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特定役員退職手当等と短期退職手当等の違い|勤続5年以下の退職金は「2分の1課税」に注意

概要

 退職金は「退職所得」として、給与所得などとは異なる有利な課税方法が設けられています。

 通常の退職金については、退職金から退職所得控除額を差し引いた残額をさらに2分の1にして退職所得を計算します。

 しかし、勤続年数が5年以下の場合には、この「2分の1課税」が制限されることがあります。

 特に注意したいのが、「特定役員退職手当等」と「短期退職手当等」です。

 特定役員退職手当等では退職所得控除後の全額について2分の1課税が適用されず、短期退職手当等では退職所得控除後の300万円を超える部分について2分の1課税が適用されません。

 名前が似ていますが、対象者も計算方法も異なります。

 この記事では、「特定役員退職手当等」と「短期退職手当等」の違いを、具体例を交えて解説します。

退職所得は原則として「退職所得控除+2分の1課税」

 退職所得の金額は、原則として次の算式で計算します(所法30②)。

(退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2

 退職所得控除額は、原則として次のように計算します(所法30③⑥、所令69)。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円×勤続年数。ただし80万円未満の場合は80万円
20年超800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 例えば、勤続年数5年、退職金800万円の場合、退職所得控除額は次のとおりです。

40万円×5年=200万円

 一般的な退職金であれば、退職所得は、

(800万円-200万円)×1/2=300万円

となります。

 退職所得についてこのような2分の1課税が設けられている理由について、財務省は、退職金が長期間にわたる勤務の対価の一括後払いという性格を有し、一時にまとめて相当額を受給することなどから、累進税率の適用を緩和して税負担を平準化するためと説明しています。

 ところが、短期間の勤務に対して支払われる退職金についてまで同様の取扱いをする必要があるのかという問題から、まず役員等に対する「特定役員退職手当等」の制度が設けられ、その後、役員等以外にも「短期退職手当等」の制度が設けられました。

特定役員退職手当等とは

 「特定役員退職手当等」とは、役員等勤続年数が5年以下である者が、その役員等勤続年数に対応する退職手当等として支払を受けるものをいいます(所法30⑤)。

 ここでいう「役員等」は、会社の役員だけではありません。所得税法では次の者が対象とされています(所法30⑤)。

  • 法人税法2条15号に規定する役員
  • 国会議員、地方公共団体の議会の議員
  • 国家公務員、地方公務員

 会社の場合には、取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人のほか、法人税法上「役員」とされる一定の者も含まれます(法法2十五、法令7)。

役員としての勤続年数が5年以下なら2分の1課税はない

 特定役員退職手当等については、通常の退職所得に認められる2分の1課税が適用されません。

 その年中に支払を受ける退職手当等が特定役員退職手当等だけである場合、退職所得は原則として次のように計算します(所法30②)。

特定役員退職手当等の収入金額-退職所得控除額

 例えば、

  • 役員等勤続年数 5年
  • 役員退職金 800万円
  • 退職所得控除額 200万円

であれば、

800万円-200万円=600万円

が退職所得となります。

 同じ800万円の退職金でも、通常の退職手当等であれば退職所得は300万円ですから、特定役員退職手当等に該当するかどうかによって課税対象額が大きく異なります。

「5年以下」の判定では1年未満を切り上げる

 特定役員退職手当等を判断するうえで非常に重要なのが、「役員等勤続年数」の計算です。

 勤続期間について1年未満の端数がある場合、その端数は1年に切り上げて勤続年数を計算します(所令69②、69の2)。

 国税庁は、次の例を示しています。

  • 役員等勤続期間が4年11か月 → 役員等勤続年数5年 → 特定役員退職手当等に該当
  • 役員等勤続期間が5年1か月 → 役員等勤続年数6年 → 特定役員退職手当等には該当しない

 したがって、単純に「役員になってから丸5年を超えたか」という感覚だけで判定するのではなく、所得税法上の勤続年数の計算方法によって確認する必要があります(国税庁タックスアンサーNo.2737、国税庁「特定役員退職手当等Q&A」Q3)。

特定役員退職手当等は平成25年分から

 特定役員退職手当等について2分の1課税を適用しない制度は、平成24年度税制改正によって設けられ、平成25年分以後の所得税について適用されています。

 財務省の平成24年度改正資料では、勤続年数5年以下の法人役員等の退職金について2分の1課税を廃止することとされました。

 国税庁の「特定役員退職手当等Q&A」でも、平成25年分以後、特定役員退職手当等について退職所得控除後の残額を2分の1とする措置が廃止されたことが説明されています。

