経理することができます。

 あくまでも、債権の全額が回収できないことが明らかになった場合に、貸倒損失として損金経理することができます。部分的に回収できない場合は、債権の個別評価による貸倒引当金の設定で対応をします。

 なお、担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ損金経理はできません。担保物を処分して入ったお金等を債権から控除した金額が貸倒損失となります。

 金銭債権について連帯保証人がいる場合には、その連帯保証人は、その債務の返済に関しては債務者と同等の立場にあると考えられることから、その連帯保証人等の資産状況、支払能力等を勘案して、その金銭債権が回収不能かどうかの判断をすることになります。

 また、他の者(主たる債務者)の債務につき保証した場合の保証債務については、その保証債務を主たる債務者に代わって弁済することが確実視され、その求償権の行使が危ぶまれている場合であっても、現実に履行した後でなければ貸倒れの対象とすることはできません(法基通9-6-2(注))。保証債務は、履行するまではあくまで偶発債務に過ぎないからです。

十訂版法人税基本通達逐条解説(税務研究会出版局)1071頁からの引用

「債務者の資産状況、支払能力等からみて金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった」かどうかの事実認定については、例えば、債務者について破産、強制和議、強制執行、整理、死亡、行方不明、債務超過、天災事故、経済事情の急変等の事実が発生したため回収の見込みがない場合のほか、債務者についてこれらの事実が生じていない場合であっても、その資産状況等のいかんによっては、これに該当するものとして取り扱う等弾力的に行われるべきと考えられる。

横浜地裁平成5年4月28日判決(税資195号199頁)要旨

① 債務超過とは、マイナス財産(負債)がプラス財産(資産)を超過することであるところ、法人税基本通達9-6-1によれば、債権額が貸倒れとして損金の額に算入されるためには、債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受けることができないと認められることが必要であるから、特定時点の計算書類の数額が債務超過の状態を示していることのみをもって、直ちに同規定に該当するということはできない。

② また、同通達9-6-2にいう債務者の資産状況の判断にあたつても、計算書類の数額はひとつの判断資料になるが、それが決定的な意味を持つものではないと解され、同規定の支払能力を判断するについても、その財産のみならず、信用や労力を考慮すべきである。

③ ゴルフ場開場後も当分の間は債務超過の状態が継続するのが通常であるといえ、本格的に収益の計上を開始する3年ないし5年後の状況を見なければ、債務超過の状況が相当期間継続し、当該債務の弁済が不可能であるか否か(法人税基本通達9-6-1)及び債務者の資産状況、支払能力等からみて、債権の全額が回収できないものか否か(同通達9-6-2)は明らかにならないというべきである。

東京地裁平成11年3月30日判決(税資241号556頁)要旨

① 貸付金等の金銭債権の価格の減少は、資産の減少となるとしても、本来、債権の回収の可否は、債務者の資産のみならず返済能力に依存する上、金銭債権の価値はその額面額によつて表示されるものであることからすると、税務計算上、損金の額に算入される金銭債権の価格減少は、当該金銭債権が消滅したか、又は回収不能の事実が発生した場含に限られることになる。また、回収の可否の判断は、債務者の返済能カという不可視的事由にかかわるから、その判断の公正を期するためには、客観的かつ外観的事実に基づいて行うべきことになる。したがつて、貸倒損失として損金処理するためには、当該事業年度において、当該債権の債務者に対する個別執行手続又は破産手続において回収不能が確定し、あるいは会社更生等の倒産手続において当該債権が免除の対象とされた場合等に限られるものではないとしても、法人が当該債権の放棄、免除をするなどしてその取立てを断念した事実に加えて、債務者の資産状況の著しい不足が継続しながら、債務者の死亡、所在不明、事業所の閉鎖等の事情によりその回復が見込めない場含、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、資産、信用の状況、事業状況、債権者による回収努力等の諸事情に照らして回収不能であることが明らかである場合のように、回収不能の事態が客観的に明らかであることを要するものと解すべきである。

② 本件免除に係る本件債権に相当する金額を本件事業年度における貸倒損失であると認めるためには、原告が本件免除の意思表示をしたという事実のみならず、少なくとも本件債権を担保する担保権がないか、あつてもその実行が期待できないこと及び当時の債務者が返済能力を喪失していたことの立証が必要になる。

形式上の貸倒れ(法基通9-6-3)

 次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対する売掛債権(貸付金などは含みません。)について、その売掛債権の額から備忘価額(1円)を控除した残額を貸倒損失として損金経理をすることができます。

(1) 継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき(ただし、その売掛債権について担保物のある場合は除きます。)
 不動産取引のように、たまたま取引を行った債務者に対する売掛債権については、この取扱いの適用はありません(法基通9-6-3(注))。つまり、1年以上回収できない場合でも、貸倒損失として損金経理をすることができません。なお、「不動産取引」とはあくまでも例示に過ぎず、他の取引でも単発取引の場合は損金経理をすることができないと考えられます。

(2) 同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合
 この場合は、上記(1)と違い、単発取引でも要件を満たせば適用可能となります。

十訂版法人税基本通達逐条解説(税務研究会出版局)1074頁からの引用

「売掛債権について個別評価による貸倒引当金を繰り入れている場合であっても、その取引の停止又は最後の弁済期以後1年以上を経過したときは、その売掛債権についてこの取扱いを適用し改めて貸倒れとして処理することができるのである。
 また、この取扱いにより備忘価額を付して貸倒れの経理をした売掛債権については、その売掛債権につき弁済を受けることを約しても、実際にその弁済を受けるまでは益金算入を要しないわけである。」

備忘価額(1円)

 この「形式上の貸倒れ」の場合、貸倒損失として損金経理をしても備忘価額(1円)が残ることになります。いつまでも貸借対照表上に残るのは嫌だと思う人もいるでしょうが、この1円については、「法律上の貸倒れ」や「事実上の貸倒れ」の要件に該当するまでは、残しておくべきものと思われます。