概要
個人から個人へ非上場株式(取引相場のない株式)を著しく低い価額の対価で譲渡をした場合は、売買価額と時価との差額に相当する金額を、譲受人は譲渡人から贈与により取得したものとみなされます。
ここでの、ポイントは以下の2つです。
(1)時価とは何ぞや
(2)著しく低い価額とは何ぞや
(1)時価
まず、時価ですが、この場合、財産評価基本通達(評価通達)により計算した評価額となります。具体的には、非上場株式の譲受人が取得した後(買取後)の議決権割合により「同族株主等」か「同族株主等以外の株主」のいずれかに決まり、それに応じた評価ルールで取引相場のない株式の評価額を計算します。
「同族株主等」にとっての通常の評価ルールを「原則的評価方式(純資産価額または類似業種比準価額またはそれらの折衷価額)」といい、「同族株主等以外の株主(少数株主)」にとっての評価ルールを「特例的評価方式(配当還元価額)」といいます。
この評価額が時価となります。ただし、この評価通達による評価額が客観的交換価値(時価)を適切に反映していない「特別の事情が存する場合」には、他の価額をもって時価とできます。
しかしながら、過去の裁判例・裁決例(下記記載)においては、ことごとく「特別の事情がある」と認められていません。
そのため、実務的には、評価通達により計算した評価額をもって時価と考えるべきだと思います。
(2)著しく低い価額
個人から個人へ非上場株式(取引相場のない株式)を「著しく低い価額」の対価で譲渡をした場合は、売買価額と時価との差額に相当する金額を、譲受人は譲渡人から贈与により取得したものとみなされます。
つまり、「著しく低い価額」であれば贈与税が課されるが、「ちょっと低い価額」の対価で譲渡をした場合は、贈与税が課されないのではと考えられます。
この「著しく低い価額」について、令和6年6月12日裁決(関裁(諸)令5第47号)では、以下のように判断しています。
| 相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」とは、その対価に経済合理性のないことが明らかな場合をいうものと解され、その判定は、個々の財産の譲渡ごとに、当該財産の種類、性質、その取引価額の決まり方、その取引の実情等を勘案して、社会通念に従い、時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって判断するのが相当である。 |
社会通念に従い、時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって判断するのが相当ということです。つまり、現時点では、はっきりしたものはわかりません。
オーナー経営者による自社株の集約
オーナー経営者が、従業員や外部株主から自社株を買い取り集約しようとする場合、オーナー経営者が著しく低い価額の対価で取得し、贈与されたとみなされるか否かの時価については評価通達による「原則的評価方式による評価額」がベースとなります。
そのため、「原則的評価方式による評価額」により安い金額で買取った場合には、贈与税を支払うことを、あらかじめ頭に入れておく必要があります。
譲渡人側の税金
上記で解説したことは、譲受人側の税金(贈与税)でした。では、譲渡人側の税金は、どうなるかというと以下のように考えます。
売却価額をベースに計算した「株式の譲渡所得」が所得税・住民税の対象となります。なお、売買価額が適正時価(譲受人にとっての評価通達による評価額とは異なります)の1/2未満の場合には、売却価額から取得費・売却費用を差し引いた「譲渡損失」はなかったものとみなされます。
相続税法7条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)
著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価(当該財産の評価について第三章に特別の定めがある場合には、その規定により評価した価額)との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与(当該財産の譲渡が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該財産の譲渡が、その譲渡を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。
従業員持株制度において会社代表者が退職する従業員から自社株式を額面額で買い受けた場合にみなし贈与課税とされた事例-仙台地裁平成3年11月12日判決(税資187号64頁)(棄却)(確定)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xは、株式会社M社の代表取締役であったが、M社では勤務年数10年以上で勤務成績のよい者には株式が割り当てられる従業員持株制度を設けられていた。
M社では、定款に株式を譲渡するには取締役会の承認を要する旨のいわゆる株式の譲渡制限の定めがあつたが、前記の従業員に対する株式の割り当ての際には、これに加えて、1株につき額面額である50円で従業員が株式を取得するとともに、退職する際には1株につき50円でM社に譲り渡すとの約束がされた。そして、退職した従業員から買い取られた株式は、再び別の従業員に割り当てるようになっていた。