短期退職手当等とは

 「短期退職手当等」とは、短期勤続年数に対応する退職手当等として支払を受けるものであって、特定役員退職手当等に該当しないものをいいます(所法30④)。

 簡単にいえば、役員等だけではなく、一般の従業員などについても、勤続年数が5年以下の場合には、多額の退職金のすべてについて2分の1課税を認めるのではなく、一定部分について2分の1課税を制限する制度です。

 ただし、特定役員退職手当等と違って、退職所得控除後の金額すべてについて2分の1課税がなくなるわけではありません。

 短期退職手当等では、退職所得控除後の300万円以下の部分については2分の1課税が維持され、300万円を超える部分だけが2分の1課税の対象外となります(所法30②④)。

短期退職手当等の計算方法

 短期退職手当等について、「収入金額-退職所得控除額」が300万円以下の場合には、通常どおり2分の1課税が適用されます。

(収入金額-退職所得控除額)×1/2

 一方、「収入金額-退職所得控除額」が300万円を超える場合には、次のように計算します(所法30②二)。

150万円+{収入金額-(300万円+退職所得控除額)}

 つまり、

  • 退職所得控除後300万円までの部分 → 2分の1課税
  • 退職所得控除後300万円を超える部分 → 2分の1課税なし

という仕組みです。

「退職金が300万円を超えたら2分の1課税がなくなる」は誤り

 短期退職手当等について特に注意したいのが、この「300万円」の意味です。

 300万円という基準は、退職金そのものの金額ではありません。「退職金-退職所得控除額」の残額について300万円を超えるかどうかを判定します。

 例えば勤続年数5年であれば、退職所得控除額は200万円です。

 退職金500万円の場合、

500万円-200万円=300万円

となるため、退職所得控除後の金額は300万円以下です。

 したがって、

300万円×1/2=150万円

が退職所得となり、全額について2分の1課税が適用されます。

 この例では、退職金が500万円を超えて初めて、2分の1課税が適用されない部分が生じることになります(国税庁タックスアンサーNo.2740)。

一般退職手当等・短期退職手当等・特定役員退職手当等を比較

 勤続年数5年、退職金800万円、退職所得控除額200万円という同じ条件で比較すると、次のようになります。

区分退職所得の計算退職所得
一般退職手当等(800万円-200万円)×1/2300万円
短期退職手当等150万円+{800万円-(300万円+200万円)}450万円
特定役員退職手当等800万円-200万円600万円

 このように、同じ退職金額、同じ勤続年数であっても、どの区分に該当するかによって退職所得の金額が大きく変わります。

 整理すると次のとおりです。

区分主な対象2分の1課税
一般退職手当等下記以外の退職手当等原則として適用
短期退職手当等短期勤続年数に対応する退職手当等で特定役員退職手当等以外控除後300万円まで適用、超過部分には適用なし
特定役員退職手当等役員等勤続年数5年以下に対応する退職手当等適用なし

短期退職手当等の「5年以下」の判定にも注意

 短期退職手当等の判定に用いる「短期勤続年数」についても、1年未満の端数がある場合には、その端数を1年に切り上げます(所令69②、69の2①)。

 さらに注意したいのが、途中で役員等になった期間がある場合です。

 国税庁は、短期勤続年数の判定について、調整後勤続期間の中に役員等勤続期間がある場合には、その役員等勤続期間も含めて短期退職手当等に該当するかどうかを判定すると説明しています(所法30④、所令69の2①、国税庁「短期退職手当等Q&A」Q3)。

 したがって、「従業員として勤務した年数だけを取り出して5年以下かどうかを判断すればよい」とは限りません。

 使用人から役員になった場合などは、一般退職手当等、短期退職手当等、特定役員退職手当等のどれに該当するのかを、勤務期間と退職金の対応関係から確認する必要があります。

従業員から役員になった場合は特に注意

 中小企業では、

使用人として勤務

取締役に就任

代表取締役に就任

退任

というケースも珍しくありません。

 例えば会社には長期間勤務していたとしても、役員等勤続年数が5年以下であり、その役員等勤続年数に対応する役員退職金が支給される場合には、その役員退職金が特定役員退職手当等に該当する可能性があります。

 そのため、「会社に10年以上勤務しているので、役員退職金にも当然2分の1課税が使える」とは限りません。

 会社全体での在職期間だけを見るのではなく、使用人としての期間、役員等としての期間、退職金がどの期間に対応しているのかを区分して確認することが重要です。

同じ年に複数種類の退職金を受け取る場合

 同じ年に、

  • 一般退職手当等と短期退職手当等
  • 一般退職手当等と特定役員退職手当等
  • 短期退職手当等と特定役員退職手当等
  • 3種類すべて

の支給を受けることもあります。

 この場合には、それぞれの退職金について単純に退職所得控除額を別々に計算できるわけではありません。

 一般退職所得控除額、短期退職所得控除額、特定役員退職所得控除額を区分し、勤続期間が重複している場合には重複期間を考慮した調整計算が必要になります(所法30⑦、所令71の2)。

