概要
会社が、創立〇周年記念や新工場の落成に伴い、得意先を招待し記念パーティーを開催することがよくありますが、このような場合に、一般的には、招待された得意先は祝金を包むことになります。
問題は、法人税の交際費課税において、記念パーティーに会社が要した費用の総額が交際費等になるのか、それとも、パーティー費用から祝儀としていただいた分を控除したものが、交際費等になるのかということですが、過去の事例によれば、総額が交際費等になるとされています(東京地裁平成元年12月18日判決・行裁例集40巻11・12号1827頁、浦和地裁平成2年11月19日判決・税資181号374頁、東京高裁平成3年4月24日判決・税資183号352頁、最高裁平成3年10月11日第二小法廷判決・税資186号846頁)。
つまり、記念パーティーのために支出した費用の総額が交際費等となり、祝儀は雑収入として計上することになります。招待された得意先においては、包んだ祝金は交際費等として取り扱われます。
なお、パーティーに要する費用が飲食その他これに類する行為(以下「飲食等」といいます。)のために要する費用(専らその法人の役員もしくは従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除きます。)であって、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割って計算した金額が10,000円以下(令和6年3月31日以前に支出された飲食等に係る費用についての基準金額は、5,000円以下)である費用は交際費等から除かれます。
東京地裁平成元年12月18日判決(行裁例集40巻11・12号1827頁)(棄却)(確定)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 原告である株式会社Xは、資本の金額が5000万円を超える法人である。
当時の法人税の取扱いでは、資本の金額が5000万円を超える法人については、支出する交際費等の額がすべて損金不算入とされた。
② Xは、昭和61年10月1日、創業50周年記念及びK工場の竣工を披露する催し(以下「K工場竣工記念行事」という。)を行い、披露宴代等合計927万円余を支出し、次いで、昭和62年3月27日、新本社ビルの竣工を披露する催し(以下「本社ビル竣工記念行事」といい、K工場竣工記念行事と併せて「本件各記念行事」という。)を行い、披露宴代等合計215万円余を支出した(以下、右の各支出を併せて「本件各記念行事費」という。)。
③ Xは、K工場竣工記念行事に際して598万円の祝金を、本社ビル竣工記念行事に際して227万円余の祝金(以下、右の各祝金を併せて「本件祝金」という。)を、それぞれ招待客から収受していたところ、本件各記念行事に係る交際費等につき、本件各記念行事費の額1143万円余から本件祝金の額825万円余を控除した318万円余のみを損金不算入額として法人税の申告(以下「本件申告」という。)をした。
④ これに対し、被告Y税務署長は、交際費等の損金不算入の計算上、本件各記念行事費の額の全額1143万円余が交際費等となるのであって、本件祝金の額825万円余は控除すべきではないとする更正処分をした。
⑤ Xは、この処分を不服として本訴を提起した。
(2)本件の主な争点
記念行事等の交際行為に係る支出交際費等の額の計算において、右交際行為の相手方から任意に支出される金員(祝金)を右支出交際費の額から控除することはできるか否かである。
(3)判決要旨(棄却)(確定)
① 交際費損金不算入制度は、資本蓄積のために個々の交際費等のうちの冗費、濫費に該当する部分のみをとり上げてこれを規制する制度ではなく、交際費等の性質如何にかかわらずこれを損金に算入できない経費とすることによつて、冗費性又は濫費性を帯びる必要以上の交際費等の支出を抑制することもその目的とするものであり、同制度制定以来、個々の交際費等につき冗費、濫費を問うことなく交際費等の支出額のうち損金算入額の範囲を総量的に定めてきたものと理解されるのであるから、
② 本件のような記念行事等はこれを催す主催者が存し、その主催者が得意先、仕入先等の事業関係者等を招待して行うものであるが、招待された者が右のような行事に出席することは、招待客の立場からみると、右行事をその主催者と共同して自らも執り行うというわけではなく、主催者によつて催される右行事の機会を利用して招待客が行う一種の交際行為であると解されるものである。したがつて、その際に招待客が右行為の主催者に対して支出する祝金は、招待客の交際行為に係る交際費等に当たる費用であるから、右行事の開催に係る交際費等との関係は、同一の機会に右行事の主催者と招待客との2つの交際行為が行われ、それぞれの交際行為のためにそれぞれが交際費等を支出したという関係であり、同一の機会に行われたという点で密接な関係にあり、また、右行事の開催という主催者の交際行為とそのための交際費等の支出がなければ、右行事への出席という招待客の交際行為とそのための交際費等の支出がないという意味で、因果関係があることも明らかであるが、そうであるからといつて、右行事の開催のための交際費等について、受領した祝金に相当する額の部分はその支出がなかつたとみうるとか、その交際費性が失われるとかの関係にあるとすべき根拠はない(もとより、主催者が招待客から受領した祝金が主催者にとつて収益であることを否定すべき根拠もない。)。そうすると、交際費等の額の計算においては、祝金収入分につきこれを控除するなどといつた方法で考慮することはできないものというべきである。
