課税仕入れ等の事実を記載した帳簿及び請求書等の保存

 事業者(免税事業者を除く。)は、課税仕入れ等に係る消費税額を控除するためには、原則として、法定事項(下記で解説)が記載された帳簿および請求書等の保存が要件とされています(消法30⑦、消令50①)。

 なお、法定事項を記載した帳簿、請求書等は、帳簿についてはその閉鎖の日、請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存することとされています。

 ただし、6年目と7年目については、いずれか一方を保存すればよいこととされています(消基通11-6-7)。

 なお、取引の実態を踏まえ、次の特例的な取扱いがあります。

1 税込みの支払額が3万円未満の場合には、請求書等の保存を要せず、法定事項が記載された帳簿の保存のみでよいこととされています。3万円未満である場合に該当するか否かは、課税仕入れに係る一商品ごとの税込金額等によるものではなく、一回の取引の課税仕入れに係る税込みの金額が3万円未満かどうかで判定します(消基通11-6-2)。

2 税込みの支払額が3万円以上であっても請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合には、請求書等の保存がなくても仕入税額控除ができますが、この場合には、法定事項を記載した帳簿にそのやむを得ない理由および相手方の住所または所在地を記載しなければならないこととされています(消基通11-6-3、11-6-4)。

保存する帳簿及び請求書等の記載事項(法定事項)

 消費税等の税率は軽減税率(8パーセント)と標準税率(10パーセント)の複数税率となっていますので、事業者は、消費税等の申告等を行うために、取引等を税率ごとに区分して記帳するなどの経理(以下「区分経理」といいます。)を行う必要があります(区分記載請求書等保存方式)。

帳簿の記載事項

 仕入税額控除の要件となる帳簿への記載事項(法定事項)は、次のとおりです(消法30⑧)。

(1) 課税仕入れの場合

イ 課税仕入れの相手方の氏名または名称
ロ 課税仕入れを行った年月日
ハ 課税仕入れに係る資産または役務の内容(その課税仕入れが他の者から受けた軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容および軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨)
ニ 課税仕入れに係る支払対価の額(消費税額および地方消費税額に相当する額を含みます。)

(2) 特定課税仕入れの場合

イ 特定課税仕入れの相手方の氏名または名称
ロ 特定課税仕入れを行った年月日
ハ 特定課税仕入れの内容
ニ 特定課税仕入れに係る支払対価の額
ホ 特定課税仕入れに係るものである旨

(3) 保税地域からの課税貨物の引取りの場合

イ 課税貨物を保税地域から引き取った年月日(課税貨物につき特例申告書を提出した場合には、保税地域から引き取った年月日および特例申告書を提出した日または特例申告に関する決定の通知を受けた日)
ロ 課税貨物の内容
ハ 課税貨物の引取りに係る消費税額および地方消費税額またはその合計額

請求書等の記載事項

 仕入税額控除の要件となる請求書等への記載事項(法定事項)は、次のとおりです(消法30⑨)。

(1)課税資産の譲渡等を行った事業者から交付された請求書、納品書その他これらに類する書類

イ 書類の作成者の氏名または名称
ロ 課税資産の譲渡等を行った年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行った課税資産の譲渡等につきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
ハ 課税資産の譲渡等に係る資産または役務の内容(その課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、その資産の内容および軽減対象資産の譲渡等である旨)
ニ 税率の異なるごとに区分して合計した課税資産の譲渡等の対価の額(当該課税資産の譲渡等に係る消費税額および地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含みます。)
ホ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名または名称

 なお、当該課税資産の譲渡等が小売業、飲食店業、タクシー業、駐車場業、その他これらに準ずる事業で不特定多数の者に資産の譲渡等を行うものである場合には、上記「ホ」に掲げる事項の記載を省略することができます(消令49④)。

(2)百貨店等の行う消化仕入の場合のように、事業者がその行った課税仕入れにつき作成する仕入明細書、仕入計算書その他これらに類する書類

イ 書類の作成者の氏名または名称
ロ 課税仕入れの相手方の氏名または名称
ハ 課税仕入れを行った年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行った課税仕入れにつきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
ニ 課税仕入れに係る資産または役務の内容(その課税仕入れが他の者から受けた軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容および軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨)
ホ 税率の異なるごとに区分して合計した課税仕入れに係る税込対価の額

 なお、当該書類に記載されている事項につき、当該課税仕入れの相手方の確認を受けたものに限ります。

(3)保税地域の税関長から交付された課税貨物の輸入許可証等の書類等

イ 納税地を所轄する税関長
ロ 課税貨物を保税地域から引き取ることができることとなった年月日(課税貨物につき特例申告書を提出した場合には、保税地域から引き取ることができることとなった年月日および特例申告書を提出した日または特例申告に関する決定の通知を受けた日)
ハ 課税貨物の内容
ニ 課税貨物に係る消費税の課税標準である金額ならびに引取りに係る消費税額および地方消費税額
ホ 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