従業員が退職する際は、従業員が総務部長に相談し、会社の方でその株式を割り当てる者を従業員の中から選定してから、あとは当事者間で譲り渡すという手続になることが多かつたが、従業員が自己都合で退職することになったときや、その保有株式が多いときには、すぐにはそれを買い受けるべき従業員を選定することができないことがあり、その場合には、代表取締役であつたXがとりあえず退職する従業員に1株につき50円を立て替えて支払つておき、6月の決算期までに買受人を決め、新しく株主となつた従業員からXが同じ金額の支払を受けるようにして処理していたこともあった。
ただし、株主を探さずに、X所有の株式として確定することもあった。
② Xは、昭和55~56年において、以下のようにM社を退職した従業員からM社株式を取得した。
(イ)昭和55年6月24日、従業員Aの退職に際し同人からM社株式3,400株を従業員持株制度の売戻条件価額(額面50円)で買い取った。
(ロ)昭和56年1月31日、従業員Bの退職に際し同人からM社株式31,200株を従業員持株制度の売戻条件価額(額面50円)で買い取った。
これらの株式(以下「本件各株式」という。)を昭和58年6月まで所有していた。
③ 所轄税務署長Yは、当時の相続税財産評価に関する基本通達(以下「評価通達」という。)において、M社は「大会社」に該当し、かつ、Xは「同族株主」に該当するから、XがAから取得した株式は1株当たり596円(純資産価額596円、類似業種比準価額816円)であり、Bから取得した株式は1株当たり681円(同681円、同1,189円)になるので、相続税法7条の規定する場合に該当し、Xに対し著しく低い価額の対価で財産を譲り受けたもの、すなわち贈与されたとみなして贈与税の決定処分等(以下「本件決定処分等」という。)をした。
④ Xは、本件決定処分等の取消しを求め、本訴を提起した。
(2)本件の主な争点
本件各株式の買い取りが相続税法7条にいう「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に当たるか否かである。
(3)判決要旨(棄却)(確定)
① 相続税法7条にいう時価とは、当該財産が不特定多数人間で自由な取引がなされた場合に通常成立すると認められる価額、すなわち当該財産の客観的交換価値を示す価額をいうと解される。
この点、本件株式のように自由な取引市場における価額形成が行われない場合においては、客観的交換価値の評価は極めて困難であるが、しかしながら、そうであるからといつて、取引相場の形成されない株式は客観的交換価値を有しないということにはならず、重要なのは、いかにしてその客観的交換価値を適正に認識すべきであるかである。
② 類似業種比準方式は、類似業種上場会社の最近3か月の月間平均株価の最低値又は前年平均株価を基にして、評価会社の類似業種会社に対する1株当たりの配当金額、年利益金額及び簿価純資産価額の各割合の平均値でこれを修正したものに、評価の安全率として70パーセントを乗じて評価する方式であり、評価会社の株式が上場されていた場合を想定し、その株価を推計するものである。
ところで、上場株式の価格は、収益率・配当額・純資産価値の変動といつた企業内部の要因と、景気変動・金融情勢・経済政策・国際収支・外国為替の相場・国内政局・国際政局・株式市場の動向といつた企業外部の要因とからなるものであるが、このうち企業外部の要因については非上場株式にも共通するものであるから、非上場株式の時価評価において、その株式と同様の企業外部の要因が反映された上場株式の価格を基準として、両者の企業内部の要因を比較対照して比準評価することは合理的であるといえる。そして、評価通達は、このような比較対象をするにあたり、業界の趨勢が類似するという点に着目し、これを日本標準産業分類における業界の類似性に求めることとし、その類似業種に属する上場会社の平均株価を基として、当該類似業種に属する標本会社の株価形成の要因となつた計数を平均化した数値に評価会社の株価形成要因となつた計数を比準させて比準株価を計算するものであり、特にかつて行われていたことのある類似業種比準方式の場合と比べた場合、簡便であるとともに、評価上の恣意性が排除され、評価の統一性・画一性・安定性が担保されるという長所がある。したがつて、評価通達において採用されている類似業種比準方式には合理性があるということができる。
③ 純資産価額方式は、個人企業における相続税の課税価額の計算方法に準じて、評価会社の財務内容を基として1株当たりの評価額を計算する方式であり、個人事業者と同規模の会社の株式もしくは閉鎖性の強い会社の株式で、株式の所有目的が投機や投資を目的としたものではなく、会社支配を目的として所有する株式に適合する評価方法ということができる。
