概要

 本来、減価償却資産は、取得、使用した時に全額経費になるのではなく、その資産の使用可能期間の全期間にわたり分割して経費としていくべきものです。

 例えば、会社が、器具や備品などの減価償却資産を購入し使用しても、その事業年度で全額損金にすることはできず、数事業年度にわたって減価償却費として損金とします。

 「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」により、減価償却資産には、それぞれ法定耐用年数が定められているので、その年数で減価償却費として計上します。例えば、パソコンは4年となっています。

 ただし、少額の減価償却資産の場合は、使用時に全額経費処理できます。

 企業会計において重要性の乏しい資産につき資産として取り扱わずにこれに係る金額を費用化することを認めるいわゆる重要性の原則の考え方を踏まえ、減価償却についての原則どおりの手続によって納税者がその費用に係る処理をしなければならないとする場合の煩雑さ等も考慮されて、このような取り扱いとされています。

法人税での取り扱い

(1)使用可能期間が1年未満のものまたは取得価額が10万円未満のもの

 使用可能期間が1年未満のものまたは取得価額が10万円未満のものは、その取得に要した金額の全額を、その事業の用に供した日の属する事業年度において全額経費(損金)とすることができます(法令133)。

 「事業の用に供した日」とは、一般的にはその減価償却資産のもつ属性に従って本来の目的のために使用を開始するに至った日をいうものと解されます。

 また、この場合の「使用可能期間が1年未満のもの」とは、法定耐用年数でみるのではなく、その法人の営む業種において一般的に消耗性のものと認識され、かつ、その法人の平均的な使用状況、補充状況などからみて、その使用可能期間が1年未満であるものをいいます(法基通7-1-12)。

(仕訳例)
消耗品費 8万円 / 現金預金 8万円

東京地裁平成23年4月20日判決(税資261号-82(順号11672))要旨

 施行令133条の規定の適用について定める本件通達は、その文言によれば、同条の「使用可能期間が1年未満である」減価償却資産に該当するかの判断に係る要件①について、「法人の属する業種において」「一般的に消耗性のものとして認識されている」か否かを判断すべき旨定めている。そして、本件通達が要件②については「その法人の平均的な使用状況、補充状況等から見て」と定めていることに照らすと、要件①については、当該法人が属する業種を基準に判断するべきものと解するのが相当である。

(2)一括償却資産(20万円未満)

 取得価額が20万円未満の減価償却資産については、一定の要件の下でその減価償却資産の全部または特定の一部を一括し、その一括した減価償却資産の取得価額の合計額の3分の1に相当する金額をその事業の用に供した年以後3年間の各事業年度において経費とすることができます(法令133の2)。

 いったん、一括償却資産としたものについては、事業の用に供した事業年度以降に、その全部又は一部につき滅失、除却等(譲渡した場合も含む)の事実が生じたときであっても、事業の用に供した日以後3年間にわたって経費処理します(法基通7-1-13)。

 この制度は、確定申告書等に一括償却対象額の記載(別表16(8))があり、かつ、その計算に関する書類を保存している場合に限り、適用されます(法令133の2⑬)。

 なお、中小企業の場合、上記「(1)使用可能期間が1年未満のものまたは取得価額が10万円未満のもの」だけでなく、下記「(3)中小企業者等の少額減価償却資産」も利用できるため、この「(2)一括償却資産」は、あまり利用されていません。

(3)中小企業者等の少額減価償却資産(30万円未満)

 一定の要件を満たす中小企業者等が、令和8年3月31日までに取得し事業の用に供した取得価額30万円未満の減価償却資産については、一定の要件の下でその取得価額の合計額のうち300万円に達するまでの取得価額の合計額をその事業の用に供した事業年度の経費とすることができます(措法67の5、措令39の28)。

 一定の要件を満たす中小企業者等とは、租税特別措置法42の4③に規定(資本金の額又は出資金の額が1億円以下等)する中小企業者等で、青色申告法人のうち常時使用する従業員の数が500人以下の法人(連結法人に該当するものを除く。)となっています。

 1事業年度において、取得価額の合計額300万円までしか、この制度を利用できませんが、合計金額300万円を超える場合は、合計金額300万円に達するまでの個々の少額減価償却資産の組み合わせは、法人の任意となっています。

 例えば、26万円のパソコン11台と23万円のパソコン1台(合計309万円)を購入、使用した場合、286万円(26万円×11台)を全額経費とし、23万円のパソコンについては通常の減価償却を行うようなことになります。

 会社設立や事業年度変更により事業年度が1年に満たない場合には300万円を12で除し、これにその事業年度の月数を掛けた金額が限度金額となります。月数は、暦に従って計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とします。

 なお、この制度は、確定申告書等に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書(別表16(7))の添付がある場合に限り、適用されます。

 令和6年3月31日までの間に取得、事業の用に供した場合となっていますが、税制改正により期限が延長し続けているのが実情で、この制度自体がなくなるのは、しばらくはないと思います(要件の変更等はあると思いますが)。

(仕訳例)
 備品 28万円 / 現金預金 28万円
 減価償却費 28万円 / 備品 28万円

 また、以下のような仕訳でも特に問題となりませんが、明細書(別表16(7))の記載忘れ(漏れ)を防ぐためにも、上記のような仕訳の方がよいと思います。

 消耗品費 28万円 / 現金預金 28万円

まとめ

 少額減価償却資産について、まとめると以下のような取り扱いとなります。

取得価額選択可能
10万円未満通常の減価償却
(1)全額経費
(2)一括償却資産
(3)中小企業者等の少額減価償却資産
10万円以上
20万円未満
通常の減価償却
(2)一括償却資産
(3)中小企業者等の少額減価償却資産
20万円以上
30万円未満
通常の減価償却
(3)中小企業者等の少額減価償却資産
30万円以上通常の減価償却

