概要
免税事業者がインボイス発行事業者を選択した場合の負担軽減を図るため、納税額を売上税額の2割に軽減する特例措置が3年間講ずることとなりました。
これにより、業種にかかわらず、簡易課税と同様に売上・収入を把握するだけで消費税の申告が可能となることから、事務負担が大幅に軽減されることとなります。
原則課税(本則課税)、簡易課税及び2割特例の税額比較
例えば、サービス業(みなし仕入率が50%)で売上880万円(うち消費税80万円)、外注費264万円(うち消費税24万円)だった場合、本則課税、簡易課税及び2割特例では、納税額が以下のように変わってきます。
(本則課税)
80万円-24万円=56万円を納税
(簡易課税)
80万円-80万円×50%=40万円を納税
(2割特例)
80万円×20%=16万円を納税
よって、この場合、2割特例を利用して納税をした方が、事業者にとっては節税となります。
簡易課税との比較
簡易課税は事業区分によって、みなし仕入率が変わってきます。よって、第一種事業であれば、簡易課税の方が納税額が低くなります。第二種事業であれば、簡易課税であっても2割特例でも納税額は同額となります。第三種事業~第六種事業であれば、2割特例の方が納税額が低くなります。
例えば、売上880万円(うち消費税80万円)だった場合、納税額が以下のように変わってきます。
(2割特例)
80万円×20%=16万円を納税
(簡易課税第一種事業)
80万円-80万円×90%=8万円を納税
(簡易課税第二種事業)
80万円-80万円×80%=16万円を納税
(簡易課税第三種事業)
80万円-80万円×70%=24万円を納税
簡易課税の第一種事業に該当する事業は卸売業であるため、売上が多額になることが多く免税事業者とならないことが多いでしょう。よって、多くの場合、簡易課税よりも2割特例の方が納税額が少なくなるでしょう。
適用対象者
2割特例の適用対象者は、インボイス発行事業者の登録をしなければ課税事業者にならなかった者が対象であり、具体的には、以下の者が対象となります。
・ 免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受け、登録日から課税事業者となる者
・ 免税事業者が課税事業者選択届出書を提出した上で登録を受けてインボイス発行事業者となる者(インボイス制度の施行前(令和5年10月1日前)から課税事業者となる場合は、注意が必要)
したがって、インボイス発行事業者の登録と関係なく免税点制度の適用を受けられないこととなる事業者は対象外であり、具体的には、以下の者となります。
・ 基準期間(個人:前々年、法人:前々事業年度)における課税売上高が1千万円を超える場合(消法9①)
・ 資本金1千万円以上の新設法人である場合(消法12の2①)
・ 調整対象固定資産や高額特定資産を取得して仕入税額控除を行った場合
また、課税期間を1か月又は3か月に短縮する特例の適用を受ける場合についても、2割特例の対象となりません。
インボイス制度の施行前(令和5年10月1日前)から課税事業者となる場合
令和4年中に課税事業者選択届出書と登録申請書を提出し、令和5年1月から課税事業者になり、10月から登録を受ける場合は、課税事業者選択届出書を提出していることにより、インボイス制度の施行前(令和5年10月1日前)から課税事業者となる令和5年10月1日の属する課税期間、つまり、インボイス制度の施行前の期間を含む申告については、2割特例の適用を受けられないこととなります。
そのため、令和5年分の申告について、2割特例の適用を受けることはできません。ただし、令和6年分の申告については、基準期間における課税売上高が1千万円を超える等の事情がない場合に適用することができます。
なお、令和5年分の申告について2割特例の適用を受けるかどうかを検討できるように、その課税期間中(上記例では、法案の施行予定日である同年4月1日から12月31日まで)に、課税事業者選択不適用届出書を提出することで、その課税期間(令和5年分)から課税事業者選択届出書の効力を失効できることとされます。
この手続を行えば、令和5年1月~9月分の納税義務が改めて免除され、インボイス発行事業者として登録を受けた令和5年10月1日から12月31日までの期間について納税義務が生じることとなり、その期間について2割特例を適用することが可能となります。
適用できる期間
2割特例を適用できる期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間となります。
そのため、免税事業者である個人事業者が令和5年10月1日から登録を受ける場合には、令和5年分(10~12月分のみ)の申告から令和8年分の申告までの計4回の申告が適用対象となります。
また、免税事業者である3月決算法人が令和5年10月1日から登録を受ける場合には、令和6年3月決算分(10月~翌3月分のみ)から令和9年3月決算分までの計4回の申告が適用対象となります。
2割特例の適用を受けるための手続き
2 割特例の適用に当たっては事前の届出は必要なく、消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記することで適用を受けることができます。
つまり、申告時に、本則課税 or 2 割特例、あるいは、簡易課税 or 2 割特例の選択適用が可能ということになります。
よって、簡易課税制度選択届出書を提出していても、取り下げる必要はありません(本則課税と2割特例を選択適用したい場合は別)。
また、簡易課税制度のような2年間継続適用の縛りはありません。よって、消費税の申告を行うたびに2割特例の適用を受けるかどうかの選択が可能です。
ただし、申告する課税期間が2割特例の適用対象となるか否か(基準期間における課税売上高が1千万を超えるか否か)の確認が必要となります。