Xは、純資産価額方式は、会社の解散を前提とした評価方法である点及び株主が会社財産を株主個人の財産と同様に自由に処分し換金できるという考え方に立脚している点にこの方式の問題があると主張する。しかし、株式は会社財産に対する持分としての性格を有することからみれば、純資産価額方式は、株式の評価に対する基本的な方式であるということができ、特にこの点からいえば、支配株主の有する株式については、その最低限の価値を把握する方式として、適合性が高いということができる。なお、純資産価額方式は、Xの主張するように、会社の解散を前提とするものではないことは明らかであり、Xの右の批判は失当である。
④ Xは、同一会社の株式について、同族株主か否かにより異なる評価方法をとることは法の前の平等に反すると主張する。しかし、会社の支配的同族株主は、会社の意思決定を左右する力をもち、株主総会の決議においてその支配的決定権を行使することにより会社の利益処分額等を決定できる等の実権を握つているのであつて、同族株主か否かによつてその株式を所有することの経済的実質が異なつてくるのである(現にXは本件株式をY主張のような評価額でM社に対し売却換金しているが、それはXのような立場の者であつたからこそ可能であつたのであり、一従業員ではありえなかつたことであることが認められる。)から、株式の評価上同族株主か否かによつて異なる評価方法をとることは株式を所有することの経済的実質に応じた税負担を求めるものであり、なんら公平の原則に反するものではない。
⑤ 以上によれば、評価通達の採用している類似業種比準方式、純資産価額方式ともに合理的な評価方式ということができ、これに基づいてYがした本件決定処分等の評価も合理性があるものというべきである。
⑥ 相続税法7条は、法律的にみて贈与契約によつて財産を取得したのではないが、経済的にみて当該財産の取得が著しく低い対価によつて行われた場合に、その対価と時価の差額については実質的には贈与があつたとみ得ることから、この経済的実質に着目して、税負担の公平の見地から課税上はこれを贈与とみなす趣旨の規定であるというべきである。したがつて、Xのいうような租税回避を目的とした行為に同条が適用されるのは当然であるが、それに限らず、著しく低い対価によつて財産の取得が行われ、それにより取得者の担税力が増しているのに、これに対しては課税がされないという税負担の公平を損なうような事実があれば、当事者の具体的な意図・目的を問わずに同条の適用があるというべきである。
非同族株主への取引相場のない株式の譲渡が、みなし贈与課税とされないとされた事例-東京地裁平成17年10月12日判決(税資255号-275順号10156)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告Xは、オーストラリア連邦の国籍を有し、同国に住所を有する外国人である。Xは、株式会社B社の取引先であるU社(オーストラリア法人)の会長職にある。
Xは、平成7年2月16日付けの売買契約により、当時、B社の取締役会長であった甲(平成8年3月1日死亡)から、同人の有するB社の株式63万株(以下「本件株式」という。)を、総額6,300万円(1株当たり100円)で譲り受けた(以下この取引を「本件売買取引」という。)。
② Xは、B社の株式のほかに、B社の関連会社の株式も甲から買い受けているが、それらの株式の購入資金を邦銀から借り受け(以下「本件借入」という。)、甲が本件借入の債務保証をしている(甲の死亡後は、甲の長男が同一内容の保証契約をしている。)。
③ 甲は、平成6年中にB社の株式を取引銀行に対し次のとおり売却した(以下これらを「本件売買実例」という。)。
(ア) 平成6年7月27日付けで、株式会社G銀行(以下「G銀行」という。)に対し、Bの株式8万株を総額6,344万円(1株当たり793円)で売却した。
(イ) 平成6年7月28日付けで、株式会社I銀行(現I銀行。以下「I銀行」という。)に対し、Bの株式2万5,000株を総額1,990万円(1株当たり796円)で売却した。
(ウ) 平成6年7月28日付けで、Hキャピタル株式会社(以下「H」という。)に対し、Bの株式2万5,000株を総額1,990万円(1株当たり796円)で売却した。
HはI銀行の関連会社である。
(エ) 平成6年9月19日付けで、株式会社E銀行(以下「E銀行」という。)に対し、Bの株式1万6,000株を総額1,268万円余(1株当たり793円)で売却した。
(オ) 平成6年9月20日付けで、Jベンチャーキャピタル株式会社(現J。以下「J」という。)に対し、Bの株式6万4,000株を総額5,075万円余(1株当たり793円)で売却した。
JはE銀行の関連会社である。
④ 所轄税務署長Yは、本件売買取引によるXの本件株式の譲受けが、相続税法7条の「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当するものと認定し、かつ、Xが、平成7年分贈与税の申告書を提出していなかったことから、平成12年1月18日付けで、次のとおり、Xの同年分贈与税の決定処分等(以下「本件決定処分等」という。)をした。なお、本件各処分における本件株式の評価額は、1株当たり794円であった。
