会社が経営者の愛人に給与を支払った場合の税務上の取扱い

概要

 ある程度の規模の会社経営者が愛人や恋人に、自分が経営している会社から給与を支払うことが稀にあります。この場合、税務調査の際に否認される可能性が高いので気を付けてください。

 勤務実態があり、世間一般からいって適正な給与支給額であれば、問題となることはないでしょう。ただし、実際はそういうことでない場合が多々あります。

 勤務実態はあるが、仕事内容からして給与支給額が高い場合や、勤務実態が全くないのに給与を支給している場合です。

 愛人や恋人の生活費援助は、会社経営者個人のポケットマネーですべきですが、会社経営者としては、会社の経費としたいため会社で給与処理するようなことが行われています。

 税務調査が入ったら、まず、ばれるといえるので、絶対にすべきではないと思います。

 なお、税務調査で、会社経営者の愛人等が勤務実態がないと認定された場合、その給与は会社経営者の給与とされるので、会社経営者の(源泉)所得税等が増加します。

 また、仮装経理をしていたことになるため、法人税上、損金となりません。

 次に、健康保険・厚生年金保険等の社会保険の会社負担分ですが、これについては、会社経営者は経済的利益を受けてないので、会社経営者の給与とされません。ただし、法人税上、会社の損金となりません。

令和3年12月8日裁決(札裁(法・諸)令3第2号)

(1)事案の概要

 本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 本件は、審査請求人X(法人)が、従業員乙に対する給与の額及び当該給与に係る法定福利費の額を損金の額に算入して法人税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、乙には勤務実態はなく、同人をXの従業員であるかのように見せかけて損金の額に算入した給与の額及び法定福利費の額は、Xの代表者甲が個人的に負担すべきものであるなどとして、法人税等の更正処分等及び源泉徴収に係る所得税等の納税告知処分等をしたのに対し、Xが、乙には勤務実態があるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

② 乙は、平成6年頃から甲と交際しており、甲が主に週末に乙の自宅を訪れるようになった平成7年3月以降は、毎月一定額の金員を受領していた。また、その受領した金額については、月額30万円程度であり、その金額の支出者については、当初は甲が支出していたが、平成8年12月以降はXと甲の両者が支出しており、平成29年2月以降はXのみが支出していた。

③ Xは、乙に対する給料手当として、平成24年10月1日から平成25年9月30日まで、平成25年10月1日から平成26年9月30日まで、平成26年10月1日から平成27年9月30日まで、平成27年10月1日から平成28年9月30日まで及び平成28年10月1日から平成29年9月30日までの各事業年度(以下、順次「平成25年9月期」、「平成26年9月期」、「平成27年9月期」、「平成28年9月期」及び「平成29年9月期」という。)において、それぞれ240万円を支給したとして、また、賞与として、平成26年9月期及び平成27年9月期において、それぞれ25万円を支給したとして、これらの金額を当該各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入するとともに(以下、Xが給料手当及び賞与として損金の額に算入したこれらの各金額を「本件各給与等」という。)、本件各給与等から源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税(以下「源泉所得税等」という。)の額及び社会保険料等を控除した金額を、本件各給与等の支給日に乙名義の普通預金口座へ振り込んだ。

④ 乙は本件各事業年度において、甲に同行して各種会合へ参加したが回数は計5回であった。また、甲に対するXへの出退勤の送迎をしていたが、回数については、甲の普通自動車運転免許の返納前は年数回、その返納後(平成26年4月頃)は多いときで月10回程度であった(全くない月も存在する。)。

(2)本件の主な争点

① 本件各給与等は、甲に対する役員給与に該当するか否かである。

② 本件各法定福利費は、甲に対する役員給与に該当するか否かである。

③ Xに通則法68条1項及び3項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否かである。

(3)裁決要旨(棄却)

① 乙は、雇用契約書の存在を認識していなかったこと、乙に対しては、従業員新規雇用に当たり通常行う採用面接、業務内容及び勤務条件の説明などは行われなかったこと及び業務内容を含む勤務条件について乙並びにXの役員及び経理担当のいずれの者も知らず、勤務時間等の管理の事実も認められないなど、乙が従業員としての取扱いはされていなかったことからすると、乙は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、Xに対して労務又は役務の提供を行っていたとはいえない。