(4)建物賃貸料やリース料など

 建物賃貸料やリース料などを払う場合、賃貸人やリース会社からの領収書等の交付はないことが多いでしょうが、通常、賃貸借契約書やリース料金支払予定表などには仕入税額控除適用要件の法定事項が記載されていますので、それをもって課税仕入れに係る請求書等として取扱われるものとされています。

 なお、自動振替えにより預金口座で引き落とされていない場合は、銀行が発行する振込明細書も保存をしておいてください。

(5)会計ソフト利用による具体的な帳簿の記載方法

〇 税率による区分記載
 課税商品と非課税商品がある場合、また、標準税率対象商品と軽減税率対象商品がある場合には区分して記載する必要があります。つまり、税率の異なるごとに区分して記載します。

 会計ソフトを利用する場合は、通常の課税商品(10%)、軽減税率商品(8%)、非課税商品に区分して仕訳をし、税率区分をそれぞれに合ったものを適用します。

〇 摘要欄の記載
 摘要欄には、「相手方の氏名または名称」及び「資産(商品)または役務の内容」を記載します。

〇 資産(商品)の記載
 帳簿には商品の一般的な総称でまとめて記載するなど、申告時に請求書等を個々に確認することなく仕入控除税額を計算できる程度に記載してあれば差し支えありません。

 また、一回の取引で、複数の一般的な総称の商品を2種類以上購入した場合でも、「〇〇等」と記載することで差し支えありません。

 請求書通りに個々の商品等を一品一品、会計ソフトに入力していたら、日が暮れます。

〇 氏名または名称の記載
 原則は、正式な氏名または名称の記載が必要です。例えば、個人事業者であれば「中島太郎」等と、また、会社であれば「株式会社中島商店」等と記載することが原則です。

 ただし、正式な氏名または名称およびそれらの略称が記載されている取引先名簿が備え付けられていることなどにより課税仕入れの相手方が特定できる状況にある場合には、例えば「中島」、「中島商店」のような略称による記載であっても差し支えありません。

令和5年10月1日以降の仕入税額控除の要件

 令和5年10月1日以降の仕入税額控除の要件として、一定の事項を記載した帳簿および適格請求書等の保存が必要となります。

 令和5年10月からは、帳簿および税務署長に申請し登録を受けた課税事業者(適格請求書発行事業者)から交付を受けた適格請求書等の保存が仕入税額控除の要件となります。

税務調査において、帳簿等の提示を拒否した場合

 税務調査において、帳簿等の提示を拒否した場合、帳簿等を保存しない場合に該当するとして、消費税の仕入税額控除は認められないという裁判例が過去いくつもあります。

 最近では、遊技場を経営する法人が、事前通知なしで行われた税務調査に不満を抱き、約1年4か月もの間にわたり帳簿等の提示を拒み続けたことが「帳簿等を保存しない場合」に該当するとし、仕入税額控除を不可とした国の処分を適法と判示しています(東京地裁令和元年11月21日判決・税資269号-120(順号13343)、東京高裁令和2年8月26日判決・令和元年(行コ)325号)。

 なお、この遊技場を経営する法人は、結果的に3課税期間で、新たに納付すべき税額として、消費税33億3970万円余と過少申告加算税4億8568万円余の負担をすることになったのですが、事前通知のない調査を拒否したため帳簿等不提示により仕入税額控除の否認を受けたことについては、税理士に善管注意義務違反等があるとして損害賠償請求をし、3億2000万円と遅延損害金が認められました(令和3年12月24日判決(平成30年(ワ)738号))。

東京地裁平成27年5月14日判決(税資265号-81(順号12664))

事件の概要

1 Y(課税庁)の調査担当職員は、無予告でX(原告会社)の税務調査(以下「本件調査」という。)に着手したところ、Xから得意先ファイル等の提示を受けたものの、調査対象課税期間の消費税法30条(仕入れに係る消費税額の控除)7項に定める帳簿及び請求書等(以下「帳簿等」という。)については提示がなく、未確認の帳簿等を残して、翌日に調査を継続することとなった。
2 調査担当職員は、翌日から約7か月間にわたり、Xの本社や営業本部に臨場し電話をかけるなどして帳簿等の提示を求めたが、Xから違法な調査であるとの抗議書の送付を受けるなど、Xの調査の協力を得ることがなく、帳簿等の提示を受けることはなかった。
3 Yは、Xが税務調査において正当な理由なく帳簿等の提示を拒否したことから、消費税法30条7項所定の帳簿等を保存しない場合に該当するとして、同条1項に定める仕入税額控除が適用されない旨の更正処分等を行った。