③ 本件各記念行事に係る交際費等の額である本件各記念行事費1143万円余は、その全部を損金不算入とすべきものであるから、本件申告において本件各記念行事費の額から控除された本件祝金収入相当額825万円余は、Xの本件事業年度の所得金額の計算上、申告所得金額に加算すべきである。
浦和地裁平成2年11月19日判決(税資181号374頁)、東京高裁平成3年4月24日判決(税資183号352頁)、最高裁平成3年10月11日第二小法廷判決(税資186号846頁)(棄却)(確定)
(1)事案の概要
本件の事案の概要は、次のとおりである。
① 株式会社X(原告、控訴人、上告人)は、鉄鋼材並びに鉄鋼製品の卸販売等を営業目的とする、資本の金額が5,000万円の法人である。
当時の法人税の取扱いでは、資本の金額が5,000万円を超える法人については、支出する交際費等の額がすべて損金不算入とされたが、資本金5,000万円以下の法人にあっては年300万円、資本金1,000万円以下の法人にあっては年400万円の控除がそれぞれ認められていた。
② Xは、昭和61年9月28日と同年10月1日の両日、創業25周年記念並びに工場設備の増設及び工場社屋の落成を祝うための式典(以下、これを「本件記念行事」という。)を催した。これに要した費用は733万円余(以下、これを「本件記念行事費」という。)であつたが、その招待客等からの祝金が合計325万円余(以下、これを「本件祝金」という。)あつた。
そこで、Xは、その納税申告においては本件記念行事費から本件祝金を差し引いた残額407万円余に、本件事業年度中に支出した本件記念行事費以外の交際費等の額430万円余を加えた837万円余から、損金算入限度額300万円を控除した残額537万円余を本件事業年度における損金不算入額とした。
これによれば、右損金不算入額は本件記念行事費の全額を本件記念行事に要した費用とした場合よりも本件祝金に相当する325万円余だけ少なくなり、したがつて、所得金額もその分だけ少なくなるわけである。
③ これに対し、Y税務署長(被告、被控訴人、被上告人)は、交際費等の損金不算入の計算上、本件記念行事費から本件祝金を差し引くというような取扱いは許されないとして更正処分等をした。
④ Xは、この処分を不服として本訴を提起した。
(2)本件の主な争点
交際費等の額を算定する上で、本件記念行事費から本件祝金を控除することはできるか否かである。
(3)一審判決要旨(棄却)(控訴)
① 今日、わが国の会社その他の法人においては、その得意先、仕入先その他の事業関係者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これに類する行為のために交際費、接待費、機密費その他の名目で、かなりの費用(交際費等)が支出されていることは周知の事実である。これらの費用の支出は、わが国の経済社会の実情のもとにおいては、事業運営の円滑を図り、その活動領域を拡大するために欠かせないものとみられており、企業会計上は、これらの費用は元来損益計算の過程で一般管理費・販売費として事業収入から控除される性質のものである。
しかしながら、この交際費等の支出が巨額にのぼり、しかも、その支出額が年々増加し続けているという事実に対して厳しい社会的批判が生じている実情に鑑み、租税特別措置法第62条は、冗費、濫費を節減して企業所得の内部留保による資本蓄積の促進を図る等の政策的な見地から、法人税の課税標準となる事業所得金額の計算との関係では、交際費等の額(ただし、小規模の法人については一定額を超える部分)は損金に算入しないとする特別の定めをしたものである。
② このような同法条の趣旨・目的、及び同法条にはほかに交際費等の額について特別の定めはないことからすれば、同法条所定の交際費等の額とは、前記接待等の交際行為のために支出した費用の全額をいうものであることは明らかである。
ところで、本件祝金は本件記念行事に招待を受けた客が祝意を表すためにその主催者であるXに対して贈呈した金銭であつて、客の側からのXに対する交際行為にかかる費用に相当するものであり、本件記念行事に招待されなければ、祝金が贈呈されることもなかつたという点では、本件祝金の贈呈と本件記念行事費の支出とは密接な関係にはあるけれども、本件祝金は当初から本件記念行事の費用の一部に当てられることが予定されていたものではなく(この点で、会費制のもとに催される行事において、参加者が拠出する会費その他の名目の負担金とはその性質を異にする。)、Xは祝金の贈呈の有無及びその金額の多寡にかかわりなく、当初から本件記念行事費全額の支出を免れなかつたものである。
③ そうすると、本件記念行事との関係で、損金不算入の対象となるのは本件記念行事費の全額であつて、これから本件祝金を控除するような取扱いは同法条の解釈上許されないと解するのが相当である。
もつとも、このように解すると、本件祝金は贈呈した客の側においては、損金不算入とされて課税の対象となり、これを受けたXの側においてもこれが収入となつて所得の一部を形成し課税の対象となるという関係が生ずるが、前述したとおり、交際費等の損金不算入制度は、本来的に交際費等の支出を抑制しようとする政策的な立法によるものなのであるから、その当否は別として、右のことが前記法条の解釈適用上格別の意義を有するものではない。
したがつて、Yがした更正処分等は適法である。
(4)控訴審判決要旨(棄却)(控訴人上告)
同旨
(5)上告審判決要旨(棄却)(確定)
同旨





