概要

 贈与税の課税原因である「贈与」については、相続税法上何の定めもなく、一般的には民法の規定に従うことになります。

 民法では、「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」(民法549)と定められています。

 この贈与を、一般的には「生前贈与」といい、贈与税の対象になります(相法1の4、2の2)。

 なお、贈与には特殊形態として、贈与者の死亡により効力を生ずる贈与である「死因贈与」(民法554)があり、遺贈と同様に相続税の対象(相法1の3、2)とされており、贈与税の対象にはなりません。

 つまり、ある財産が贈与者の生前に贈与されれば、贈与税の対象になります。ただし、相続や遺贈で財産を取得した者が、加算対象期間内(被相続人の相続開始日が令和8年12月31日以前の場合は、加算対象期間は相続開始前3年以内となる。)に被相続人から贈与によって取得した財産(一定の特例の適用を受けた場合を除く。)は、相続税の対象になります。

 一方、死因贈与は、相続税の対象になります。
  
 このように、生前贈与と死因贈与は違うものですが、相続税の税務調査の際には、課税庁と納税者の間で激しく争われることがあります。

 課税庁が生前贈与と認定し行った贈与税課税処分に対して、納税者が死因贈与であると主張して争うことがあります。この場合は、相続税で課されるより、贈与税で課される方が、納税者の負担が大きいことが原因です。

 また、逆に、課税庁が死因贈与と認定し行った相続税課税処分に対して、納税者が生前贈与であると主張して争うことがあります。この場合は、生前贈与に対する贈与税の更正・決定ができる期間(6年、相法37①)が過ぎており、課税庁が贈与税を課すことができないことが原因です。

 令和4年12月22日裁決(令4第8号)では、課税庁が、納税者がした相続税の各期限内申告について、被相続人から死因贈与により取得したと認められる現金を隠蔽し、当該現金を課税価格に算入していなかったなどとして各更正処分等をしたところ、納税者が、当該現金は被相続人の生前に贈与により取得したものであり、被相続人の相続財産に該当せず、したがって相続財産の隠蔽もないなどとして争われた事案ですが、当該現金は、納税者が死因贈与により取得したものとは認められないから、被相続人が生前に納税者に贈与したものと認めるのが相当であると判断されました。