概要
下記で解説していることは、あくまでも、現時点での取扱いです。令和8年度税制改正(暗号資産部分)により、将来的には、暗号資産の課税方式が大きく変わるため、同時に下記のことも改正される可能性があります。
国外転出時課税の対象にもならず、非居住者となってから暗号資産を売却するという手法は封じられると思われます。
国外転出時課税制度
国外転出時課税制度は、時価1億円以上の「対象資産」を有する居住者が、出国した場合等に、みなし売却益に対して所得税が課される制度です(所法60の2)(ただし、納税猶予制度あり)。
「対象資産」とは、公社債、株式、投資信託、匿名組合契約の出資持分、未決済デリバティブ取引、未決済の信用取引、発行日取引です。また、対象資産の時価が合計1億円以上であるかどうかは、原則、出国日などの時価で判断します。
対象者が出国する場合、出国日に時価で有価証券等を売却したものとみなして「みなし売却益」に15.315%の所得税等が課税されます。
納税管理人の届出をしない場合は、出国日までに準確定申告をして納付します。納税管理人の届出をする場合は、出国の翌年3月の確定申告期限までに、確定申告をして納税します。
なお、現時点では、暗号資産は「対象資産」に含まれないことから、 国外転出時課税制度の対象とされません。
非居住者の暗号資産取引
日本の所得税では、居住者は全世界で稼得した所得が課税対象となり、非居住者は日本で発生した所得(国内源泉所得)のみが課税対象となります(所法5②一、同法161①)。
そのうえで、国内源泉所得の対象となる資産の譲渡に係る所得(恒久的施設に帰属する所得を除きます。)は、次に掲げるものなどに限定されています。
| ① 国内にある不動産の譲渡による所得 ② 国内にある不動産の上に存する権利等の譲渡による所得 ③ 国内にある山林の伐採又は譲渡による所得 ④ 内国法人の発行する株式等の譲渡による所得で一定のもの ⑤ 不動産関連法人の株式等の譲渡による所得 ⑥ 非居住者が国内に滞在する間に行う国内にある資産の譲渡による所得 ⑦ 日本の国債、地方債、内国法人の発行した社債の利子、国内の営業所に預けられた預貯金の利子等 ⑧ 内国法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配等 |
現時点では、非居住者が国外において行った暗号資産の取引により生じた利益は国内源泉所得に該当しないため課税されません。非居住者が国内に滞在する間に行う国内にある資産の譲渡による所得を除き、課税の対象とされないからです(所法161①三、所令281①八)。
結果、非居住者が日本の暗号資産交換業者に保有する暗号資産を譲渡することにより生ずる所得は、源泉徴収の対象でもないですし、所得税の課税対象にもされていません(国税庁HP「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)」1-8 非居住者又は外国法人が行う暗号資産取引)。
国税庁が令和4年12月22日付で改訂した「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)」(本件情報)の公表前において、国税庁長官が、非居住者が日本の暗号資産交換業者に保有する暗号資産を譲渡することにより生ずる所得が所得税の課税対象となる旨を公表していたとは認められないため、本件情報の公表は、国税通則法施行令6条1項5号には該当しないとされた事例-東京地裁令和7年9月30日判決(棄却)(確定)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xは、所得税法2条1項5号に規定する非居住者であった平成29年中に、日本の暗号資産交換業者に保有する暗号資産を譲渡したことにより雑所得が生じたとして、平成29年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告(本件申告)をした。
② 国税庁が令和4年12月22日付で改訂した「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)」(本件情報)には、非居住者が日本の暗号資産交換業者に保有する暗号資産を譲渡することにより生ずる所得は、所得税の課税対象とされていない旨が新たに記載された。
なお、国税庁が公表していた上記改訂前の情報には、非居住者が日本の暗号資産交換業者に保有する暗号資産を譲渡することにより生ずる所得が所得税の課税対象となるか否かについて記載はなかった。
③ Xは、令和5年4月2日、Y(課税庁)に対し、本件申告について、雑所得の金額を0円とする内容の更正の請求(本件更正の請求)をした。
④ Yは、本件更正の請求は、法定申告期限から5年を経過した後にされたものであるとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたところ、Xは、同処分の取消しを求めて本訴を提起した。
なお、Xは、本訴において、本件情報の公表は、国税通則法施行令6条1項5号が、同法23条2項3号の「やむを得ない理由」として掲げる「国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈その他の国税庁長官の法令の解釈が、更正又は決定に係る審査請求若しくは訴えについての裁決若しくは判決に伴って変更され、変更後の解釈が国税庁長官により公表された」場合に該当する旨主張した。
(2)本件の主な争点
Xのした更正の請求は、国税通則法23条2項3号の「やむを得ない理由」がある場合に該当するか否かである。
(3)判決要旨(棄却)(確定)
① 本件情報の公表前において、国税庁長官が、非居住者が日本の暗号資産交換業者に保有する暗号資産を譲渡することにより生ずる所得が所得税の課税対象となる旨を公表していたとは認められないため、本件情報の公表は、国税通則法施行令6条1項5号には該当しない。
② Xは、「閣議決定を契機とする国税庁長官の法令の解釈の変更についても国税通則法23条2項3号の「やむを得ない理由」が認められるべきであるところ、本件情報は令和4年税制改正の大綱(令和3年12月24日閣議決定)に基づくものであるから、本件更正の請求には同号の「やむを得ない理由」がある」旨主張するが、かかるXの主張は、独自の見解といわざるを得ず、また、上記①のとおり、本件において、国税庁長官の法令の解釈が変更された事実は認められないことから、Xの主張には理由がない。