B社は、評価通達に規定する大会社であるが、また同時に、甲の親族らにより構成される同族株主のいる会社にも該当し、Xは同族株主以外の株主に該当するから、評価通達の定めを適用すると、本件株式の価額は、配当還元方式により評価されるべきこととなる。この点は当事者間に争いがなく、配当還元方式により算出される本件株式の価額は、1株当たり75円と認められる。
(2)本件の主な争点
本件株式について評価通達に基づく評価方式によらないことが正当と是認されるような特別の事情があるかどうか、また、そのような特別の事情があるとして本件株式の時価はいくらと評価するのが相当か、である。
(3)判決要旨(全部取消し)(確定)(納税者勝訴)
① 相続税法7条にいう「時価」とは、同法22条にいう「時価」と同じく、財産取得時における当該財産の客観的交換価値、すなわち、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解される。この点は、評価通達にも記載されているとおりである。
ところで、財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に明確に確定されるものではないことから、課税実務上は、原則として、評価通達の定めによって評価した価額をもって時価とすることとされている。これは、財産の客観的交換価値を個別に評価する方法をとると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、回帰的、かつ、大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等から、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものである。
したがって、評価通達に定められた評価方法が合理的なものである限り、これは時価の評価方法として妥当性を有するものと解される。
② そして、これを相続税法7条との関係でいえば、評価通達に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことが実質的な租税負担の公平を著しく害する結果となるなどこの評価方法によらないことが正当と是認されるような特別の事情のない限り、評価通達に定められた合理的と認められる評価方法によって評価された価額と同額か、又はこれを上回る対価をもって行われた財産の譲渡は、相続税法7条にいう「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当しないものというべきである。
③ 評価通達は、取引相場のない株式の評価方法について、評価会社の規模に応じて場合分けし、評価会社が大会社の場合においては、それが上場会社や気配相場等のある株式の発行会社に匹敵するような規模の会社であることにかんがみ、その株式が通常取引されるとすれば上場株式や気配相場等のある株式の取引価格に準じた価額が付されることが想定されることから、現実に流通市場において価格形成が行われている株式の価額に比準して評価する類似業種比準方式により評価することを原則としている。この評価方式は、具体的には、株価形成要素のうち基本的かつ直接的なもので計数化が可能な1株当たりの配当金額、年利益金額及び純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)の3要素につき、評価会社のそれらと、当該会社と事業内容が類似する業種目に属する上場会社のそれらの平均値とを比較の上、上場会社の株価に比準して評価会社の1株当たりの価額を算定するというものである。このような類似業種比準方式による株式評価は、現実に株式市場において取引が行われている上場会社の株価に比準した株式の評価額が得られる点において合理的であり、取引相場のない株式の算定手法として適切な評価方法であるといえる。
④ ところで、評価通達は、このような原則的な評価手法の例外として、「同族株主以外の株主等が取得した株式」については、配当還元方式によって評価することを定めている。この趣旨は、一般的に、非上場のいわゆる同族会社においては、その株式を保有する同族株主以外の株主にとっては、当面、配当を受領するということ以外に直接の経済的利益を享受することがないという実態を考慮したものと解するのが相当である。そして、当該会社に対する直接の支配力を有しているか否かという点において、同族株主とそれ以外の株主とでは、その保有する当該株式の実質的な価値に大きな差異があるといえるから、評価通達は、同族株主以外の株主が取得する株式の評価については、通常類似業種比準方式よりも安価に算定される配当還元方式による株式の評価方法を採用することにしたものであって、そのような差異を設けることには合理性があり、また、直接の経済的利益が配当を受領することに限られるという実態からすれば、配当還元方式という評価方法そのものにも合理性があるというべきである。