本件の争点

1 本件調査における更正処分等の取消原因となる違法性の有無
2 消費税法30条7項に規定する帳簿等の保存の有無及び同項ただし書きのやむを得ない事情の有無

判決要旨

1 本件調査は、社会通念上相当な範囲を逸脱するものであったとはいえず、税務職員の合埋的な選択の範囲内の調査であったと認められるから、更正処分等の取消原因となるべき違法性があるとはいえない。                  
2 本件調査の事実関係からすれば、Xは、帳簿等について、調査担当職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかったというべきであり、また災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことの証明もないから、消費税法30条1項に規定する仕入税額控除は適用されない。

東京高裁令和2年8月26日判決(令和元年(行コ)325号)

事件の概要

1 Y(課税庁)所属の職員(以下「調査担当者」という。)は、事前通知をすることなく、調査のため、X(控訴人会社)の事務所等に臨場した(以下、調査担当者によるXへの調査を「本件調査」という。)。
2 Xは、国税通則法74条の10に規定する「事前通知を要しない場合」に該当すると判断した根拠を説明できない調査は違法である旨を主張して、本件調査に応じず、その後も、調査担当者が再三にわたり帳簿書類の提示を求めたにもかかわらず、調査の事前通知を要しないと判断した根拠について、文書による回答がないことを理由に、本件調査への対応を拒み続けた。
3 Yは、Xが帳簿書類の提示の求めに応じなかったため、消費税法30条7項に規定する「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当するとして、消費税及び地方消費税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、Xがその取消しを求め本訴を提起した。

本件の争点

 本件調査において、Xが帳簿書類の提示を行わなかったことは、消費税法30条7項の「帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当するか。

判決要旨

 控訴審は、第一審判決(東京地裁令和元年11月21日判決・税資269号-120(順号13343))を補正又は引用するほか、控訴審におけるXの法令解釈に関する主な補足主張に対して、要旨次のとおり判断し、Xの控訴を棄却した。

1 通則法74条の10は、税務署長等が調査の相手方である納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等が保有する情報に鑑み、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合に適用されるものであり、このような情報の性質上、これを当該納税者に開示することは想定されていないというべきである。(第一審判決引用)
2 事業者が、消費税法30条7項に規定する帳簿及び請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、通則法74条の2第1項3号に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、消費税法30条7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に当たり、事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、同条1項の規定は、当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れ等の税額については適用されないものと解すべきである。(第一審判決引用)
3 消費税法が採用する申告納税制度の趣旨及び仕組み並びに同法30条7項の趣旨に照らせば、上記2のように解するのが相当であり、また、法令により帳簿書類の備付け、記録及び保存義務が課されていること並びに納税義務者が果すべき役割及び税務署長が果すべき役割(申告の審査、税務調査の実施等)は広く国民に知られ、消費税法30条7項は、同項所定の場合には同条1項を適用しない旨、疑問の余地のない明確な文言で定めていることを踏まえれば、上記2のような解釈は国民にとって不意打ちとなるような不当な拡張解釈とはいえず、租税法律主義に反するものともいえない。

千葉地裁令和3年12月24日判決(平成30年(ワ)738号)

判決要旨

1 被告(調査当時の顧問税理士)は、原告(遊技場を経営する法人)の税務代理人として、本件調査に対する対応を行うに当たり、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、税法の解釈に関する自らの見識を有しつつも、適時に、原告に対し、本件調査の状況と見通しを客観的かつ真摯に説明し、原告から、本件調査に対する対応の方針について、十分に知識、情報を与えられた上での指示ないし同意を得た上、苟且にも、原告が、本来受けることができた青色申告の承認を受けることによる税法上の特典を受けることができなくなることや、本来受けることができた消費税の仕入税額控除を否認されることがないよう、細心の注意をもって、適切に対応を行う義務を負っていたというべきである。
2 ところが、被告は、原告の税務代理人として、本件調査に対する対応を行うに当たり、本件担当者から、本件各連絡票の送付を受け、法人税、消費税等の納付の基となる全ての帳簿書類を提示し税務調査に応ずることを求められ、当初は明示されなかったものの、その求めに応じなければ、青色申告の承認の取消処分を受け、消費税の仕入税額控除を否認されるおそれがある状況となり、後にはそのような重大な不利益処分がされる可能性があることが明示されたにもかかわらず、原告らとともに、原告の本店所在地を異動することを決定する、F国税局に対してA税務署の調査であれば税務調査に応ずる旨の文書を提出することを決定するなどの弥縫策をとったのみで、本件調査が原告に対する事前通知を行うことなく開始されたことの違法を主張して本件調査に応ずることを拒否するというそれまでの方針を維持することの可否について、課税当局の対応見込みを踏まえて原告と真摯に検討することがないまま、最後まで、本件調査が原告に対する事前通知を行うことなく開始されたことの違法を主張して本件調査に応ずることを拒否するという自らが立てた方針に拘泥し、その方針に基づいた対応をとったのである。
3 被告は、他人から税務代理を受任した税理士が負う義務に違反し、原告は、そのことによって、帳簿書類を提示し税務調査に応ずる機会を失い、各更正等を受けるに至ったと認めることができるから、被告に対し、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。