取得価額の判定

(消費税)
 取得価額の判定に際し、消費税の額を含めるかどうかは納税者の経理方式によります(法令133、平元直法2-1「5」「9」)。すなわち、税込経理であれば消費税を含んだ金額で、税抜経理であれば消費税を含まない金額で判定します。なお、免税事業者の経理方式は税込経理になります。

 例えば、107,800円(税抜金額は98,000円)のパソコンを購入した場合、会社で消費税等の会計処理方式について税抜経理方式を採用していた場合の取得価額は98,000円であり、税込経理方式を採用していた場合の取得価額は消費税等込みの価額107,800円となります。

(単位)
 取得価額は、通常1単位として取引されるその単位ごとに判定します(法基通7-1-11)。例えば、応接セットの場合は、通常、テーブルと椅子が1組で取引されるものですから、1組の金額で取得価額とします。

 あくまでも、「取引」される単位ごとであり、「使用」される単位ごとではありませんので、拡大解釈はする必要がありません。

令和4年度税制改正

 令和4年度税制改正により、令和4年4月1日から、上記の少額減価償却資産の対象となる資産から貸付け(主要な事業として行われるものは除く)の用に供した資産が除かれることとなりました。

 今まで、少額の建設用足場、ドローン等を大量に購入し、自社の事業の用に供するのではなく、他者への貸付けという節税(実際は課税の繰延べ)が行われていました。

 例えば、単価9万円のものを1,000個購入(計9,000万円)し、それを他者へ貸し付けた場合、購入、貸し付けた事業年度に9,000万円を全額経費として、それに対する貸付賃料を5年で受け取るというような節税スキームです。

 このような節税スキームを封じるように、税制改正が行われました。ただし、貸付けが主要な事業として行われている場合は、この税制改正の適用除外となっています。

所得税の取扱い

 基本、個人(事業主)の場合であっても、上記の法人税の取扱いと同じと考えて問題ないですが、主に以下のような違いがあります。なお、個人の場合の対象は、不動産、事業、山林、雑所得となりますが、中小事業者の少額減価償却資産は雑所得の場合、対象外となります。

(1)税法(法人税法と所得税法)が違うので条文が違う
 使用可能期間が1年未満のものまたは取得価額が10万円未満のもの(所令138)、一括償却資産(所令139)、中小事業者の少額減価償却資産(措法28の2)

(2)事業年度(法人)と年分(個人)
 法人の場合は事業年度となり、個人の場合は年分(1/1~12/31)での取り扱いとなります。

(3)中小企業者等(法人)と中小事業者(個人)
 法人と違って、個人の場合は資本金がありませんので、中小事業者の少額減価償却資産(30万円未満)の対象となる中小事業者は「常時使用する従業員が500人以下である青色申告者」となります。

(4)家事按分
 個人の場合は、事業だけでなく私的にも利用している場合は家事按分をする必要がありますが、取得価額は家事按分をする前の金額で判定します。例えば、購入価額150,000円のパソコンを事業として60%使っているとした場合、取得価額は150,000円×60%=90,000円ではなく、家事按分前の150,000円となります。よって、この場合、原則として固定資産になるということになります。

(5)確定申告書に記載
 一括償却資産の場合、確定申告書に添付する収支内訳書(白色申告の場合)、決算書(青色申告の場合)の「減価償却費の計算」に記載をします。
 なお、中小事業者の少額減価償却資産の制度の適用を受けるためには、確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書を添付することが必要とされています。
 ただし、青色申告決算書の「減価償却費の計算」欄に次の事項を記載して確定申告書に添付して提出し、かつ、当該少額減価償却資産の取得価額の明細を別途保管することにより適用を受けることができます。
 ①  少額減価償却資産の取得価額の合計額
 ②  少額減価償却資産について租税特別措置法第28条の2を適用する旨
 ③  少額減価償却資産の取得価額の明細を別途保管している旨

〇記載例 令和4年分青色申告決算書(一般用)の書き方4頁(国税庁HP)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2022/pdf/037.pdf

(6)少額減価償却資産を譲渡した場合
 中小事業者の少額減価償却資産を譲渡した場合は譲渡所得となります。使用可能期間が1年未満のもの又は取得価額が10万円未満のもの、一括償却資産を譲渡した場合は事業所得(又は雑所得)となります(ただし、業務の性質上基本的に重要とされるものの譲渡による所得は、原則として譲渡所得に該当)(所令81)。

対象所得区分対象者譲渡申告要件
使用可能期間が1年未満のもの又は取得価額が10万円未満のもの不動産、事業、山林、雑所得限定なし事業又は雑所得(※)
一括償却資産同上同上同上(※)
中小事業者の少額減価償却資産不動産、事業、山林所得中小事業者に該当する青色申告者譲渡所得
(※)業務の性質上基本的に重要とされるものの譲渡による所得は、原則として譲渡所得に該当

固定資産税(償却資産税)の取扱い

 使用可能期間が1年未満のものまたは取得価額が10万円未満のもの(法令133、所令138)、一括償却資産(法令133の2、所令139)は固定資産税の対象外となります。

 一方、中小企業者等(中小事業者)の少額減価償却資産(措法28の2、67の5)は償却資産税の対象となります。全額経費処理して帳簿残高がなくても、忘れないようにしましょう。なお、この場合は、その資産の本来の耐用年数で償却していくことになります。

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