⑤ そうすると、Xは、その保有株式数を前提とする限り、同族以外の株主と評価されるべきなのであるから、評価通達の定めを適用すると、本件株式の価額は、配当還元方式により評価されるべきこととなり、これにより算出される本件株式の価額は、1株当たり75円と認められるから、評価通達に定められた評価方法によらないことが正当と是認されるような特別の事情のない限り、上記評価額を上回る1株当たり100円の対価で行われた本件売買取引は、相続税法7条にいう「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当しないことになる。Yは、本件では上記の「特別の事情」があると主張するので、以下、Yの主張に沿って検討する。
⑥ Yは、まず、本件売買取引によりXが取得した地位は、B社の事業経営に相当の影響力を与え得るものであり、配当還元方式が本来適用を予定している少数株主(同族株主以外の株主)の地位と同視できないと主張し、その根拠として、(イ)XがB社における甲の地位を裏付けていた株式のほとんどを取得し、同社における個人株主の中で保有株式数の最も多い筆頭株主の地位を得たこと、並びに(ロ)Yが甲及び甲の相続人から借入債務の保証の便宜を受けることにより、実質的な金銭的支出を行うことなく本件株式を取得したことを挙げる。
しかしながら、(イ)については、本件売買取引後のB社における株式の保有割合は、甲及び甲の親族等を併せた合計が47.9パーセントとほぼ全体の半分を占めるのに対して、Xはわずか6.6パーセントの割合にすぎず、甲の親族でもないXが、B社の事業経営に実効的な影響力を与え得る地位を得たものとは到底認められない。
また、(ロ)についても、Xは、本件借入につき甲の保証を得た経緯について、金利等のコストの安い日本の銀行から借り入れるために、日本の銀行と取引のある甲に便宜上保証人になってもらったものと説明しているところであり、その説明自体に格別不自然、不合理な点はない。保証人である甲ないしその相続人が借入金の一部でも現に返済したような事情は認められないから、Xが甲及び甲の相続人から保証の便宜を受けることによって、実質的な金銭的支出を行うことなく本件株式を取得したとはいえず、またこのような事実経緯から、XがB社の事業経営に相当の影響力を与え得るほどに甲と密接な関係にあったとまでいうことも困難である。
⑦ 次に、Yは、本件売買取引は実質的には贈与に等しく、贈与税の負担を免れるため評価通達による評価額を上回ればよいとの基準で価格を定めたものにすぎず、このような場合にまで評価通達を形式的に適用すると租税負担の実質的な公平を害すると主張し、その根拠として、(ハ)B社が高率の利益配当を行っている優良企業であることや、低金利の経済情勢からすると、10パーセントという高い資本還元率が設定されている評価通達どおりの配当還元方式で株価を算定する経済的合理性がないこと、(ニ)B社の取引先ないしその関係者であるという本件売買実例に係る金融機関等との共通性からみても、Xに対してのみ著しく低い価格で株式を譲渡する経済的合理性がないことを挙げる。
しかしながら、(ハ)個々の非上場会社について当該会社に適用すべき最も適切な資本還元率を個別に設定することは極めて困難なことであって、そのためにこそ、課税実務上は、評価通達において一律に10パーセントという基準を設定しているものと解されるのであるから、Bに適用すべき最も適切な資本還元率についての特段の具体的な立証のない本件において、10パーセントという資本還元率を用いることが直ちに経済的合理性を欠くものということもできず、(ニ)同じ株式の売買取引であっても、その取引に向けられた当事者の主観的事情は様々であるから、株式の譲渡価格が買主ごとに異なること自体は何ら不合理なことではない。
⑧ さらに、Yは、本件売買実例におけるB社の株式の売買価額は客観的時価を適切に反映しており、配当還元方式による評価額はこれより著しく低額であるから、このこと自体が特別の事情に当たると主張する。
しかしながら、本件株式のように取引相場のない株式については、その客観的な取引価格を認定することが困難であるところから、通達においてその価格算定方法を定め、画一的な評価をしようというのが評価通達の趣旨であることは前説示のとおりである。そして、本件株式の評価については、評価通達の定めに従い、配当還元方式に基づいてその価額を算定することに特段不合理といえるような事情は存しないことは既に説示したとおりであるにもかかわらず、他により高額の取引事例が存するからといって、その価額を採用するということになれば、評価通達の趣旨を没却することになることは明らかである。
したがって、仮に他の取引事例が存在することを理由に、評価通達の定めとは異なる評価をすることが許される場合があり得るとしても、それは、当該取引事例が、取引相場による取引に匹敵する程度の客観性を備えたものである場合等例外的な場合に限られるものというべきである。
⑨ そこで、本件売買実例について検討すると、JはE銀行の関連会社であり、HはI銀行の関連会社であることを考えると、本件売買実例は、実質的に見れば、わずか3つの取引事例というのにすぎず、この程度の取引事例に基づいて、主観的事情を捨象した客観的な取引価格を算定することができるかどうかは、そもそも疑問であるといわざるを得ない(なお、この種の主張は、他の訴訟において課税庁自身がしばしば主張しているものであることは当裁判所に顕著である。)。