② 甲と乙は平成6年頃から交際を開始しており、Xが乙に金員を支給することとなる平成8年12月より前には既に、乙が甲から毎月一定額の金員を受領することとなっていた経緯等を総合的に判断すると、本件各給与等の実質は、乙と甲との個人的な関係に基づいた生活費の援助であり、乙には勤務実態があったとは認められない。
 したがって、本件各給与等は、乙に対する給与及び賞与とは認められない。

③ 乙には勤務実態がないことから本件各給与等は乙に対する給与及び賞与とは認められず、また、本件各給与等の実質は乙と甲との個人的な関係に基づいた生活費の援助と認めるのが相当であり、これは、甲が個人として負担すべき費用をXが負担したものにほかならない。そうすると、かかるXの費用負担により甲が得た経済的な利益は、法人税法34条4項に規定する「その他の経済的な利益」に当たり、同条1項から3項までの規定の適用上、Xがその役員である甲に対して支給する給与に含まれるものというべきであることから、本件各給与等は、甲に対する役員給与に該当する。

④ Xは、雇用契約書、出勤簿、源泉徴収簿兼賃金台帳等の各書類を乙が当該各書類の存在を認識しない中で作成した上で、本件各給与等を乙に対する給料手当及び賞与として経理処理を行うとともに、乙を健康保険及び厚生年金保険の被保険者とする手続を行い、本件各給与等に係る源泉所得税等の額及び社会保険料等を乙に係る預り金として経理処理を行った。これらの行為は、乙がXの従業員であるかのように装って本件各給与等の支給をしたものであり、本件各給与等は、甲に対して支給した役員給与を乙に対して支給した給与及び賞与であると事実を仮装して経理をすることにより支給したものと認めるのが相当である。
 したがって、本件各給与等は、甲に対する役員給与に該当し、事実を仮装して経理をすることにより支給したものと認められることから、当該金額をXの所得の金額の計算上損金の額に算入することはできない。

⑤ 法定福利費は、一般的には健康保険法等の法律に基づいて従業員等のために事業主が強制的に負担する費用であると認められるところ、各法定福利費についても役員が個人的に負担すべき性格のものではなく、また、各法定福利費の支出により甲が享受した経済的な利益があったとも認められない。以上のことから、各法定福利費のうち甲の死亡前に係る金額は、甲に対する役員給与とは認められない。

⑥ Xは、本件各法定福利費は、健康保険法等の規定によりXに負担義務のある支出を法定福利費として計上したものであり、受給者個人が負担すべき費用ではなく、Xが負担すべき費用であることから損金の額に算入されるべきものである旨主張する。
 確かに、法定福利費は、受給者個人が負担すべき費用ではなく、事業主である法人が負担すべき費用と認められる。
 しかしながら、本件各給与等は、乙に対する給与及び賞与とは認められず、また、法人の所得の金額の計算上損金の額に算入することができる販売費、一般管理費その他の費用とは、当該法人の業務との関連性を有し、業務の遂行上必要と認められるものでなければならないというべきであることからすると、従業員等に対する保険給付等を目的として健康保険法等の法律に基づき従業員等のために事業主が強制的に負担する費用である法定福利費については、勤務実態がないため当該従業員等に対する給与が職務の対価性がなく給与ということができない場合には、当該給与の支給に伴って計上される法定福利費についても損金の額に算入されないと解される。
 以上のことからすると、本件各給与等の支給に伴って計上された本件各法定福利費については、Xの所得の金額の計算上損金の額に算入することはできない。

⑦ 本件各給与等とされる金員の支払の事実はあるものの、乙がXに対して労務又は役務の提供を行っていないにもかかわらず、Xは、雇用契約書、出勤簿、源泉徴収簿兼賃金台帳等の各書類を乙が当該各書類の存在を認識しない中で作成し、さらに、乙を健康保険及び厚生年金保険の被保険者とする手続を行った上で、本件各給与等及び本件各法定福利費をそれぞれ費用として総勘定元帳に計上し、Xの所得の金額の計算上損金の額に算入して、これに基づき納税申告書を提出していたものと認められる。
 したがって、Xは乙がXの従業員であるかのように装って本件各給与等及び本件各法定福利費を費用として帳簿書類に記載したのであるから、これらの行為はいずれも事実を仮装する行為といえ、これに基づいて納税申告書を提出したことは、通則法68条1項及び3項に規定する重加算税の賦課要件を満たしている。