 国税庁タックスアンサーNo.2741では、一般退職手当等、短期退職手当等及び特定役員退職手当等が同一年中にある場合について、それぞれの組合せごとの計算方法が示されています。

 同一年に複数の退職金を受け取る場合や、使用人期間と役員期間が重複する場合には、単純な「40万円×勤続年数」という計算だけでは正しい退職所得控除額にならないことがあるため注意が必要です。

短期退職手当等は令和4年分から

 短期退職手当等の制度は令和3年度税制改正によって創設され、令和4年分以後の所得税について適用されています。

 財務省は改正理由について、退職所得の2分の1課税が長期間にわたる勤務の対価を一括して受け取ることによる税負担を平準化する制度であることを踏まえ、現下の退職給付の実態から、勤続年数5年以下の法人役員等以外の退職金についても一定金額以上の部分を2分の1課税の対象から除外することとしたと説明しています。

 ただし、近年の雇用の流動化にも配慮し、影響を受ける対象者を限定する観点から、退職所得控除後300万円までは従来どおり2分の1課税を認めることとされました。

 この点が、2分の1課税を全面的に適用しない特定役員退職手当等との大きな違いです。

制度の適用時期は「実際に振り込まれた日」だけでは判断しない

 短期退職手当等の制度が令和4年から始まったため、「令和4年1月1日以後に退職金が振り込まれたので、必ず短期退職手当等の新制度が適用される」とは限りません。

 退職所得の収入金額の収入すべき時期は、原則として、その支給の基因となった退職の日によります(所基通36-10)。

 国税庁の「短期退職手当等Q&A」Q2でも、令和3年12月31日以前に退職した使用人に対して令和4年1月1日以後に退職手当等を支払うケースについて、原則として改正前の法令が適用されると説明されています。

 なお、役員退職金について株主総会その他の正当な権限を有する機関の決議を要する場合などは、収入すべき時期について別の取扱いがありますので、単純に退職日だけで判断できない場合があります(所基通36-10)。

なぜ役員の方が厳しいのか

 制度の流れを見ると分かりやすくなります。

 平成24年度税制改正では、勤続年数5年以下の法人役員等について、短期間の勤務では退職所得の2分の1課税による税負担の平準化の必要性が認められないとの考え方から、2分の1課税を適用しないこととされました。

 その後、令和3年度税制改正では、役員等以外についても短期の勤務に対応する多額の退職金に同じ2分の1課税を全面的に認めることが見直されました。

 もっとも、一般の従業員等について役員と全く同じ取扱いにすると、転職など雇用の流動化にも影響することから、退職所得控除後300万円までの部分については2分の1課税を維持しています。

 このため、現在の制度は、

一般退職手当等

短期退職手当等

特定役員退職手当等

の順に、2分の1課税に対する制限が強くなる仕組みになっています。

まとめ

 特定役員退職手当等と短期退職手当等は、どちらも勤続年数5年以下の退職金について「2分の1課税」を制限する制度ですが、その取扱いは同じではありません。

 特定役員退職手当等は、役員等勤続年数5年以下に対応する退職手当等について、退職所得控除後の全額に2分の1課税を適用しません。

 一方、

 短期退職手当等は、退職所得控除後300万円までの部分には2分の1課税を適用し、300万円を超える部分についてのみ2分の1課税を適用しません。

 また、「5年以下」の判定では1年未満の端数を切り上げること、短期退職手当等では役員等として勤務した期間がある場合の勤続年数判定に注意すること、同じ年に複数種類の退職金がある場合には退職所得控除額の調整計算が必要になることも重要です。

 特に、使用人から役員になったケースや、複数の会社から同じ年に退職金を受け取ったケースでは計算が複雑になるため、退職金を支給する前に勤務期間と退職金の対応関係を整理しておくことが大切です。

主な根拠法令・資料

  • 所得税法30条
  • 所得税法施行令69条、69条の2、71条の2
  • 所得税基本通達30-13、36-10
  • 国税庁タックスアンサーNo.2737「役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)」
  • 国税庁タックスアンサーNo.2740「勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(短期退職手当等)(令和4年1月1日以後)」
  • 国税庁タックスアンサーNo.2741「同じ年に一般退職手当等のほか、短期退職手当等や特定役員退職手当等がある場合」
  • 国税庁「特定役員退職手当等Q&A」
  • 国税庁「短期退職手当等Q&A」
  • 国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」
  • 財務省「退職所得課税の適正化(令和3年度改正)」
  • 財務省「令和3年度税制改正の解説」
  • 財務省「租税特別措置法等の一部を改正する法律案要綱」(平成24年度改正関係)

 ※この記事は、令和8年8月24日現在の法令・国税庁公表資料等に基づいて作成しています。

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