同族株主以外の株主という点では、E銀行、I銀行及びG銀行もXと異ならないわけであるから、これら3行がなぜ高額な対価によってB社の株式を取得したのかについては疑問がないとはいえないので、念のためこの点について検討してみると、B社に対する融資等が条件とされているものと認められるから、本件売買実例における対価が客観性を備えたものであるとはいえない。
会社代表者が自社株式を第三者(個人)から買い受けた場合にみなし贈与課税とされた事例-東京地裁平成19年1月31日判決(税資257号-13順号10622)(棄却)(確定)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 株式会社A社の代表取締役である原告Xは、平成9年7月31日の時点において、XのA社発行済株式所有割合は、約39.1%と比較的少ないこともあって、自社の乗っ取り等を防ぐためにその所有割合を3分の2程度に引き上げる必要があると考えた。
A社の各株主に対し買取り案内を出して実施し、平成10年2月18日から同11年2月24日にかけて、A社の116人の株主(以下「本件各譲渡人」という。)からA社の株式を買い受けた(以下「本件各譲受け」という。)。
その結果、同年10年7月31日の時点においてXのA社発行済株式所有割合は約67.2%となった。
本件各譲受けにおける1株当たりの価額は、850円から1,866円であったが、その大部分は1,250円(額面価額の2.5倍)であった。
Xは、本件各譲受けが第三者間の取引であり、正当な価額で取得したものとして処理した。
② 所轄税務署長Iは、Xに対し、平成16年2月26日付けで、上記①株式の売買は、相続税法7条の「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に当たるとして、上記株式の譲渡の対価と当該譲渡があった時における上記株式の時価との差額に相当する金額をXが贈与により取得したものとみなし、Xに対し、平成10年分及び平成11年分の贈与税の決定処分等(以下「本件決定処分等」という。)をした。
A社は、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)における大会社であった。
A社の株式の当時の1株当たりの価額は、額面500円(1割配当)であり、純資産価額8,291~21,183円、類似業種比準価額39,619~75,827円と類似業種比準価額の方が高い価額であった(一般のケースと逆)。
これは、A社が過少資本(資本金1億6,886万円余、売上200~300億円)であり、1株当たりの利益が9,263~15,408円と過大になっていることに起因しており、平成28年12月31日までの類似業種比準方式(配当:利益:純資産=1:3:1)の計算方法が大きく影響した。
Iは、「純資産価額による評価額」と「本件各譲受けにおける価額」との差額を、Xが贈与により取得したものとみなした。
③ Xは、本件決定処分等の取消しを求め、本訴を提起した。
(2)本件の主な争点
本件各譲受けが相続税法7条にいう「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に当たるか否かであり、具体的には、(争点1)同条は、取引当事者が、租税回避の問題が生じるような特殊な関係にある場合に限り適用されるものであるか、(争点2)同条にいう「時価」の意義及び評価通達の採る株式評価方法の合理性、である。
(3)判決要旨(棄却)(確定)
(争点1)
① 相続税法7条の趣旨は、法律的にみて贈与契約によって財産を取得したのではないが、経済的にみて当該財産の取得が著しく低い対価によって行われた場合に、その対価と時価との差額については実質的には贈与があったとみることができることから、この経済的実質に着目して、税負担の公平の見地から課税上はこれを贈与とみなすというものである。そして、同条は、財産の譲渡人と譲受人との関係について特段の要件を定めておらず、また、譲渡人あるいは譲受人の意図あるいは目的等といった主観的要件についても特段の規定を設けていない。
このような同条の趣旨及び規定の仕方に照らすと、著しく低い価額の対価で財産の譲渡が行われた場合には、それによりその対価と時価との差額に担税力が認められるのであるから、税負担の公平という見地から同条が適用されるというべきであり、租税回避の問題が生じるような特殊な関係にあるか否かといった取引当事者間の関係及び主観面を問わないものと解するのが相当である。
(争点2)
② 相続税法7条にいう「時価」とは、課税時期における客観的交換価値、すなわち課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価額をいうものと解するのが相当である。
しかし、財産の客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別に評価することとなると、その評価方法及び基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税処理の迅速な処理が困難となるおそれがあることから、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、これに定められた評価方法によって画一的に評価する方法が執られている。このような扱いは、納税者間の公平、納税者の便宜及び徴税費用の節減という見地からみて合理的であり、一般的には、すべての財産についてこのような評価を行うことは、租税負担の実質的公平を実現することができ、租税平等主義にかなうものである。
したがって、評価通達に定められた評価方法を画一的あるいは形式的に適用することによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害し、相続税法あるいは評価通達自体の趣旨に反するような結果を招くというような特別な事情が認められない限り、評価通達に定められた評価方法によって画一的に時価を評価することができるというべきである。
③ 評価通達は、評価会社が大会社の場合においては、それが上場会社等に匹敵する規模の会社であることにかんがみ、その株式が通常取引されるとすれば上場株式等の取引価額に準じた価額が付されることが想定されることから、原則として、類似業種比準方式により評価するものとしている。このような類似業種比準方式による株式評価は、現実に取引が行われている上場会社等の株価に比準した株式の評価額が得られる点において合理的な手法であるといえる。
また、評価通達は、評価会社が大会社の場合において、納税義務者の選択により、純資産価額方式により評価することができるとしている。純資産価額方式は、個人事業者と同規模の会社又は閉鎖性の強い会社の株式で、株式の所有目的が投機や投資を目的としたものではなく、会社支配を目的として所有する株式に適合する評価方法であり、株式が会社財産に対する持分としての性格を有することからすると、支配株主の有する株式については、その最低限の価値を把握する方式として適合性が高いといえる。
したがって、評価通達に定められた類似業種比準方式及び純資産価額方式は、いずれも取引相場のない株式についての合理的な評価方法ということができる。
④ 本件各譲渡人の一部を除き、Xと本件各譲渡人との間で本件各株式の売却に際し、売却価額等につき双方向の交渉があったことがうかがわれないことなどに照らすと、本件各譲受けは、主としてXの都合により進められ、買取りの申出から価額設定に至るまで、常にXが主導的立場に立っていたのであって、本件各譲受価額は、Xが、本件各譲渡人の意向とは無関係に、一方的に決めた価額であるといわざるを得ない。
Xは、本件における買取価額は、公認会計士や税理士等の専門家に相談して決めたものでも、評価通達に定められた評価方法を基に算定したものでもなく、Xの大体の感覚で決めた旨述べており、Xが買取価額の設定をする際に何らかの合理的な方法に基づく計算を行ったという事実は認められない上、本件各買取申出書面には、1株当たりの当期利益や、類似業種比準方式又は純資産価額方式に基づく1株当たりの評価額等、A社の株式の買取価額の算定根拠を示す記載は一切ない。
本件各譲渡人が本件各譲受けに際し、本件各株式の売却価額について他の者に相談等した様子がうかがわれないことからすると、本件各譲渡人が、A社の株式の客観的な交換価値を把握するための情報を入手していたとは言い難く、その客観的な交換価値を把握することは困難であったといえる。
⑤ 以上検討の結果によると、本件各譲受価額が取引当事者間の主観的事情に影響されたものでないことをうかがわせる特段の事情が存在するとはいえず、本件各譲受価額は本件各株式の本件各譲受日における客観的交換価値を正当に評価したものとはいえないため、本件において、評価通達に定められた評価方法を画一的あるいは形式的に適用することによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害し、相続税法あるいは評価通達自体の趣旨に反するような結果を招くというような特別な事情は認められない。
したがって、本件各譲受日における本件各株式の時価は、原則どおり、評価通達の定める方法によって評価すべきものである。
⑥ そうすると、相続税法7条の「著しく低い価額の対価」に該当するか否かは、社会通念に従って判断すべきところ、本件各譲受価額は、それぞれ、本件各株式の1株当たりの純資産価額の5.7%ないし21.8%にすぎないのであるから、本件各譲受けは、同条にいう「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に当たるというのが相当である。
取引相場のない株式を「著しく低い価額の対価」で譲り受けたとし、みなし贈与税が課された事例-令和6年6月12日裁決(関裁(諸)令5第47号)(棄却)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 平成31年3月20日、審査請求人Xが、株主Zから取引相場のないA社株式(以下「本件株式」という。)の譲渡を受けた。X及びZは、A社において同族株主以外の株主等(少数株主)に該当する。
当該譲渡の対価(以下「本件譲受価額」という。)は1株当たり5万円(額面)であったが、この金額は、A社株式が過去の複数の売買において1株当たり5万円で売買されていたことにより決定された。
② Xは、令和元年分の贈与税の申告書を、法定申告期限までに提出しなかった。
③ 原処分庁は、令和5年7月6日付で、本件株式を財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)の定める配当還元方式により評価した価額■■■■■■〔1株当たりの評価額1,200,099円×■■■株、以下「本件評価額」という。〕と本件譲受価額との差額はXが贈与により取得したものとみなされるとして、Xに対し、贈与税の決定処分等(以下「本件決定処分等」という。)をした。
④ Xは、本件決定処分等を不服として令和5年7月26日に審査請求をした。
(2)本件の主な争点
本件譲受価額は、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」といえるか否かである。
(3)判断要旨(棄却)
① 評価通達の定める評価方法が、当該財産の時価、すなわち客観的交換価値を算定する方法として一般的な合理性を有するものといえる場合においては、これに従って算定された価額は、評価通達の定める評価方法によっては当該財産の客観的交換価値を適切に算定することができない特別の事情の存しない限り、その客観的交換価値を超えるものではないと推認することができるというべきである。
また、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」とは、その対価に経済合理性のないことが明らかな場合をいうものと解され、その判定は、個々の財産の譲渡ごとに、当該財産の種類、性質、その取引価額の決まり方、その取引の実情等を勘案して、社会通念に従い、時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって判断するのが相当である。
② 事業経営への影響の少ない同族株主の一部及び従業員株主等のような少数株主が取得した株式については、これらの株主は、会社支配力が小さく、実質的には単に配当を期待するにとどまる場合もあるといえ、このような実態に即した評価を行う必要がある。そのため、「同族株主以外の株主等が取得した株式」については、原則的評価方式に代えて、特例的評価方式である配当還元方式により評価することとしているものと解され、そのような区別は合理性を有するものといえる。
そして、配当還元方式は、株式の価額をその株式に係る年配当金額を還元率10%で除して計算した元本に相当する配当還元価額によって評価するものである。なお、無配の場合は1株当たりの配当金額を一律2円50銭として計算するところ、無配の場合の計算方式は、政策的に無配としている場合があることを考慮したものと解される。
配当還元方式という評価方法は、一般的な合理性を有するものといえる。
③ 本件株式は、評価通達188本文及び(3)に定める同族株主以外の株主等が取得した株式に該当する。本件株式について、配当還元方式によって評価額を算定すると、1株当たり1,200,099円となる。
④ 評価通達に定める配当還元方式は、本件株式の時価すなわち客観的交換価値を算定する方法として合理性があるといえるところ、配当還元方式によっては本件株式の客観的交換価値を適切に算定することができない特別の事情があるとは認められない。そうすると、配当還元方式に従って算定された本件評価額は、本件株式の客観的交換価値、すなわち本件株式の時価を超えるものではないと認められることから、本件株式の譲受日における時価は、本件評価額(1株当たり1,200,099円)とするのが相当である。
⑤ 本件譲受価額は、本件評価額の僅か4%程度にすぎない。本件譲受価額と本件評価額との開差は、社会通念上著しいものと認められ、本件譲受価額には経済合理性のないことが明らかであるから、本件譲受価額は、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」に該当すると認められる。
⑥ Xは、A社株式が、A社の役員又は従業員間で、過去に発行価額と同額の1株当たり5万円で複数回売買取引されてきたものであることから、本件株式の適正な時価は1株当たり5万円である旨主張する。しかしながら、そのような取引価額は特定の当事者間又は特定の事情の下で形成されたものである上、過去の売買取引時と譲受日では、A社の財務状態及び経営成績等が異なることから、発行価額と同額の1株当たり5万円で過去の売買取引が成立したことをもって、その価額(1株当たり5万円)を本件株式の譲受日における時価とすることは相当ではなく、上記Xの主張は、上記の判断を左右しない。
⑦ 本件株式の譲受日における時価は本件評価額とするのが相当であり、また、本件譲受価額は相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」に該当するから、譲受日において、Xが、本件譲受価額と本件評価額との差額に相当する金額を譲渡人から贈与により取得したものとみなされる。

